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第九十五話 役割分担
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「やーだー!」
春田が帰るとアリシアが未だにゲームをし続けていたので、やめるよう説得を始めた。
だが、やはりというべきか、アリシアは駄々をこねた。予想していた事ではあるが、ほっとけば延々やっている可能性があるので、こちらとしても引き下がれない。
「私も言ったんだが……帰るギリギリまでやらせろと駄々をこねられてな……」
ヤシャは申し訳なさそうに春田に報告する。
「今日帰るって約束だぞ?まったく……お母さん何とかしろよ」
くつろいでいるニーナに目を向けてアリシアの説得に参加するように促す。不思議な顔でニーナは春田を見ている。(何だその顔は……)とちょっとイラっとしたがツッコまない。
「あんたのお母さんじゃないっつってんでしょ!いい加減にしなさいよ!」
と思えばアリシアが突っかかる。コントローラーからは手を離さないが歯をむき出しにして春田を威嚇している。
「そうじゃぞ聖也。この女はこの娘の母じゃ。わらわなら聖也の母になれるが、どうじゃ?」
「……間に合っているよ。つーかいい加減にするのはアリシアだろ……とりあえず荷物をまとめていつでも出られるようにしとけよ。今日は泊めないからな」
アリシアにもニーナにも視線を合わせて伝える。
「冷たいな~聖ちゃん。お母さんといるのがそんなに嫌なの?」
くすくす笑って春田を挑発する。ヤシャはまだ慣れないのか、ジロッと睨んでいる。
「もー……母さんがそんな事言うからつけあがるんだよ?面白がらずに否定してよね」
画面から目を離さずに文句だけ言うアリシア。横スクロールゲームを今日中にクリアしそうな勢いだ。
「はぁ……もういい……四天王集合」
春田は手を挙げて部下たちを呼び、ダイニングテーブルに座るよう促す。ニーナが座っているので、ヤシャとマレフィアとナルルを座らせて、ポイ子と春田が立つ。
「今日は役割分担を決めるぞ」
「やくわりぶんたん~?」
マレフィアは超絶面倒くさそうに机に寄りかかる。その顔には「何もしたくない」と書かれていた。
「ここに住むからには個々が何らかの役割を持つべきだ。炊事、洗濯、買出しにゴミ捨てとかやる事はあるんだからな」
春田は腕を組んで当然の事だとふんぞり返る。
「一緒に住むんですし、聖也様のお心を煩わせることはしない様、お手伝いするのは当たり前です」
ポイ子は良いことを言った。
「ということで是非とも私を常に御側に置いて頂けるようにボディーガードをさせていただきたいのですが……」
ポイ子は面倒なことを言った。
「!? 抜け駆けは許さぬぞ!!」
「待てナルル。ポイ子は確かに外に出しても問題ないし、どこへでも侵入可能だ。私たちの中では一番弱いが、この世界の環境に溶け込めるのはポイ子しかいない」
元の世界ではほとんど使い道がなかったポイ子でも、この世界では春田の意に沿える一番都合の良い存在だ。目立たないので常に春田の側で危険から御身を守る事が出来る。
ヤシャもナルルも単純に目立つし、ナルルは長い耳もさることながらその豊満な体を野放しにすれば、言い寄る男はごまんといる。そして、春田以外のヒューマンをゴミや虫だと思っているので、言い寄る男たちに対し危険因子の排除、つまり間違いを冒す可能性は8割以上だと推察できる。
ポイ子の方がまだ良識がある。それを一緒に住んだことで理解したヤシャは、ポイ子が春田といるのに抵抗がなくなった。
「別にうちの魔法でどうとでもなるけどね」
そんなヤシャの分析を軽くいなす。
「それは、まぁそうだが……臨機応変な対応が求められる時、魔法だと難しい問題も出てくるんじゃないか?」
「そんなことないも~ん」
マレフィアは子供のように振舞う。
「魔法に頼りたいことはたくさんあるけど、多用するのは怖い。どこからどこまでを認識改変したか覚えられなくなると困るし……でもまぁ、ヤシャの角とか肌は正直助かったが……」
「ううむ……そう言われると傷つくが、この世界では仕方のない事だ……」
「確かに。かような肌色と角を持つ二足歩行の動物はおらんからな。ならば高貴なるわらわを連れ行くがよい。常に羨望の的ぞ?」
胸を張ってその胸の上に右手を乗せる。バストサイズだけならこの中で一番である事は想像に難くない。
「悪いが注目はされたくない。仮に四六時中警護を任せるならポイ子が適任だ。マレフィアは魔法は強いけど今の俺より腕力がないし、物理無効があるポイ子なら盾として申し分ない。最悪、麻痺毒を使用して敵を倒す事も出来るからな」
「ポイ子程度に務まるならわらわを起用すればよいのじゃ。わらわは影に身を潜める事も出来るのじゃから。いついかなる時、たとえ火の中水の中、どこへでもついてゆけるぞ」
ムキになって両拳を上下に振る。子供が「私だってできるもん!」と言っているような可愛らしい動作だが、その可愛さに騙されはしない。
「か・り・に、警護を付けるならだ。この世界では滅多な事がない限り、そんな危ない状況に巻き込まれない」
春田は握り拳から人差し指をピッと立てて3人にそれぞれ指をさす。
「いいか?俺は今まで目立たない様に生きてきた。何のためか?厄介ごとに巻き込まれないためだ。何度でも言うぞ?転生方法を確立するまでは大人しくしていたい。だから目立っちゃだめなんだ」
切実な願いを改めて吐露した後、マレフィアを見る。
「改変についていろいろ言ったけど、もう一個だけお願いしたい」
「なに?何でも言ってみて」
「ナルルの耳の件だ」
ナルルはそれを聞くと耳を隠す。
「なんじゃなんじゃ?わらわの耳には手出しさせんぞ」
「エルフの耳もヤシャの角同様にこの世界にあったら不味い奴なんだよ。だから認識を変えて、周りからは普通の耳に見えるようにするんだ。切ったり失くしたりしないから安心してくれ。あとナルルの服も新調して欲しい」
「んっふふー。聖ちゃんうちに頼りすぎ―。仕方ないな~、んじゃ張り切っちゃうぞ」
星マークが出そうなウインクで春田に答える。
「うん、頼む」
コホンと咳払いすると、改めて部下を見渡す。
「ヤシャは滝澤さんの仕事に就いてもらう関係で外出が増えるから、家事全般をナルルに任せよう。ポイ子は…洗濯も掃除も不安が残るな……」
「だから申し上げている通り、いついかなる時でもお守りできるように警護を……」
「ポイ子はゴミ捨てな。月曜日と木曜日が可燃ごみで…てかあそこに曜日とごみの種類が描かれたチラシあるから確認してくれ」
リビング出入り口付近の壁に両面テープで張り付けたチラシが見える。
「マレフィアはもしもの時にみんなのカバーをしてくれ。ここでの常識はある意味俺より上だろうから、それは頼りにしている。というよりたまに動かす程度じゃないとお前は自分の役割をすぐにでも忘れそうだからな」
「ひどっ!そんな馬鹿にすることないじゃ~ん」
「馬鹿にしてない。事実を言っているんだ」
(そっちの方がひどい)話を聞いていた当事者を抜いた5人が一様に思った。
「……わらわたちが聖也の世話をするのに異論はないが、何かご褒美が欲しいのぅ」
「ご褒美ねぇ。それはいいけどあんま金がかかるのは……」
フンッと鼻を鳴らし、頭を振ると春田に視線を合わせる。
「わらわは聖也にしか興味がないでな。愛をくれるならなにもいらん」
「抽象的だな……とりあえずその辺は後々考えようぜ。時間が経てば欲しいものもできるだろ」
ナルルは春田の頭から足先まで隅々まで嘗めるように見た後で正面を向いて目を閉じる。
「それじゃおさらいだ。ヤシャは外で仕事、ナルルが家事全般、ポイ子はゴミ捨てとその他お手伝い。口に入るものには手を出すなよ。俺とマレフィアは気付いた時にカバーに入るって事でいい?」
「それじゃあナルルさんがかなりの負担じゃない?もっと細かく分類した方が負担も軽減されると思うけど?」
ニーナは横から口をはさむ。
「でも俺にも学校があるし、ヤシャはまだ日程は決まってないけど、結局外に出なきゃいけないだろうから、ポイ子とナルルとマレフィアが待機になる。ナルルは安全の確保の為にも専業主婦宜しく、この部屋にいてもらうつもりだから中の仕事をしてもらおうと思ってるんだよ」
「……専業主婦?」
それを聞いたナルルは目をパチッと開けて瞳を輝かせる。それを聞いたヤシャも瞳孔が開いたような目で春田を見る。
「……例えの話だぞ?まぁでも確かに家事全般は言いすぎたな、全部任せるよりも交代制にした方が良いかもしれない」
「何を言う聖也。わらわに全て任せるがいい。良き妻となりて寄り添おうではないか」
それを聞いた時ヤシャの目が鋭く光る。その目に気付いてナルルが見下した態度をとる。
「やきもちは見苦しいぞ?オーガの姫。ま、わらわが選ばれるのは当然の事よの……」
「調子に乗るなよナルル。ダークエルフの人質風情が……聖也の気まぐれで四天王になったくせに……」
両者オーラを纏い始める。一触即発の空気に口をはさんだのはポイ子だった。
「ヤシャ様。おやめください、それは私にも刺さります。ナルル様もです。あくまでも例えの話である事をお忘れなく」
オーラを纏ったままポイ子に目を向ける。焼けるような鋭い視線とオーラ。聖也は恐怖のあまり縮こまる。それに臆することなくポイ子が続ける。
「……聖也様はまだ学生です。いずれお決めになられるでしょうし、一人に絞る必要がありますか?」
それを聞いた時のヤシャの表情とオーラの変化は顕著だった。「あっ」と何かに気付いたような顔で目を真ん丸にしてオーラも消える。
「そ、そうだな……急ぎすぎた。聖也が成人になってからでも遅くはない……」
その様子にアリシアがゲームを一時停止して振り向く。
「マジで、何でそんなのが良いのよ?教えてよ」
「……あのなぁ、俺だって傷つくんだぞ?そういうの聞くのは本人のいない所でやってくれないかな……」
「なによ、気になんないの?自分に対する評価のことなんだから聞いて損はないでしょ?」
一理ある。しかし、嫌がる相手にわざわざ聞かせるのはどうかとも思う。ツッコむとへそを曲げそうなので黙認する。
「アリシア。聖也は外見ではなく中身にある。理解しろとは言わんが言葉を慎め」
ヤシャはバシッと言い放つ。外見に自信がないだけにここまではっきりと”中身が……”と言われるのはなんか嬉しい。
「そっか、中身はあんたらの大好きな魔王だもんね。そりゃそうか」
この世界の人間的観点から見ていたせいでちょっと感動していたが、考えてみれば中身を追ってこの世界まできたんだから当然である。ほんの少し肩を落とすが、どんな姿になってもついてきてくれる部下は誇らしかった。
そしてアリシアは何食わぬ顔でゲームを再開する。
「……俺さ、今日予定あるからお昼にでも出ようと思ってるんだよね。だからお昼は好きにやってくれ。ナルル早速頼むよ」
スッと頭を下げる。
「マレフィア。すまないけどナルルの耳と服を頼む」
「は~い」
「ヤシャはポイ子と買出しに行ってくれ。決してポイ子に食品を触らせない様に…って、そういえば前にポイ子だけで買い出しに行ってたけど、あれは食い物じゃないよな?」
「牛乳と食パン買いました」
「二度とするな」
「はい……」
しゅんとするポイ子。これぐらい強めに言わないとすぐに同じことをするので、ここだけは確実に否定しておく。少し心が痛いが、叱るのも支配者の務め。
「アリシアとニーナはとっとと帰れよ。それじゃ解散」
これで虎田に連絡できる。お昼は一緒に食べる事を思いつつ春田はそのまま自分の部屋に戻った。
春田が帰るとアリシアが未だにゲームをし続けていたので、やめるよう説得を始めた。
だが、やはりというべきか、アリシアは駄々をこねた。予想していた事ではあるが、ほっとけば延々やっている可能性があるので、こちらとしても引き下がれない。
「私も言ったんだが……帰るギリギリまでやらせろと駄々をこねられてな……」
ヤシャは申し訳なさそうに春田に報告する。
「今日帰るって約束だぞ?まったく……お母さん何とかしろよ」
くつろいでいるニーナに目を向けてアリシアの説得に参加するように促す。不思議な顔でニーナは春田を見ている。(何だその顔は……)とちょっとイラっとしたがツッコまない。
「あんたのお母さんじゃないっつってんでしょ!いい加減にしなさいよ!」
と思えばアリシアが突っかかる。コントローラーからは手を離さないが歯をむき出しにして春田を威嚇している。
「そうじゃぞ聖也。この女はこの娘の母じゃ。わらわなら聖也の母になれるが、どうじゃ?」
「……間に合っているよ。つーかいい加減にするのはアリシアだろ……とりあえず荷物をまとめていつでも出られるようにしとけよ。今日は泊めないからな」
アリシアにもニーナにも視線を合わせて伝える。
「冷たいな~聖ちゃん。お母さんといるのがそんなに嫌なの?」
くすくす笑って春田を挑発する。ヤシャはまだ慣れないのか、ジロッと睨んでいる。
「もー……母さんがそんな事言うからつけあがるんだよ?面白がらずに否定してよね」
画面から目を離さずに文句だけ言うアリシア。横スクロールゲームを今日中にクリアしそうな勢いだ。
「はぁ……もういい……四天王集合」
春田は手を挙げて部下たちを呼び、ダイニングテーブルに座るよう促す。ニーナが座っているので、ヤシャとマレフィアとナルルを座らせて、ポイ子と春田が立つ。
「今日は役割分担を決めるぞ」
「やくわりぶんたん~?」
マレフィアは超絶面倒くさそうに机に寄りかかる。その顔には「何もしたくない」と書かれていた。
「ここに住むからには個々が何らかの役割を持つべきだ。炊事、洗濯、買出しにゴミ捨てとかやる事はあるんだからな」
春田は腕を組んで当然の事だとふんぞり返る。
「一緒に住むんですし、聖也様のお心を煩わせることはしない様、お手伝いするのは当たり前です」
ポイ子は良いことを言った。
「ということで是非とも私を常に御側に置いて頂けるようにボディーガードをさせていただきたいのですが……」
ポイ子は面倒なことを言った。
「!? 抜け駆けは許さぬぞ!!」
「待てナルル。ポイ子は確かに外に出しても問題ないし、どこへでも侵入可能だ。私たちの中では一番弱いが、この世界の環境に溶け込めるのはポイ子しかいない」
元の世界ではほとんど使い道がなかったポイ子でも、この世界では春田の意に沿える一番都合の良い存在だ。目立たないので常に春田の側で危険から御身を守る事が出来る。
ヤシャもナルルも単純に目立つし、ナルルは長い耳もさることながらその豊満な体を野放しにすれば、言い寄る男はごまんといる。そして、春田以外のヒューマンをゴミや虫だと思っているので、言い寄る男たちに対し危険因子の排除、つまり間違いを冒す可能性は8割以上だと推察できる。
ポイ子の方がまだ良識がある。それを一緒に住んだことで理解したヤシャは、ポイ子が春田といるのに抵抗がなくなった。
「別にうちの魔法でどうとでもなるけどね」
そんなヤシャの分析を軽くいなす。
「それは、まぁそうだが……臨機応変な対応が求められる時、魔法だと難しい問題も出てくるんじゃないか?」
「そんなことないも~ん」
マレフィアは子供のように振舞う。
「魔法に頼りたいことはたくさんあるけど、多用するのは怖い。どこからどこまでを認識改変したか覚えられなくなると困るし……でもまぁ、ヤシャの角とか肌は正直助かったが……」
「ううむ……そう言われると傷つくが、この世界では仕方のない事だ……」
「確かに。かような肌色と角を持つ二足歩行の動物はおらんからな。ならば高貴なるわらわを連れ行くがよい。常に羨望の的ぞ?」
胸を張ってその胸の上に右手を乗せる。バストサイズだけならこの中で一番である事は想像に難くない。
「悪いが注目はされたくない。仮に四六時中警護を任せるならポイ子が適任だ。マレフィアは魔法は強いけど今の俺より腕力がないし、物理無効があるポイ子なら盾として申し分ない。最悪、麻痺毒を使用して敵を倒す事も出来るからな」
「ポイ子程度に務まるならわらわを起用すればよいのじゃ。わらわは影に身を潜める事も出来るのじゃから。いついかなる時、たとえ火の中水の中、どこへでもついてゆけるぞ」
ムキになって両拳を上下に振る。子供が「私だってできるもん!」と言っているような可愛らしい動作だが、その可愛さに騙されはしない。
「か・り・に、警護を付けるならだ。この世界では滅多な事がない限り、そんな危ない状況に巻き込まれない」
春田は握り拳から人差し指をピッと立てて3人にそれぞれ指をさす。
「いいか?俺は今まで目立たない様に生きてきた。何のためか?厄介ごとに巻き込まれないためだ。何度でも言うぞ?転生方法を確立するまでは大人しくしていたい。だから目立っちゃだめなんだ」
切実な願いを改めて吐露した後、マレフィアを見る。
「改変についていろいろ言ったけど、もう一個だけお願いしたい」
「なに?何でも言ってみて」
「ナルルの耳の件だ」
ナルルはそれを聞くと耳を隠す。
「なんじゃなんじゃ?わらわの耳には手出しさせんぞ」
「エルフの耳もヤシャの角同様にこの世界にあったら不味い奴なんだよ。だから認識を変えて、周りからは普通の耳に見えるようにするんだ。切ったり失くしたりしないから安心してくれ。あとナルルの服も新調して欲しい」
「んっふふー。聖ちゃんうちに頼りすぎ―。仕方ないな~、んじゃ張り切っちゃうぞ」
星マークが出そうなウインクで春田に答える。
「うん、頼む」
コホンと咳払いすると、改めて部下を見渡す。
「ヤシャは滝澤さんの仕事に就いてもらう関係で外出が増えるから、家事全般をナルルに任せよう。ポイ子は…洗濯も掃除も不安が残るな……」
「だから申し上げている通り、いついかなる時でもお守りできるように警護を……」
「ポイ子はゴミ捨てな。月曜日と木曜日が可燃ごみで…てかあそこに曜日とごみの種類が描かれたチラシあるから確認してくれ」
リビング出入り口付近の壁に両面テープで張り付けたチラシが見える。
「マレフィアはもしもの時にみんなのカバーをしてくれ。ここでの常識はある意味俺より上だろうから、それは頼りにしている。というよりたまに動かす程度じゃないとお前は自分の役割をすぐにでも忘れそうだからな」
「ひどっ!そんな馬鹿にすることないじゃ~ん」
「馬鹿にしてない。事実を言っているんだ」
(そっちの方がひどい)話を聞いていた当事者を抜いた5人が一様に思った。
「……わらわたちが聖也の世話をするのに異論はないが、何かご褒美が欲しいのぅ」
「ご褒美ねぇ。それはいいけどあんま金がかかるのは……」
フンッと鼻を鳴らし、頭を振ると春田に視線を合わせる。
「わらわは聖也にしか興味がないでな。愛をくれるならなにもいらん」
「抽象的だな……とりあえずその辺は後々考えようぜ。時間が経てば欲しいものもできるだろ」
ナルルは春田の頭から足先まで隅々まで嘗めるように見た後で正面を向いて目を閉じる。
「それじゃおさらいだ。ヤシャは外で仕事、ナルルが家事全般、ポイ子はゴミ捨てとその他お手伝い。口に入るものには手を出すなよ。俺とマレフィアは気付いた時にカバーに入るって事でいい?」
「それじゃあナルルさんがかなりの負担じゃない?もっと細かく分類した方が負担も軽減されると思うけど?」
ニーナは横から口をはさむ。
「でも俺にも学校があるし、ヤシャはまだ日程は決まってないけど、結局外に出なきゃいけないだろうから、ポイ子とナルルとマレフィアが待機になる。ナルルは安全の確保の為にも専業主婦宜しく、この部屋にいてもらうつもりだから中の仕事をしてもらおうと思ってるんだよ」
「……専業主婦?」
それを聞いたナルルは目をパチッと開けて瞳を輝かせる。それを聞いたヤシャも瞳孔が開いたような目で春田を見る。
「……例えの話だぞ?まぁでも確かに家事全般は言いすぎたな、全部任せるよりも交代制にした方が良いかもしれない」
「何を言う聖也。わらわに全て任せるがいい。良き妻となりて寄り添おうではないか」
それを聞いた時ヤシャの目が鋭く光る。その目に気付いてナルルが見下した態度をとる。
「やきもちは見苦しいぞ?オーガの姫。ま、わらわが選ばれるのは当然の事よの……」
「調子に乗るなよナルル。ダークエルフの人質風情が……聖也の気まぐれで四天王になったくせに……」
両者オーラを纏い始める。一触即発の空気に口をはさんだのはポイ子だった。
「ヤシャ様。おやめください、それは私にも刺さります。ナルル様もです。あくまでも例えの話である事をお忘れなく」
オーラを纏ったままポイ子に目を向ける。焼けるような鋭い視線とオーラ。聖也は恐怖のあまり縮こまる。それに臆することなくポイ子が続ける。
「……聖也様はまだ学生です。いずれお決めになられるでしょうし、一人に絞る必要がありますか?」
それを聞いた時のヤシャの表情とオーラの変化は顕著だった。「あっ」と何かに気付いたような顔で目を真ん丸にしてオーラも消える。
「そ、そうだな……急ぎすぎた。聖也が成人になってからでも遅くはない……」
その様子にアリシアがゲームを一時停止して振り向く。
「マジで、何でそんなのが良いのよ?教えてよ」
「……あのなぁ、俺だって傷つくんだぞ?そういうの聞くのは本人のいない所でやってくれないかな……」
「なによ、気になんないの?自分に対する評価のことなんだから聞いて損はないでしょ?」
一理ある。しかし、嫌がる相手にわざわざ聞かせるのはどうかとも思う。ツッコむとへそを曲げそうなので黙認する。
「アリシア。聖也は外見ではなく中身にある。理解しろとは言わんが言葉を慎め」
ヤシャはバシッと言い放つ。外見に自信がないだけにここまではっきりと”中身が……”と言われるのはなんか嬉しい。
「そっか、中身はあんたらの大好きな魔王だもんね。そりゃそうか」
この世界の人間的観点から見ていたせいでちょっと感動していたが、考えてみれば中身を追ってこの世界まできたんだから当然である。ほんの少し肩を落とすが、どんな姿になってもついてきてくれる部下は誇らしかった。
そしてアリシアは何食わぬ顔でゲームを再開する。
「……俺さ、今日予定あるからお昼にでも出ようと思ってるんだよね。だからお昼は好きにやってくれ。ナルル早速頼むよ」
スッと頭を下げる。
「マレフィア。すまないけどナルルの耳と服を頼む」
「は~い」
「ヤシャはポイ子と買出しに行ってくれ。決してポイ子に食品を触らせない様に…って、そういえば前にポイ子だけで買い出しに行ってたけど、あれは食い物じゃないよな?」
「牛乳と食パン買いました」
「二度とするな」
「はい……」
しゅんとするポイ子。これぐらい強めに言わないとすぐに同じことをするので、ここだけは確実に否定しておく。少し心が痛いが、叱るのも支配者の務め。
「アリシアとニーナはとっとと帰れよ。それじゃ解散」
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