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第六章 戦争Ⅱ
第十六話 会敵
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銀爪は意気揚々と外気を吸う。城に籠っていて太陽光すらまともに浴びられなかった事にオルドを憎んだ。
しかしこうして出てみるとどうだろう。我慢させられた分、開放感が凄まじい。空腹は「最高のスパイス」という言葉があるが正にそれなのだろうと実感する。だからこそ民衆に手をかけた時の喜びは人一倍だった。
「ま、これっきりにして欲しいけどな。やっぱ我慢なんざ性に合わねぇし……」
鼻歌を歌いそうなほど軽やかな足取りで進んでいく。その先には銀爪を殺そうとギラギラした目でやってくる最強の戦士達が待ち構えているというのに……自分の身を脅かすかもしれない、そんな武力を持った輩達に実のところ期待していた。
”魔断”の存在は今でも内心怖いと思っている。父親が殺された様に、戦えば無事に済まないのではないかと不安が襲うこともある。
だが”風神”のアロンツォや、自分が魔王として一度は認められることとなったアニマンの最強の一角”剛撃”との戦いを経て、白の騎士団の程度の低さを確信した。「俺は親父より強い」という自他ともに認められる戦闘能力がその確信を後押ししていた。
国民を殺したハイな気持ちも要因の一つだろう。戦いの前に飲んだ酒と命の危険が脳内麻薬を放出し、正常な判断を鈍らせていた。
「さぁて、どこにいるんだ?俺を殺そうってザコどもはよぉ……」
ポケットに手を突っ込んでニヤニヤしながら練り歩く。前方に複数の影が見えた時、迎え撃つ為に立ち止まる。胸を張って見下すように顎を上げて待つ。銀爪討伐隊は前方に佇む一つの陰にハッとして武器を構える。
「……おい見ろよ……ありゃ噂の何某じゃねぇか?」
ガノンが背に下げた大剣の柄を握って呟く。他の連中も同時に気付いたようで武器を構え始めた。
「良いか皆の衆。ここはひとつ落ち着いて……」
アウルヴァングが口を開いたその時、ルールーが先んじて走り出した。
「あ!てめっ……!!」
「抜け駆けは許さんぞい!!」
ルールーを追いかけるように走り出す。流石にアニマンの健脚だけあって追いつくのは不可能だ。最初に銀爪に接敵したのはルールーだった。
「シャアァァァ!!」
双剣を振るって銀爪に斬りかかる。銀爪はそれを難なく避けるとルールーは勢い余って銀爪の後方に抜けてしまう。空中で一回転しながら着地すると銀爪に振り向く。それを見越していたかのように右拳を振り上げ、ルールーの顔面に放つ。
ブンッ
ルールーは当たったように見える程紙一重で、拳の振り抜く方向に顔ごと体を回転させて避けると、その回転を活かして双剣を銀爪に薙ぐ。カウンターを放たれた銀爪は内心感心しながら後ろに飛び退いた。同じアニマンと言えど”剛撃”とは明らかに違う技巧。しなやかさを存分に発揮して銀爪に襲いかかる。
「テメーは明らかにあのデカブツとは違うな……」
ポケットに入れっぱなしだった左手を引き抜き、ルールーを攻撃しようと魔力を高める。しかし、後ろから殺気を感じて地面を蹴る。ボッと空気を切る音と共に鉄板の如き大剣が銀爪が先ほどまで立っていた場所に振り下ろされた。
「チッ……」
気付かれた事に舌打ちしたガノンは追撃の為に前に出ようとするが、ルールーが邪魔になって踏み出せない。一歩前に出たところで立ち止まる。
前方に飛んだ銀爪は空中でルールーを飛び越え、一回転しながら着地した。肩越しに敵を観察すると二人の背後から走ってきた仲間達が追いつく。(多勢に無勢……)という言葉が浮かぶが、危うげない自分の状態を鑑みて、鼻で笑いながら振り向いた。
「へっ、俺の国に土足で踏み込んで来やがったのは何処のどいつだ?」
「儂は白の騎士団が一人”嵐斧”のアウルヴァングじゃ!おぬしが銀爪か?」
「見りゃ分んだろチビジジイ。テメーみたいのでも入れんだな白の騎士団っつーのはよ。スッゲー弱そうなんだが?」
銀爪は肩を竦めつつ呆れる様に両手を挙げた。
「人を見た目で判断するとは不届き千万!儂の斧の錆にしてくれる!!」
ルールーに比べればハエが止まりそうなほど遅い動きに笑いが込み上げる。
「ははっ!いつまで待たせんだよチビ!んな動きじゃ俺に百年かかっても……」
軽口を叩こうとした時、アウルヴァングは間合いの外で斧を振るう。地面に叩きつける様に振った斧から凄まじい衝撃波が銀爪に向かって飛んでくる。その衝撃波は地面を抉りながら威力を見せつけてきた。この攻撃に当たるわけにはいかない銀爪は先と同じ様に飛び上がって避ける。
「……んだよクソが!直接斬らねぇのかよ!」
斧の錆といったのはブラフだったとイライラしながら空中で吐き捨てると、急な展開が不可能な空中を狙って正孝が手を構えた。
「燃えろぉっ!!」
火炎放射機から放たれた様な炎の攻撃は銀爪を焼く。
「うおっ!?」
魔力を溜める事なく放たれた一撃に驚いて顔を隠す。自慢の服がチリチリになりながら火の威力に飛ばされて吹き飛ぶ。地面を転がり、体勢を立て直す為に手足を駆使してブレーキを掛けると大剣を持った大男が、またしても銀爪に対して振り下ろした。
「舐めんなぁ!!」
難しい体勢だったが何とか手を動かして剣の峰を弾く。ガンッと硬質な物同士がぶつかる音が鳴り、ガノンの大剣は横に逸れる。完全に体勢を崩したガノンに追い打ちをかけようと手を振り上げるが、これは愚策。
ガノンは大剣をまるで小枝の様に振り回すことが出来るほどの膂力を持っている。先ほどかなり振り回して体力を消耗していたが、そんなことはなかったかの様に横薙ぎに振る。
「!?」
これに驚いた銀爪は脊髄反射で後方に飛びのく。ブォンッとギリギリで大剣の間合いから離れる事に成功したが、服は間に合わなかった。体こそ切れていないが、ジャケットとYシャツは大剣が振り抜かれた形で切られ、布がはらはらと地面に落ちる。
「……アレを避けるか……」
ガノンは大剣の長さを確認しつつ銀爪の能力を経験則から測る。流石に魔王と呼ばれるだけはあると納得した。
「……俺のパーティー服が台無しだぜ。弁償しろよクソ野郎」
手でつまんで無残な服の傷跡を見せる。
「……うるせぇ、手前ぇはここで死ぬんだよ……俺に殺されてな……」
剣を掲げて宣言するガノン。
「待て待て、儂の獲物じゃ!」
「いいや俺んだ。俺を忘れねぇ様にな」
「……因縁浅キ者共ガ何言ウン?ワダシノモンダァ」
強者と呼べる者達が銀爪の首の取り合いを始めた。側で聞いていたバクスは困惑気味に呟く。
「……我々は……どうしたら良いのだろうか……」
この戦いにはついていくことは出来ない。バクスはこのまま見届けるか加勢すべきかを本気で悩むも、背後から騎士の一人に助言をもらう。
「隊長。ここは彼らに任せて我々は先に城を占拠しては如何でしょう」
それは彼からしてみれば目から鱗の提案だった。
「はっ……名案だ。よし、皆の者。そっと迂回して城を目指すぞ」
バクスは近くにいた正孝にコソッと近付いて話す。
「ガーディアン。我々は先に城を目指します。魔王討伐をお願いしても宜しいでしょうか?」
「ああ?俺に聞くな。行きゃいいだろ勝手によ……」
それを肯定と捉えたバクスは頭を下げて身振り手振りで迂回し始める。動きを見て魔王との戦いを諦めたことを知り、ガノンは口を開いた。
「……アリーチェ!此処じゃ足手まといだ、手前ぇもついて行け!」
「……足でまといって……もう……はいはーい。死なないでねー」
アリーチェは一応残るつもりだったがガノンの心配を察してバクスについていく事にした。城に向かう団体を止めようともしない銀爪。余裕というか民の命がかかっているというのに呆れるほど焦りがない。
「何じゃおぬし……民の命がどうなろうと良いのか?」
「知らねーよバーカ。ま、生きてりゃまた使ってやるかな」
国民を何だと思っているのか。本当に王なのかと思えるほど傲慢な振る舞いにガノンの顔が引きつる。
「……王の器じゃねぇな」
「……あ?」
銀爪はその呟きに反応し、魔力を放出する。立ち上るほど見える魔力放射はドス黒く銀爪を彩る。今にも攻撃しそうな程の殺気に四人全員構えた。
「教えてやるよ……俺こそが絶対の王様だって事をな!!」
しかしこうして出てみるとどうだろう。我慢させられた分、開放感が凄まじい。空腹は「最高のスパイス」という言葉があるが正にそれなのだろうと実感する。だからこそ民衆に手をかけた時の喜びは人一倍だった。
「ま、これっきりにして欲しいけどな。やっぱ我慢なんざ性に合わねぇし……」
鼻歌を歌いそうなほど軽やかな足取りで進んでいく。その先には銀爪を殺そうとギラギラした目でやってくる最強の戦士達が待ち構えているというのに……自分の身を脅かすかもしれない、そんな武力を持った輩達に実のところ期待していた。
”魔断”の存在は今でも内心怖いと思っている。父親が殺された様に、戦えば無事に済まないのではないかと不安が襲うこともある。
だが”風神”のアロンツォや、自分が魔王として一度は認められることとなったアニマンの最強の一角”剛撃”との戦いを経て、白の騎士団の程度の低さを確信した。「俺は親父より強い」という自他ともに認められる戦闘能力がその確信を後押ししていた。
国民を殺したハイな気持ちも要因の一つだろう。戦いの前に飲んだ酒と命の危険が脳内麻薬を放出し、正常な判断を鈍らせていた。
「さぁて、どこにいるんだ?俺を殺そうってザコどもはよぉ……」
ポケットに手を突っ込んでニヤニヤしながら練り歩く。前方に複数の影が見えた時、迎え撃つ為に立ち止まる。胸を張って見下すように顎を上げて待つ。銀爪討伐隊は前方に佇む一つの陰にハッとして武器を構える。
「……おい見ろよ……ありゃ噂の何某じゃねぇか?」
ガノンが背に下げた大剣の柄を握って呟く。他の連中も同時に気付いたようで武器を構え始めた。
「良いか皆の衆。ここはひとつ落ち着いて……」
アウルヴァングが口を開いたその時、ルールーが先んじて走り出した。
「あ!てめっ……!!」
「抜け駆けは許さんぞい!!」
ルールーを追いかけるように走り出す。流石にアニマンの健脚だけあって追いつくのは不可能だ。最初に銀爪に接敵したのはルールーだった。
「シャアァァァ!!」
双剣を振るって銀爪に斬りかかる。銀爪はそれを難なく避けるとルールーは勢い余って銀爪の後方に抜けてしまう。空中で一回転しながら着地すると銀爪に振り向く。それを見越していたかのように右拳を振り上げ、ルールーの顔面に放つ。
ブンッ
ルールーは当たったように見える程紙一重で、拳の振り抜く方向に顔ごと体を回転させて避けると、その回転を活かして双剣を銀爪に薙ぐ。カウンターを放たれた銀爪は内心感心しながら後ろに飛び退いた。同じアニマンと言えど”剛撃”とは明らかに違う技巧。しなやかさを存分に発揮して銀爪に襲いかかる。
「テメーは明らかにあのデカブツとは違うな……」
ポケットに入れっぱなしだった左手を引き抜き、ルールーを攻撃しようと魔力を高める。しかし、後ろから殺気を感じて地面を蹴る。ボッと空気を切る音と共に鉄板の如き大剣が銀爪が先ほどまで立っていた場所に振り下ろされた。
「チッ……」
気付かれた事に舌打ちしたガノンは追撃の為に前に出ようとするが、ルールーが邪魔になって踏み出せない。一歩前に出たところで立ち止まる。
前方に飛んだ銀爪は空中でルールーを飛び越え、一回転しながら着地した。肩越しに敵を観察すると二人の背後から走ってきた仲間達が追いつく。(多勢に無勢……)という言葉が浮かぶが、危うげない自分の状態を鑑みて、鼻で笑いながら振り向いた。
「へっ、俺の国に土足で踏み込んで来やがったのは何処のどいつだ?」
「儂は白の騎士団が一人”嵐斧”のアウルヴァングじゃ!おぬしが銀爪か?」
「見りゃ分んだろチビジジイ。テメーみたいのでも入れんだな白の騎士団っつーのはよ。スッゲー弱そうなんだが?」
銀爪は肩を竦めつつ呆れる様に両手を挙げた。
「人を見た目で判断するとは不届き千万!儂の斧の錆にしてくれる!!」
ルールーに比べればハエが止まりそうなほど遅い動きに笑いが込み上げる。
「ははっ!いつまで待たせんだよチビ!んな動きじゃ俺に百年かかっても……」
軽口を叩こうとした時、アウルヴァングは間合いの外で斧を振るう。地面に叩きつける様に振った斧から凄まじい衝撃波が銀爪に向かって飛んでくる。その衝撃波は地面を抉りながら威力を見せつけてきた。この攻撃に当たるわけにはいかない銀爪は先と同じ様に飛び上がって避ける。
「……んだよクソが!直接斬らねぇのかよ!」
斧の錆といったのはブラフだったとイライラしながら空中で吐き捨てると、急な展開が不可能な空中を狙って正孝が手を構えた。
「燃えろぉっ!!」
火炎放射機から放たれた様な炎の攻撃は銀爪を焼く。
「うおっ!?」
魔力を溜める事なく放たれた一撃に驚いて顔を隠す。自慢の服がチリチリになりながら火の威力に飛ばされて吹き飛ぶ。地面を転がり、体勢を立て直す為に手足を駆使してブレーキを掛けると大剣を持った大男が、またしても銀爪に対して振り下ろした。
「舐めんなぁ!!」
難しい体勢だったが何とか手を動かして剣の峰を弾く。ガンッと硬質な物同士がぶつかる音が鳴り、ガノンの大剣は横に逸れる。完全に体勢を崩したガノンに追い打ちをかけようと手を振り上げるが、これは愚策。
ガノンは大剣をまるで小枝の様に振り回すことが出来るほどの膂力を持っている。先ほどかなり振り回して体力を消耗していたが、そんなことはなかったかの様に横薙ぎに振る。
「!?」
これに驚いた銀爪は脊髄反射で後方に飛びのく。ブォンッとギリギリで大剣の間合いから離れる事に成功したが、服は間に合わなかった。体こそ切れていないが、ジャケットとYシャツは大剣が振り抜かれた形で切られ、布がはらはらと地面に落ちる。
「……アレを避けるか……」
ガノンは大剣の長さを確認しつつ銀爪の能力を経験則から測る。流石に魔王と呼ばれるだけはあると納得した。
「……俺のパーティー服が台無しだぜ。弁償しろよクソ野郎」
手でつまんで無残な服の傷跡を見せる。
「……うるせぇ、手前ぇはここで死ぬんだよ……俺に殺されてな……」
剣を掲げて宣言するガノン。
「待て待て、儂の獲物じゃ!」
「いいや俺んだ。俺を忘れねぇ様にな」
「……因縁浅キ者共ガ何言ウン?ワダシノモンダァ」
強者と呼べる者達が銀爪の首の取り合いを始めた。側で聞いていたバクスは困惑気味に呟く。
「……我々は……どうしたら良いのだろうか……」
この戦いにはついていくことは出来ない。バクスはこのまま見届けるか加勢すべきかを本気で悩むも、背後から騎士の一人に助言をもらう。
「隊長。ここは彼らに任せて我々は先に城を占拠しては如何でしょう」
それは彼からしてみれば目から鱗の提案だった。
「はっ……名案だ。よし、皆の者。そっと迂回して城を目指すぞ」
バクスは近くにいた正孝にコソッと近付いて話す。
「ガーディアン。我々は先に城を目指します。魔王討伐をお願いしても宜しいでしょうか?」
「ああ?俺に聞くな。行きゃいいだろ勝手によ……」
それを肯定と捉えたバクスは頭を下げて身振り手振りで迂回し始める。動きを見て魔王との戦いを諦めたことを知り、ガノンは口を開いた。
「……アリーチェ!此処じゃ足手まといだ、手前ぇもついて行け!」
「……足でまといって……もう……はいはーい。死なないでねー」
アリーチェは一応残るつもりだったがガノンの心配を察してバクスについていく事にした。城に向かう団体を止めようともしない銀爪。余裕というか民の命がかかっているというのに呆れるほど焦りがない。
「何じゃおぬし……民の命がどうなろうと良いのか?」
「知らねーよバーカ。ま、生きてりゃまた使ってやるかな」
国民を何だと思っているのか。本当に王なのかと思えるほど傲慢な振る舞いにガノンの顔が引きつる。
「……王の器じゃねぇな」
「……あ?」
銀爪はその呟きに反応し、魔力を放出する。立ち上るほど見える魔力放射はドス黒く銀爪を彩る。今にも攻撃しそうな程の殺気に四人全員構えた。
「教えてやるよ……俺こそが絶対の王様だって事をな!!」
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