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第二章 旅立ち
プロローグ
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魔法と科学が奇跡的に融合を果たした世界
天上魔界「イイルクオン」
世界は大きく分けて二つの勢力が存在する。
”人類”と”魔族”
どちらかが最初というわけではない。
まるで示し合わせたかのように戦いが始まった。
何のことはない生存圏をかければ
自然と争いは起こるものだ。
世界は情勢を絶えず変え、時は加速する。――
雲が切り払われたような晴天の下。
山のように巨大な大樹がそびえたつ。
世界が生まれた時から育ち続けていると伝えられているこの大樹は”天樹”と名付けられ、この大樹の下に、森人族の住まう森が広がる。
「エルフェニア」と呼ばれるこの場所は、外界から隔離され、魔法により出入りを厳しく規制されている。
この地を外界で知るものは少なく、国の権力者や、裏社会の重鎮など、天上の連中が僅かに知るのみである。
そんな秘匿された地で会議が行われる。
人類の希望”白の騎士団”。
魔族に反旗を翻した種族の大連合。
その上に君臨する”王の集い”。人類側の頂点である。
”黒の円卓”になぞられた12の王の会議。
森人族、山小人、獣人族、人間、魚人族、翼人族、一角人、妖精種の全8種。
それぞれ名立たる王が加盟している。
もちろん他にも種族自体はいるが、それは加盟していない日和見主義である。表立って戦争はしないし、思想は人類側に傾倒しているが、基本的に中立というのが他種族のスタンスである。
”王の集い”は公にされておらず、”白の騎士団”を前面に押し出しその存在を秘匿してきた。万が一”白の騎士団”が壊滅の憂き目にあっても、無事で済むよう万全の対策で取り組んでいる。
”王の集い”は”白の騎士団”を率い、”黒の円卓”の掃討の為、人類の存亡と平和の為、日夜戦う。
本日は”王の集い”の通信会議を呼び掛けた日である。ほとんどの統治者が時間通り集まる中、一つだけ空席があった。
「皆の者、よくぞ集まってくれた。変わらぬ誓いを嬉しく思うぞ。さて…本日は初の欠席者が出たようだが…あれは誰だ?」
空席を冷ややかな目で見るのは、この集いの第一人者。森人族の最長老、”森王”レオ=アルティネス。
森人族の族長にして御年500歳を超える彼は、魔族に対して深い憎悪を持つ。
耳長族とも呼ばれる彼らはその名の通り耳が長い。森王は綺麗で透き通るような金髪をストレートに流し、肩口で切り揃えている。顔は初老の男性の様相を呈しているが、鼻筋が通って堀が深く彫像のように美しい。
森人族を並べたら、見た目で森王を判別することは難しいが、他の森人族と違い額に小さくカットされた緑色の宝石が眉間のちょっと上ぐらいに三つ埋め込まれている。
緑のケープを羽織り、自然をテーマに作られた衣装は一見、動きやすそうなデザインだが、その服は金の糸や銀の糸であしらった高級な服である。
魔法が付与された特別な衣装で、一着が国家予算レベルの服だと推測できる。
ほっそりとした肉好きの悪い体の為、脆弱に見えるが、体に内包した筋肉は強靭な力を見せる。
若い頃より今の方が強いともまことしやかに囁かれている。
『人間ですな。確か名前はマクマインでしたか?』
魔晶ホログラムによって映されたその顔はいかにもな魚顔で、魚人族の長である。
「マクマイン…か。最近、何十年ぶりに円卓の一柱を討滅したと、前回の報告で聞いたが…彼の者の功績ではなかったか?」
『ええ、その通りでございます森王。人間は寿命が短いわりによく戦ってくれるので、戦果も多いですなぁ』
その声には皮肉も交じっている。
魚人族は水中戦では無類の強さを誇るが、地上でははっきり言ってお荷物だ。
人間より幾分死ににくいと言う事も在って、地上戦に駆り出されたこともあるが、地上での戦闘に慣れていないので、戦果はあまりない。
それ故、戦争を代行してやっているという名目を立てて、海の幸を戦闘糧食としてこれでもかと要求してくる人間に対し内心辟易していた。
『いやいや、海王殿の援助失くして、この勝利はあり得ません。マクマイン公爵に代わりお礼を申し上げます』
海王と呼ばれた魚人族は向かい側で微笑む人間の王を一瞥し、嫌そうな顔をして居直る。
「そなたは聞いているのか?国王。彼の者の動向を…」
人間はその問いに首をかしげて答える。
『存じ上げませぬなぁ。公爵は秘密主義でして、そして面倒な事に突発的に動きますから…』
『…気ニ入ラネェナァ…』
森王と国王の間に割って入ってくる。
人間に傾倒した顔立ちだがその長の頭には獣の耳が生え、牙がちらつく。
魔獣人とは違う形で進化した獣人族である。
『ソモソモ人間ハ、海王ノ指摘通リ寿命ガ短イ。ソンナ奴ラガ、コノ”集イ”ニ参加シテイル事ガ、ドウカシテイル』
『ふむ?獣王殿、何が仰りたいのかいまいち掴めませぬが?』
獣王は国王を睨み付け、不機嫌に言い放つ。
『大概ニシロッテ言ッテンダヨ。森王ノ言ッタヨウニ初ノ欠席者ダ。手前ラ人間ハ頭ガ替ワリスギル。ソノセイデ、良クモ知ラン奴ガ失敗ヲ招クンダ。マクマイン ナドトイウ奴ナンゾ除名スレバイイ』
『早計に過ぎますな、獣王殿。そもそも一度の失敗で公爵の功績すら蔑ろになさるのですか?我らは寿命こそ短いですが、そちらは気が短いのでは?』
獣王は喉奥を鳴らし、威嚇する。
鋭い眼光は映像越しだというのに恐怖を感じさせる。だが国王は常に余裕の表情で見据えている。
「やめよ。両王とも矛を収めるのだ」
森王は争いになりそうな状況を見て即座に間に入る。
「国王、煽るのはよせ。獣王もだ。大体人間が代替わりをするたびに突っかかるのは間違いであることに気付くべきであろう。そうは思わぬか?”王の集い”は我ら全種族の存亡であるぞ」
獣王はバツが悪そうにそっぽを向く。国王は余裕な態度を崩さずその視線を森王に向ける。
本来、自分の種族以外を蔑視する傾向のある森人族が、他種族を尊重し、まとめ上げるなどあり得ない事だ。
しかし森王はそれを可能にした。魔族側によって植え付けられた憎悪の炎は今なお燃え続けている。
そして森人族が自ら同盟を発足したという、この行動に心打たれた長たちが盟約を結んだのも確かだ。獣王は歴史を重んじ、口をつぐんだ。
「…マクマインの失態については私から叱責をしよう。それでいいな、皆の者」
マクマインを除いた10の王たちの顔を見渡し、反論がないことを確かめた後、側に立っていた森人族《エルフ》の青年に目配せをする。その青年は魔晶ホログラムに似た魔道具を森王の前に静かに置いた。
森王が手をかざすと魔道具は起動し、内蔵された映像が映し出される。
”王の集い”で定番と化した会議の資料である。
紙媒体の資料を用意し、事前に配るのは時間がかかる上、空輸などでの配送は万が一落とした場合、機密漏洩につながる為、この魔道具を作成した。
映像による話し合いができるようになったのもここ最近で、利便性の有無も考え設計された。
一応、加盟国には一つずつ配られている。今回の資料は世界地図だ。
「さて、本題に移ろう。皆の者を召集したのは他でもない。”天樹の巫女”が世界の均衡の乱れを感じ取った。ここを見てほしい」
”天樹の巫女”とは天樹をアンテナ代わりに、世界を俯瞰から観測できる、森人族の誇る観測者である。
指さしたのは東の大陸。
ホログラムはその場所を、時空が歪んでいるように
ぼやけて映し出す。
『…これはどういう事ですかな?』
どこからともなく疑問が上がる。
「これは巫女が観測した情報を埋め込んだもので、波長の乱れを表している」
『波長…?』
「均衡とはすなわち水面の上のようなものだ。安定していれば凪のように静かなものだが、石を投じれば波紋が起こる。波長の乱れとはすなわち兆候と言う事だ」
ギシッと座りなおす音が聞こえる。
事態を想定したものが椅子に座りなおした音だ。
『大体想定できるのだが、あえて聞かせてくれ。兆候とは何の兆候の事なのだ?』
それでもまだ確実とは言えない王の一人は声を上げる。
『…災いだよ』
森王とは別の王が口をはさむ。
別に馬鹿にしたわけではない、思ったことを口にしただけだ。そしてそれは森王の代弁でもある。
「これほどまでに波長が乱れたのは私の人生においても初めての事だ。”古代種”の覚醒か、はたまた暴走か…いずれにしても何かが起こっている」
『巫女はそれを見られないのか?』
その昔、”千里眼”を生まれながらに保有する天性の巫女が存在した記録が残されているが、現在の巫女はそこまで融通が利かない。
「残念ながら分かるのは世界の均衡の乱れと、その兆候のみだ。今我らの種族が現地に向かっている」
森人族直々に赴くなど、聞いたことがない。
森王は今回の事をかなり重要視している。
『その場所は確か竜の住まう山がありますね。ということはアルパザが近いか…』
国王は記憶を頼りに近辺の情報を探り出す。
「人間の領地か…。これほどの乱れなら存亡の危機と言って差し支えないだろう。一応、調査団に確認に行かせよう」
『お気遣い痛み入ります』
国王は森王に頭を下げ、感謝する。
頭を下げるなど王のする事ではないが、森王はこの”集い”のいわば長。上位者に他ならないなら頭も下げる。
「とにかく何かが起きている。まだ何も把握できていない状況だが、早い情報は時に思わぬ事態を回避できる。分かり次第、随時報告を行うが、警戒は常に怠らぬよう心掛けてほしい」
この言葉を締めに会議は終了する。
森王は今までにない事態に内心焦りを感じつつ、マクマイン公爵を思う。波長の乱れと会議不参加。まるで示し合わせたようなタイミングだ。
(彼の者が何か関係している可能性も考慮すべきか…)
森王は天樹に目を向け、今後の事を考えるのだった。
天上魔界「イイルクオン」
世界は大きく分けて二つの勢力が存在する。
”人類”と”魔族”
どちらかが最初というわけではない。
まるで示し合わせたかのように戦いが始まった。
何のことはない生存圏をかければ
自然と争いは起こるものだ。
世界は情勢を絶えず変え、時は加速する。――
雲が切り払われたような晴天の下。
山のように巨大な大樹がそびえたつ。
世界が生まれた時から育ち続けていると伝えられているこの大樹は”天樹”と名付けられ、この大樹の下に、森人族の住まう森が広がる。
「エルフェニア」と呼ばれるこの場所は、外界から隔離され、魔法により出入りを厳しく規制されている。
この地を外界で知るものは少なく、国の権力者や、裏社会の重鎮など、天上の連中が僅かに知るのみである。
そんな秘匿された地で会議が行われる。
人類の希望”白の騎士団”。
魔族に反旗を翻した種族の大連合。
その上に君臨する”王の集い”。人類側の頂点である。
”黒の円卓”になぞられた12の王の会議。
森人族、山小人、獣人族、人間、魚人族、翼人族、一角人、妖精種の全8種。
それぞれ名立たる王が加盟している。
もちろん他にも種族自体はいるが、それは加盟していない日和見主義である。表立って戦争はしないし、思想は人類側に傾倒しているが、基本的に中立というのが他種族のスタンスである。
”王の集い”は公にされておらず、”白の騎士団”を前面に押し出しその存在を秘匿してきた。万が一”白の騎士団”が壊滅の憂き目にあっても、無事で済むよう万全の対策で取り組んでいる。
”王の集い”は”白の騎士団”を率い、”黒の円卓”の掃討の為、人類の存亡と平和の為、日夜戦う。
本日は”王の集い”の通信会議を呼び掛けた日である。ほとんどの統治者が時間通り集まる中、一つだけ空席があった。
「皆の者、よくぞ集まってくれた。変わらぬ誓いを嬉しく思うぞ。さて…本日は初の欠席者が出たようだが…あれは誰だ?」
空席を冷ややかな目で見るのは、この集いの第一人者。森人族の最長老、”森王”レオ=アルティネス。
森人族の族長にして御年500歳を超える彼は、魔族に対して深い憎悪を持つ。
耳長族とも呼ばれる彼らはその名の通り耳が長い。森王は綺麗で透き通るような金髪をストレートに流し、肩口で切り揃えている。顔は初老の男性の様相を呈しているが、鼻筋が通って堀が深く彫像のように美しい。
森人族を並べたら、見た目で森王を判別することは難しいが、他の森人族と違い額に小さくカットされた緑色の宝石が眉間のちょっと上ぐらいに三つ埋め込まれている。
緑のケープを羽織り、自然をテーマに作られた衣装は一見、動きやすそうなデザインだが、その服は金の糸や銀の糸であしらった高級な服である。
魔法が付与された特別な衣装で、一着が国家予算レベルの服だと推測できる。
ほっそりとした肉好きの悪い体の為、脆弱に見えるが、体に内包した筋肉は強靭な力を見せる。
若い頃より今の方が強いともまことしやかに囁かれている。
『人間ですな。確か名前はマクマインでしたか?』
魔晶ホログラムによって映されたその顔はいかにもな魚顔で、魚人族の長である。
「マクマイン…か。最近、何十年ぶりに円卓の一柱を討滅したと、前回の報告で聞いたが…彼の者の功績ではなかったか?」
『ええ、その通りでございます森王。人間は寿命が短いわりによく戦ってくれるので、戦果も多いですなぁ』
その声には皮肉も交じっている。
魚人族は水中戦では無類の強さを誇るが、地上でははっきり言ってお荷物だ。
人間より幾分死ににくいと言う事も在って、地上戦に駆り出されたこともあるが、地上での戦闘に慣れていないので、戦果はあまりない。
それ故、戦争を代行してやっているという名目を立てて、海の幸を戦闘糧食としてこれでもかと要求してくる人間に対し内心辟易していた。
『いやいや、海王殿の援助失くして、この勝利はあり得ません。マクマイン公爵に代わりお礼を申し上げます』
海王と呼ばれた魚人族は向かい側で微笑む人間の王を一瞥し、嫌そうな顔をして居直る。
「そなたは聞いているのか?国王。彼の者の動向を…」
人間はその問いに首をかしげて答える。
『存じ上げませぬなぁ。公爵は秘密主義でして、そして面倒な事に突発的に動きますから…』
『…気ニ入ラネェナァ…』
森王と国王の間に割って入ってくる。
人間に傾倒した顔立ちだがその長の頭には獣の耳が生え、牙がちらつく。
魔獣人とは違う形で進化した獣人族である。
『ソモソモ人間ハ、海王ノ指摘通リ寿命ガ短イ。ソンナ奴ラガ、コノ”集イ”ニ参加シテイル事ガ、ドウカシテイル』
『ふむ?獣王殿、何が仰りたいのかいまいち掴めませぬが?』
獣王は国王を睨み付け、不機嫌に言い放つ。
『大概ニシロッテ言ッテンダヨ。森王ノ言ッタヨウニ初ノ欠席者ダ。手前ラ人間ハ頭ガ替ワリスギル。ソノセイデ、良クモ知ラン奴ガ失敗ヲ招クンダ。マクマイン ナドトイウ奴ナンゾ除名スレバイイ』
『早計に過ぎますな、獣王殿。そもそも一度の失敗で公爵の功績すら蔑ろになさるのですか?我らは寿命こそ短いですが、そちらは気が短いのでは?』
獣王は喉奥を鳴らし、威嚇する。
鋭い眼光は映像越しだというのに恐怖を感じさせる。だが国王は常に余裕の表情で見据えている。
「やめよ。両王とも矛を収めるのだ」
森王は争いになりそうな状況を見て即座に間に入る。
「国王、煽るのはよせ。獣王もだ。大体人間が代替わりをするたびに突っかかるのは間違いであることに気付くべきであろう。そうは思わぬか?”王の集い”は我ら全種族の存亡であるぞ」
獣王はバツが悪そうにそっぽを向く。国王は余裕な態度を崩さずその視線を森王に向ける。
本来、自分の種族以外を蔑視する傾向のある森人族が、他種族を尊重し、まとめ上げるなどあり得ない事だ。
しかし森王はそれを可能にした。魔族側によって植え付けられた憎悪の炎は今なお燃え続けている。
そして森人族が自ら同盟を発足したという、この行動に心打たれた長たちが盟約を結んだのも確かだ。獣王は歴史を重んじ、口をつぐんだ。
「…マクマインの失態については私から叱責をしよう。それでいいな、皆の者」
マクマインを除いた10の王たちの顔を見渡し、反論がないことを確かめた後、側に立っていた森人族《エルフ》の青年に目配せをする。その青年は魔晶ホログラムに似た魔道具を森王の前に静かに置いた。
森王が手をかざすと魔道具は起動し、内蔵された映像が映し出される。
”王の集い”で定番と化した会議の資料である。
紙媒体の資料を用意し、事前に配るのは時間がかかる上、空輸などでの配送は万が一落とした場合、機密漏洩につながる為、この魔道具を作成した。
映像による話し合いができるようになったのもここ最近で、利便性の有無も考え設計された。
一応、加盟国には一つずつ配られている。今回の資料は世界地図だ。
「さて、本題に移ろう。皆の者を召集したのは他でもない。”天樹の巫女”が世界の均衡の乱れを感じ取った。ここを見てほしい」
”天樹の巫女”とは天樹をアンテナ代わりに、世界を俯瞰から観測できる、森人族の誇る観測者である。
指さしたのは東の大陸。
ホログラムはその場所を、時空が歪んでいるように
ぼやけて映し出す。
『…これはどういう事ですかな?』
どこからともなく疑問が上がる。
「これは巫女が観測した情報を埋め込んだもので、波長の乱れを表している」
『波長…?』
「均衡とはすなわち水面の上のようなものだ。安定していれば凪のように静かなものだが、石を投じれば波紋が起こる。波長の乱れとはすなわち兆候と言う事だ」
ギシッと座りなおす音が聞こえる。
事態を想定したものが椅子に座りなおした音だ。
『大体想定できるのだが、あえて聞かせてくれ。兆候とは何の兆候の事なのだ?』
それでもまだ確実とは言えない王の一人は声を上げる。
『…災いだよ』
森王とは別の王が口をはさむ。
別に馬鹿にしたわけではない、思ったことを口にしただけだ。そしてそれは森王の代弁でもある。
「これほどまでに波長が乱れたのは私の人生においても初めての事だ。”古代種”の覚醒か、はたまた暴走か…いずれにしても何かが起こっている」
『巫女はそれを見られないのか?』
その昔、”千里眼”を生まれながらに保有する天性の巫女が存在した記録が残されているが、現在の巫女はそこまで融通が利かない。
「残念ながら分かるのは世界の均衡の乱れと、その兆候のみだ。今我らの種族が現地に向かっている」
森人族直々に赴くなど、聞いたことがない。
森王は今回の事をかなり重要視している。
『その場所は確か竜の住まう山がありますね。ということはアルパザが近いか…』
国王は記憶を頼りに近辺の情報を探り出す。
「人間の領地か…。これほどの乱れなら存亡の危機と言って差し支えないだろう。一応、調査団に確認に行かせよう」
『お気遣い痛み入ります』
国王は森王に頭を下げ、感謝する。
頭を下げるなど王のする事ではないが、森王はこの”集い”のいわば長。上位者に他ならないなら頭も下げる。
「とにかく何かが起きている。まだ何も把握できていない状況だが、早い情報は時に思わぬ事態を回避できる。分かり次第、随時報告を行うが、警戒は常に怠らぬよう心掛けてほしい」
この言葉を締めに会議は終了する。
森王は今までにない事態に内心焦りを感じつつ、マクマイン公爵を思う。波長の乱れと会議不参加。まるで示し合わせたようなタイミングだ。
(彼の者が何か関係している可能性も考慮すべきか…)
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