魔王復活!

大好き丸

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第七十四話 交友関係

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『お前の事が……好きだ』

男は女を抱きしめ、重厚な心に染みわたるBGMが流れる。
驚きのあまり声の出せない彼女は抱きしめられるままに男に身を任せる。その内、段々実感して来たのか、目を閉じ、右頬に一筋の涙が零れ落ちる。彼女は男の背中にそっと両手を置くと抱き合って、お互いを意識しあう。

『俺はここにいる……お前を絶対に離さないから……』

ここに至る過程で起こった流れを汲み、彼女に愛を囁く。彼女も『うん…うん…』と感無量に頷く。まだあまり時間も経っていないのに、お互いを意識しあう二人はこれからの困難を考えて、感情を共有する。

男と彼女、どちらからともなく顔を見つめ合うと、互いの唇を重ね、さらに盛り上がるBGMで視聴者の心を揺さぶる。話的にも「ここからどうなるんだ!?」という所で、チャイムが鳴る。

映画に入り込んでいた生徒たちはせっかくの感動を台無しにされて不満顔となる。名残惜しいがここまでだ。ピュアなキスシーンを終えて、5限目が終わった。

6限目に向けて各々のタイミングで戻る中、虎田は春田と顔を合わせる事無く、木島たちをも置いて、さっさと教室から出ていった。

顔こそ見えなかったが赤く染まった耳はポニーテールに結った両サイドからバッチリ見えていたので、恥ずかしさのあまり脇目も降らず逃げた形となった。

そんな虎田の行動を見て、ただ事ではないと3人は後を追った。竹内はマイペースに「じゃ、後で」といって春田を待つこともなく行ってしまった。次の授業もあるので、クラスメイトも三國も早々に視聴覚室から出た。

春田は一人残り、ゆっくりと席から立つ。
結局最後まで観られなかったが、春田はこの恋愛映画に以外にも少し感動していた。

(結構良い話だったな……)最初こそ虎田と竹内が変な身じろぎや、身を乗り出すほど真剣な目で食い入るように見ていたので怖かったが、話に入っていくと二人の反応になるほどと納得せざる終えなかった。

(映画は時間を食うからあんまり観ないけど、面白いのがあるもんだなぁ)

読書などで時間を潰す春田にとって、テレビで流す映画関連や映画館で観る映画など、時間の余裕がなければ観られない上に、映画館に関しては結構値がはるので、観に行くのにも覚悟がいるくらいに思っていた。

(気晴らしに観に行くのも有りなのかも……)と映画に対する評価が改まったころ教室を出る。

出た直後、この場で聞くことの無い親近感ある声に呼び止められた。

「お疲れ様です聖也様」

思わず「ただいま」と言ってしまいそうなこの声は……。

「待て、何でお前がここにいるんだ?ポイ子」

春田が振り替えると、そこには学校指定の制服を着込んだポイ子が立っていた。私服の時はお姉さんっぽさが出ていたが、制服を着るとそれなりに見えてくるのだと心の隅で感じた。

「聖也様のご活躍をこの目で見たいと思いまして、勝手ながら馳せ参じました」

「馳せ参じるな……大方暇になったから出てきたんだろうが、学校に来るのはご法度だろうが」

春田は大きくため息をつくと周りを見渡す。

「まだ誰も見てないし、今からでも大人しく帰れ。見つかると面倒だろうが……」

ポイ子はふふっと笑うと周りを見渡す。

「誰も気にする人なんかいませんよ~。聖也様は周りに対して敏感すぎです。もう少し堂々とされてみては?」

春田の気も知らず呑気なことだ。

「いいか?俺がここまで言うのは全部自分のためだ。周りなんてどうでも良い。とにかく目立たないようにしたいの。分かる?」

「はーい分かりました。目立たぬよう学園を散策しまーす!」

全然分かっていない。ポイ子がどうにかなる筈などあり得ないので、「面倒事は起こすなよ」と釘を刺す事にした。

「あ、そうだ。俺の教室は2階の…って知ってるよな。前にのぞき込んでたし……生徒がぞろぞろ帰り始めた頃にそこに来い。お前が来るまで放課後は居残ってやる」

「はーい。聖也様やさしー!」といって走った。

「廊下は走んな」

その言葉に即座に反応し、強歩に形を変えてさっさと行ってしまった。

「……あいつ自由すぎるだろ……」

はぁ……っとため息をついて教室に戻ろうと振り返ると、滝澤が立っていた。

「春田さんこんにちは」

間髪入れずに挨拶が飛んできたので、心臓が止まりそうな程ビビったが、すぐに冷静さを取り戻す。

「あ、ああ……ここ、こんにちは」

まったく冷静ではなかった。

「先程誰かと話されていましたが、ポイ子さんではございませんでしたか?あの方はこの学園の生徒だったのですね」

(覚えていたか……)昨日の今日であれだけのインパクトを植え付けられれば覚えていても不思議ではない。ここで春田は正直に話すか嘘を吐くべきか悩む。正直に話すなどあり得ないので、嘘を吐くことにした。

「そ、そうなんですよ。実はあいつはこの学園の生徒なんです。また会う事があったら、よかったら声をかけてやってくださいねー。はは……」

ちょっと早口になりながら、捲し立てるように伝える。その焦りを見抜いてか、滝澤は目を細めて、春田を見る。不思議なもので、それだけで鋭い眼光の様に見えてしまう。カリスマのある人物は一つ一つの所作が何故だかすごく見えてしまうのだろう。

前世は崇められていたが、こういったことが起因しているのかもしれない。

「分かりました。見かけたら挨拶いたします」

多分嘘だと見破られているが、事情を察してくれたようで、ぺこりと一礼すると、踵を返して教室に戻っていった。ホッと一息つくと、自分も教室に戻る。教室に入ると、虎田の周りに木島たちが集まり、にぎやかにしていた。

(まったく……無粋な奴らだぜ……)

顔を赤くしたピュアな虎田を囃し立てているに違いない。これでは弁当を隠したがったのも納得がいくというものだ。春田は少し避けて、奥の自分の席に座る。それに気づいた木島は春田に蔑むような、汚いものを見るような目を向けた。

その視線を感じ取った春田は(え?何でこんな目で見られているんだ?)と不安を感じる。

春田が帰ってきたことで木島は早々に虎田への介入を止めて自分の席に戻る。残り二人もその異様さを不思議に思いつつ、木島の席に向かった。

「……木島ってさ、何か面倒な奴じゃない?」

竹内は虎田の感じている気持ちや、抱えている思いを「楽になるから」という文言で、無粋に聞き出そうとしていた木島を思い出しつつ春田に伝える。

「やっぱりそうか……」

思った通り木島たちは虎田を囃し立て、面白がっていた。虎田は真面目の委員長。木島たちはどちらかと言えばギャル。本来なら相容れない間柄だ。

しかし不思議なもので、何で今まで上手いこと機能していた彼女たちの関係が拗れたのか。春田はふわっとその答えに辿り着く。

(まさか……木島たちの元から離れたいのか?)

相容れないのに無理して関係を続けた結果、虎田は春田に癒しを求めた可能性がある。どうにも噛み合わない部分が気持ち悪く、何かしら悩みがあるが言い出せないとかかもしれない。

自分の考えが正しいなら解放してあげるべきだろうが、ここで聞いたら木島たちと同じ無粋な奴らに成り下がる。それに本当にそうなのかは虎田のみぞ知るところであり、春田の考えこそが勘違いなら馬鹿を見るどころか中学時代より酷いことに成りかねない。

春田は相談できる相手もいないので、一人悶々とそのことについてを考える。

答えが出ないまま授業が開始され、中学以来、久しぶりに授業で集中できない6限目となった。
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