魔王復活!

大好き丸

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第100話 キュートキュートショー

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『みんな~こんにちわ~!』

「「「こんにちわー」」」

司会のお姉さんの掛け声に子どたちの唱和が木霊する。まだ主役は顔を出していないがショーの前座が始まった。

木島妹、加古はニッコニコの笑顔で主役の登場を待つ。

春田は周りが子連れ家族だらけなのを見て場違い感から辺りを見渡していた。

(これは思ったより恥ずかしいな……)

加古に誘われたとはいえ、遠慮すべきだったと後悔する。第一、虎田の買い物に付き合うはずだったのに、加古のわがままでこういう編成になった。

木島は妹から離れられないが故、竹内は「面白そうじゃん」で参加。

他の面子は「私パス」とか「みゆきの買い物手伝う~」とか「あ、めぐも買い物行きます」ということで4人のグループごとに分かれて離れ離れに。

春田たちのように興味が薄い奴らが長椅子をそれなりに占拠するのは、楽しみに来ているファンたちに申し訳がない。出来れば後ろの方に座りたかったが、それは加古が嫌がった。下手に良い顔したせいで懐かれてしまい、実の姉より春田の隣が良いという始末。まぁまぁ背が高いので後ろの子たちの為に邪魔にならないよう屈んで加古の様子を見ていた。

「ちょっと……!何してんの……!?」

ウィスパーボイスだが、かなり強めに声をかけられた。加古を挟んで左隣にいる木島だ。

「何って何だよ…」

「あんた加古のパンツ見ようとしてんじゃないわよ……!」

後ろの人たちの為に屈んだのを妹の下着を見ようとしていると勘違いされてしまった。想定外過ぎて驚きを隠せない。

「!……してねぇよ……」

そのぶっきら棒な言い方に確信を持った木島はショーより春田の動向が気になり始める。竹内はさり気なく肩同士をくっ付けて、春田の耳元で囁く。

「……ロ・リ・コ・ン……」

何のつもりか知らないが一字ずつ区切って囁かれるので耳がくすぐったい。

「……マジでやめてくれ……今ここで周りにそんな風に思われたら……下手したら警察沙汰だからな……」

絞り出すような声でボソボソ喋る。木島はちょっと遠いので聞き取れないだろうから後で抗議するとして、大人しく正面を向くことにした。それと同時くらいに舞台袖から主役の登場だ。

「あっ!見て見て!キララちゃんだよ!」

そこには甲高い声を挙げながら登場するキュートキュートの面々がいた。店内をキョロキョロ見渡しながらどこで買い物するかどうかなど、それぞれのキャラに合わせてこのモールの宣伝をしつつ話を展開させていた。

ある程度の宣伝コントが終わった頃、客席に目を向けて『こんなにお客さんがいるー』と自己紹介を始めた。作品に触れた事ない人にも分かるように軽く説明口調で五人の紹介を始める。

キララは天然可愛い系、コノハはおっとり清楚系、ヒバナは熱血純情系、ナナミはクールビューティーでジュエルは博識オタク系。

加古から予備知識は得ていたはずだったが、キャラクターから改めて説明があるとしっかりと確認できる。今後のキュートキュート談義に役立つ。主に加古とだけだが……。

いつものノリの部分で子供達が嬉しそうに笑っている。子連れの親もアニメ本編を見たことがあるのか子供と一緒に笑顔が絶えない。キョロキョロ周りを盗み見ていると真後ろにジッとこちらを見る子供の姿があった。

見覚えのある「PS」キャップを被り、キョロンとした目でジッとこちらを見ていた。

(俺の背中のせいで見えないんじゃないだろうか?)

パッと前を見るとキュートキュートが舞台からはけて、アクアクと呼ばれる悪役たちが代わりに出てきた。今なら移動も可能かもしれない。右隣でポーッと観ている竹内に軽めの肘鉄砲で知らせる。

「?……なに?」

春田は顔を近づけて耳打ちする。

「……後ろに子供がいるんだけど……どうしたらいいと思う?」

竹内がそっと盗み見ると確かに後ろでジッと春田の背中を見ている子供がいる。

「……あんた邪魔みたいね……」

後ろの子供の周りを見渡すが、保護者らしき人が見えない。

「……交代したげる?」

「お!ナイス!」

その言葉を待っていた。相談もせずに話しかけたらそれこそロリコンを疑われそうだったので、竹内を巻き込む形で話かけようと考えていたのだ。そうと決まれば主役が引っ込んでる間に振り返る。振り向いた春田の顔を見た時、ドキッと緊張を表す子供。

「……あ……」

その様子を見た時、声をかけるのをためらわれた。キョトンとしているならすんなり声もかけられただろうが、今の反応は怖がられたと考えて良い。喋れないまま見つめあっていると、竹内が見かねて声をかけた。

「……前来る?」

子供の反応は困惑し、答えるべきか逡巡している。竹内の援護に心を強く持った春田は腹を括って言葉に出す。

「ここの席と交換してあげるよ?」

それには即座に頭を振る。

「……余計なお世話だったね」

今の席が気に入っているらしい。これ以上声をかけては迷惑になると竹内は前を向く。警戒しているのだろう。気になっていたから喋りかけてこっちはスッキリしたがいきなり声をかけられたのは怖かったかもしれない。ちょっと話しかけたことに後悔しつつ「そうか……」と言って寂しそうに前を向いた。

「……あの」

その時、後ろから声をかけられた。

「……一緒に座っても良いですか?」

おずおずという感じに声をかけてくる。竹内はその様子を見ると手招きをする。

「……良いよ。こっち来な……」

誰も座っていない竹内の右隣をポンポン叩く。しかし、その行動に目もくれず春田の服を掴む。「え?」と口に出る。春田と一緒に座りたいようだ。竹内はそれを見て呆れたように鼻を鳴らすと、右にずれて春田との間を空ける。春田の右側が空くとそこにスルッと入ってきた。

加古は比較的集中してショーを鑑賞していたが、春田の右隣を陣取った同い年くらいの子が気になった。春田のパーカーの袖を握っているのを見た時、ムッとして春田の腕に絡みつくようにしがみついた。盗られるとでも思ったのか妙に敵意ある目だ。

「……モテモテじゃん」

「ちょ……やめろよ、そんなんじゃないって……」

シャレになっていない。ポイ子との会話の中で出た「覚醒した力」のせいである可能性が極めて高い。子供は感受性が高いので声をかけただけで求心されたというのも考えられる。そうでないことを祈りたいが袖を握っていた手はいつの間にか右の掌に移動し、手を握っていた。

加古は春田をグイッと引き寄せる。「うおっ」と間抜けな声が出たが、逆らうことなく引き寄せられる。キャップの子供は特に対抗することはない。しなだれかかって春田に体重を預ける。

「……ちょっと加古……!はしたないからやめなさい……!」

そんな妹の行動を声を抑えて窘める木島。頭を振って抵抗する加古。春田は小学生の間に挟まれて迷惑そうな顔をするも、どうしようもないと感じてショーに集中することにした。

アクアクの幹部一体と部下と思われる三下が悪巧みを話し終えると、高笑いをして舞台袖に引っ込んだ。よく聞いてなかったせいで何を目的とした行動か分からないが、とにかく悪さをしようという気概だけは見て取れるのでフィーリングで見ることにする。

キュートキュートの面々が買い物袋を提げて舞台袖から出てきた。『や~ん!こんなに買っちゃったぁ!』とか言いながら、またモールの宣伝をしつつドタバタ走り回る。しばらくこの展開が進み、アクアクの三下登場から光と闇の対立になる。三下が観客席に『お前たちの光はここで消えるのだ!グハハハ!』と1対5の不利な状態からキュートキュートを圧倒している。

『みんな!力を貸して!!』

良くある「せ~のっ……」で言葉を合わせて掛け声で観客が力を与えるていのお約束をしようとしている。司会進行のお姉さんが『みんなでキュートキュートを応援しよう!”頑張れー”!!』と大きな声で鼓舞すると、子供たちみんなが口々に「頑張れー!」「負けるなー!!」とお姉さんに合わせて主役を応援する。

このライブ感は間近で見ている人間にしかわからないものがある。全く知らないアーティストのライブでも手拍子をしたくなるのはきっとその空気に飲まれているからだ。だが、いざ声を出せと言われると恥ずかしいものがある。加古は普通に声を出しているが、竹内は涼しい顔で眺めているし、木島はショーが始まってから今の今まで春田への警戒心を解かずショーそっちのけでジロッと睨んでくる。

不可解なのはこの子供だ。ショーを見に来た子供なら加古同様に声を出すのも厭わないはず。手を握ってまるで恋人のように体を預けたまま大人しくしている。子供の手は冷んやりしていて気持ちよかった。

こういう戦隊モノのショーの鑑賞は初めてだったので期待していたのだが、そこら中に気が散って素直に楽しめない。

『ありがとー!みんなのおかげで元気と力が湧いてきたわ!もう容赦しないわよ”ワルモノー”!!』

三下の名前は「ワルモノー」というらしい。また一つ知識が増えたところで必殺技っぽいのが炸裂し、舞台演出の煙が勢いよく噴射されたかと思うと、ワルモノーは『覚えてろ!キュートキュート!!次は絶対に倒してやる~!!』と情けない声を出しながら舞台袖に入っていった。

『やったわ!ワルモノーを倒した!!』

そこで5人は整列し『モールの平和は私たちが守る!』キュピーンというSEの後『さ、買い物買い物~』『まだ買うの~』というズッコケ漫才を見せてショーは終了した。

勧善懲悪の悪くないストーリーだったと思うが、魔王時代は敵側陣営だった事を思うと複雑な気持ちだ。きっと元の世界でも魔王討伐を劇にした見世物があるのだろう。歴史とは勝者の側が作るとは良くいったものだ。

ショーが終わると周りの家族は「楽しかったねー」と離れていく。人が入り乱れているので立たずに待っていると、隣でしなだれかかっていた子供もピョンッと長椅子から飛んで春田たちから離れていった。それを見て親元に帰ったのだとホッとする。もし求心力の影響で「帰りたくない」など言われた日にはどうすればいいか分からなかったろう。

「……名残惜しいの?」

竹内はボソッと声を掛ける。

「……そんなわけ無いだろ。ただ、ちゃんと親のところに戻れるか心配しただけだ」

「……ふーん」

竹内は腕をグッとあげて伸びをした後、すくっと立ち上がる。

「……じゃ、いこか」

「待って竹内さん。今どこにいるか聞くから……」

携帯を取り出して虎田に連絡を入れる。春田も立とうとするが左にあるおもりのせいでガクッと体勢を崩した。

「え?……加古ちゃん?」

さっきまでショーを楽しんでいたのに不満げな顔をしてブーたれている。

「何?」

木島がそれに気付いて加古を見る。もうショーは終わったというのに未だ春田にしがみついているのを見て、加古の顔を覗き込む。

「……加古。どうかした?」

木島のその問いに頭を振って答える。

「別になんでも無いもん……」

木島は加古から目を離し春田を睨みつける。

「……何をしたのよ……?」

「え?いや、特に何も……」

強いて挙げるなら子供を隣に座らせたくらいか。そこから唐突に不機嫌になったのは分かったが、もうその子供は何処かへ行ったので忘れ去ってもいいことのはず。そうじゃ無いとするなら……。

「あれか?お腹痛いとか?」

「ちょっと……!」

木島は背中をバシンッと叩く。痛みで悶絶していると「デリカシー!」と強めの口調で注意が入った。竹内はその様子を見ていてポンッと手を叩く。

「……春田スタポ行こスタポ。木島も」

「スタポ」とは「スターポケット」の略称でコーヒーショップである。バリエーション豊かなコーヒーが味わえることで有名となり、全都道府県に点在する定番の店である。

「は?そりゃ良いけど……」

加古はその言葉にプイッとそっぽを向く。竹内が加古の前に立ちすっと屈むと、加古の顔を覗き込む。

「……加古は何が飲みたい?」

平坦な口調だが、ヤンキー座りで首を傾けている様は小学生の女の子には怖いの一言だろう。だが、ナックのキッズセットのおもちゃをもらったことで加古にとってはちょっと怖いが頼れるお姉ちゃんだ。加古は竹内の目をチラリと見た後答える。

「……ジュース」

「……そう、じゃジュースを飲みに行こう。春田の奢りで……」

それを聞くなりすぐさま突っ込む。

「何でだよ。加古ちゃんにならともかく、他の奴には奢らねぇぞ」

それを聞くと加古は春田に向かって顔を上げる。

「……ほんと?」

「あっ……ああ、うん。加古ちゃんは何が欲しいのかな?」

一瞬しまったという顔をしたが、すぐに笑顔を見せる。加古はしがみついていた腕をほどいて春田の左手を握ると、テコでも動かなそうだったお尻がヒョイッと長椅子から離れた。

「わーいっ!スタポスタポー!早く行こ!」

今度は春田をグイグイ引っ張る方になった。

「分かった分かった。そう焦らないで……」

というが、興奮して聞き入れそうも無い。春田は引っ張られるまま立ち上がるとそのままスタポ方面に誘導される。

「加古待って!」

木島が呼びかけると「お姉ちゃんも早くー」と急かされた。

「……たく現金な奴……」

悪態をつくと竹内がそれに同意する。

「……本当にね……自分が特別だと分かったらすぐ立ち直ったしね……」

「は?」と疑問符を浮かべる。

「……早く行かなきゃ置いてかれるよ」

竹内はさっさと春田の後について行く。

「ねーちょっとどういう意味なの?」

木島はこみゅで高橋以外の3人に「スタポ来て」と一文入れると春田たちを追った。
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