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第129話 理解
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春田の頭にその言葉が浸透するまでそこまで時間がかからなかった。
(今度は何を画策しているのか……)
正式に付き合うとはつまり恋人になろうと言う事で、友達になろうなどとはレベルがまるで違う。第一友達になって日が浅く、いつそんな気持ちが芽生えたのか謎だった。
冗談でからかっているのか、ヤシャの強さを見て使えると判断されたかのどちらかだろう。前者だと単純に気が悪いし、後者は利用目的だろうから結局気が悪い。
好意を持って接してくれるなら嬉しいが、そんなわけないだろう。人を信じきれないのは悲しいことだがしょうがない。現実は辛く厳しい。
「……冗談っすよね?」
「何故この場で冗談を言う必要があるのでしょうか。わたくしは本気です」
何を考えているのか分からない澄んだ瞳で真っ直ぐ見つめられると裏などないと思いたくなる。いつまでも固まって悶々と悪いことを並べて考えても憶測でしかない。ならば直接聞くのが正しい。一拍置いて質問をする。
「……あの、理由を聞いてもいいですか?」
「理由なんてわたくしが春田さんをお慕いしていること以上の理由が必要でしょうか?」
まあ、そう言うだろうと予想はしていた。滝澤 詩織の何の試験に合格したかは定かではないが不気味という他ない。せめて真意を聞くまでは何とか断る方向で話が進まないかと模索する。
「いやぁ……あ、俺達って知り合って日が浅くないっすか?」
「?……関係あるんですか?」
「えっ!?」
目が泳ぐ。どう言ったもんか滅茶苦茶考える。なんせヤシャの就職先だ。もう既に優勝賞金として億を稼いでいる事になる。こんなおいしい所を逃す事は出来ない。雇い主を傷つけないように気を使う必要はある。
「……そ、そりゃもう!相手のこと知らずに付き合って嫌なとこが見えたらソッコー別れるとかあると思うんすよね。そういうのってヤじゃないっすか?」
じーっと春田の目を見つめていた滝澤の目がフッと下に落ちる。
「わたくしでは不服と言う事でしょうか……?」
不服?あるはずがない。容姿端麗で大金持ち。同世代の女子など霞んで見えるほど最高の女性だ。春田はその悲しい声と俯いた影のある顔に焦って目の前で両手を左右に振った。
「いえいえいえ!不服なんてそんな!あるわけがない!」
自分でも(何やってんだ!)と思いたくなるほどの焦りっぷりに落ち着くように自分で自分を叱咤する。一度大きく息を吸って気持ちを落ち着ける。
「……だから、その……俺が言いたいのは俺は単なる庶民ですってことで……俺じゃ天地がひっくり返ってもあなたと釣り合う事は無いでしょう?だから……」
言ってて自分が惨めになってくる。相手は殿上人と呼べるほど日本でも有数のお嬢様。この高級そうなドレスも肌のきめ細やかさも美しく洗練された所作もすべてが本物。なぜあんな普通の学校に通わせているのかが全く分からない。そしてそのお嬢様に何故気に入られているのかも。
「ふふっ……困らせてしまいましたね」
俯いていた顔を上げて真っ直ぐ春田を見つめる。
「わたくし恋愛というものをした事がなかったのですが、春田さんに凄く惹かれて……会う度にあなたの存在が大きくなっていくんです。お恥ずかしながら学校にいる時も家にいる時も、いついかなる時もあなたが常にわたくしの心にいるんです。何故かどこに居るのか把握できるくらい……」
(まじか……)もうここまで気配が侵食しているのかと頭を抱えたくなった。
つまり整理するとこういう事だ。
初めて会った時にはただの阿保程度に感じていた並以下の男が、異世界の旅行者が増える度に気配が色濃くなっていく。いつの間にか植えられたヤドリギの種が気付いた時には取り返しのつかないくらい大きく成長していたような感じだ。
それは気のせいでも気の迷いでもない。事実そうなっているから始末が悪い。しかし理解した。知り合ってしまったことがそもそもの間違いだったことに。
(……いや、まぁマレフィアもいるし、何かあれば記憶を消去すればどうってことはないか……)
恋愛に関しては滝澤の勘違いだ。好きと言うより部下と同じく勝手に認識してしまうということだろう。気配を辿った先には必ず春田がいる。もしや自分はこの人のことが好きなのでは?と思い込んでしまった。恋愛をしたことがないというのがネックになっているのは明らか。
だが納得した。これは気を付ける必要がある。ある程度見知った人になら別段構わないが、敵と呼べる輩に情報を与えたら記憶消去がない限り永遠に狙われかねない。
そして誰がどの程度まで知っているのか分からない以上、今後は下手に動くことはできない。目立たないようにを心掛けていたのは間違いではなかった。
「あ……えーっと……あの……」
それはそれとして、だとするならどうしたらいいのか?その感情は間違いですって?勘違いですって言えるはずもない。気配が日増しに大きくなっていくなどどう説明したらいいのか。いいや説明などできない。
「……わたくしは何か間違っているのでしょうか?」
「いえいえいいえ!間違ってませんよ!……お、俺も恋愛なんてしたことなくてどう言ったらいいのか……その分からなくて……」
困り果てて目を外す。俯いて紅茶を見つめる。それを見て滝澤はクスッと笑う。
「……知り合って日が浅い、ですか。そうかもしれませんね。わたくしが焦り過ぎたと言って過言ではないでしょう。……でも覚えていて下さい。わたくしはあなたが……あなたのことが好きだという事を……」
春田の肩に頭を乗せてそっと寄り添う。その滝澤の行動に春田はふと考える。いつか話せる日が来た時、慕ってくれている人たちは変わらず自分のことを慕ってくれるのか?これからのことが不安になりつつ身を預ける滝澤のことを思う。
(今度は何を画策しているのか……)
正式に付き合うとはつまり恋人になろうと言う事で、友達になろうなどとはレベルがまるで違う。第一友達になって日が浅く、いつそんな気持ちが芽生えたのか謎だった。
冗談でからかっているのか、ヤシャの強さを見て使えると判断されたかのどちらかだろう。前者だと単純に気が悪いし、後者は利用目的だろうから結局気が悪い。
好意を持って接してくれるなら嬉しいが、そんなわけないだろう。人を信じきれないのは悲しいことだがしょうがない。現実は辛く厳しい。
「……冗談っすよね?」
「何故この場で冗談を言う必要があるのでしょうか。わたくしは本気です」
何を考えているのか分からない澄んだ瞳で真っ直ぐ見つめられると裏などないと思いたくなる。いつまでも固まって悶々と悪いことを並べて考えても憶測でしかない。ならば直接聞くのが正しい。一拍置いて質問をする。
「……あの、理由を聞いてもいいですか?」
「理由なんてわたくしが春田さんをお慕いしていること以上の理由が必要でしょうか?」
まあ、そう言うだろうと予想はしていた。滝澤 詩織の何の試験に合格したかは定かではないが不気味という他ない。せめて真意を聞くまでは何とか断る方向で話が進まないかと模索する。
「いやぁ……あ、俺達って知り合って日が浅くないっすか?」
「?……関係あるんですか?」
「えっ!?」
目が泳ぐ。どう言ったもんか滅茶苦茶考える。なんせヤシャの就職先だ。もう既に優勝賞金として億を稼いでいる事になる。こんなおいしい所を逃す事は出来ない。雇い主を傷つけないように気を使う必要はある。
「……そ、そりゃもう!相手のこと知らずに付き合って嫌なとこが見えたらソッコー別れるとかあると思うんすよね。そういうのってヤじゃないっすか?」
じーっと春田の目を見つめていた滝澤の目がフッと下に落ちる。
「わたくしでは不服と言う事でしょうか……?」
不服?あるはずがない。容姿端麗で大金持ち。同世代の女子など霞んで見えるほど最高の女性だ。春田はその悲しい声と俯いた影のある顔に焦って目の前で両手を左右に振った。
「いえいえいえ!不服なんてそんな!あるわけがない!」
自分でも(何やってんだ!)と思いたくなるほどの焦りっぷりに落ち着くように自分で自分を叱咤する。一度大きく息を吸って気持ちを落ち着ける。
「……だから、その……俺が言いたいのは俺は単なる庶民ですってことで……俺じゃ天地がひっくり返ってもあなたと釣り合う事は無いでしょう?だから……」
言ってて自分が惨めになってくる。相手は殿上人と呼べるほど日本でも有数のお嬢様。この高級そうなドレスも肌のきめ細やかさも美しく洗練された所作もすべてが本物。なぜあんな普通の学校に通わせているのかが全く分からない。そしてそのお嬢様に何故気に入られているのかも。
「ふふっ……困らせてしまいましたね」
俯いていた顔を上げて真っ直ぐ春田を見つめる。
「わたくし恋愛というものをした事がなかったのですが、春田さんに凄く惹かれて……会う度にあなたの存在が大きくなっていくんです。お恥ずかしながら学校にいる時も家にいる時も、いついかなる時もあなたが常にわたくしの心にいるんです。何故かどこに居るのか把握できるくらい……」
(まじか……)もうここまで気配が侵食しているのかと頭を抱えたくなった。
つまり整理するとこういう事だ。
初めて会った時にはただの阿保程度に感じていた並以下の男が、異世界の旅行者が増える度に気配が色濃くなっていく。いつの間にか植えられたヤドリギの種が気付いた時には取り返しのつかないくらい大きく成長していたような感じだ。
それは気のせいでも気の迷いでもない。事実そうなっているから始末が悪い。しかし理解した。知り合ってしまったことがそもそもの間違いだったことに。
(……いや、まぁマレフィアもいるし、何かあれば記憶を消去すればどうってことはないか……)
恋愛に関しては滝澤の勘違いだ。好きと言うより部下と同じく勝手に認識してしまうということだろう。気配を辿った先には必ず春田がいる。もしや自分はこの人のことが好きなのでは?と思い込んでしまった。恋愛をしたことがないというのがネックになっているのは明らか。
だが納得した。これは気を付ける必要がある。ある程度見知った人になら別段構わないが、敵と呼べる輩に情報を与えたら記憶消去がない限り永遠に狙われかねない。
そして誰がどの程度まで知っているのか分からない以上、今後は下手に動くことはできない。目立たないようにを心掛けていたのは間違いではなかった。
「あ……えーっと……あの……」
それはそれとして、だとするならどうしたらいいのか?その感情は間違いですって?勘違いですって言えるはずもない。気配が日増しに大きくなっていくなどどう説明したらいいのか。いいや説明などできない。
「……わたくしは何か間違っているのでしょうか?」
「いえいえいいえ!間違ってませんよ!……お、俺も恋愛なんてしたことなくてどう言ったらいいのか……その分からなくて……」
困り果てて目を外す。俯いて紅茶を見つめる。それを見て滝澤はクスッと笑う。
「……知り合って日が浅い、ですか。そうかもしれませんね。わたくしが焦り過ぎたと言って過言ではないでしょう。……でも覚えていて下さい。わたくしはあなたが……あなたのことが好きだという事を……」
春田の肩に頭を乗せてそっと寄り添う。その滝澤の行動に春田はふと考える。いつか話せる日が来た時、慕ってくれている人たちは変わらず自分のことを慕ってくれるのか?これからのことが不安になりつつ身を預ける滝澤のことを思う。
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