魔王復活!

大好き丸

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第六十八話 疑問×2

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「春田聖也ー!!」

その声は二時限目の終わった休憩時間、廊下に大きく響いた。

春田はこの学園に同じ名前がない事を頭で反芻しながら確認し、そしてその声の主が滝澤の付き人兼、護衛をしている菊池の声である事が分かる。
何故自分の名前が呼ばれたのか分からなかったが、どうも穏やかではない。このまま留まるべきか、隠れるべきかを模索する。肉体のステータスはおそらくこちらの方が上だが、技や、暴力に関するたがが外れている暴力装置に向き合えば無傷では済まないかもしれない。

「……何したの?」

「いや、知らん」

思い返してみても菊池に関して、何をしたのかは分からない。
昨日滝澤と一緒にお茶したことが気に障ったのか?

菊池とは友達協定を結んでいるので、殴られたりしないだろうが絶対ではない。
それというのも廊下中に響く声で、聴き間違いでなければ、自分の名前を呼び、その声質が暴力性をはらんでいる。普通に対処する事だってもちろん可能だが、対面はまずいかもしれない。教室内でも注目が集まり出す。

「……どうすんの?」

「あんな大声で迷惑ね。ちょっと注意しようかな」

「待った待った。しょうがない……俺が直で話を付けよう」

「やれやれ」といった感じで立ち上がる。教室を出ると、菊池がズンズンこっちに向かって歩いてきた。滝澤はいない。(まともに護衛が出来てないんじゃないか?)と心配してやるが、そんな気持ちなど届きようもない。

菊池は春田の目の前に立つと、ぐっと顔を近づけてきた。

「どういうことか説明してくれ」

「……ん?何について?」

「昨日お兄様と詩織様に多大なるご迷惑をかけたそうじゃないか?」

昨日と言えば、カフェでお茶した後、ホテルのビュッフェを荒らした事を思い出す。

「待てよ、誤解がある。俺は滝澤さんの厚意を受け取っただけだ。それ以上でもそれ以下でもない」

「受け取ったのが問題だろう」

言いたいことは分からなくもない。あれだけ飲んで喰ってして、東グループ系列を荒らしたんだ。滝澤の手前、菊池の兄は許したが、菊池は腹に据えかねたのだろう。
滝澤が言わないなら自分が言ってやろうと意気込んできたのだろうか?正に忠犬といった風だ。

「分かった。悪かったよ……今後は注意する事にする。これでいいか?」

「……なんかテキトーだな。それに反省がない。お前の事は今後も監視させてもらうからな」

「監視って……俺たちは友達じゃないか。その必要があるのか?」

指を突き出して春田の胸を突く。

「ある!」

勢いのついた指先は春田の胸筋にわずかながらのダメージを与える。
衝かれた個所を擦ると、「今後は身の振り方を考えて……」とクドクド説教が始まった。
困惑していると、何度も出てくる「お兄様」の単語が気になった。

「……おい聞いてるのか?」

「気になったんだが、菊池って良いとこの出なのか?」

”良いとこの出”というのがどういうことなのか分からない菊池は頭に疑問符を浮かべる。

「兄弟揃って滝澤さんのお付きだったり、兄の事を”お兄様”って……」

指摘された菊池は顔を真っ赤にして後ずさる。
無意識に口に出てしまっていた事に気付いて口を押えそうになるが、我慢して頭を振る。

「とと……とにかく!警告はしたからな!」

と言いながらそそくさと踵を返して春田から離れて行った。
(面倒な奴だ)滝澤の事となると自分を見失う。そのせいで言葉尻を取られて、恥ずかしい思いをするんだ。

「しかし、単独行動が目立つな……」

「自分の部下の様に命令に従事しろ」とまでは言わないが、少しは見習うべきだなと上司の立場から思う。

「……あいつら今なにしてるかな?」

ぼんやりそんなことを思っていると、虎田が教室から顔を出した。

「大丈夫だった?あの菊池さんに目を付けられるなんて…いや、滝澤さんに近付くなら彼女の存在は避けられない……」

「何か知っているのか?」

「知ってるも何も、1年の頃、無茶苦茶やってたじゃない。菊池さんが滝澤さんに近付く男性を拳一つで解決した話は有名よ?だから誰も近付けなかったんだけど、最近唐突に春田くんが友達宣言して、しかも滝澤さんも承知の上だというから誰もが驚いたのよ?」

1年の時は他人の事などどうでも良かった春田には寝耳に水の話だ。

「待った。あんな美人なんだぞ?囲ってる男の1人や2人この学園にだっているだろ?」

「ファンは何人かいるだろうけど、聞いたことないよ?」

滝澤に対する周りの反応が何故あそこまで過敏だったのかがようやくわかった。
学園外には何人かいるのかもしれないが、学園内で公に友達宣言をしたのは春田だけのようだ。
菊池兄の反応からすると、同レベルの家の子とは一緒にいても、平民の男友達を同行させたのは初めての事なのかもしれない。

(木島の時と一緒だな…いや、滝澤さんの時と木島の時が一緒だったんだ)関わった以上どうする事も出来ないが、二人に共通する事は何らかの琴線に触れてしまったと言う事。

だが、備えようがない。木島の時もそうだが、名前を呼んだだけで目を付けられた。
この調子なら、目が合ったというだけで付きまとわれるようになるのも時間の問題だ。

(ま、どうしようもない)結局そこに立ち返る。
起こる事を未然に防ぐなど、預言者でも不可能だ。ならばなるようにしかならないと、どこ吹く風を気取るのが精神安定に丁度いい。

「……その話をもう少し聞かせてもらおうかな」

春田は虎田の肩を持って、教室に入るよう促す。その様子を見ていた木島は苛立ちを募らせるのだった。
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