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第二章 旅立ち
第十九話 間
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暗く、何もないだだっ広いそれだけの場所。
ラルフは床に座っていた。
「……ここは、どこだ?」
見たことのない場所。何も見えないのに、広い事だけは分かる。そのはずなのに自分の体が光もないのにはっきり見える。
「これがあの世ってヤツなのか?」
誰もいない。色んなあの世の偶像が世界にはたくさんあったが、そのどれとも一致しない。
「おーい!誰かいないのかー?」
エコーがかった声が反響して、暗闇に吸い込まれる。これが死ぬということなら、誰も死にたくないだろう。
天国とやらは期待してなかったが、何かあるのではと、ふと思っていた。もし生き返られるなら、死後の世界など嘘っぱちだと言ってやりたい。
『その考えは、間違ってますよ』
その時、声が聞こえた。
「!?えっ?誰だ?」
キョロキョロするが、誰もいない。
「おい、ふざけんな。誰かいるなら顔を見せたらどうなんだ?」
『見せたらどうしますか?何を望むのですか?』
ラルフは声の主が何を言っているのか分からず疑問に思いながら、その真意を解こうとする。
「そうだな…俺と…お話ししないか?」
『お話?会話を望まれるならこのままでも良いのではないですか?』
言葉を発し、言葉を解して、言葉を返す。それが会話なら、現在のこの状況も会話になる。
「違う違う。俺が望むのは対話ね。姿を見せてくれ。これじゃその…独り言だぜ…」
ラルフは虚空に語りかける。自分とは全く違う声でも、それが現実か、妄想か、はたまた幻聴か、理解できぬからこそ対話を望む。自分が正気であると確認したいのだ。
『…理解致しました。確かに今のままでは独り言に違い無いでしょうね。しかし、対話とは、ね…今の状況を貴方様は果たして、理解されていますか?何故ここにいるのか、ここはどこなのか、自分は死んだのではないのか…とか聞くことは、色々ありますよね?』
くすくす笑いながら、分析されている。
(なんだこいつ…)
確かにラルフにとっても、聞きたい事はたくさんある。ここは理解に苦しむ世界であり、話しかけてくるこの声の主も、不気味で言いたいことがさっぱり理解できない。
「とにかく顔を見せろ。人と離したいなら目を見て話すもんだぜ?それが常識だ」
安心したいが為の詭弁だが、万が一の事も考えての行動だ。
もし筆舌に尽くしがたい驚異のモンスターであれば、逃げるし単なる人なら留まって話すだろう。最悪、魔族でもギリギリ会話くらい出来る。基本的に、命の危険がなければ話すのが道理。
『…ふむ、出来れば人がいいと?見えない何者かと話すのは不気味、と思われているのですね。興味深い』
思った事を口に出されて驚くラルフ。
「!…心が読めるのか?」
面倒な手合いだ。心が読めるなら隠す事も騙す事も不可能。いわゆる”覚り”という奴だ。
『それはいいですねぇ。今から私を”サトリ”とお呼びください』
その声が聞こえた時、目の前で光が収束する。
その光は眩しく、手をかざして視界から外す。
光は形を伴って人型に変貌する。
指の間からギリギリ見えたそれは光を調節して、明るすぎず暗すぎないくらいのラルフの体と同じ光量で女性の姿として顕現した。
髪の色は白く輝き、太股に到達する長さだが結うわけでもなく、毛先を自由に遊ばせている。のくせに乱れることもなく、ストレートに纏まり、清潔感すらある。
肌も白い。ベルフィアほど白くはないが、健康的な色とは言えない。可愛げのある顔立ちで、少し幼いが、頭身が高くモデル体型で、艶かしい。
薄い生地のキャミソールで裸同然だ。
一応、下着っぽいのが大事なとこを隠しているので、セーフ…なのだろう多分。肩に羽衣を纏う姿は女神を連想させる。
「随分と扇情的なのが出てきたな…」
『こういうのはお嫌いですか?』
空間に話していた時は不気味だったが、目の前の女性が話しているのを聞くと、途端にいい声に感じる。自分でも「現金な奴だな…」と思ってしまう。
「全然嫌いじゃないよ、むしろ好きだけどさ…サトリだっけ?そんな格好じゃ男としての俺を保てそうに無いんだけど…」
サトリは手を口許に持っていき、くすくす笑ってラルフを挑発する。ムラっと来てしまうが(我慢我慢…)とラルフは自分を自制し、サトリを見る。
「俺はさっきまで魔鳥人と殺しあってた。あの後どうなったんだ?あのダメージで俺は死んだんだろうけど、その後の展開を教えてくれないか?」
サトリはすぐ様、体制を建て直したラルフに不満げな顔を送る。本人的にはもう少し遊びたかったと見える。
『そうですね…私と少しお話をしましょう。どうせ時間はたっぷりあります。ちゃんとその後の事についてもお話をさせていただきますから…』
時間はたっぷりある。この発言はつまりラルフは死んだという事だ。死後の世界では、時間の概念など無いと聞く。つまりそういうことだろう。
ラルフは足を組み替えて生前行っていた楽な体制でサトリと向かい合う。
「いいぜ、じゃあ何の話をしたいんだ?」
サトリも視線を会わせるため、正座する。見れば見るほどキレイな女だ。
(おっと、いけないな。相手は”覚り”。欲を抑えなければ…ってこの考えも読めるのか…)
『ええ、読めております。別にどうとでも思っていただいて結構ですよ?なんなら頭の中で私を題材に妄想に耽って頂いても一向に構いませんので…』
サトリはラルフから目をそらさず淡々と口にする。一瞬サトリを題材にしたエロい事が目に浮かぶが、
「オッホン!…えっと、心とか読まれるのは正直嫌なので、そういうのを止めにしてもらうとかってのは出来る?」
サトリは微笑んで、
『申し訳ないのですが、貴方様に付けていただいたこの名前の通り、私にこれを遮断するのは生物でいう息をするなと同じレベルなので、出来ない相談ですね』
死活というより、日常的に存在してしまう仕方ない事象ということだろう。ラルフは諦めることにした。
「あんたは女神とかそういう類いの存在なのか?」
『さぁ…どうでしょう』
「お話を…」というわりに、すぐ梯子を外す。単に時間稼ぎをしているだけだ、時間という概念のない世界で、時間稼ぎとはこれいかに…。
「…よし!分かった!あんたが話したい事を言ってくれ、俺が分かる事なら話を掘り下げられるし、一方的に喋りたいなら聞くぜ」
ラルフは「どうだ!」という顔でサトリに呼び掛ける。
『貴方様は私の名付け親ですよ?もっと私を”サトリ”と呼んでください』
なるほど、この娘の不満はせっかくの名前を呼ばれない事にあったようだ。こういうのは初めてで困惑するが、一応言っとく。
「…サトリ」
『はい、パパ』
「!? よせ!そういうのはやめろ!大体、俺が名付けた訳じゃないだろ!気に入って呼べって言ったのはサトリだぞ!」
ラルフは焦って否定する。
その様子が面白くて、サトリは笑う。
弄ばれている現状に文句を垂れたい所だが、それすら自制して、話を続ける。
「サトリ…ここはどこで何なんだ?」
『ここは謂わば”間”。貴方様の言う死後の世界ではなく、生と死の間です』
つまりは選別の場所なのだろう。
これから行く道が天国か地獄か、それを決定する場所だと推測する。
『ご安心下さい。結論から申し上げて、貴方様はまだ死んでおりません。これからの選択次第では保証はできませんが貴方様は生きています』
ラルフは自分の状況が、誤りだったと確認した。
まだ生きているのなら、何故ここにいるのか?
『何故?どうして?答えは簡単ですよ。私がせっかくの機会に呼び出したに過ぎません』
死にかけなければここにはいない。つまりそういうことだ。生死の境をさ迷うほどに、傷ついたからこそ呼ぶことが可能になった。それだけだ。
「…それを聞いてホッとしたぜ。じゃあ、改めて質問だが…どうして呼び出した?サトリの何の琴線に触れたって言うんだよ」
サトリは少し前に移動する。
ラルフとの間を詰めて、目を覗き込まれる。
『不思議な運命の糸が貴方様に収束している。何がそうさせているのか、気になってしまってお呼びしました。良ければ貴方様の運命の糸に私も加えて頂ければ幸いにございます』
サトリが何を言っているのか分からないがこれだけは言える。
「はぁ?」
ラルフは床に座っていた。
「……ここは、どこだ?」
見たことのない場所。何も見えないのに、広い事だけは分かる。そのはずなのに自分の体が光もないのにはっきり見える。
「これがあの世ってヤツなのか?」
誰もいない。色んなあの世の偶像が世界にはたくさんあったが、そのどれとも一致しない。
「おーい!誰かいないのかー?」
エコーがかった声が反響して、暗闇に吸い込まれる。これが死ぬということなら、誰も死にたくないだろう。
天国とやらは期待してなかったが、何かあるのではと、ふと思っていた。もし生き返られるなら、死後の世界など嘘っぱちだと言ってやりたい。
『その考えは、間違ってますよ』
その時、声が聞こえた。
「!?えっ?誰だ?」
キョロキョロするが、誰もいない。
「おい、ふざけんな。誰かいるなら顔を見せたらどうなんだ?」
『見せたらどうしますか?何を望むのですか?』
ラルフは声の主が何を言っているのか分からず疑問に思いながら、その真意を解こうとする。
「そうだな…俺と…お話ししないか?」
『お話?会話を望まれるならこのままでも良いのではないですか?』
言葉を発し、言葉を解して、言葉を返す。それが会話なら、現在のこの状況も会話になる。
「違う違う。俺が望むのは対話ね。姿を見せてくれ。これじゃその…独り言だぜ…」
ラルフは虚空に語りかける。自分とは全く違う声でも、それが現実か、妄想か、はたまた幻聴か、理解できぬからこそ対話を望む。自分が正気であると確認したいのだ。
『…理解致しました。確かに今のままでは独り言に違い無いでしょうね。しかし、対話とは、ね…今の状況を貴方様は果たして、理解されていますか?何故ここにいるのか、ここはどこなのか、自分は死んだのではないのか…とか聞くことは、色々ありますよね?』
くすくす笑いながら、分析されている。
(なんだこいつ…)
確かにラルフにとっても、聞きたい事はたくさんある。ここは理解に苦しむ世界であり、話しかけてくるこの声の主も、不気味で言いたいことがさっぱり理解できない。
「とにかく顔を見せろ。人と離したいなら目を見て話すもんだぜ?それが常識だ」
安心したいが為の詭弁だが、万が一の事も考えての行動だ。
もし筆舌に尽くしがたい驚異のモンスターであれば、逃げるし単なる人なら留まって話すだろう。最悪、魔族でもギリギリ会話くらい出来る。基本的に、命の危険がなければ話すのが道理。
『…ふむ、出来れば人がいいと?見えない何者かと話すのは不気味、と思われているのですね。興味深い』
思った事を口に出されて驚くラルフ。
「!…心が読めるのか?」
面倒な手合いだ。心が読めるなら隠す事も騙す事も不可能。いわゆる”覚り”という奴だ。
『それはいいですねぇ。今から私を”サトリ”とお呼びください』
その声が聞こえた時、目の前で光が収束する。
その光は眩しく、手をかざして視界から外す。
光は形を伴って人型に変貌する。
指の間からギリギリ見えたそれは光を調節して、明るすぎず暗すぎないくらいのラルフの体と同じ光量で女性の姿として顕現した。
髪の色は白く輝き、太股に到達する長さだが結うわけでもなく、毛先を自由に遊ばせている。のくせに乱れることもなく、ストレートに纏まり、清潔感すらある。
肌も白い。ベルフィアほど白くはないが、健康的な色とは言えない。可愛げのある顔立ちで、少し幼いが、頭身が高くモデル体型で、艶かしい。
薄い生地のキャミソールで裸同然だ。
一応、下着っぽいのが大事なとこを隠しているので、セーフ…なのだろう多分。肩に羽衣を纏う姿は女神を連想させる。
「随分と扇情的なのが出てきたな…」
『こういうのはお嫌いですか?』
空間に話していた時は不気味だったが、目の前の女性が話しているのを聞くと、途端にいい声に感じる。自分でも「現金な奴だな…」と思ってしまう。
「全然嫌いじゃないよ、むしろ好きだけどさ…サトリだっけ?そんな格好じゃ男としての俺を保てそうに無いんだけど…」
サトリは手を口許に持っていき、くすくす笑ってラルフを挑発する。ムラっと来てしまうが(我慢我慢…)とラルフは自分を自制し、サトリを見る。
「俺はさっきまで魔鳥人と殺しあってた。あの後どうなったんだ?あのダメージで俺は死んだんだろうけど、その後の展開を教えてくれないか?」
サトリはすぐ様、体制を建て直したラルフに不満げな顔を送る。本人的にはもう少し遊びたかったと見える。
『そうですね…私と少しお話をしましょう。どうせ時間はたっぷりあります。ちゃんとその後の事についてもお話をさせていただきますから…』
時間はたっぷりある。この発言はつまりラルフは死んだという事だ。死後の世界では、時間の概念など無いと聞く。つまりそういうことだろう。
ラルフは足を組み替えて生前行っていた楽な体制でサトリと向かい合う。
「いいぜ、じゃあ何の話をしたいんだ?」
サトリも視線を会わせるため、正座する。見れば見るほどキレイな女だ。
(おっと、いけないな。相手は”覚り”。欲を抑えなければ…ってこの考えも読めるのか…)
『ええ、読めております。別にどうとでも思っていただいて結構ですよ?なんなら頭の中で私を題材に妄想に耽って頂いても一向に構いませんので…』
サトリはラルフから目をそらさず淡々と口にする。一瞬サトリを題材にしたエロい事が目に浮かぶが、
「オッホン!…えっと、心とか読まれるのは正直嫌なので、そういうのを止めにしてもらうとかってのは出来る?」
サトリは微笑んで、
『申し訳ないのですが、貴方様に付けていただいたこの名前の通り、私にこれを遮断するのは生物でいう息をするなと同じレベルなので、出来ない相談ですね』
死活というより、日常的に存在してしまう仕方ない事象ということだろう。ラルフは諦めることにした。
「あんたは女神とかそういう類いの存在なのか?」
『さぁ…どうでしょう』
「お話を…」というわりに、すぐ梯子を外す。単に時間稼ぎをしているだけだ、時間という概念のない世界で、時間稼ぎとはこれいかに…。
「…よし!分かった!あんたが話したい事を言ってくれ、俺が分かる事なら話を掘り下げられるし、一方的に喋りたいなら聞くぜ」
ラルフは「どうだ!」という顔でサトリに呼び掛ける。
『貴方様は私の名付け親ですよ?もっと私を”サトリ”と呼んでください』
なるほど、この娘の不満はせっかくの名前を呼ばれない事にあったようだ。こういうのは初めてで困惑するが、一応言っとく。
「…サトリ」
『はい、パパ』
「!? よせ!そういうのはやめろ!大体、俺が名付けた訳じゃないだろ!気に入って呼べって言ったのはサトリだぞ!」
ラルフは焦って否定する。
その様子が面白くて、サトリは笑う。
弄ばれている現状に文句を垂れたい所だが、それすら自制して、話を続ける。
「サトリ…ここはどこで何なんだ?」
『ここは謂わば”間”。貴方様の言う死後の世界ではなく、生と死の間です』
つまりは選別の場所なのだろう。
これから行く道が天国か地獄か、それを決定する場所だと推測する。
『ご安心下さい。結論から申し上げて、貴方様はまだ死んでおりません。これからの選択次第では保証はできませんが貴方様は生きています』
ラルフは自分の状況が、誤りだったと確認した。
まだ生きているのなら、何故ここにいるのか?
『何故?どうして?答えは簡単ですよ。私がせっかくの機会に呼び出したに過ぎません』
死にかけなければここにはいない。つまりそういうことだ。生死の境をさ迷うほどに、傷ついたからこそ呼ぶことが可能になった。それだけだ。
「…それを聞いてホッとしたぜ。じゃあ、改めて質問だが…どうして呼び出した?サトリの何の琴線に触れたって言うんだよ」
サトリは少し前に移動する。
ラルフとの間を詰めて、目を覗き込まれる。
『不思議な運命の糸が貴方様に収束している。何がそうさせているのか、気になってしまってお呼びしました。良ければ貴方様の運命の糸に私も加えて頂ければ幸いにございます』
サトリが何を言っているのか分からないがこれだけは言える。
「はぁ?」
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