魔王復活!

大好き丸

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第147話 ネタばらし

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マンションから出るとすぐに呼び止められた。

「おはよう!春田くん」

クラス委員長の虎田だ。真面目で頑張り屋。
遅刻は絶対しないし、体調不良などで休んだこともない。春田同様に皆勤賞を貰える生徒だ。

「おはよう虎田さん」

「あ、ポイ子さんもおはようございます」

「おはようございまーす。こだっちゃーん、私に敬語なんて使わなくて良いですよ?」

「いや、馴れ馴れしいな……」

突然の呼び方に訝しい目を向ける春田。
不快に思われたら面倒だと取り繕おうとするが、虎田は嬉しそうに笑顔を見せる。

「ふふっ、こだっちゃんですか?中学生の時は一部の友達からそんな風に呼ばれてましたよ。懐かしいな……」

「あ、そうなんですか?私はてっきり下の名前であだ名で呼ばれてると思ってましたよ」

「良く遊ぶ友達なら別ですけど、大抵上の名前を文字りますよね」

二人で楽しそうに会話している。
流石ポイ子だ。人見知りもしない自然な感じだ。
自分だとこうはいかないなと思いつつ登校する。

しばらく歩いていると後ろからタッタッタッ……と軽快に走る足音が聞こえてきた。
急いでいる人か、朝のランニングか。邪魔になってはいけないと振り返りながら道の端に寄るが、走ってきたのは良く知る人物だった。

「はよー……」

気だるそうな感じで速度を落とす。
軽快に走っていたとは思えないほどグダっとしている。

「おー、竹内じゃん。おはよ」

「竹内さんおはよー」

「おはよーございます!」

三人揃って挨拶をする。
春田と虎田は分かるとして、さも当然のようにいるポイ子には違和感しか感じない。

「……てか、ポイ子さんってうちの学校だったの……?」

「ですよー。え?私の事知らなかったんですか?!うぅ……悲しいです」

「え……」

「おいふざけんな。ポイ子はつい最近編入したんだよ。知らなくて当然だから気にすんなよ」

竹内にそう知らせると虎田も「あ、そうだったんだ」と今気付いた。

「ふふ、失礼しました。聖也様共々宜しくお願いします」

二人にペコリと一礼する。

「やめろよ仰々しいなぁ……」

春田は困り気味にポイ子を見る。

「……いや、こちらこそ。前世が魔王の同級生と一緒に登校しているなんて夢にも思わなかったよ」

竹内の一言で場が静まり返る。

「……ん?」

「……いや、ん?って白々しいな……隠さなくていいじゃん。魔王ヴァルタゼアでしょ?」

「なんでそれを……」

「え?あの場に竹内さん居なかったよね?なんで知ってるの?」

「は?虎田さんまで何を……」

「へ?何って?」

竹内の質問から大きく流れが変わる。
春田はポイ子の手を引っ張って少し離れてコショコショ話す。

「これは驚きましたね。まさかマレフィア様の魔法が切れても記憶が残るとは……」

「いや、待て。そんなはず無いだろ?だって記憶はすっかり消えたはずだ。現に俺の体は……」

確かに自分の体は元の春田聖也に戻っている。だが、何故だか二人の記憶には魔王ヴァルタゼアが残っている。これは一体どういうことなのか。

「だってマレフィア様の魔法は全人類に向けて使用されたんですよ?一人や二人の知名度では大した事ないでしょうから」

つまり魔王の力を呼び戻すにはざっと七十億人以上が必要。そう思えば元の体に戻ったのも頷ける。

「……そこ納得できても何で記憶が消えてないのかの理由には……」

「ちょっと……何そこでごちゃごちゃやってんの?早く学校行こうよ……」

竹内は春田達のすぐ側に立って催促する。答えの出ない二人は顔を見合わせて、諦めたように肩を竦めた。
四人はしばらく黙って登校していたが、ふいに春田から声をかける。

「……今日って一限目なんだっけ?」

「えっと、数学?」

「げっ……よりにもよって黒峰先生か、朝から緊張感半端ないな……」

項垂れながら苦言を呈す。

「……は?あんま関係ないっしょ?……そんなことより、あんたの前世の事が知りたいんだけど……」

普通の会話で逸らそうとしていた、どうしても避けたい会話を竹内は逃がすまいとねじ込んでくる。

「……いや、ほら……人には言いたい事と言いたくない事があんの。前世の事なんて嬉々として話したりしたら、それこそ頭がおかしい奴じゃねぇか……」

子供の頃にやらかした悲劇を思い出しながら自分を皮肉る。

「……何気にしてんの?聞いてない内から嬉々として~ならともかく、話すなら今こそその時でしょ?」

正論である。確かに質問されてないなら別だが、ガッツリ質問されている。それに竹内も虎田も、春田が前世は異世界の魔王だった事まで知っているのだ。今更隠す事など出来ない。それを察したのかポイ子が答えた。

「聖也様の元のお名前は”ヴァルタゼア”と言います。それはそれはお強い魔王様でございました」

ポイ子は物語を言い聞かせるように語り始めた。

「魔王といえば世界征服を目論む最悪の存在を想像するかと思います。魔王様も例に漏れず世界征服を目論んでいましたが、正義の為に動いていました」

「正義?」

虎田が質問する。

「その通りです。私たちモンスター側の繁栄と謳歌には、人類の存在は邪魔でしたから。もちろん共に歩もうとする人間がいれば話は別ですがね」

「……なるほど……戦争は正義と悪の戦いではなく、正義 対 別の正義の戦いってわけか……」

訳知り顔で竹内が頷いた。
四人は例の小高い丘の前を通る。その一瞬は黙って丘を眺めながら通り過ぎた。

「前世という言葉で理解していると思いますが、魔王様は勇者によって倒されました。私が魔王様の最後を看取った唯一の部下になります」

王道の物語にありがちなものだ。人間の最強である勇者とモンスター最強である魔王の戦い。最終的には勇者が勝ってハッピーエンド。モンスター側にはバッドエンドだが、聴く前から大体把握出来ていた事だ。

「やはりそうでしたか。春田君はともかくとして、ポイ子さんは名前から違和感があったんです」

「……こいつには種族名しか無かったからな。俺が名付けた」

春田が名前に関して触れる。

「……ポイ子さんはモンスター?」

種族名と聞いたらそうなるだろうが、ちょっと明け透けに聞き過ぎではないだろうか?

「はい、その通りです」

しかし何も隠す事がないポイ子はすぐさま肯定した。春田は手を出して制止しかけるが、その手を下ろす。

「どんな種族なんでしょうか?」

ポイ子はピタッと立ち止まると、両手をかざした。右手は何も変わらないが、左手はドロリと形状崩壊する。
ポイズンスライム。この世界に来る前から人類に危険視され、最後の一体となるまで滅ぼされた絶滅危惧種。元の世界では脆弱でも、この世界では触れるだけで危険な存在だ。
だがそれ以上にこの世界の法則を無視した存在に、竹内と虎田は一瞬自分の正気を疑った。竹内は何とか持ちこたえたが、虎田はフッと気を失った。その体を春田が抱きとめる。

「あーあ……たく、こうなると思ったんだよ……」

「……す、凄い。こんな事が本当にあるなんて……」

竹内は感動に身を震わせた。仕方なく春田が抱えて学校まで運ぶ事になった。
結局、虎田が目を覚ましたのは一限目の最中、学校の保健室でだった。
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