魔王復活!

大好き丸

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第136話 帰宅

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「ただいまー」

ガチャリとドアを開けると子犬が駆け出して来た。

「ワンワンッ!」「キャンキャンッ!」

まだまだ小さく喉も未成熟な子犬たちは甲高い鳴き声で帰ってきた春田たちを出迎える。

「ちょっ!?おいマジか!!」

春田は慌てて子犬たちを抱える。遊んでくれると思った子犬たちは尻尾を千切れんばかりに振りながら春田の手に甘噛みする。それを見てヤシャが一匹取り上げる。

「おーよしよし。ははっ可愛いな」

「ワン!」

元気良く鳴く子犬に春田は青ざめる。

「何で今日は元気一杯なんだよ……昨日はあんなに大人しかったのに……」

「何か問題でも?」

ポイ子は首をかしげる。

「そりゃお前、朝っぱらからこんなに吠えられると隣近所に何言われっか分かんないし……」

この部屋はペットに関しては応相談となっており、オーナーの了承なしに飼ってはいけないことになっている。既にマレフィアの魔法で"了承済み"に認識を改変しているので全く問題ないが、春田は目立つ事を極端に嫌う。

春田の借りているこの部屋はポイ子が来るまでは友達も親族も中に入れたことのない静かな空間だった。それこそ本当に住んでいるのかも怪しいレベルで静かに部屋で過ごしたことは一度や二度ではない。隣近所から注目されたり怒鳴り込まれないよう細心の注意を払ってきたが、それも限界らしい。

部下たちはまだ理性が働いて静かにするが、この小さき獣に理性などない。好きな時に吠えて、好きな時に遊んで、好きな時に寝る。こっちの気持ちも考えないでイイ気なものだ。

「お帰りなさい」

パタパタといの一番にやって来たのはニーナだった。スリッパも使ってこの部屋に溶け込んでいる。

「おう、後の二人は?」

「まだ寝てるわ。アーちゃんは遅くまで起きてたし、マレフィアさんは中々起きないのよねー」

やれやれといった困った顔を見せる。本当にお母さんになったんだなぁとしみじみ感じる。

「そんなことよりもう朝ごはんは食べたの?あり物で作ってみたんだけどどうかしら?」

「……図に乗るなよヒューマン……」

ナルルは背後で怒りを露にしている。家で待つ妻の様な雰囲気に嫉妬しているようだが、我慢できずにやって来たのはナルルだし諦めるしかない。二兎追うものは一兎も得ずということだろう。

「ああ、飯なら食ってきたから大丈夫だ。たくさん作ったならそれを昼飯にしてもいいな。取り敢えず中で休ませてくれ」

そう言って子犬を連れて4人は部屋に入る。リビングに足を投げ出してまったりしているとマレフィアが帰ったのを聞きつけたのかのっそり起きだしてきた。

「おあよ~……」

呂律が回っていない。起きたばかりでうつらうつらしながらダイニングテーブルの椅子に座る。そこに子犬が走っていき足元をくるくると回っている。

「おはよー、昨日は悪かったな色々頼んじまってよ」

「気にしないで~……」

机に突っ伏しながら片手を上げる。ニーナはあり物で作ったポトフを皿によそってマレフィアの目の前に置く。

「朝ごはんにどうぞ」

「……あ~い」

手にスプーンを握らせると顔を挙げてゆっくりと食べ始める。

「そういえば昨日の晩飯はどうした?」

「あ、それもテキトーにしといたよー。もう材料も残り少ないから買い足しといてねー」

そう言われてふと大量にお金が入ったことを思い出した。

「今月の生活費も人が増えたせいで厳しいと思ってたんだよ。このタイミングで稼げたのは運が良かったぜ。ポイ子、ケースを出してくれ」

「はい」

お腹の辺りからズルッとケースを一つ取り出した。大きなジュラルミンケースを開けるとズラッと並んだ一万円札が見える。この札束が全部自分たちのものだと考えると夢のようだ。
四天王は全員この世界の貨幣価値はマレフィアの魔法によって叩き込まれているので、これがどれほど凄いのかしっかり理解できている。しかしこの世界に特に欲しいものなどがない4人には宝の持ち腐れというもの。春田は100万円の束を手に取り、帯を取らずに数枚抜き取る。残りをケースに戻すとポイ子にケースを渡す。意図を理解したポイ子はケースの閉まりを確認するとお腹に入れた。

「……あんなにあるのに3、4枚くらいしか出してなかったけどそれで足りるの?」

「必要枚数だけ出せばいいよ。また何かあれば取り出したら良いしな」

「……まぁ欲のないこと……」

ニーナはにこりと笑って春田の部屋に歩いて行った。アリシアを起こしに行ったのだろう。それを見送った春田はリビングの絨毯に寝転がる。向こうでは何かと気を揉んだが、自分の家に帰ればそこまで気を使うこともない。ポイ子とナルルとヤシャが座っている以上スペースは限られるものの、少しくらい体に当たっても文句は言われない。一応気が知れた仲だから。

「やっぱここが一番落ち着くな……」

「ですね~」

ポイ子はしみじみといった風に返答する。

「ポイ子もそう思うのか?」

「はい、そう思います。住んでた城は一部屋一部屋が大きすぎて何か落ち着かなかったんですよ。ここはそこまで大きくないって言うか丁度良いサイズ感ですよね」

ポイ子には丁度良かった。ただヤシャやナルルには狭いものだろうと思う。マレフィアは資料を所狭しと置いていたので狭いのには慣れっこだろうが、知識を深めることが出来ない状況に不満を感じたりしていないかと思うところはある。

「聖也。そんな所で転ばず、わらわの膝で寝ると良い」

太ももをポンポン叩いてアピールする。子犬と戯れていたヤシャはこれにキッと睨みつける。

「むっ!私の膝は暖かくて高枕だ。私の方が良いだろう?」

パンッと膝を叩く。敵対的な視線を交わしあってバチバチやっている。

ヤシャは自信ありげだが、筋肉の圧が強すぎてこの二人を並べたら春田的にはナルルに軍配が上がる。そんな事を言ったら争いが激化するのは目に見えているので、何も言わずに猫のように丸まった。

二人はその様子を見て不毛な争いだと悟るとプイッとそっぽを向いた。
何だか日常が戻ってきたような空気に自然と笑みが溢れる。願わくば今日という休日をゆっくりと過ごしたい。

しかし、この世界は春田を許してはくれないーー。
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