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第四章 崩壊
第三十九話 変更
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「ん?おい、ベルフィアはどこだ?」
ラルフは全員の無事を確認している最中に一人足りないことに気付く。ベルフィアだけが辺りを見回しても見当たらない。ウィーもキョロキョロするが気配を感じず、ラルフに首を振った。
「……それは誰の事かな?」
ハンターは見に覚えのありそうな顔でラルフに尋ねた。その顔を見たラルフは多分彼はベルフィアを見たのだろうと悟る。吸血鬼の存在を言うべきかどうか逡巡するが、そこは伏せることにした。
「ここで戦ってたはずの女性なんだが、何処にもいないみたいでな。ウィーも感知しないし、どこ行ったんだか……」
「ああ、その人なら多分見たよ」
ラルフは身を乗り出す。
「本当か!?どこに行ったか分かるか?」
「どこに行ったかまでは分からないけど、フードを被った魔族に連れていかれたよ」
ベルフィアが捕まった。フードを被った魔族とは一体誰なのか?ベルフィアは一介の魔族に捕まるようなタマではない。それを考慮するならかなりの強者であり上位者であることは間違いない。
「奴だ。灰燼だ……」
「カイジン……?」
ミーシャは誰か知っているらしい。ラルフはその名前を持つ魔王を記憶から検索する。
「確か第九の魔王にそんな奴がいたような……」
「いいえ、今は第六魔王よ」
ミーシャから聞く魔王の順位に関して、人類との乖離が有りすぎる。自分の持つこの知識は何年前の物なのか?一度話し合って知識の共有が必要だろう。
「探すだけ無駄だと思うな。言いにくいけど、彼女は殺されたと見るのが妥当だね」
ハンターは結構ズケズケと話してくる。だが変に隠されたりするくらいなら、これだけしっかりビシッと言ってくれる方が有難い。
「ベルフィアさんが捕まったなら今すぐ助けに行かないと……」
ブレイドはラルフとミーシャを見ながら口を挟む。
「まさかあの人が捕まるなんて……。早く助けてあげないと可哀想ですよ」
アルルもベルフィアを思って困り顔で訴える。
「ん?僕の話を聞いてた?聞いてたよね?」
ハンターは再度殺されたことを伝えようと息を吸った。しかし、それに待ったをかけたのはグレースだ。
「待って!聞きたいことがあるの!」
彼女は焦ったような顔付きで声を上げた。
「むっ?何だ?言ってみろ。発言を許す」
ミーシャはいつもの上位者ムーブで応える。グレースは許しがもらえたことに内心喜びつつ質問をする。
「貴女が”鏖”でしょ?それでこの人がラルフ。連れていかれたのは吸血鬼で間違いないと思うの!……違う?」
グレースは興奮して早口気味に喋り始めたが、誰からも同意も反応もない事から不安になって声が小さくなった。ミーシャは「うん」と一つ頷く。
「そうだが、それが?」
そう答えた時、ウィーが森に目を向ける。それにいち早く気づいたラルフがハンターに尋ねる。
「……他に誰かいるのか?」
ハンターはラルフの視線の先を確認する。
「ああ、ヒューマンの騎士の方々だよ。僕らと共闘してくれたんだ。後ろの魔族を任せていてね……」
ガサリと茂みから出てきた騎士の鎧は黒く、見たことのある鎧だった。
「黒曜騎士団か……」
アルパザからこっち、もう見たくもない鎧だったがここまで追いかけてきたと言う事はあの男が関わっているだろう。
「ゼアル団長はいるのか?」
「いや、ゼアルさんはマクマイン公爵と国に戻ったよ」
何故公爵が出てきたのか。答えは簡単、ラルフが煽った事に起因しているだろう。だが、わざわざ軍を上げてやって来た事を思えば、たかだかヒューマン一人でイルレアンの事実上の最高権力者が顔を出すのは考えられない。ミーシャ存命の一件がマクマイン公爵との通信でバレていたと見るのが妥当だろう。
情報の共有をラルフたちが行っている最中、そのすぐ後ろではブレイドが自分の手を眺めていた。
「どうしたの、ブレイド?」
黒ずんでいた手が元の色に戻っている。自分は確かに変異していた。今までも死への恐怖は何度も味わってきたはずだが変異に関しては今回が初めてだ。今回ほど本気で攻撃を防いだことはなかったと思い返す。きっとそれが一番の要因だろう。
自分が本当に半人半魔なのか内心疑っていたが、これでハッキリした。ギュッと手を握り締めると、アルルを見る。
「……いいや、何でもないよ。大丈夫」
「こーんにーちわ」
声の聴こえた方を見る。そこに立っていたのは少し年上の男女四人。
「こ、こんにちわ」
突然声をかけられたことに驚いた。心の準備が出来ていなかったのでどもってしまった。それに対して美咲はニッコニコでブレイドに顔を近づける。
「ええ~?なになに?ちょー可愛いじゃん!エルフも良かったけど普通の子も良いわね」
ハートが出そうな程甘ったるい声を出している。猫なで声とはこういう声だろう。
「ちょっと何ですか?」
それに反応したのはアルル。ブレイドを庇う様に前に出る。ツンと張った胸に押し返されて美咲はちょっと下がる。
「ちょっ……何よ……私よりでかくね?」
美咲以外の初めての女性らしい肢体に釘付けになる守護者の男三人。
「良い体してんじゃん。エルフはあれだったけど、やっぱ人里降りなきゃ駄目だなぁ……」
ふひひっと笑いながら、正孝はアルルの胸をおもむろに触ろうとしてきた。それにはブレイドが前に出る。
「おい、やめろ。何してんだ?」
「あ?なんだてめぇ?俺が誰だか分かんねぇのか?どけ」
遮った体を避けるように顎をしゃくる。
「そうっすよ!その体を独り占めとかズルいっすよ~」
なんて軽口を叩きながら正孝より前に出た茂は、ブレイドの肩を持って退かそうとする。守護者の力は常人の数倍の力を持っている。エルフの里ならやりたい放題だろうが、ブレイドを前にすればそうはいかない。
ガッと肩に置いた手を持つと、ギシッと腕を握る。茂は「うっ!」と脂汗をかいて痛みを堪える。
「……手をどけろ」
ブレイドは怒りの表情で茂を睨み付ける。
「ははっ!おいおい茂ぅ!何やってんだよ!そんなガキとっととやっちまえって!」
痛みで挫けそうになるが、相手は見るからに自分より年下だ。正孝の言う通り何やってるんだと自分に言い聞かせる。
「……頭に乗るなよクソガキ……」
その瞬間、ブレイドの力がスンッと抜ける感覚に陥る。「!?」腰砕けになり、足の踏ん張りが利かなくなる。
(なんだ?!力が……)
体の力がどこかに出ていっているような奇妙な感覚。茂の顔がニヤリと笑う。何らかの特異能力で体の力を吸い取られたようだ。
このまま倒れるかと思ったが、ブレイドはダンッと思い切り地面を踏みしめた。茂はビクッと体を強張らせる。
「そんな馬鹿な……!?」
エルフに使った時はすぐに倒れ、三日は動けなくなったのに……。
ビギビギッという音をたて、ブレイドの顔に青筋が立つ。我慢しているようだ。効いてない訳ではない。
「おい!何だ!?喧嘩はやめろ!!」
そこに話を終えたラルフが止めに入る。ブレイドと茂の間に入って距離を取るように手を出した。ラルフの力では突き放すことは出来なかったが、間に入ったことで離れる切っ掛けが出来た。
茂もブレイドも両方ほぼ同時に手を離し、その場は治まった。嫌な空気だけが流れる。
「ふんっ全く……お前らには協調という言葉が足りないな。好き勝手したいなら他所でやれ」
口を出したのはアンノウンだ。何の失態も無く上の立場を維持するアンノウンには頭が上がらない。失態がないから全て正論で返される。正論が嫌いな正孝たちは面白くなさそうな顔で舌打ちしつつ離れた。
それを見送った後、アンノウンはフッと笑って見覚えのある二人を見る。
「うちの奴らが失礼した。ブレイド、それと……ラルフ?」
おどけたように呼ばれたラルフは困った顔でアンノウンを見た。
「あ、ああ、まぁそういうことだ。なんか……悪かったな。偽名なんて語って……」
「いや、お互い様だ」
ラルフの肩を叩くと、アンノウンも離れた。
「大丈夫か?ブレイド、アルル」
「私は大丈夫です」
「問題ありません」
二人とも特に怪我もない。それを確認すると、黒曜騎士団を見ながらラルフは口を開く。
「ベルフィアの居所が分からない……。ミーシャも灰燼の居場所が分からないらしいから正直お手上げ状態だ……」
苦々しい顔で俯く。また続けて話し出す。
「これは俺の勘だが、ペルタルクの魔王にこの事を話して居場所を聞き出せば、きっとベルフィアの居所は突き止められるだろうと思う……」
「?……じゃあそうすべきですよね?そのことをミーシャさんに……」
「しーっ……」ラルフは唇に指をあてて、少し声を落とすように指示する。
「最初にベルタルクを言い出したのはミーシャだぞ?コネがあるっつってたし、あいつの性格だと滅茶苦茶仲良しとかの類いだろうし……」
「なら尚更……」
「考えても見ろ。ここで待ち伏せされてたんだぞ?部下を配置するにしても早すぎる。元々、目的地が分かっていた可能性が高いって事だ」
「それってもしかしてジュリアさんが……」
アルルの問いには首を振る。
「あいつじゃない。多分違う。そう信じたいだけかも知れないけどな……。だから要するに、ミーシャならペルタルクを頼ると思われた可能性もあるってことだ。となるとミーシャの言うぺルタルクの支配者は果たして俺たちの……いや、ミーシャの味方なのかってことだ」
ラルフが言いたいのは、このままペルタルクに行くのは不味いと言いたいのだろう。
「なら、やめましょう。これ以上進んでも危険なだけですし……」
「やっぱそう思うよな……」
ラルフは意味深に呟いて後頭部を掻くと、踵を返してミーシャの元に歩く。ハンターとグレースに話しかけているミーシャの元に行くと、ミーシャに話しかけた。
「ブレイド達と話し合ったんだが……」
ミーシャにベルタルクへの旅路を諦めると同時にベルフィアについてを相談する。
「となれば私が聞こう。蒼玉なら灰燼の居場所を知っているだろうし」
ミーシャは顎に手を伸ばして考える。
「駄目だミーシャ、危険すぎる。いくらお前が最強と言っても相手の領域に入るのは無謀だ」
「そうはいってもそれ位しか方法が……」
二人して「うーん」と悩んでいると、「あのっ」とグレースが声をかける。
「エルフの里には天樹と呼ばれる大きな樹があるの。巫女様に頼んだら……」
「グレース!?」
ハンターが声を荒げる。
「正気?相手は魔王なんだよ?」
「正気よ。彼女の事をよく知れる良い機会だし、何より彼女は味方になり得るわ」
「不確定すぎる。相手は鏖なんだよ?」
グレースとハンターの言い合いになる。
「待って。天樹って言ったわね?オロチから聞いた奴も確か天樹って言ってた。それがあったら探し物を探せるの?」
ミーシャは目を輝かせる。グレースとハンターは二人で互いを見合う。
「え、ええ。多分……」
その応答にハンターは頭を抱えた。さっきから何を言っているのか分からないラルフは疑問をぶつける。
「何だよ、そのてんじゅってのは……」
「まま、いいからいいから。それじゃ案内してもらいましょうか。エルフの里に」
ラルフは全員の無事を確認している最中に一人足りないことに気付く。ベルフィアだけが辺りを見回しても見当たらない。ウィーもキョロキョロするが気配を感じず、ラルフに首を振った。
「……それは誰の事かな?」
ハンターは見に覚えのありそうな顔でラルフに尋ねた。その顔を見たラルフは多分彼はベルフィアを見たのだろうと悟る。吸血鬼の存在を言うべきかどうか逡巡するが、そこは伏せることにした。
「ここで戦ってたはずの女性なんだが、何処にもいないみたいでな。ウィーも感知しないし、どこ行ったんだか……」
「ああ、その人なら多分見たよ」
ラルフは身を乗り出す。
「本当か!?どこに行ったか分かるか?」
「どこに行ったかまでは分からないけど、フードを被った魔族に連れていかれたよ」
ベルフィアが捕まった。フードを被った魔族とは一体誰なのか?ベルフィアは一介の魔族に捕まるようなタマではない。それを考慮するならかなりの強者であり上位者であることは間違いない。
「奴だ。灰燼だ……」
「カイジン……?」
ミーシャは誰か知っているらしい。ラルフはその名前を持つ魔王を記憶から検索する。
「確か第九の魔王にそんな奴がいたような……」
「いいえ、今は第六魔王よ」
ミーシャから聞く魔王の順位に関して、人類との乖離が有りすぎる。自分の持つこの知識は何年前の物なのか?一度話し合って知識の共有が必要だろう。
「探すだけ無駄だと思うな。言いにくいけど、彼女は殺されたと見るのが妥当だね」
ハンターは結構ズケズケと話してくる。だが変に隠されたりするくらいなら、これだけしっかりビシッと言ってくれる方が有難い。
「ベルフィアさんが捕まったなら今すぐ助けに行かないと……」
ブレイドはラルフとミーシャを見ながら口を挟む。
「まさかあの人が捕まるなんて……。早く助けてあげないと可哀想ですよ」
アルルもベルフィアを思って困り顔で訴える。
「ん?僕の話を聞いてた?聞いてたよね?」
ハンターは再度殺されたことを伝えようと息を吸った。しかし、それに待ったをかけたのはグレースだ。
「待って!聞きたいことがあるの!」
彼女は焦ったような顔付きで声を上げた。
「むっ?何だ?言ってみろ。発言を許す」
ミーシャはいつもの上位者ムーブで応える。グレースは許しがもらえたことに内心喜びつつ質問をする。
「貴女が”鏖”でしょ?それでこの人がラルフ。連れていかれたのは吸血鬼で間違いないと思うの!……違う?」
グレースは興奮して早口気味に喋り始めたが、誰からも同意も反応もない事から不安になって声が小さくなった。ミーシャは「うん」と一つ頷く。
「そうだが、それが?」
そう答えた時、ウィーが森に目を向ける。それにいち早く気づいたラルフがハンターに尋ねる。
「……他に誰かいるのか?」
ハンターはラルフの視線の先を確認する。
「ああ、ヒューマンの騎士の方々だよ。僕らと共闘してくれたんだ。後ろの魔族を任せていてね……」
ガサリと茂みから出てきた騎士の鎧は黒く、見たことのある鎧だった。
「黒曜騎士団か……」
アルパザからこっち、もう見たくもない鎧だったがここまで追いかけてきたと言う事はあの男が関わっているだろう。
「ゼアル団長はいるのか?」
「いや、ゼアルさんはマクマイン公爵と国に戻ったよ」
何故公爵が出てきたのか。答えは簡単、ラルフが煽った事に起因しているだろう。だが、わざわざ軍を上げてやって来た事を思えば、たかだかヒューマン一人でイルレアンの事実上の最高権力者が顔を出すのは考えられない。ミーシャ存命の一件がマクマイン公爵との通信でバレていたと見るのが妥当だろう。
情報の共有をラルフたちが行っている最中、そのすぐ後ろではブレイドが自分の手を眺めていた。
「どうしたの、ブレイド?」
黒ずんでいた手が元の色に戻っている。自分は確かに変異していた。今までも死への恐怖は何度も味わってきたはずだが変異に関しては今回が初めてだ。今回ほど本気で攻撃を防いだことはなかったと思い返す。きっとそれが一番の要因だろう。
自分が本当に半人半魔なのか内心疑っていたが、これでハッキリした。ギュッと手を握り締めると、アルルを見る。
「……いいや、何でもないよ。大丈夫」
「こーんにーちわ」
声の聴こえた方を見る。そこに立っていたのは少し年上の男女四人。
「こ、こんにちわ」
突然声をかけられたことに驚いた。心の準備が出来ていなかったのでどもってしまった。それに対して美咲はニッコニコでブレイドに顔を近づける。
「ええ~?なになに?ちょー可愛いじゃん!エルフも良かったけど普通の子も良いわね」
ハートが出そうな程甘ったるい声を出している。猫なで声とはこういう声だろう。
「ちょっと何ですか?」
それに反応したのはアルル。ブレイドを庇う様に前に出る。ツンと張った胸に押し返されて美咲はちょっと下がる。
「ちょっ……何よ……私よりでかくね?」
美咲以外の初めての女性らしい肢体に釘付けになる守護者の男三人。
「良い体してんじゃん。エルフはあれだったけど、やっぱ人里降りなきゃ駄目だなぁ……」
ふひひっと笑いながら、正孝はアルルの胸をおもむろに触ろうとしてきた。それにはブレイドが前に出る。
「おい、やめろ。何してんだ?」
「あ?なんだてめぇ?俺が誰だか分かんねぇのか?どけ」
遮った体を避けるように顎をしゃくる。
「そうっすよ!その体を独り占めとかズルいっすよ~」
なんて軽口を叩きながら正孝より前に出た茂は、ブレイドの肩を持って退かそうとする。守護者の力は常人の数倍の力を持っている。エルフの里ならやりたい放題だろうが、ブレイドを前にすればそうはいかない。
ガッと肩に置いた手を持つと、ギシッと腕を握る。茂は「うっ!」と脂汗をかいて痛みを堪える。
「……手をどけろ」
ブレイドは怒りの表情で茂を睨み付ける。
「ははっ!おいおい茂ぅ!何やってんだよ!そんなガキとっととやっちまえって!」
痛みで挫けそうになるが、相手は見るからに自分より年下だ。正孝の言う通り何やってるんだと自分に言い聞かせる。
「……頭に乗るなよクソガキ……」
その瞬間、ブレイドの力がスンッと抜ける感覚に陥る。「!?」腰砕けになり、足の踏ん張りが利かなくなる。
(なんだ?!力が……)
体の力がどこかに出ていっているような奇妙な感覚。茂の顔がニヤリと笑う。何らかの特異能力で体の力を吸い取られたようだ。
このまま倒れるかと思ったが、ブレイドはダンッと思い切り地面を踏みしめた。茂はビクッと体を強張らせる。
「そんな馬鹿な……!?」
エルフに使った時はすぐに倒れ、三日は動けなくなったのに……。
ビギビギッという音をたて、ブレイドの顔に青筋が立つ。我慢しているようだ。効いてない訳ではない。
「おい!何だ!?喧嘩はやめろ!!」
そこに話を終えたラルフが止めに入る。ブレイドと茂の間に入って距離を取るように手を出した。ラルフの力では突き放すことは出来なかったが、間に入ったことで離れる切っ掛けが出来た。
茂もブレイドも両方ほぼ同時に手を離し、その場は治まった。嫌な空気だけが流れる。
「ふんっ全く……お前らには協調という言葉が足りないな。好き勝手したいなら他所でやれ」
口を出したのはアンノウンだ。何の失態も無く上の立場を維持するアンノウンには頭が上がらない。失態がないから全て正論で返される。正論が嫌いな正孝たちは面白くなさそうな顔で舌打ちしつつ離れた。
それを見送った後、アンノウンはフッと笑って見覚えのある二人を見る。
「うちの奴らが失礼した。ブレイド、それと……ラルフ?」
おどけたように呼ばれたラルフは困った顔でアンノウンを見た。
「あ、ああ、まぁそういうことだ。なんか……悪かったな。偽名なんて語って……」
「いや、お互い様だ」
ラルフの肩を叩くと、アンノウンも離れた。
「大丈夫か?ブレイド、アルル」
「私は大丈夫です」
「問題ありません」
二人とも特に怪我もない。それを確認すると、黒曜騎士団を見ながらラルフは口を開く。
「ベルフィアの居所が分からない……。ミーシャも灰燼の居場所が分からないらしいから正直お手上げ状態だ……」
苦々しい顔で俯く。また続けて話し出す。
「これは俺の勘だが、ペルタルクの魔王にこの事を話して居場所を聞き出せば、きっとベルフィアの居所は突き止められるだろうと思う……」
「?……じゃあそうすべきですよね?そのことをミーシャさんに……」
「しーっ……」ラルフは唇に指をあてて、少し声を落とすように指示する。
「最初にベルタルクを言い出したのはミーシャだぞ?コネがあるっつってたし、あいつの性格だと滅茶苦茶仲良しとかの類いだろうし……」
「なら尚更……」
「考えても見ろ。ここで待ち伏せされてたんだぞ?部下を配置するにしても早すぎる。元々、目的地が分かっていた可能性が高いって事だ」
「それってもしかしてジュリアさんが……」
アルルの問いには首を振る。
「あいつじゃない。多分違う。そう信じたいだけかも知れないけどな……。だから要するに、ミーシャならペルタルクを頼ると思われた可能性もあるってことだ。となるとミーシャの言うぺルタルクの支配者は果たして俺たちの……いや、ミーシャの味方なのかってことだ」
ラルフが言いたいのは、このままペルタルクに行くのは不味いと言いたいのだろう。
「なら、やめましょう。これ以上進んでも危険なだけですし……」
「やっぱそう思うよな……」
ラルフは意味深に呟いて後頭部を掻くと、踵を返してミーシャの元に歩く。ハンターとグレースに話しかけているミーシャの元に行くと、ミーシャに話しかけた。
「ブレイド達と話し合ったんだが……」
ミーシャにベルタルクへの旅路を諦めると同時にベルフィアについてを相談する。
「となれば私が聞こう。蒼玉なら灰燼の居場所を知っているだろうし」
ミーシャは顎に手を伸ばして考える。
「駄目だミーシャ、危険すぎる。いくらお前が最強と言っても相手の領域に入るのは無謀だ」
「そうはいってもそれ位しか方法が……」
二人して「うーん」と悩んでいると、「あのっ」とグレースが声をかける。
「エルフの里には天樹と呼ばれる大きな樹があるの。巫女様に頼んだら……」
「グレース!?」
ハンターが声を荒げる。
「正気?相手は魔王なんだよ?」
「正気よ。彼女の事をよく知れる良い機会だし、何より彼女は味方になり得るわ」
「不確定すぎる。相手は鏖なんだよ?」
グレースとハンターの言い合いになる。
「待って。天樹って言ったわね?オロチから聞いた奴も確か天樹って言ってた。それがあったら探し物を探せるの?」
ミーシャは目を輝かせる。グレースとハンターは二人で互いを見合う。
「え、ええ。多分……」
その応答にハンターは頭を抱えた。さっきから何を言っているのか分からないラルフは疑問をぶつける。
「何だよ、そのてんじゅってのは……」
「まま、いいからいいから。それじゃ案内してもらいましょうか。エルフの里に」
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