一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
123 / 718
第四章 崩壊

第十四話 死の足音

しおりを挟む
ラルフは自分の失敗を悔いていた。

ジュリアには強がって炭鉱内に入ってみたが、武器も道具も無いことに改めて気付く。仲間がいるというのは難儀なもので、自分だけ助かればそれでいいというわけにはいかない。

だからといって自分の命を軽率に扱う行為は慎むべきだった。炭鉱に入ってすぐ転移の罠が発動し、出入り口より一気に離されてしまった。

それだけならまだいい。問題は飛ばされて早々、虫の大群が出迎えた事だ。

「やべっ!!」

急いで踵を返すと一気に駆け抜ける。進む方向にも虫がいないことはないが後ろに比べると少量な為、踏み潰して進むことが出来る。

ただ万が一前からも同じだけの量に攻められたら一溜まりもない。幸い前方は集まりが悪く、大体が通りすぎた後に大群と合流している。

これだけ騒がしくしているのに虫以外の生き物を見ていない。という事は多分いないのだ。脅威は虫だけだと推測できる。

正直虫以外がいたら対処出来なかっただろう。這って動くことしか出来ない虫たちはラルフに比べて足が遅い。何とか運良く立ち回れている。

しかし、どれほど運が良いといってもそれは状況であり、体力は加味されていない。永遠に走れる無限の体力なら別だが、ただの人間ヒューマンであるラルフは体力の消耗が激しく、走るのがきつくなってきた。

「はぁ……はぁ……!」

体力回復に休憩をとる必要がある。だいぶ離したとはいえ油断できないが、立ち止まって息を吐きたくなっていた。

ジュリアがいた時は心身ともに何となく余裕があったが、一人になるとそういうわけにはいかない。

どこで休憩を挟もうか考えていると壁に目が行った。転移の罠の兆候が見える。岩肌が流動しているように見えたのだ。

(しめた!)

別の場所に転移できればきっと今より良くなるはず。ラルフは丁度転移しそうなタイミングを見計らって流動する岩肌近辺に飛び込んだ。あと数秒もしない内に転移が始まる。「ふーっ」とようやく一息ついた。

「ラルフ!」

その時、聞き覚えのある声が聞こえた。目の前にミーシャの姿が暗闇に浮かぶ。周りを照らすほど明るい光球を三個くらい惜しげもなく浮かべてミーシャ周りだけ昼間のように明るくなっている。ミーシャの胸元にはウィーが抱えられていて、こちらを指さしている。そして、近くに鎖を纏った小汚い小男が先導していた。

見えたのは一瞬だった。何かを喋る前に景色が変わった。

「……何というすれ違い……」

ライトを前方後方に向けて、現在の状況を確認する。虫の大群に追われていた状況に比べると静かなものだが、すれ違いは痛い。思った以上に気落ちしたラルフは左片膝を地面について、状況の整理をする。

(……俺とはぐれた後、あっちもバラバラにはぐれたのか?となればウィーがミーシャと一緒にいれたのは幸運だったな。ウィーだけでは多分死んでいただろう……しかし、あの男は誰だ?俺たちの後に入ってきた冒険者か?それにしては変な装備だった……鎖帷子くさりかたびらではなく、鎖そのものを纏うなんて……)

見た事ない人物もそうだが、そんな意味わからない人物とミーシャが一緒にいるのは意外だと言わざるを得ない。もう自分がいなくても人との関わりは大丈夫と言う事だろう。この調子で抱きついて寝る事に少し恥じらいを持ってくれるといいが……。

とにかく今の状況を解消するために、合流方法を考えねばならない。動かない方が良いのか、それとも先読みで動くべきか。最初の段階に戻ってくる。すれ違いを目の前にすると、安易に動けなくなるのがつらいところだ。何とかミーシャを見る事は出来たが、ベルフィア達はどうなっただろうか?

ラルフは「……よしっ!」と気合を入れて立ち上がろうとする。しかし、足に力が入らない。というより感覚が少し鈍くなっている。不思議に思ったが、ハッとする。

(しまった!虫に噛まれた奴か!!)

痛みが無かった為、気が付かなかったが遅効性の麻痺毒を流し込まれたらしい。さっきまで元気に走っていたのに、突然どうしようもなく足が重い。気落ちのタイミングでやってきた毒。非常にまずい。これがミーシャ、ベルフィア、ブレイドの誰かと一緒の時に起こるならまだいい。なんせ背負ってもらえるからだ。あそこでミーシャと合流できなかったのが悔やまれる。

ライトを岩肌に当てる。特に岩肌の流動は見られない。当然だ。ついさっき起こったばかりである。

左足だけが不自然に動かない。とりあえず這いずって移動を開始する。四つん這いの体勢は慣れないので変な所に力が入る上、左足が使えないのでナメクジの様にズルズルと何とか前に進んで行く。ここで思うのは一つ。

(頼む……虫よ、出て来ないでくれ……)

10m進んだかどうかの所で、カサッというわずかな音が聞こえた。冷汗が一筋、頬を伝って落ちる。後ろを振り向くと虫が三匹見える。ほんの二秒ほど虫と見つめ合っていたが、虫が動き出した時、ライトを口にくわえる。前だけを照らしてスピードアップを図る。

しかし、どれだけ頑張っても早歩き程度のスピードしか出ない。虫の速度は追い回されていた時から変わらないはずなのに倍くらいの速度で動くように見える。

あっという間に追いつかれると、這いずる左足に噛みついてくる。逃げる獲物に虫も焦ったのか靴越しに噛みつかれた。痛くはないが追いつかれたのが恐怖に感じる。

(やばいやばいやばいやばい……!)

少しでも早く手を前に出すが、一匹に追いつかれたと言う事は逃げられないという事。次々と左足に噛みついていく。二匹くらいが裾の中に入って噛んだ時、痛さで一瞬スローダウンした。結果、靴に噛みついていた虫が右足に回り込む。右足のふくらはぎにも激痛が走る。

「ぐあっ!!くそっ!!」

そのままでいい。とにかく前に進む。立ち止まって痛みから抜けだそうと虫を払ったり一、二匹を殺したところで次から次にやって来るのだ。そんなことをしているくらいなら誰とでもいいから合流できるまで動き続けるのが重要である。

動けなくなってからでは遅い。

段々手足が重くなって行く。当然だろう。この体勢での動きに慣れていないからいつもの倍近く疲れが来るのが早い。その上、噛みつかれているのが死への恐怖を増幅させ、さらに体力の消耗に拍車をかける。

顔には大粒の汗を流しながら息を乱して足からは血を流す。しかし、立ち止まる事と、ライトを取り落とす事だけは絶対にしない。立ち止まれば死。ライトを取り落とせば、進むべき道を失ってやはり死ぬ。前を照らして十匹くらいに齧りつかれながら何とか進む。

緩やかな下り坂にたどり着いた時、口にくわえたライトを手に持ち替えて、ぐっと下っ腹に抱え込む。齧りついた虫をそのままに、坂を転がり落ちる。這うより早く、体に付いた虫を剥がす事も視野に入れた自爆的な移動方法。石や岩で体を傷つけながら下まで転がり落ちると、中々離れない二、三匹虫を除いてほとんど引きはがす事に成功する。

ただ自爆していることは事実なので、体中にあざを作りながら額から血を流す。意識を朦朧とさせながら体を起き上がらせると、未だ齧りつく虫をカバンから出した水筒で殴りつける。体に付いた虫を殺しきった後、ゴホゴホ咳をしながら、また這いずる移動を開始する。

長い坂を転がって降りたので、何とか虫を離す事には成功したものの、体中が痛くて動くのもつらい。このままでは逃げ切れない。時間稼ぎにはなったが、追いつかれればこれ以上抵抗が出来ない。

だから前方からカサカサッ、チギッチギッと聞こえた時ラルフの体から力が抜ける。

「……俺は……虫に食われるために……生き残ったってのかよ……」

血と汗と大粒の涙を流して拳を握り締める。

「……死にたく……ねぇなぁ……」

命の危機を前に体が動かず気持ちも折れてどうしようもない。ブヂッガシャッという不思議な音が鳴りながら思ったより遅くやって来る。カサカサッという六つ以上の足を動かす音が徐々に消えてチギッチギッという音が大きく聞こえる。その時、ラルフの意識は途絶える。体力の使い過ぎで気絶した。

「……ドウシテ アタシ ハ、オ前ノピンチニ何度モ遭遇スルンダ?殺セトイウ神ノオ告ゲカ?ソレトモ、オ前ヲ生カス事ガ アタシ ノ使命トデモイウノカ?」

それは神のみぞ知ると言う事だ。ジュリアはため息を吐くと、ラルフを背負った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...