魔王復活!

大好き丸

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第112話 やっと……

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虎田を送り届けた春田たちはそのまま今度は竹内と木島姉妹を送るため元の道に戻る。

そこから24時間営業のスーパー”ハピネス”を抜けた少し先に木島姉妹の自宅が現れる。

「ここがそうか」

「そうだよ~」

帰ってきたことに安心と喜びを感じ、駆け足になる加古。

「コラ加古、はしゃがないの。けるよ?」

木島も後ろからついていく。家には灯りが漏れていて、両親のどちらかがいることが窺える。加古は門扉を開けると「早くー」とお姉ちゃんを急かす。フーッとため息を吐くと春田の脇を抜けて家に向かう。途中「あっ」という声を上げて振り向いた。

「春田。あんたの連絡先もらって良い?」

木島はぶっきらぼうに言い放つ。

「は?良いけど。もっと前に行ってくれりゃ……」

と携帯を取り出すためポケットをごそごそする。

「馬鹿、出さなくて良いよ。加古からもらう」

「え?」疑問符を頭に浮かべて竹内を見る。「……出来るよ」と一言。春田はまた感心してふんふん頷いた。

「あ、じゃあそうしてくれ」

その頷きを見届けるとフンッと鼻を鳴らし、加古のいる門扉に歩く。加古の手を取ると、もう振り向くことなく玄関に行った。引っ張られていく加古はしきりに春田を見て手を振った。手を振り返すと、嬉しくなって玄関が閉まるまで延々手を振り返した。バタンッという音と共に残るは竹内だけとなった。

「よし、ラスト」と竹内に振り向く。

「……その感じ……ノルマこなしてるみたいでヤなんだけど?」

「あ、悪い。そんなつもりはないぜ?」

春田はハハッと軽く笑って先に行こうとする。竹内は少し止まって春田を見ていたが、ポイ子に肩を軽く叩かれる。

「行きましょう」

竹内は小走りで春田に近寄ると横に並んで歩き始めた。ナルルはすぐ後ろで片眉を上げてほんのり不快感を露にしたが、竹内は気付かない。ポイ子はナルルと並行し、「まぁまぁ」と抑えに入った。

春田と竹内。二人はしばらく無言で歩いていたが、ふと竹内がポツリと呟いた。

「……どうやったの?」

声こそ小さかったが周りがしんっと静まり返っていたのでわりかしよく聞こえた。

「どうって?」

竹内は言葉が足らない。主語がないのは当たり前なので、話を会わせるのが大変だ。

「……まず、どうやって見つけたの?」

あの暴行犯たちの事を指しているらしい。春田は頭を捻る。まさかマレフィアに見つけてもらったとは言えない。「魔法」の概念など説明し始めたら、それこそ変人コースからの学生生活崩壊。1年間の努力も水泡に帰す。

(いや?既に崩壊しつつあるのでは……?)

「……聞いてる?」

「き、聞いてる聞いてる!え~っと……」

そう聞かれても困るというか、(ん?いや待てよ。俺は犯人たちに関して一切言及していない。しらばっくれても問題ないのではないだろうか?)ふとそんなことを思いつつ自分が発言していない事に気付く。ワタワタしながら口を開くが、否定か肯定か判断しかねる。見かねたナルルが代わりに声を上げた。

「魔法じゃよ」

「え?お、おい……!」

言い切るナルルに困惑する春田。

「魔法……」

竹内が訝しい顔をしたところで春田が声を張り上げた。

「ま、魔法の様に簡単に見つかったってことだよ!すっげぇ偶然!なっ!」

ナルルとポイ子に目配せをして同調を誘う。しかしこれは悪手だ。何故なら春田が隠したかった犯人との遭遇を認めてしまったのだから。

「……それで再起不能になるまでぶん殴ったの?」

当然の様に殴ったと出るのは流石にどうかと思った。確かにぶん殴ったがあくまで疑惑の範疇のはず。やはりこの質問にも答えるべきか迷う。喉奥から掠れて出た笛の様な高い声で唸っていると。

「……隠さなくても良いよ。ポイ子さんから話は聞いてる」

それを聞いてドキッとした。ポイ子を見ると、視線を逸らして誤魔化した。確かに「黙っとけ」とか「誤魔化せ」などに関する指示こそしていないが、目立ちたくない旨をポイ子には散々言い聞かせていたはずだ。(少しは主人の意を汲んでも……)と思ったが、そこまで考えつかなかった自分も悪いと戒めた。

「……それにその右袖の血……。あんたの血じゃないもんね」

それを聞くなり袖を確認する。確かに赤茶けたシミが点々と付いている。カラオケ店からキレて出て行ったと思えば、割かしすぐにスッキリした顔で何事もなく戻って来て袖に血を付けている。こんな状況を見れば誰でも誰かを殴って来たのだろうと察する。

「……春田って強いんだ。見た目には分からないけど……」

上から下を嘗める様に見る。病的な顔、やせっぽっちの腕。身長はそれなりだが猫背気味なので少し低く見える。中途半端な男というのが見る人の総意だろう。

「この事は……黙っといてくれないか?」

もう隠しきれないと踏むとポツリと言う。記憶操作をする事も考えたが、これは自分のミス。ならば自分で何とかすべきだある。だからと言って何ができるかと問われたら、竹内の善意に身を任せ、お願いするしかない。

「……じゃあ教えて。何をしたの?」

ナルルとポイ子を見た後、しばらく考えて「……殴って宙吊りにした」と正直に答えた。

「……どうやって……いや、いいや。本人の口から聞けてすっきりしたし……」

竹内は少しウキウキとした感じで進んで行く。後ろめたい気持ちを感じながら簡単に察してくれた竹内に多少の感謝をして離れない様についていく。それから少し歩くと見るからに古びた2階建ての安アパートに着いた。

「……じゃ、アタシはここだから」

「へー、ここに住んでんのか?」

「……うん」

一直線に階段に向かうのが見えて二階に住んでいるのが分かった。ふと上を見るが電気が付いていなくてどの部屋も人がいないのが分かる。まだ親も帰宅していないのだろうか?一応階段付近までついていく。

「……ここまでで良いよ。それとも上がってく?」

「いや、どうせすぐに親が帰って来るだろ?邪魔になるしここで帰るよ」

「……帰ってこないよ。アタシは実家離れてここで住んでるもん……」

つまりは春田と同じ一人暮らしと言う事だ。春田は部下がわんさか来たから一人ではなくなったが。定期的に遅刻やサボりなどの堕落、万引きなどの犯罪に手を染めていたのも誰も止める人がいなかったからだろうと察する。それでもせめて犯罪はしないものだが、注意をしてからというもの、竹内が温厚になったのは言うまでもない。

「そうなのか?じゃあスーパーでも寄れば良かったな。おかずとか買ってさ」

「……必要になれば出る」

「そうか……。うん、今回はやめとく。帰る用事もあるしな。また誘ってくれ」

竹内は「……そ、じゃね」と言って上に上がっていった。とりあえずこちら側の全員を送り届けた春田はほっと安心して、ナルルとポイ子と共に家路についた。途中ポイ子がこめかみ付近に手を当てて誰かに返事をする。それがマレフィアだとすぐに分かると足を止めて通話が終わるのを待つ。

「聖也様。あちらも送り届けたそうです。今こちらに向かって転移を試みると報せが」

「そうか」

どうやら全員無事のようだ。長かった一日が終わりを告げようとしている。ここに5人が集まり、後はスーパーでも寄っておかず買って家に帰るだけ。

「あ、あいつらまだいたんだっけ?」

「ええ。多分まだゲームされているかと」

「まだやってんのか?しつこいな……」

と愚痴を漏らした時、携帯が反応した。確認のため取り出す。どうせ木島の連絡先が追加されたのだろうと覗き見ると、意外な名前が書いてあった。

「ん?滝澤さん?」

こみゅのチャット欄に”今連絡大丈夫でしょうか?”と書かれてあった。「いいよ」と送るとすぐに既読サインが出て、電話に代わった。すぐに出ると透き通る声で『もしもし』と声が聞こえた。

「はい、もしもし。どうしたんです?」

『先日お話しさせていただいていたヤシャさんのお話で……』

「おおっ!」と声を上げた。とうとうその話が来たかと嬉しくなった春田は集中して聞く。そのタイミングでヤシャとマレフィアが出現した。携帯で話している姿を見て疑問符を浮かべながら近くのポイ子に話を聞いた。

「聖也は誰と話をしている?」

「滝澤さんです」

「おおっ!」ついにその時が来たかとヤシャも声を上げた。

『大変申し訳ないのですが、今から会えないかと思いまして……』

となるとヤシャ一人を行かすわけにはいかないだろう。どんな仕事か確認がてら、ついて行く事にしようと思った。

「分かりました。どこに行けばいいでしょうか?」

『ご自宅で待機していれば大丈夫です。すぐに使いが行きますので』

「了解しました。お待ちしています」

頭をぺこりと下げて電話が切れるのを待つ。切れたのを確認すると、マレフィアに向き直った。

「今すぐ部屋に戻りたい。転移をもう一度使ってくれ」

「は~い」

ふとヤシャの手元に目がいく。

「……それ何持ってんだ?」

「こいぬ」

”こいぬ”とは”子犬”のことだろうか?それを手に持っているのはどういうことか?

「こいぬを飼うんだ」

「なるほど。子犬を飼うのか……。はっ?」
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