魔王復活!

大好き丸

文字の大きさ
上 下
77 / 151

第七十六話 特異能力

しおりを挟む
「それは聖也様の放つオーラによるものじゃないかと思いますが?」

「……オーラだって?」

帰宅途中、自分の境遇についてポイ子に聞いたところ、とんでもない答えが返ってきた。

無言で歩くのも変な感じだったので、話題に困った春田は最近気になっていた事を口にしたのだが、まさか答えが返ってくるとはつゆ程も思わず驚いた。

「私たちが聖也様を常に知覚できるのは、当時の魔王様の気配を辿っているからなんです」

その話はポイ子がやって来た日に聞いている。

「え……常に知覚できるのか?」

「ええ、常にです」

自分の知らぬところで、元の世界からやって来た部下たちに常日頃から居場所を把握されていた。「探れば」とか「気にすれば」とかの労力は要らないらしい。特に隠していることがないので構わないが、プライバシーなどなかったのだとふと思う。

「俺には特異能力とかそういうの無いのに……」

全てが常人レベルで平均的な春田には、そんな意味の無さそうな能力でも欲しかったと子供のようにブー垂れてしまう。

「何をおっしゃいます?特異能力なら既に持ってるじゃないですか。周りから慕われるカリスマという能力が」

「それこそ何言ってんだよ……カリスマなんざあるわけがないだろ」

英雄、または宗教などの教祖や国の王様などに備わる求心力の事だ。人々を魅了し心酔させる事が出来る力。
それがあるなら何故今まで白い目で見られたり、出身地を離れて独り暮らしをしつつ、人の目を気にする必要があるというのか?

「私たちがこの世界に来たことで何かが変化しているのではないでしょうか?」

「……劇的な変化と言えば、マレフィアが魔法で認識改変をしたのが最近の事だが……その前から関わりがあるしなぁ……」

ポイ子は顎に手を当て、俯き加減で考えてみる。思ったより早く閃いたようにハッとなって春田に向く。

「……これはあくまで予想なのですが、私が来た事で希薄だった聖也様の存在を、浮き立たせてしまった可能性があります」

「……つまり……どういう事だ?」

ポイ子は手の中に何も持っていなかったが、突然リンゴを出現させる。

「これは何でしょうか?」

クイズ形式で春田に聞いてくる。

「リンゴだな」

「正解です。食べます?」

「いらない。毒だし……」

その問いには常識とでも言わんばかりに即答を決める。

「その通り。一見リンゴでも中身は違います。これは私の体の一部を使って複製したリンゴもどきです。人が食せばまず間違いなく死ぬでしょう。しかし、これを知るのはこの世界に3人しか存在しません。聖也様とマレフィア様、そしてヤシャ様だけが知りえる情報なのです」

当然だ。というよりそれ以外が知っていたら不味い。

「……それで?」

ポイ子の言っている事の真意が聞きたくて先を促す。

「先ほども言いましたが、これは私の体の一部。リンゴの体を成していても中身は粘性の液体であり、おまけに毒持ちです。これを他人が何らかの方法で知ってしまったらどうでしょうか?一般的回答をすれば、触れるのも危険であると思うでしょう」

頷きながらポイ子を見る。ポイ子は春田に目を合わせたあと、自分の右手に乗ったリンゴ擬きに視線を移す。

「ならば一部だけを知ってしまったらどうでしょうか?このリンゴはリンゴ擬きであり、中身はスライムであるとか……この世界の常識ではあり得ない事が目の前で起こり、何のコーティングもしていないのに形が固定されているリンゴ擬き。毒があると知らなければ、不用心だとしても触って確認してみようという気になりますよね?」

「それはまぁ……確かに」

客観的に考えれば、そんなものがこの世に存在するなどあり得ない事だ。中身が粘性の液体だなんて、普通の人間の感性なら味も気になる事だろう。目の前のリンゴ擬きは食べたくないが、ゼリーを食べたくなった。

「聖也様と私が出会うまでの17年間。このリンゴ擬きの様に、みんなは聖也様の中身を知らぬまま接してきたことになります。このタイミングで人が集まりだした事実を考えれば、中身を周知する私と出会ったことによりしたのではないか、と考えたわけです」

「えっと……つまり前世の俺が魔王だったと知っている奴なんてこの世界にいないから爪弾きになっていたが、魔王だと知っている部下がやってきて俺と邂逅した事で、みんなが気にし始めたって事か?でもお前が創造したその擬きの様に、当人たちが知っていても結局他人は知らないだろ?」

ポイ子はふふんと鼻を鳴らす。

「だからここで、あえてという言葉を用いたんです」

リンゴを手に包むと何もなかったように消えてなくなった。

「話題の最初にも出ましたが、特異能力という言葉。私たちは聖也様を常に感じ取り、場所を特定できます。これは体力や時間、その他一切の事に関わらず自然に行えるのです。聖也様の隠されていた能力は知ってもらう事で初めて発揮されるのではないかと想像します」

子供の頃、散々魔王だ何だと言ってきたが、それが真実でも嘘だと捉えられ、相手にもされず頭のおかしい子認定され続けた。ポイ子の言う事が正しければ「知っている」事、つまりは心から信じてもらう事が、何か自分でも制御不可能な気配の放出に関わっているのだ。と、こう言いたいわけだ。

タイミングの合致を考えればあながち間違いではないような気もするが、今更こんな能力が覚醒されたとしたら迷惑なだけである。まだ魔王を吹聴していた頃に備わっていれば、その求心力で王様を目指したかもしれないが、心をへし折られ、色々知ってしまった現在では無用の長物である。今となってはそんな気分1mmたりとも残っていない。

「……てことは……俺が今後、他人に関わったら、なんか知らないうちに親しくなるって事なのか?」

「あくまでも私の想像のお話なので断言できませんが、もし聖也様がこれ以上人間の部下が欲しくないなら、関わらないのが良いと思います」

突拍子もない事だが否定はできない。というより最初こそ否定していたがこの考えの方がしっくりくる。自分の隠し能力が制御不可能な求心力だとするなら今すぐ彼方に投げ飛ばしたいところだが、元魔王である自身の魂にくっ付いてきた能力である可能性が高いので諦めるしかない。それともう一つ。

「あいつらは部下じゃないぞ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン
ファンタジー
領地には魔物が溢れ、没落を待つばかり。 【伯爵家に逆らった罪で、共に滅びろ】 そんな未来を回避するために、悪役だった男が奮闘する物語。

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...