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第八章 地獄
第五話 実行
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「おいしー!え?なにこれ?食べたこと無い甘さなんだけど」
アルルは深めのコップに入った色とりどりのフルーツに、生クリームをこれでもかと乗せた特製パフェに舌鼓を打っていた。ブレイドは一口大にカットされたパウンドケーキに生クリームが添えられたデザートを食べていた。感動するアルルを尻目に入り口を気にするブレイド。
「?……ブレイドのはそんなに美味しくなかった?」
「ん?いや、美味しいよ。このケーキの中に干し果物が練り込まれているから、酸味があって味が一辺倒じゃ無いのが気に入ったよ。ぜひ作り方を習いたいな」
フォークでケーキを弄びながら大人びた感想を口遊む。
「本当?一口ちょうだい」
「うん」
ブレイドはお皿をアルルの前に持っていく。アルルはウキウキしながら添えられたクリームを付けつつケーキを口に運ぶ。しかし、口に入れる直前にピタッとその手を止めた。ブレイドがそれに気づいて声をかける。
「……どうした?」
「どうって?それはこっちのセリフだよ。何見てるのさっきから」
アルルはブレイドが気にしている入り口付近を確認する。特段変わった様子がないので、また視線を戻した。
「んー、そうだな。なんか気になるって言うかさ、さっきから外の様子がおかしいと思って……」
「何が?」
「そうだな……人通りが明らかに減ったと言うか、誰も店の前を横切ってないと言うか……さっきまであんなに混んでたのに不思議だなって」
ブレイドの疑問を聞いて改めて入り口に目を向ける。確かに入り口という僅かな枠の中に人の影は見えない。
「みんなお昼じゃない?」
「それじゃあもう一つおかしい事を言おうか?ここは飲食店だが、どうして誰も入店しないんだ?」
二人は今デザートしか頼んでいないが、ここはデザート専門店というわけではないのと、先に入店していた二組のお客が退店してから追加が一人もいない。その理由をアルルが首を傾げながら考える。
「……みんな外食を控えているとか?またはここ以外のお店の方が美味しいとか……」
「もしくは誰かが入れさせないか」
ブレイドは鋭い目付きで入り口からアルルに視線を向ける。アルルは何かに気付いたようにフォークに刺したケーキを急いで口に放り込む。
「う~ん最高~……これはこれで美味しいね」
そう言うとガタッと席を立ち上がった。ブレイドもそれを見て入り口から目を逸らさずに立ち上がる。
「すいません。お勘定をお願いします」
「お代ならテーブルに置いといてくれれば良いですよ~」
台所からおばさんの声が響き渡る。
「ちょっと聞きたいことがあるんで来ていただけませんか?」
パタパタとサンダルで小走りでやって来たおばさんを見てパチっと机の上に金貨を置いた。この辺では見たことも無い硬貨に驚いてブレイドの顔を見る。とてもじゃないが金貨を稼ぐ様な歳には見えない。
「……えっと……お釣り?」
「違います。お釣りは結構ですので、裏口を教えていただけませんか?出来ればそちらから出たいのですが……」
「えぇ!?騒ぎはゴメンだよ!?」
おばさんは怯えて騒ぐ。ブレイドとアルルはすぐに口元に人差し指を立てて静かにする様にと同時にジェスチャーを見せる。おばさんは唇を巻き込む様に黙ると周りをキョロキョロしながら様子を窺った。
しーんと静まり返った店内。いつもより静かな町におばさんも困惑する。気を使う様にウィスパーボイスで囁いた。
「……何があったの?」
*
「……どうなってる?」
一向に出てくる気配のない男女二人の行方に困惑する騎士達。さっきまで後をつけていた私服の騎士は懐に隠した短剣を握りしめて、ゆっくりと店に近寄る。スッと神経を尖らせて中の様子を探った。何も感じないのに違和感を覚え、焦って店内に侵入した。ガランとして誰もいない。
「あらいらっしゃい。何にする?」
「……!!」
騎士は顔を真っ赤にして暖簾を潜る。外に出るなり乱暴に通信機を取った。
「野郎気付いてやがった!多分店の裏口から出たんだ!」
『了解、バックアップは任せろ』
先に裏口方面に回り込んでいた騎士達が通路に出てくるのを待つが、一向に顔を出さない。前方を守っていた仲間の通信では裏口から出たと言うことだったが、その裏口を見張っていた騎士達から見れば扉はピクリとも動いていない。不思議に思って近付くが、こちらからも気配を感じない。
「おい、本当に裏口か?こっちには誰も来てないぞ。店内を捜索しろ」
騎士達は慌てて通信機でやり取りする。もちろんブレイド達は店内にはいない。おばさんは未来ある子供達のためと、金貨のお礼に屋上を案内したのだ。屋上から下を覗き込んでいたブレイドとアルルはすっかり囲まれた現状にため息を吐く。
「……安全って何だったの?」
「騎士達も馬鹿じゃないってことさ。すっかり侮ってたよ」
忙しなく動く騎士達を目で追っていながら、敵の目的を考える。
「確実にラルフさん絡みだろうが……俺達が狙われたってことは、アンノウンさん達も狙われてると考えるべきだろうな」
「じゃ、どうする?」
アルルは腰に巻きつけていた魔槍の柄に手を這わせる。すると槍は蛇の様にうねりながらアルルの腰から離れていつもの槍の形状を保つ。話を聞いてはいるが既に答えを持っている様だ。その答えが多分ブレイドと一致しているのも感じ取った。
「二人を助けに行こう」
「ふふ、だと思った」
*
服の専門店「ローパ」から出たアンノウンとリーシャは騎士達に取り囲まれていた。リーシャはメイド服のゆったりと長いスカートの中から太ももに装備していた短剣を抜く。内気で道行く町民とも目を合わせられなかった彼女は、まるで人が変わったかの様にキリッとした表情で剣を構えた。
「いつもロングソードを持ってるのに、そんな剣で大丈夫なの?」
アンノウンが質問するも、その心は既に戦いに向いていて耳を貸さない。自分の世界に入っているリーシャを見てつくづくコミュニケーションに難があると感じた。ちょっと前の自分がこんな感じだったことを思い出して(人のことは言えないな)と自らを卑下した。
とは言え連携が取れないのは不味いので、手を真横に左側を指差した。リーシャの目がその手をチラリと見たのを確認して指示を出す。
「リーシャは左側をお願い。私は右側をやる」
その指示にコクリと頷いた。手に力が入る。人族と戦うのは久しぶりだった。それこそ何十年ぶりの殺し合いか、戦闘訓練はいつもしていたので腕に鈍りはないはず。
騎士達もリーシャの手にある光り物に緊張が走る。ラルフ達をおびき出すにはこの二人を殺さない様に取り抑える必要がある。騎士の一人が通信機を口元に持っていく。
「……武器を持たれたら仕方がない、一人は諦めよう。丸腰の方を取り押さえろ」
通信機で返答することなく全員が頷きで了承した。アンノウンは多勢に無勢の状況でニヤリと笑った。
「なるほど、私達に勝つつもりなのか……でもそれは無謀ってものだよ」
アンノウンはトンッと軽やかに地面を蹴った。それが戦いの合図。リーシャもジャッと地面を踏みしめて飛び出す。
最初に接敵したのはリーシャだ。騎士の一人はリーシャに一気に間合いを詰められたが、焦ることなく短剣の突きを受ける。そこから切り返して剣を振るった。リーシャはバックステップで即座に間合いを開けて斬撃を躱すと、また即座に踏み込んで突きを放つ。その動きはまるでフェンシング。レイピアの様な長剣ではなく短剣という不格好さはあるが、その威力は絶大。
ガンッ
騎士はその威力に体が浮いて後方に吹き飛ばされた。突きは分厚い鎧に守られて体には切り傷は付かなかったが、衝撃は伝わる。まるで鈍器で殴られた様な威力に、胸を押さえて膝をついた。
「貴様っ!!」
それを見ていた騎士が剣をリーシャに振るう。しかし長剣の切っ先を短剣で器用に受けると難なく受け流した。騎士は怒りから思い切り踏み込んでしまった様で、完全にバランスを崩した。リーシャは短剣の柄の底で、兜のこめかみ部分を横から打った。コォンッと鐘の様な音を鳴らして騎士は崩れ落ちた。死んではいないだろうが、思っても見なかったところにクリーンヒットしたのが効いたのか気絶した様だ。
「流石デュラハン。姉妹で一番弱いとか言ってたのに、いざ戦ってみると中々どうして……」
アンノウンが余所見しながら騎士に近付く。その無防備な姿に私服の騎士が飛びかかった。武器を装備していない華奢な女性と思わしき人物など、毎日鍛え上げている屈強な上腕二頭筋に押さえ込まれるのが摂理というもの。グラウンドに持ち込めば拘束も容易い。勿論常人ならの話。
ヒュッ
その瞬間、アンノウンの姿は騎士の視界から消える。完全に見失い、未だ空中で彷徨う騎士の目の前に華奢な手がひたりと顔を覆う様に現れる。突然の事に頭が回らない騎士の体は凄まじい力でブゥンッと空中を回った。天地を喪失するほど混乱した次の瞬間、後頭部を強かに打ち付けた。視界が揺らぎ、私服の騎士はそのまま意識を飛ばした。
華奢な体から出たとは思えないほどの膂力で騎士を振り回す姿は魔族のそれだ。騎士達は自分たちが何を相手にしているのか全く分からなくなり、体が動かなくなった。
「全滅がお望みか、それとも撤退するか……二つに一つ。選んで良いよ。私なら力の差を見越して逃げるけどね」
リーシャも二人をダウンさせたところで間合いを開けた。
騎士達の戦力が圧倒的に足らない。この状況を打開すべく、騎士の一人が通信機を二回振った。組み込まれた魔鉱石が赤く光り輝く。
「……第四部隊、そちらの侵入者はどうなっている」
『その声は第二部隊の……!すまない、こちらは取り逃がした。すぐに捜索して……』
「必要ない、総力戦で事に当たる必要が出た。こちらを最優先にする。今すぐ服屋のローパに集合せよ」
『……分かった、そちらに急行する。死ぬなよ』
「了解。報告以上」
通信を切るとフッと鼻で笑った。
「……死ぬなよだと?演技でもない……」
アルルは深めのコップに入った色とりどりのフルーツに、生クリームをこれでもかと乗せた特製パフェに舌鼓を打っていた。ブレイドは一口大にカットされたパウンドケーキに生クリームが添えられたデザートを食べていた。感動するアルルを尻目に入り口を気にするブレイド。
「?……ブレイドのはそんなに美味しくなかった?」
「ん?いや、美味しいよ。このケーキの中に干し果物が練り込まれているから、酸味があって味が一辺倒じゃ無いのが気に入ったよ。ぜひ作り方を習いたいな」
フォークでケーキを弄びながら大人びた感想を口遊む。
「本当?一口ちょうだい」
「うん」
ブレイドはお皿をアルルの前に持っていく。アルルはウキウキしながら添えられたクリームを付けつつケーキを口に運ぶ。しかし、口に入れる直前にピタッとその手を止めた。ブレイドがそれに気づいて声をかける。
「……どうした?」
「どうって?それはこっちのセリフだよ。何見てるのさっきから」
アルルはブレイドが気にしている入り口付近を確認する。特段変わった様子がないので、また視線を戻した。
「んー、そうだな。なんか気になるって言うかさ、さっきから外の様子がおかしいと思って……」
「何が?」
「そうだな……人通りが明らかに減ったと言うか、誰も店の前を横切ってないと言うか……さっきまであんなに混んでたのに不思議だなって」
ブレイドの疑問を聞いて改めて入り口に目を向ける。確かに入り口という僅かな枠の中に人の影は見えない。
「みんなお昼じゃない?」
「それじゃあもう一つおかしい事を言おうか?ここは飲食店だが、どうして誰も入店しないんだ?」
二人は今デザートしか頼んでいないが、ここはデザート専門店というわけではないのと、先に入店していた二組のお客が退店してから追加が一人もいない。その理由をアルルが首を傾げながら考える。
「……みんな外食を控えているとか?またはここ以外のお店の方が美味しいとか……」
「もしくは誰かが入れさせないか」
ブレイドは鋭い目付きで入り口からアルルに視線を向ける。アルルは何かに気付いたようにフォークに刺したケーキを急いで口に放り込む。
「う~ん最高~……これはこれで美味しいね」
そう言うとガタッと席を立ち上がった。ブレイドもそれを見て入り口から目を逸らさずに立ち上がる。
「すいません。お勘定をお願いします」
「お代ならテーブルに置いといてくれれば良いですよ~」
台所からおばさんの声が響き渡る。
「ちょっと聞きたいことがあるんで来ていただけませんか?」
パタパタとサンダルで小走りでやって来たおばさんを見てパチっと机の上に金貨を置いた。この辺では見たことも無い硬貨に驚いてブレイドの顔を見る。とてもじゃないが金貨を稼ぐ様な歳には見えない。
「……えっと……お釣り?」
「違います。お釣りは結構ですので、裏口を教えていただけませんか?出来ればそちらから出たいのですが……」
「えぇ!?騒ぎはゴメンだよ!?」
おばさんは怯えて騒ぐ。ブレイドとアルルはすぐに口元に人差し指を立てて静かにする様にと同時にジェスチャーを見せる。おばさんは唇を巻き込む様に黙ると周りをキョロキョロしながら様子を窺った。
しーんと静まり返った店内。いつもより静かな町におばさんも困惑する。気を使う様にウィスパーボイスで囁いた。
「……何があったの?」
*
「……どうなってる?」
一向に出てくる気配のない男女二人の行方に困惑する騎士達。さっきまで後をつけていた私服の騎士は懐に隠した短剣を握りしめて、ゆっくりと店に近寄る。スッと神経を尖らせて中の様子を探った。何も感じないのに違和感を覚え、焦って店内に侵入した。ガランとして誰もいない。
「あらいらっしゃい。何にする?」
「……!!」
騎士は顔を真っ赤にして暖簾を潜る。外に出るなり乱暴に通信機を取った。
「野郎気付いてやがった!多分店の裏口から出たんだ!」
『了解、バックアップは任せろ』
先に裏口方面に回り込んでいた騎士達が通路に出てくるのを待つが、一向に顔を出さない。前方を守っていた仲間の通信では裏口から出たと言うことだったが、その裏口を見張っていた騎士達から見れば扉はピクリとも動いていない。不思議に思って近付くが、こちらからも気配を感じない。
「おい、本当に裏口か?こっちには誰も来てないぞ。店内を捜索しろ」
騎士達は慌てて通信機でやり取りする。もちろんブレイド達は店内にはいない。おばさんは未来ある子供達のためと、金貨のお礼に屋上を案内したのだ。屋上から下を覗き込んでいたブレイドとアルルはすっかり囲まれた現状にため息を吐く。
「……安全って何だったの?」
「騎士達も馬鹿じゃないってことさ。すっかり侮ってたよ」
忙しなく動く騎士達を目で追っていながら、敵の目的を考える。
「確実にラルフさん絡みだろうが……俺達が狙われたってことは、アンノウンさん達も狙われてると考えるべきだろうな」
「じゃ、どうする?」
アルルは腰に巻きつけていた魔槍の柄に手を這わせる。すると槍は蛇の様にうねりながらアルルの腰から離れていつもの槍の形状を保つ。話を聞いてはいるが既に答えを持っている様だ。その答えが多分ブレイドと一致しているのも感じ取った。
「二人を助けに行こう」
「ふふ、だと思った」
*
服の専門店「ローパ」から出たアンノウンとリーシャは騎士達に取り囲まれていた。リーシャはメイド服のゆったりと長いスカートの中から太ももに装備していた短剣を抜く。内気で道行く町民とも目を合わせられなかった彼女は、まるで人が変わったかの様にキリッとした表情で剣を構えた。
「いつもロングソードを持ってるのに、そんな剣で大丈夫なの?」
アンノウンが質問するも、その心は既に戦いに向いていて耳を貸さない。自分の世界に入っているリーシャを見てつくづくコミュニケーションに難があると感じた。ちょっと前の自分がこんな感じだったことを思い出して(人のことは言えないな)と自らを卑下した。
とは言え連携が取れないのは不味いので、手を真横に左側を指差した。リーシャの目がその手をチラリと見たのを確認して指示を出す。
「リーシャは左側をお願い。私は右側をやる」
その指示にコクリと頷いた。手に力が入る。人族と戦うのは久しぶりだった。それこそ何十年ぶりの殺し合いか、戦闘訓練はいつもしていたので腕に鈍りはないはず。
騎士達もリーシャの手にある光り物に緊張が走る。ラルフ達をおびき出すにはこの二人を殺さない様に取り抑える必要がある。騎士の一人が通信機を口元に持っていく。
「……武器を持たれたら仕方がない、一人は諦めよう。丸腰の方を取り押さえろ」
通信機で返答することなく全員が頷きで了承した。アンノウンは多勢に無勢の状況でニヤリと笑った。
「なるほど、私達に勝つつもりなのか……でもそれは無謀ってものだよ」
アンノウンはトンッと軽やかに地面を蹴った。それが戦いの合図。リーシャもジャッと地面を踏みしめて飛び出す。
最初に接敵したのはリーシャだ。騎士の一人はリーシャに一気に間合いを詰められたが、焦ることなく短剣の突きを受ける。そこから切り返して剣を振るった。リーシャはバックステップで即座に間合いを開けて斬撃を躱すと、また即座に踏み込んで突きを放つ。その動きはまるでフェンシング。レイピアの様な長剣ではなく短剣という不格好さはあるが、その威力は絶大。
ガンッ
騎士はその威力に体が浮いて後方に吹き飛ばされた。突きは分厚い鎧に守られて体には切り傷は付かなかったが、衝撃は伝わる。まるで鈍器で殴られた様な威力に、胸を押さえて膝をついた。
「貴様っ!!」
それを見ていた騎士が剣をリーシャに振るう。しかし長剣の切っ先を短剣で器用に受けると難なく受け流した。騎士は怒りから思い切り踏み込んでしまった様で、完全にバランスを崩した。リーシャは短剣の柄の底で、兜のこめかみ部分を横から打った。コォンッと鐘の様な音を鳴らして騎士は崩れ落ちた。死んではいないだろうが、思っても見なかったところにクリーンヒットしたのが効いたのか気絶した様だ。
「流石デュラハン。姉妹で一番弱いとか言ってたのに、いざ戦ってみると中々どうして……」
アンノウンが余所見しながら騎士に近付く。その無防備な姿に私服の騎士が飛びかかった。武器を装備していない華奢な女性と思わしき人物など、毎日鍛え上げている屈強な上腕二頭筋に押さえ込まれるのが摂理というもの。グラウンドに持ち込めば拘束も容易い。勿論常人ならの話。
ヒュッ
その瞬間、アンノウンの姿は騎士の視界から消える。完全に見失い、未だ空中で彷徨う騎士の目の前に華奢な手がひたりと顔を覆う様に現れる。突然の事に頭が回らない騎士の体は凄まじい力でブゥンッと空中を回った。天地を喪失するほど混乱した次の瞬間、後頭部を強かに打ち付けた。視界が揺らぎ、私服の騎士はそのまま意識を飛ばした。
華奢な体から出たとは思えないほどの膂力で騎士を振り回す姿は魔族のそれだ。騎士達は自分たちが何を相手にしているのか全く分からなくなり、体が動かなくなった。
「全滅がお望みか、それとも撤退するか……二つに一つ。選んで良いよ。私なら力の差を見越して逃げるけどね」
リーシャも二人をダウンさせたところで間合いを開けた。
騎士達の戦力が圧倒的に足らない。この状況を打開すべく、騎士の一人が通信機を二回振った。組み込まれた魔鉱石が赤く光り輝く。
「……第四部隊、そちらの侵入者はどうなっている」
『その声は第二部隊の……!すまない、こちらは取り逃がした。すぐに捜索して……』
「必要ない、総力戦で事に当たる必要が出た。こちらを最優先にする。今すぐ服屋のローパに集合せよ」
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「……死ぬなよだと?演技でもない……」
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