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第八章 地獄
プロローグ
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ラルフ達の侵入から一夜明けたヲルト大陸。黒影を光の牢獄に閉じ込めて尋問が始まっていた。彼は意外にもすんなり口を開いて多くを語ってくれた。
イシュクルの殺害は計画されていたこと、人類との結託、鏖の排除。その他にも多くの裏取引や裏工作を口にした。観念したのか定かではないが、何となく重要なことは話さないように、されど文句が出ない程度に言葉を紡いでいるように感じた。第五魔王”蒼玉”の側近は調書を終えると、部屋を出て一番に主人に頭を下げる。
「まったく……お騒がせな執事だこと……」
まだ利用価値があると確信した蒼玉は黒影を生かすことにして幽閉した。円卓会場に戻った蒼玉を迎えたのは七柱の魔王達。蒼玉が座るのを待って重い空気の中、その重たい口を開いた。
「事態は深刻だのぅ。早い所この事態を収拾せねばなるまいて……」
第八魔王”群青”はぼやく。その言葉の通り、今この円卓上は空席が目立つ。
第一魔王”黒雲”、第六魔王”灰燼”、第七魔王”銀爪”、第十魔王”白絶”。この四柱の席はいつの間にか死んでいたり、突然離脱したりで今や”黒の円卓”は八柱となってしまった。
円卓は歴史上、第二の危機を迎えていた。ちなみに第一の危機は、第一魔王だったイシュクルが引き篭もってしまった事件。それはさて置き、そのぼやきに反応したのは第十二魔王”鉄”。
「……どうしようというのだ?そこらの人間どもを相手にするのとはワケが違うんだぞ?」
鉄は鏖に敵対する事の愚を語る。
「……規格外の力で全てを屈服させるような……そんな化け物を相手にどうやって事態を収めるつもりだ?」
棍棒を杖代わりにして棍棒の上に手を添え、さらにその上に顎を乗せた群青が目だけでチラリと鉄を見る。
「ならば鉄よ、ぬしは何とする?」
「聞いているのはこっちだ」と言わんばかりの視線を向けるが、それに一切動じない群青。その図太い精神に呆れた鉄は、その質問に対して考え込むように腕を組んで押し黙った。側で聞いていた第三魔王”黄泉”は卑屈に笑った。
「くくっ……随分と余裕だな群青。まるでもうやる事は決まっているような、そんな言い草だ……」
「そうなの?聞かせてよおじいさん」
第九魔王”撫子”は軽くて高い声音で尋ねる。この暗い空気を払拭させようと言う魂胆があるのか、はたまた考え無しか。群青は椅子にもたれ掛かってフンッと鼻を鳴らした。
「決まっておる。人類と結託して”唯一王”などと名乗る不届き者を今度こそ殺しきる」
「……は?」
それは予想だに出来ない信じられない言葉だった。
「おいおい……気でも狂ったのか?人類と結託だと?とてもじゃねぇがまともとは思えねぇな……」
黄泉は呆れたように手を振りながら群青の正気を疑う。だがこれに肯定する者が現れる。
「流石は群青様。こう言う時に役立つのは年の功という事でしょうか?」
第二魔王”朱槍”。ほとんどバカにしたような言い草で口を挟んだが、その口調は好意的なものだった。
「ふふっ当然私もその案に賛成いたします。弱者は無駄に多くいますし、これらの目を監視に使わない手はありませんよねぇ。我らの戦いに横槍を入れられては面倒ですし、人類と手を組むのは得策と言えましょう。群青様の仰った通り不届き者の抹殺こそ急務。使える物は何でも使うべきとここに提案します」
この最悪の状況に敵味方関係なく、手を取り合って一つの敵に向かう。「漁夫の利」を狙われないように第三者の横槍を潰し、共通の敵を倒した後に改めて生存圏を廻っての争いを仕切り直す。言うは簡単だが行うは難し。それは歴史が証明している。
「あのさぁ……その若さを愚弄するワケじゃないけど、ちょっと物を知らなすぎじゃない?あんたもミーシャと一緒に百年以上この世界に触れてきたなら分かるでしょうに……人類とは千年以上いがみ合ってきたのよ?今更手を取り合うなんて出来っこないわ」
撫子は頭から無理だと否定する。朱槍はそんな彼女の否定を嘲笑した。
「おやおや、いつから私は歴史の授業を受講していたのでしょうか?ふふっ、くだらない説教は止めにして頂きたいですね撫子様」
撫子は目を細めながら「生意気……」と呟いた。いつ手が出るか分からない状況の中、静観していた蒼玉が口を開く。
「いえ、撫子様。これは朱槍様の言う通りです。問題はどのようにして人類に接近し、仲間に引き入れられるかだと私は読み解きますが?」
蒼玉も自分の味方ではない状況に、撫子はぶすっとして拗ねた。鏖をどうしても殺したい第四魔王”竜胆”は撫子の苛立ちを尻目に群青を睨みつける。
「御託は良い。群青殿、早く話していただける?その方法とやらを」
「うむ、少し焦らしが過ぎた様じゃな。まぁ何、至極単純な事じゃて。まずは人間に交渉を持ち込み、手を取り合うか否かを確認する。前者は賢い選択じゃが、後者を選ぶものは死んでもらう。詰まる所、脅しということじゃな」
「ははっ脅しか。確かに単純明快だが、それでは人類を全滅させることになるのでは?」
第十一魔王”橙将”は笑った。魔族と手を取ろうなんて、そんな人族など居るはずもない。書状を出したところで破り捨てられるのがオチだ。群青の言葉通りにするなら、人族の大半を屠ることに他ならない。人族に積極的に攻撃した場合、その隙にミーシャのチームが第三者として「漁夫の利」を狙うかもしれない。そうなれば本末転倒だ。
「そうじゃろうな、じゃから取り敢えず三ヵ国に書状を送って様子を見る。勿論否定されること前提でな。否定した国を滅ぼし、次の国に書状を送る。こうすれば滅ぼされることを恐れた奴等は襲われる恐怖を覚えて、下手に否定は出来ない。徐々に拡散していけば、全員をとは言わんがほとんどを掌握することは出来ような」
「なるほど、こちらから戦争を仕掛けようと言うことか。人類を好き勝手殺してきた虐殺とは違い、あくまで陣取り合戦を想定しての戦争。自領を肥え太らせるだけの今までとは違ったアプローチではある」
橙将は灼赤大陸の現状を重ねながら納得する。陣取り合戦はお手の物である。彼らの中で策が決まりつつある中、蒼玉が目を伏せながらデメリットを投じる。
「……野蛮ですね。憎悪を募らせればここぞという時に反転する者が少なからず出ることは明白。同族同士であれば諦めもつく可能性はありますが、異なる種族が支配をチラつかせればこの策は大きく破綻することでしょう。恐怖による支配など所詮は一時の幻想に過ぎませんよ?」
蒼玉の意見はもっともではある。ここで黄泉が反論した。
「だけどよ、万が一にも従わせようと思うなら恐怖以外あんのか?友好的に行って褒美でも与えんのか?はっ!気持ち悪い。人類に舐められるのだけは俺はごめんだぜ」
影に収納していた主武器である大鎌を取り出して円卓机にガスッと突き立てる。黄泉は席を一つ跨いで澄まし顔をしている蒼玉を睨みつけた。
「……ところでお前はどうしようってんだ?群青の案を否定すんなら、勿論持ってんだろ?最良の案をよ……」
ギラつく刃物を出しながら脅しかける。黄泉も群青の案に賛成するということだろう。下手なことを言えばこの大鎌で真っ二つにされそうだが、蒼玉は無表情で「勿論」とハッキリ口に出す。全員の視線が蒼玉に集まったところで一拍置いて口を開いた。
「現在収監中の黒影の裏取引の相手を引き入れます。表向きは今までと変わりませんが、裏では人類と結託して鏖を追い詰めるという案です。こうすれば鏖に悟られることもなく着々と追い詰めることも可能ですし、裏で黒影が結んだ信頼と実績……いや、信頼というほどに無いとしても利害の一致が継続される限りは裏切られるようなことはまずないでしょう。余計な損失を負わないで済むというのも付け加えましょうか」
群青の目が据わる。裏取引の事実。黒影が暴露したことにより円卓の大半に激震が走ったわけだが、朱槍と蒼玉は揺らぎもしなかった。この両名は何を隠そう人類とのパイプを既に持っている。群青は人類の作った通信機を電波傍受の為の魔道具に作り替えて真実を知ってしまった。裏切り者の存在を示唆して円卓を招集したのだが、その件は真っ先に追求したイシュクルの死とエレノアが全部持って行ってしまったので、この二名の追及が出来なかったのだ。ここで見逃すと全て黒影に罪が擦られてしまう。
だがここで声を上げることは出来ない。これ以上不和を撒き散らせば円卓は取り返しがつかないレベルで崩壊する。ならばここはスルーし、敢えて好きにさせておく。銀爪とエレノアが居ない今、警戒すべきはこの二人であるということを知っているだけでも十分だと自分に言い聞かせた。
そんな群青の葛藤を余所に黄泉は口を閉ざした。思ったより真っ当な策略に反論の一つも思い付かなかった。人類を取り入れるなら確かに黒影を利用しない手はない。その上、即処刑を申し出ていた自分と違って、至って冷静に収監した蒼玉の行動にも脱帽だ。ひょっとしたらこうなることを見越していたのかもしれない。偶然だろうが、蒼玉のミスのない言動が黙らせるに繋がった。
この流れはもう蒼玉の案で決まりと言えそうな空気を感じたが、それに鉄の目が光る。
「……両方やろう」
その言葉に全員が驚きの表情を見せた。
「……どちらか一方でなくとも、裏も表も掌握する方向で動けば良い。朱槍、貴様言ったな?手段を選んでいる場合ではないと……。まさに今がその時だろう?」
目を丸くしていた朱槍は、目を瞑ってニヤリと笑った。
「ふふふっ、両方ですか……中々大胆な事を仰いますねぇ。確かにやる価値は十分あるでしょう」
その目は蒼玉に向く。彼女も一つ頷くと全員を見渡した。
「宜しいですかみなさん。我々はこの円卓において新たな一歩を踏み出すことになります。第一魔王という最古の存在の予期せぬ死はそれを意味しているといって過言ではないでしょう。新生の円卓として世界を掌握するのです」
遂に始まる魔族の侵攻作戦。この円卓の選択と動向は想像以上に深刻に世界を破壊していく事だろう。
混沌に蝕まれていく世界。人類と魔族、決着の時は近い。
イシュクルの殺害は計画されていたこと、人類との結託、鏖の排除。その他にも多くの裏取引や裏工作を口にした。観念したのか定かではないが、何となく重要なことは話さないように、されど文句が出ない程度に言葉を紡いでいるように感じた。第五魔王”蒼玉”の側近は調書を終えると、部屋を出て一番に主人に頭を下げる。
「まったく……お騒がせな執事だこと……」
まだ利用価値があると確信した蒼玉は黒影を生かすことにして幽閉した。円卓会場に戻った蒼玉を迎えたのは七柱の魔王達。蒼玉が座るのを待って重い空気の中、その重たい口を開いた。
「事態は深刻だのぅ。早い所この事態を収拾せねばなるまいて……」
第八魔王”群青”はぼやく。その言葉の通り、今この円卓上は空席が目立つ。
第一魔王”黒雲”、第六魔王”灰燼”、第七魔王”銀爪”、第十魔王”白絶”。この四柱の席はいつの間にか死んでいたり、突然離脱したりで今や”黒の円卓”は八柱となってしまった。
円卓は歴史上、第二の危機を迎えていた。ちなみに第一の危機は、第一魔王だったイシュクルが引き篭もってしまった事件。それはさて置き、そのぼやきに反応したのは第十二魔王”鉄”。
「……どうしようというのだ?そこらの人間どもを相手にするのとはワケが違うんだぞ?」
鉄は鏖に敵対する事の愚を語る。
「……規格外の力で全てを屈服させるような……そんな化け物を相手にどうやって事態を収めるつもりだ?」
棍棒を杖代わりにして棍棒の上に手を添え、さらにその上に顎を乗せた群青が目だけでチラリと鉄を見る。
「ならば鉄よ、ぬしは何とする?」
「聞いているのはこっちだ」と言わんばかりの視線を向けるが、それに一切動じない群青。その図太い精神に呆れた鉄は、その質問に対して考え込むように腕を組んで押し黙った。側で聞いていた第三魔王”黄泉”は卑屈に笑った。
「くくっ……随分と余裕だな群青。まるでもうやる事は決まっているような、そんな言い草だ……」
「そうなの?聞かせてよおじいさん」
第九魔王”撫子”は軽くて高い声音で尋ねる。この暗い空気を払拭させようと言う魂胆があるのか、はたまた考え無しか。群青は椅子にもたれ掛かってフンッと鼻を鳴らした。
「決まっておる。人類と結託して”唯一王”などと名乗る不届き者を今度こそ殺しきる」
「……は?」
それは予想だに出来ない信じられない言葉だった。
「おいおい……気でも狂ったのか?人類と結託だと?とてもじゃねぇがまともとは思えねぇな……」
黄泉は呆れたように手を振りながら群青の正気を疑う。だがこれに肯定する者が現れる。
「流石は群青様。こう言う時に役立つのは年の功という事でしょうか?」
第二魔王”朱槍”。ほとんどバカにしたような言い草で口を挟んだが、その口調は好意的なものだった。
「ふふっ当然私もその案に賛成いたします。弱者は無駄に多くいますし、これらの目を監視に使わない手はありませんよねぇ。我らの戦いに横槍を入れられては面倒ですし、人類と手を組むのは得策と言えましょう。群青様の仰った通り不届き者の抹殺こそ急務。使える物は何でも使うべきとここに提案します」
この最悪の状況に敵味方関係なく、手を取り合って一つの敵に向かう。「漁夫の利」を狙われないように第三者の横槍を潰し、共通の敵を倒した後に改めて生存圏を廻っての争いを仕切り直す。言うは簡単だが行うは難し。それは歴史が証明している。
「あのさぁ……その若さを愚弄するワケじゃないけど、ちょっと物を知らなすぎじゃない?あんたもミーシャと一緒に百年以上この世界に触れてきたなら分かるでしょうに……人類とは千年以上いがみ合ってきたのよ?今更手を取り合うなんて出来っこないわ」
撫子は頭から無理だと否定する。朱槍はそんな彼女の否定を嘲笑した。
「おやおや、いつから私は歴史の授業を受講していたのでしょうか?ふふっ、くだらない説教は止めにして頂きたいですね撫子様」
撫子は目を細めながら「生意気……」と呟いた。いつ手が出るか分からない状況の中、静観していた蒼玉が口を開く。
「いえ、撫子様。これは朱槍様の言う通りです。問題はどのようにして人類に接近し、仲間に引き入れられるかだと私は読み解きますが?」
蒼玉も自分の味方ではない状況に、撫子はぶすっとして拗ねた。鏖をどうしても殺したい第四魔王”竜胆”は撫子の苛立ちを尻目に群青を睨みつける。
「御託は良い。群青殿、早く話していただける?その方法とやらを」
「うむ、少し焦らしが過ぎた様じゃな。まぁ何、至極単純な事じゃて。まずは人間に交渉を持ち込み、手を取り合うか否かを確認する。前者は賢い選択じゃが、後者を選ぶものは死んでもらう。詰まる所、脅しということじゃな」
「ははっ脅しか。確かに単純明快だが、それでは人類を全滅させることになるのでは?」
第十一魔王”橙将”は笑った。魔族と手を取ろうなんて、そんな人族など居るはずもない。書状を出したところで破り捨てられるのがオチだ。群青の言葉通りにするなら、人族の大半を屠ることに他ならない。人族に積極的に攻撃した場合、その隙にミーシャのチームが第三者として「漁夫の利」を狙うかもしれない。そうなれば本末転倒だ。
「そうじゃろうな、じゃから取り敢えず三ヵ国に書状を送って様子を見る。勿論否定されること前提でな。否定した国を滅ぼし、次の国に書状を送る。こうすれば滅ぼされることを恐れた奴等は襲われる恐怖を覚えて、下手に否定は出来ない。徐々に拡散していけば、全員をとは言わんがほとんどを掌握することは出来ような」
「なるほど、こちらから戦争を仕掛けようと言うことか。人類を好き勝手殺してきた虐殺とは違い、あくまで陣取り合戦を想定しての戦争。自領を肥え太らせるだけの今までとは違ったアプローチではある」
橙将は灼赤大陸の現状を重ねながら納得する。陣取り合戦はお手の物である。彼らの中で策が決まりつつある中、蒼玉が目を伏せながらデメリットを投じる。
「……野蛮ですね。憎悪を募らせればここぞという時に反転する者が少なからず出ることは明白。同族同士であれば諦めもつく可能性はありますが、異なる種族が支配をチラつかせればこの策は大きく破綻することでしょう。恐怖による支配など所詮は一時の幻想に過ぎませんよ?」
蒼玉の意見はもっともではある。ここで黄泉が反論した。
「だけどよ、万が一にも従わせようと思うなら恐怖以外あんのか?友好的に行って褒美でも与えんのか?はっ!気持ち悪い。人類に舐められるのだけは俺はごめんだぜ」
影に収納していた主武器である大鎌を取り出して円卓机にガスッと突き立てる。黄泉は席を一つ跨いで澄まし顔をしている蒼玉を睨みつけた。
「……ところでお前はどうしようってんだ?群青の案を否定すんなら、勿論持ってんだろ?最良の案をよ……」
ギラつく刃物を出しながら脅しかける。黄泉も群青の案に賛成するということだろう。下手なことを言えばこの大鎌で真っ二つにされそうだが、蒼玉は無表情で「勿論」とハッキリ口に出す。全員の視線が蒼玉に集まったところで一拍置いて口を開いた。
「現在収監中の黒影の裏取引の相手を引き入れます。表向きは今までと変わりませんが、裏では人類と結託して鏖を追い詰めるという案です。こうすれば鏖に悟られることもなく着々と追い詰めることも可能ですし、裏で黒影が結んだ信頼と実績……いや、信頼というほどに無いとしても利害の一致が継続される限りは裏切られるようなことはまずないでしょう。余計な損失を負わないで済むというのも付け加えましょうか」
群青の目が据わる。裏取引の事実。黒影が暴露したことにより円卓の大半に激震が走ったわけだが、朱槍と蒼玉は揺らぎもしなかった。この両名は何を隠そう人類とのパイプを既に持っている。群青は人類の作った通信機を電波傍受の為の魔道具に作り替えて真実を知ってしまった。裏切り者の存在を示唆して円卓を招集したのだが、その件は真っ先に追求したイシュクルの死とエレノアが全部持って行ってしまったので、この二名の追及が出来なかったのだ。ここで見逃すと全て黒影に罪が擦られてしまう。
だがここで声を上げることは出来ない。これ以上不和を撒き散らせば円卓は取り返しがつかないレベルで崩壊する。ならばここはスルーし、敢えて好きにさせておく。銀爪とエレノアが居ない今、警戒すべきはこの二人であるということを知っているだけでも十分だと自分に言い聞かせた。
そんな群青の葛藤を余所に黄泉は口を閉ざした。思ったより真っ当な策略に反論の一つも思い付かなかった。人類を取り入れるなら確かに黒影を利用しない手はない。その上、即処刑を申し出ていた自分と違って、至って冷静に収監した蒼玉の行動にも脱帽だ。ひょっとしたらこうなることを見越していたのかもしれない。偶然だろうが、蒼玉のミスのない言動が黙らせるに繋がった。
この流れはもう蒼玉の案で決まりと言えそうな空気を感じたが、それに鉄の目が光る。
「……両方やろう」
その言葉に全員が驚きの表情を見せた。
「……どちらか一方でなくとも、裏も表も掌握する方向で動けば良い。朱槍、貴様言ったな?手段を選んでいる場合ではないと……。まさに今がその時だろう?」
目を丸くしていた朱槍は、目を瞑ってニヤリと笑った。
「ふふふっ、両方ですか……中々大胆な事を仰いますねぇ。確かにやる価値は十分あるでしょう」
その目は蒼玉に向く。彼女も一つ頷くと全員を見渡した。
「宜しいですかみなさん。我々はこの円卓において新たな一歩を踏み出すことになります。第一魔王という最古の存在の予期せぬ死はそれを意味しているといって過言ではないでしょう。新生の円卓として世界を掌握するのです」
遂に始まる魔族の侵攻作戦。この円卓の選択と動向は想像以上に深刻に世界を破壊していく事だろう。
混沌に蝕まれていく世界。人類と魔族、決着の時は近い。
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