魔王復活!

大好き丸

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第106話 見~つけた

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「おい竜彦たつひこ。マジふざけんなよお前」

カラオケ店を後にしたチンピラたちは急いで車に乗り、少し先にあるショッピングモールの立体駐車場に逃げ込んでいた。

「あんなところで攫うなんざ考える方がおかしいぜ」

助手席に座る男は先の行動に苦言を呈す。5人の中で傍観を決め込んでいたスキンヘッドの男。ヤクザ顔負けの強面で体格も5人の中で一番でかい。今までこの外見で威圧してきたが、実際はかなりの小心者。竜彦の愚行にたまらず口を出した。

「うっせぇ。駅で会った時はもっと簡単そうだったんだよ……」

たっちゃん、本名は竜彦も先程の威勢はどこへやら、不貞腐れて後部座席に背を預けている。

「マジ痛ぇよ、気の強い女はこれだから始末が悪い……」

足を擦りながらあごひげはぶつくさ文句を言う。それをバックミラーで確認したヒップホッパー風の男ひろきが声を上げる。

「たっちゃんが見つけたのは確かに気が弱そうだったけど、あんな微妙な女狙うくらいなら援交のヤリマンJKを呼んだ方が遥かに顔が良いんじゃね?」

「バカ」

スキンヘッドがバシンッとひろきの頭を叩く。同時にかぶっていたキャップが飛び足元に落ちた。

「お前この集まりの意味分かってねぇのか?何のために竜彦がナンパしてると思ってたんだ?」

「叩くなよ……」と言ってキャップを被り直す。一番後ろの席でカラオケ店にてたっちゃんを煽り倒していた平面顔が続きを答える。

「反撃されないような女だから良いんだろ。大人しいのは警察に届け出るのをためらう。そういうのは使い捨ててもいいし、呼び出し様に連絡先持っとくのも良いからって最初に話合ったろ?あわよくば女の友達も喰えて一石二鳥ってな」

「だけどさ……」と不満を漏らそうとするのにスキンヘッドが補足する。

「それに”そういうのは初物が多い”ってお前が一番ノリノリだったじゃねぇか」

「いや、そりゃそうだけど。最近上手い事攫っても微妙なのばっかだったし……。前の何かよ、魚みたいな顔してたのに貫通済みだったし、被害届けまで出された噂があったろ?今日のはあれに比べりゃマシだったけど失敗したしよ……」

最初こそ悪くなかったが、日に日にレベルが落ちていき、費用対効果が望めなくなったとひろきはボヤく。その発言にイラついたのか、ガンッと後部座席から運転席を蹴って自己主張する竜彦。中々強めの蹴りに席が揺れてひろきが「うっ!」と苦し気にうめいた。

「チッ……じゃどうすりゃいいってんだ?あ?お前の言う通りヤリマン呼び出して輪姦まわすか?」

「いやいや、一旦止めにしよう。な?監視カメラの多い場所で暴れちまったんだし、ほとぼりが冷めるまでは動かない方が良いってこと」

その発言で竜彦以外の顔が理解の色を示す。

「そりゃそうだ」

凝り固まった思考が晴れ、名案を思い付いたように納得の表情を見せる。

「ま、俺らも少しやりすぎたし、隠れて様子見んのも一つの手だよな、な!」

平面顔は自分が最初に提案したような顔で竜彦とあごひげを交互に見やる。

「ざけんな、なに日和ってんだよ。俺らはコケにされたんだぞ?」

竜彦は平面顔をギロッと睨む。平面顔は「いや、あの……ひろきがさ……」とすぐさま責任転嫁する。これに対してはあごひげも苦言を呈す。

「たっちゃん、ひろきの言う通りだぜ。団体あいつら狙ったのは失敗だった。あの女共のレベルが高かったからって欲張ったのが悪かったんだよ。今回は諦めようぜ」

スキンヘッドも肩越しに補足する。

「前回の魚顔のせいで睨まれてるのもある。今回のは確実に被害届が出る事を考えりゃオメェ、マジで豚箱行だぞ?」

周りから立て続けに説得される。スキンヘッドは小心者なので、何かにつけて文句を言いつつ参加するクズだから言葉に重みがないが、金魚の糞の様についてくるスキンヘッド以外が全員一致で反対意見を言うのは珍しかった。

「……分かった。じゃあ女狩りはしばらく止めだ」

聞き分けが良い。いつもなら一日中不機嫌にギャーギャー言いそうだが、今回はスパッと諦めてくれた。ホッと安心するが……。

「でもあの女共だけは許さねぇ……おい、ひろき!お前あの女共マークしろ。隙を見て攫うぞ」

今の話を聞いていなかったのか?車内にため息が蔓延する。

「だから……」

「黙れ」

口を出そうとしたスキンヘッドの言葉に被せる。

「あのクソ女共を犯さなきゃ寝覚めがワリィんだろうが。あいつらだけだ。それ以降は流石の俺も隠れてやるよ」

言い出したら聞かない竜彦のわがままは警察に睨まれようが関係がない。馬鹿の一つ覚えという奴だ。学生時代、少年院に入れられてた頃から何も変わっていない。

「あーはいはい」とテキトーに返事をしてこの場を治めようとする。その生返事にイラッとした竜彦は怒って身を乗り出すがその時。

「あ?」

車の目の前に男が立っている。その男には見覚えがあった。今日駅で出会った男だ。こいつがいなければメガネを連れ込む事も出来ただろう男だ。

パーカーのポケットに手を突っ込んでリュックを背負っている。あの時のままの姿で。

「……野郎」

竜彦はその姿を見止めると、スライドドアを開けてすぐさま出て行く。「あ!おい!待て!」という仲間の言葉を無視してズンズン男の元に歩いていく。

「おいゴラァ!!なんだお前!俺らを追ってきたのか?!やる気かてめぇ!!」

いきなり恫喝から入る竜彦。さっきから上手くいかない事について腹が立っているのだろうと思うが、目の前に突然現れた良くも知らない男に突っかかっていく様は度を越している。竜彦は男に近寄りはするが一応理性は働いているのか、手は出さず顔を寄せながら目と鼻の先で睨みを利かす。

スキンヘッドが助手席から慌てて出て行く。

「待て待て待て!やめろ!!何考えてんだ!!」

とりあえず男から引きはがす。男はあれだけ騒がれたのに全く意に介していない。

「止めんな!こいつはあのメガネ女の彼氏だ!!」

「あん?こいつが……?」

暴れる竜彦を抑えながら肩越しに男を見る。病的な隈で目の下を覆い、髪が上に逆立つ主張するくせ毛。身長はそこそこあるが、高すぎるわけもなくスキンヘッドが見下ろす程度。何と言ってもひょろい。ジムで鍛えている自分たちと比べれば圧倒的に頼りない。

何故ここが分かったのかは気掛かりだが、分かったところで何しに来たのか?スキンヘッドの観察と疑問から制止する手が緩まると、竜彦はすぐさま手を退かして服のしわを伸ばす。スキンヘッドは右手で男と竜彦の間を遮り話し掛けた。

「おいガキ。何しに来た?」

スキンヘッドはいつもの調子を取り戻して威圧するように質問する。男は視線を逸らして車の中と外の二人を見ると口を開く。

「お前らこれで全部か?」

質問の答えになっていない。「は?」と聞き返すと、男は続けざまに質問する。

「俺の女に手を出したのは誰だ?」

その質問を受けてポカーンとするチンピラたち。言われたことが脳に浸透すると、一瞬顔を見合わせ「ぷっ」とチンピラ全員が我慢できずに笑い出した。車内ではウケすぎて転げまわっている奴らもいる。

「がはは」と笑ったスキンヘッドと「ひーひー」笑う竜彦。笑いがある程度治まってくると、竜彦が一歩前に出る。

「俺だよ。やんのか?」

「ああ。やる」

男は即答する。スキンヘッドはその様子に馬鹿げた蛮勇を見てため息を吐く。

「はぁ……。あんちゃんよ、度胸は買うがやめとけ。お前じゃ逆立ちしても勝てんぜ?死にたくなかったらさっさと尻尾巻いて逃げろ。男には興味がねぇから今すぐ謝りゃ逃がしてやるよ」

スキンヘッドは事なかれ主義だ。対立する者が現れた時、真っ先に戦わない事を選択する。傷付かないためなら不利な交渉でも飲んでしまうような、体に似合わず相当なチキン野郎だ。

「ざけんな!こいつボコしてあの女を攫いに行くんだよ。何なら手足折って目の前でヤるのもありじゃねぇか?自分から来たんだ。目いっぱい後悔させてやろうや」

後部座席の平面顔は「それめっちゃ興奮する~」と車内でふざけている。「いいじゃん。やっちまおうぜ」とあごひげも調子に乗る。さっき自分たちで言っていた一旦止めるということも忘れ盛り上がる鳥頭たち。

運転席のひろきだけは笑っていたが、いざやるとなると黙ってしまった。彼だけ消極的だ。

結局車を出すのは自分だし、汚されるのも自分の車。そして警察に真っ先に捕まるのもこの車の所有者の自分だ。行為自体に忌避感はないものの、被害届が出されたであろう現在、最も危険なのが自分だと考えると消極的になるのは当然の事。

「ならお前らも出てこい。エンジン切って車から降りろ。5人全員でかかってこいよ」

ニヤニヤしながら挑発する病的なひょろ男。それを聞くなり男の顔にイラッとして車内からも笑いが消える。「チッ」と舌打ちしてあごひげと平面顔はスライドドアを開いて出てきた。

そんな二人の行動を一切無視して竜彦は手の骨を鳴らし始める。ポキリポキリと軽快に。

「……テメェなんざ俺一人で十分だ」

ポケットに手を突っ込むと金属の輪っかが出てくる。メリケンサックだ。竜彦と比べてもひょろすぎて素手でも勝てることは明白だが、こんなバカに手を痛めることはない。顎の骨を砕いて二度と固いものが食えなくなるくらい殴って分からせるべきだ。

世の中には調子に乗って良い時と悪い時があることを……。

「あーあ、俺知らね」

スキンヘッドは目元を隠すように右手で覆う。指の間からチラリと行く末を見守る事にした。

そんな危機的状況にも関わらず、男は防御のために腕をあげない。涼しい顔で竜彦の暴力を待っている。

(こいつ俺がハッタリ決めてると思ってんのか?)

障害事件は数えきれない程起こしてきた。警察に厄介になったのは数知れず。何度か勾留されたが、捕まる前に相手を脅し倒して被害届を出さないよう仕向け、免れ逃げ続けてきた。喧嘩の経験はそこらの奴よりずっと上。

それにメガネ女に見せた拳は、擦り傷と切り傷で痛々しくも個人的に無茶苦茶格好良いと思っている自慢の拳だ。暴力になれた手であることを証明するいわば見せ傷。負けなしのこの拳はひょろガキの顎くらい一発で砕く。

メリケンサックをこれ見よがしに右手に嵌め込むと、拳を振りかぶる。

だが、男には関係ない。やはり涼しい顔で竜彦の目を見ている。やはりハッタリだと思っているのだろう。が、相手が悪かった。

竜彦はこれでもかと大振りで拳を振り抜く。格闘技を習っている奴から見れば隙だらけの一撃だが、暴力も知らなそうなひょろ男には決して避けることは出来ない。

思いっ切りクリーンヒットした。バチーンという肉を叩く音が木霊する。

下手したらこれで絶命するかもという一撃を食らわせた。しかし、何事もなく男はそこに立っていた。

「ん?」

メリケンサックをつけた右手を確認する。打ち方一つで肉を抉り、血だらけにもなるはずのメリケンサックに傷のひとつも付いていない。

皆、音を聴いた。確かにあれは殴った音だ。

皆、見ていた。確かに目の前で殴られたのを見た。

あんな一撃を食らえばただでは済まない。

「どうした?その程度か?」

男は相変わらず煽ってくる。

「うるせぇ!!死ね!!」

また大振りに振りかぶって殴り付ける。今度は右ストレートで顔面を潰すように拳を振り抜く。

バチーン

またしても大きな音が木霊する。これも下手したら死ぬ一撃。鼻の骨は確実に折れる。

スキンヘッドは見ていた。男の頭が肩甲骨まで曲がり、元の位置に返ってきたのを。竜彦のパンチ力を知っているが、こんなに強いはずがない。調子に乗った男の首の骨が弱すぎて折れた可能性がある。

「お、おい……!」

とうとう人を殺したと思ったスキンヘッドはビビって萎縮する。しかし、これでも平然と立っている。一瞬立ったまま死んだのかと思ったが生きている。首がひん曲がった、そういう風に見えただけだと自分に暗示をかけた。

「??」

2発もクリーンヒットしたのに、そして本人も殴った感触があるのに倒れないこの男を見て疑問しか浮かばない。

「終ったか?次はこちらの番だな」

男は竜彦の振り抜いた右手の先をひたりと触る。その瞬間竜彦は膝から崩れ落ちた。

「がっ……!あっ……!!」

ビクンビクンと痙攣し、触られた右手があっという間に腫れ上がる。メリケンサックが抜けなくなるほどに腫れ上がり、膝をついたまま痙攣し続ける。

「この手で女を殴ったのか?この手で女を穢そうとしたのか?もはや腐り堕ちても文句は無いな?」

「な!何してやがる……!?」

竜彦の仲間たちはあり得ない光景に唖然としていたが、竜彦の挙動がヤバいと確信しスキンヘッドが騒ぎ立てる。外に出ていたあごひげと平面顔、スキンヘッドの3名は男を引き離そうと思うが、体が何故だか動かない。それは恐怖に寄るものではない。物理的に動く事が出来ないのだ。

「?……え?」

足を前に出そうとしても動かない。手も指先一つ動かない。辛うじて動く箇所があるとすれば目だけだ。まるで金縛りの様に動く事が出来ない。

「無駄じゃ無駄じゃ。お前らではわらわの”影縫い”を突破する事は不可能じゃ」

頭の中に響くようなこの声の主は女の声である事は容易に想像がつくが、どこから聴こえているのかが全く分からない。それもそのはず声の主が見当たらないのだ。

「は?ちょっ……」

何がどうなっているのか分からず1人混乱するひろき。エンジンをかけたまま外に出る事も出来ず、ただただ呆然と見ているだけだ。ひょろい病的な男対4人の筋肉質な男たち。しかもメリケンサックを付けた拳で二度もぶん殴られた後だというのにまるでこちらが不利の様に見える。

「実際不利だも~ん」

ドキッとしてバックミラーを見ると後部座席にさっきまでいなかったはずの女が座っている。しかも自分の考えていた事に対して何故か返事をしてくる。

後ろを振り替えって確認したかったが、恐怖で体が動かない。この女は人間じゃない。バックミラーに写る女の目が金色に光っているからだ。

「へぇ~、この車で何人も女の子を犯してきたんだ~。ずいぶん精力的に動いてたみたいだね~」

女はキョロキョロ車内を見渡し、またバックミラー越しに目を見る。頭の中を覗かれているような気持ち悪さに変な汗が出る。外も外で追い詰められているが、中も不味い状況だ。

「うちは別に君らのやっている事に何か言うつもりもないけど、今日襲った女が悪かったね……君らが彼女に関わらなければに警察に捕まって終わってた。かもね?」

(警察に捕まるのが……無事?)言っている意味が分からなくて困惑する。

「まぁ、何?ここで死んでも誰も悲しまないよ。だって行方不明でこの世界から跡形もなく消えるから」

バックミラー越しに見る女の顔にニヤニヤしていた顔が消える。鏡越しでもわかる美しい顔から表情が消えると人形のようで不気味である。その上、相当物騒な事を言ってきた。ひろきは目の前に仲間たちがいる事も忘れ、無意識にハンドレバーを外す。シフトレバーを動かすとドライブに入れ、アクセルをベタ踏みした。

ウウゥゥゥゥン……!!

タイヤが空回りする音にビビッてスキンヘッド含めた3人が車を目だけで見る。

「!……何で!?」

エンジンをふかすばかりでまったく進まない車に慌てるひろき。走らない理由を目で追うが、自分の操作に落ち度はない。ならなぜ進まないのか?理由は簡単だ。焦って分からなかったが車が少し前のめりに傾いている。

それもそのはず、すぐ後ろでタイヤが地面に設置しない程度に持ち上げられているのだ。それを可能にするのは190cmはある巨大な女。バレーボール選手のような長身だが、その体は横にも太く、筋肉質であることが分かる。

それを見たひろきは恐慌に陥り、何度もアクセルを踏みしめる。タイヤが何度も空回りする音が駐車場内に響き渡る。そんな普段滅多に聞けない音のせいで衆目を集め始めた。

(しめた!)スキンヘッドはこの状況に救いを感じ始める。注目が集まれば隙をついて逃げられるかもしれない。体が未だ動かないことに目をつぶればこの状況は願ったり叶ったりだ。

「何の音だ?」

周りが不思議にこちらを見ているが、その音の出所がわからないと首を傾げている。

(何言ってんだ!!俺らの車からだろうが!!)

心からぶちギレて睨み付けるが全く気付いていない。

「あ、しまった。音消してなかったわ~。はい”消音ミュート”」

後部座席の女が手をパンッと叩く。途端にどれだけ音を出しても野次馬には聞こえなくなった。「あれ?」と集まった全員がさらに首を傾げた。

「確かにこの辺で聞こえたはずだが……」

そんな一言を残してワラワラと散っていった。その様子を見ていた3人はあり得ないと衝撃を受け、ひろきは気付く。女が言った「行方不明」という言葉の意味を。

未だガクガク痙攣し続ける竜彦。その場から動くことの出来ない3人。運転席でエンジンがかかっているにも関わらず車を動かせないひろき。

恐怖に支配されたひろきは泣きながら失禁する。

「よくやったお前ら……」

ひょろい男の背後から同じ顔を持つ男が現れた。

これには竜彦を抜いた4人がきょとんとする。竜彦の手を持つひょろ男は姿形を変え、キャップを被った女に早変わりした。ひょろ男は竜彦を蹴り飛ばす。口から泡を吹き、床に倒れる竜彦を冷たい目で見下ろす。

竜彦から視線を外すと他4人を見渡しビキッと顔に青筋をたてる。

「さぁ、地獄をみせてやる」
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