一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第二章 旅立ち

第二話 ルーザーズの一時

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眠れぬ夜が続いた。

それは暗闇の足音、それは恐怖、それは死。

善悪などない。ただ見えるのだ。
忍び寄る影はすぐそこにある。――

その日の夜、ラルフはうなされていた。
先程までなかなか寝付けず、うなだれていたのに、ようやく寝つけたと思った矢先、はっと起きる。

嫌な夢を見ていたようで寝汗をかいている。
何の夢かは忘れたが、とにかく嫌な夢だった。

一息つき、手に体重を預けようとベッドに寄りかかるその時、ベッドとは違うふくらみに右手を置いてしまった。

(おや?なんだこの柔らかいのは…)

揉める程度に大きく、張りがある。

「んぅぅ~…」

その唸り声にラルフはハッとする。
それが異性の胸であることは想像に難くない。

だが今日は別々のベッドで寝ていたはずだが、何故ここにそれがあり、どうしてそうなったのか。答えは簡単、最近添い寝した時、熟睡できたのが忘れられず、こっそりラルフのベッドに入ってきたのだ。

(あれ?でもミーシャってこんなでかかったっけ?)

傷ついたミーシャを不可抗力で脱がした時はこんなになかった気もするが、気のせいかなと揉み心地を堪能する。

あんまり反応しない。
ミーシャは不感症気味なのかと心配になっていると。

「おどれ何をしとル?」

冷たい吐息が首筋にかかり、ビクッとなる。
ベルフィアがラルフのそばで怒りの声を静かにつぶやく。ミーシャを起こさないようにする配慮だ。いきなりの接近に驚き、右手が少し強く胸を握る。

「んぁっ…」

ベルフィアに命を狙われるこんな時も冷静で、不感症ではなかった事実に安堵した。ミーシャが甘い吐息を出して、情欲をそそる。ラルフにその暇はないが。

ベルフィアは右手を振りかぶって、ラルフに叩きつける。ラルフの頭は見事に割れて、中から脳みそが零れ落ち…

「うわぁっ!!」

ガバッという音と共に夢から覚めるラルフ。
体からは汗が吹き出し。
先ほどの夢を再現していた。

「なぁにラルフゥ…夜中に大声出さないでよぉ…」

ミーシャも夢の中同様に勝手に添い寝していた。
ラルフの右腕を枕にかなり密着していたのか、いきなり起きたのに対し不満げにしている。

「…ミーシャ…なんでここにいるんだ?今日は別々で寝る約束だろ?」

「ケチ臭いこと言わずに…寝ようよぉ…」

ラルフはちらりとベルフィアを見る。
変わらず入り口前で仁王立ちしている。

吸血鬼というのは底なしの体力を有し、ずっと起きている。疲れないんだろうか…特に微動だにすることなく立っているので、諦めの気持ち込みで、ベッドに転びなおす。

襲わなければベルフィアも手は出せない。
夢の中で見た情報を頼りに内心ひやひやしながら一息つく。

ホテルの石鹸の臭いがラルフの鼻をくすぐる。
腕枕の感触を確かめるようにぐりぐりして位置調整をするミーシャの頭から匂いがする。

いい匂いのするミーシャの頭に鼻を近づけた時、

ギシッ
ベッドがきしむ音が鳴る。
ラルフの頭の左側が少し沈んだ。
「え?」っと思って目を開けると、ベルフィアが逆さまにのぞき込んでいた。しかも10cmくらいの距離で。ビクッとなって硬直する。

「殺されタくなくば、抱き枕に徹し、決して手を出すな」

ミーシャを起こさないよう静かに言うベルフィア。
その声は明らかな殺意をもって吐き出されていた。

「…はい…」

ラルフは抗うことなく、ベルフィアに従う。
だがそれで満足いかない彼女は、ラルフと朝までにらめっこしていた。

――――――――――――――――――――――――

「やってらんねぇ…」

早朝、ラルフは寝不足の目をこすり個人浴槽でうなだれていた。

ここは東の大陸に位置する、人間の安息の地アルパザ。その屈指の高級宿”綿雲の上”。
一昨日から借りているこの宿は金払いのいいラルフたちに素晴らしいサービスを提供してくれる。

待っていれば食事の出てくるこの場所に、ミーシャは自分の境遇を忘れ、堪能していた。

ゴロゴロしていても怒られず、公務もない。
一時ただの女の子になってはしゃいでいた。

「約束の日は明日か…もうだめだ。耐えられないぜ…」

ラルフはベルフィアの度重なる嫌がらせのせいで疲れのとれぬ日々を過ごしていた。ミーシャが絡まなければ普通に接してくれるのだが、ほぼ常に一緒にいる現状、普通など無くなる。

ラルフはふと思う。

(とっとと出て行った方がいいのではないだろうか?ミーシャも野心を失っていくし、このままでは駄目だろ…)

そうと思えば気合が入る。
冷水で体を洗って、気を引き締め、目を覚ます。

本当はホテルのスイートなんて泊まる事はできないので、時間いっぱい堪能したいところ…今回に限っては、黒曜騎士団団長からくすねた金で、豪遊しているからできるのだ。

だが気持ちと体、どちらも休まらないホテルに居座るくらいなら、泥の中の方がましと自分に言い聞かせすくっと立ち上がる。

ガチャッ

その完全に無防備な状態を狙ったように無造作に扉を開けられた。

目の前には寝ぼけたミーシャ。
ラルフのあられもない姿が晒されてしまった。

(トイレと間違えたのかな?)

ラルフはやれやれといった顔でミーシャを見る。
手は放物線を描いて股間に向かい、その手の動きに合わせて内股に太ももが閉じた。前かがみになり、股間が全部隠れた頃合いに声を出す。

「ミーシャ…まずはノックをしよう、な?」

「…うん…ごめん…」

消え入りそうな声でゆっくりとドアが閉まる。
心なしか顔が赤くなって、ある一点を凝視したまま閉じていった。
魔王という存在であるが故、性に寛容だったり慣れてたりするのかと思っていたが、そうでもないようだ。

見た目通りの少女のような振る舞いになんだか心温まるものを感じた。
あれが彼の”みなごろし”とは思えない。

ラルフは気を緩め、手を離した時、また扉が開く。ラルフはすぐさま対応し、またも手の中に包まれた。そこに立っていたのはバスタオルを所持したベルフィアだった。

「はヨう出ろ。魔王様に醜態をさらすな」

バスタオルを投げてラルフが掴む。
その目は冷ややかでラルフを軽蔑していた。

「その目はやめろ!俺は無実だ!」

ラルフは抗議するが「はんっ」と鼻で笑われ扉が閉まる。ただの人間であるラルフには抗議も抵抗も意味はない。悔しいが諦めるしかない。

すでにラルフはこの世界で人類からも魔族からも孤立し、命の保証がない荒野に放り出されたも同じなのだ。同じ境遇を持った最強の二人が今は生命線となる。ミーシャには好かれているが、ベルフィアはよく分からない。

待遇の打破など考える事すらおこがましい。

とにかく状況を変えるため旅支度を考えるのだった。

――――――――――――――――――――――――

ラルフは武器屋から出てため息をついた。

「さすがは安息の町…武器もろくにないとは…」

正確にはラルフに見合った武器が置いていない。
剣や斧、槍に至る長物は置いているが、ダガー系の短剣は需要があまりないため、安物しかない。魔獣用の装備ばかりが充実しているが、ラルフには意味がなかった。

それでも使い慣れた武器が必要だったので、安物でもダガーを仕入れた。

ベルフィアのおかげで資金に余裕の出来たラルフは、自分が欲しくても買えなかった高い武器が、買えることを思い、内心ウキウキしながら武器屋に入った。その為、落胆も大きく腰に下げた安物のダガーに、もの悲しさを覚えた。

「元気出してラルフ。次の町ならいいものが買えるよ!」

「…そう…だな。ありがとうミーシャ」

親戚のおじさんの買い物についてくる姪のようにニコニコ嬉しそうについてくるミーシャ。

次の町で買い物ができるかどうかも不安な現状ここで揃えたかったのが素直な気持ちだが、ミーシャに不安を感じさせたくなかった。

出会いはあれだけ警戒されていたのに、今は魔王とは思えないほど子供のように後ろに引っ付いて離れない。

(俺の買いモノばっかりで自分の買い物に来たわけじゃないのにな…)

と思った時、ふとミーシャのみすぼらしい服に目が行った。白のつぎはぎだらけのワンピース。
破れた個所を気を使って縫い付けたが、そのままでは格好が悪い。

歳はきっとミーシャの方が数段上だが、見た目に現れないため、これでは体裁が悪い。

「ミーシャ、服を買わないか?」

「ん?なんで?」

(なんでって…自分の格好が恥ずかしくはないのか?)

ラルフはミーシャの倫理観に疑問を持つ。
貴族の生活をしていただろうに、服に対する執着がない。

「それは俺が一時しのぎで縫っただけだからな。破れても大変だし、服を買いに行こう」

「そっか、そうだね。同じのあるかな…」

ミーシャはいわゆる好きな服を着まわすために何着も同じ服を持つタイプだろうか?それにしたってずっと寝巻みたいなスタイルはどうかと思う。

「よっしゃ!じゃあ俺が今後の旅の為に仕立ててやろう!」

「いいの?」

「とにかく服屋に行けばなんかあんだろ。ベルフィアをビックリさせようぜ!」

吸血鬼であるベルフィアを人ごみで歩かせるのは、災いの種だ。守衛のリーダーから吸血鬼の闊歩だけは許されなかった為、ホテルで待機してもらっている。

「格好いいのがあればいいな、いや可愛いのか?」

「どっちでもいいよ。ラルフに任せる」

ラルフとミーシャは楽し気に歩き出す。
これから来る壮絶な危険因子に気づかぬまま、今はただ一時の安息を楽しむのだった。
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