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第十三章 再生
第44.5話 観戦組 高みの見物編
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「……蒼玉が死んだ?」
マクマインは信じられないといった表情で驚いている。それに比べ、アシュタロトの方は涼しい顔でクロノスの死を見届けた。
「あの化け物と戦えば幾ら蒼玉とて勝ち目はないとは思っていた。この結果はそこまで驚くべきことでは無い。無いが、しかし……」
『どうするの?これじゃ人魔同盟は無いも同じだね』
アシュタロトをチラリと見た後、唸り声を上げる。確かにこのままではやってきた全てが水泡に帰す。魔族の中では比較的話の分かる奴だったためにこの損失は大きい。
「こうなっては仕様が無い。蒼玉は諦め、イミーナを使おう。あれは一応化け物を死の淵に追いやっている。奴の魔法なら何とか……」
『イミーナっていうのはアレのこと?』
アシュタロトが指を差した方角にはティアマトに髪を掴まれたイミーナの姿があった。地面に横たわるのを無理やり引きずりあげたような無様な姿は負けたと見るのが正解か。その様子を見るにまだ死んでないのだろうが、捕まっている以上は単に先延ばしにされているだけ。いつでも、何なら今からでも殺せる状態の彼女に言えることはたった一つだ。
「チッ……使えない」
クロノスと比べては少々荷が重いが、それでも一度は魔王に昇り詰めた女だ。期待するなという方が無理というもの。
頼みの綱は人類の剣である”白の騎士団”。だがゼアルとソフィー以外は既に戦いを放棄している。頼れるのはやはりというべきか、部下のゼアルのみ。今丁度ラルフと対峙し睨み合っている。
ゼアルは強い。アシュタロトに力を貰う以前から既に魔王を殺すほどの腕前を持つ。実力は歴代の部下の中で一番と豪語出来る。親友だったブレイブも強かったが、贔屓目に比べてもゼアルの方に軍配が上がる。そして”魔剣イビルスレイヤー”に選ばれた人間でもある。最早魔族を殺すために生まれた男と言っても過言では無い。
しかし立ち塞がるのは天下無双の敵。最強を絵に描いたらこうなったと言わんばかりの冗談の存在であるミーシャとその辺の一般人のフリをした手に負えないクズのラルフ。その他の魔王たちも合わさり、戦力はとんでもないことになっている。
一対多数。本来多数側に居るべき人間が最も不利な側に居る。ソフィーは未だエレノアと死闘を繰り広げ、こちらにリソースを割く余裕は全く無いと見える。圧倒的戦力差を考えればさっさと撤退すべきだ。
「……やるしかない」
『撤退?』
「いや、戦うしかない。奴らとてここで決着をつけようと画策しているはずだ。下手に撤退すれば背後から撃たれる」
何も出来ずに殺されるよりはゼアルという最強を使い潰してでも活路を見出すのが得策と考えた。
『考えすぎじゃないかな?』
その思考を読んだようにアシュタロトは肩を竦める。
「楽観視が一番危険だ。ここが戦場だということを忘れていないか?」
その上、佳境である。後一歩で全てが決まるこの瞬間だからこそ気を引き締めねばならない。特に今は。
「それにまだまだ負けたわけでは無い」
マクマインは苦し紛れとも取れる含みある言い回しでアシュタロトの注目を引いた。マクマインの視線の先に居るのはゼアルではなく、巨大な鎧を縦横無尽に動かして敵と戦うアトムの姿だった。その期待に応えるように召喚獣ヘルが体を武器で貫かれ、消滅していくのを見せられる。
『アトム?……それはちょっと辞めた方が……』
「他に手はあるまい?彼奴等が魔王なら、こちらは神だ。自ら戦うアルテミスとアトム、神の祝福を分け与える貴様とソフィーに憑いた神。神対魔王。まるで白と黒のような関係性では無いか?」
『あっちにも神はいるけどね』
「こちらが数の上では圧倒的だ。それも一対多数。普段は運命など信じぬ性質だが、偶然とはかくも恐ろしいものよ。こうして見れば我々にも勝算はあると思わないか?」
『おや?「楽観視は危険」じゃなかったっけ?』
「総合的観点だ。仮に1%から3%に上がったなら、これに賭けぬ手は無いだろう?」
マクマインの顔は綻ぶ。若い時にはよく戦争に赴き、戦争に勝利したものだ。今は老いぼれてしまったが、昔は一目地形を見ただけで戦況を理解したものだ。事ここに至っては定石から完全に外れた予測不可能な戦いが目紛しく巻き起こっている。経験則に無い事態に対処が出来なかったが、何も自分一人で対処することはない。締めるところは締めて、丸投げ出来るところは任せる。神の判断に誤りはないとすれば、下手にかき乱さないのが正解だ。
『……ま、お手並み拝見ってとこかな』
アシュタロトは高みの見物を決め込む。一見ただのサボりだが、前述の通りであるならこれも間違いではない。観戦組はただ座して全てが終わるのを観測するのみだ。
その時、突如として巨大で強大な存在が現れる。アンノウンが出現させたオーディン、トール、スルト。オーディンは召喚されてからしばらくジッとしていたが、ヘルが殺られてまもなく動き出した。
アトムに向かって突撃する三体の巨神にマクマインは目頭を押さえた。戦力を追加投入可能な特異能力に辟易する。
「これは……間違いだったかもしれないな……」
マクマインの心に去来したのは「撤退」の二文字だった。
マクマインは信じられないといった表情で驚いている。それに比べ、アシュタロトの方は涼しい顔でクロノスの死を見届けた。
「あの化け物と戦えば幾ら蒼玉とて勝ち目はないとは思っていた。この結果はそこまで驚くべきことでは無い。無いが、しかし……」
『どうするの?これじゃ人魔同盟は無いも同じだね』
アシュタロトをチラリと見た後、唸り声を上げる。確かにこのままではやってきた全てが水泡に帰す。魔族の中では比較的話の分かる奴だったためにこの損失は大きい。
「こうなっては仕様が無い。蒼玉は諦め、イミーナを使おう。あれは一応化け物を死の淵に追いやっている。奴の魔法なら何とか……」
『イミーナっていうのはアレのこと?』
アシュタロトが指を差した方角にはティアマトに髪を掴まれたイミーナの姿があった。地面に横たわるのを無理やり引きずりあげたような無様な姿は負けたと見るのが正解か。その様子を見るにまだ死んでないのだろうが、捕まっている以上は単に先延ばしにされているだけ。いつでも、何なら今からでも殺せる状態の彼女に言えることはたった一つだ。
「チッ……使えない」
クロノスと比べては少々荷が重いが、それでも一度は魔王に昇り詰めた女だ。期待するなという方が無理というもの。
頼みの綱は人類の剣である”白の騎士団”。だがゼアルとソフィー以外は既に戦いを放棄している。頼れるのはやはりというべきか、部下のゼアルのみ。今丁度ラルフと対峙し睨み合っている。
ゼアルは強い。アシュタロトに力を貰う以前から既に魔王を殺すほどの腕前を持つ。実力は歴代の部下の中で一番と豪語出来る。親友だったブレイブも強かったが、贔屓目に比べてもゼアルの方に軍配が上がる。そして”魔剣イビルスレイヤー”に選ばれた人間でもある。最早魔族を殺すために生まれた男と言っても過言では無い。
しかし立ち塞がるのは天下無双の敵。最強を絵に描いたらこうなったと言わんばかりの冗談の存在であるミーシャとその辺の一般人のフリをした手に負えないクズのラルフ。その他の魔王たちも合わさり、戦力はとんでもないことになっている。
一対多数。本来多数側に居るべき人間が最も不利な側に居る。ソフィーは未だエレノアと死闘を繰り広げ、こちらにリソースを割く余裕は全く無いと見える。圧倒的戦力差を考えればさっさと撤退すべきだ。
「……やるしかない」
『撤退?』
「いや、戦うしかない。奴らとてここで決着をつけようと画策しているはずだ。下手に撤退すれば背後から撃たれる」
何も出来ずに殺されるよりはゼアルという最強を使い潰してでも活路を見出すのが得策と考えた。
『考えすぎじゃないかな?』
その思考を読んだようにアシュタロトは肩を竦める。
「楽観視が一番危険だ。ここが戦場だということを忘れていないか?」
その上、佳境である。後一歩で全てが決まるこの瞬間だからこそ気を引き締めねばならない。特に今は。
「それにまだまだ負けたわけでは無い」
マクマインは苦し紛れとも取れる含みある言い回しでアシュタロトの注目を引いた。マクマインの視線の先に居るのはゼアルではなく、巨大な鎧を縦横無尽に動かして敵と戦うアトムの姿だった。その期待に応えるように召喚獣ヘルが体を武器で貫かれ、消滅していくのを見せられる。
『アトム?……それはちょっと辞めた方が……』
「他に手はあるまい?彼奴等が魔王なら、こちらは神だ。自ら戦うアルテミスとアトム、神の祝福を分け与える貴様とソフィーに憑いた神。神対魔王。まるで白と黒のような関係性では無いか?」
『あっちにも神はいるけどね』
「こちらが数の上では圧倒的だ。それも一対多数。普段は運命など信じぬ性質だが、偶然とはかくも恐ろしいものよ。こうして見れば我々にも勝算はあると思わないか?」
『おや?「楽観視は危険」じゃなかったっけ?』
「総合的観点だ。仮に1%から3%に上がったなら、これに賭けぬ手は無いだろう?」
マクマインの顔は綻ぶ。若い時にはよく戦争に赴き、戦争に勝利したものだ。今は老いぼれてしまったが、昔は一目地形を見ただけで戦況を理解したものだ。事ここに至っては定石から完全に外れた予測不可能な戦いが目紛しく巻き起こっている。経験則に無い事態に対処が出来なかったが、何も自分一人で対処することはない。締めるところは締めて、丸投げ出来るところは任せる。神の判断に誤りはないとすれば、下手にかき乱さないのが正解だ。
『……ま、お手並み拝見ってとこかな』
アシュタロトは高みの見物を決め込む。一見ただのサボりだが、前述の通りであるならこれも間違いではない。観戦組はただ座して全てが終わるのを観測するのみだ。
その時、突如として巨大で強大な存在が現れる。アンノウンが出現させたオーディン、トール、スルト。オーディンは召喚されてからしばらくジッとしていたが、ヘルが殺られてまもなく動き出した。
アトムに向かって突撃する三体の巨神にマクマインは目頭を押さえた。戦力を追加投入可能な特異能力に辟易する。
「これは……間違いだったかもしれないな……」
マクマインの心に去来したのは「撤退」の二文字だった。
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