69 / 151
第六十八話 疑問×2
しおりを挟む
「春田聖也ー!!」
その声は二時限目の終わった休憩時間、廊下に大きく響いた。
春田はこの学園に同じ名前がない事を頭で反芻しながら確認し、そしてその声の主が滝澤の付き人兼、護衛をしている菊池の声である事が分かる。
何故自分の名前が呼ばれたのか分からなかったが、どうも穏やかではない。このまま留まるべきか、隠れるべきかを模索する。肉体のステータスはおそらくこちらの方が上だが、技や、暴力に関する箍が外れている暴力装置に向き合えば無傷では済まないかもしれない。
「……何したの?」
「いや、知らん」
思い返してみても菊池に関して、何をしたのかは分からない。
昨日滝澤と一緒にお茶したことが気に障ったのか?
菊池とは友達協定を結んでいるので、殴られたりしないだろうが絶対ではない。
それというのも廊下中に響く声で、聴き間違いでなければ、自分の名前を呼び、その声質が暴力性をはらんでいる。普通に対処する事だってもちろん可能だが、対面はまずいかもしれない。教室内でも注目が集まり出す。
「……どうすんの?」
「あんな大声で迷惑ね。ちょっと注意しようかな」
「待った待った。しょうがない……俺が直で話を付けよう」
「やれやれ」といった感じで立ち上がる。教室を出ると、菊池がズンズンこっちに向かって歩いてきた。滝澤はいない。(まともに護衛が出来てないんじゃないか?)と心配してやるが、そんな気持ちなど届きようもない。
菊池は春田の目の前に立つと、ぐっと顔を近づけてきた。
「どういうことか説明してくれ」
「……ん?何について?」
「昨日お兄様と詩織様に多大なるご迷惑をかけたそうじゃないか?」
昨日と言えば、カフェでお茶した後、ホテルのビュッフェを荒らした事を思い出す。
「待てよ、誤解がある。俺は滝澤さんの厚意を受け取っただけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「受け取ったのが問題だろう」
言いたいことは分からなくもない。あれだけ飲んで喰ってして、東グループ系列を荒らしたんだ。滝澤の手前、菊池の兄は許したが、菊池は腹に据えかねたのだろう。
滝澤が言わないなら自分が言ってやろうと意気込んできたのだろうか?正に忠犬といった風だ。
「分かった。悪かったよ……今後は注意する事にする。これでいいか?」
「……なんかテキトーだな。それに反省がない。お前の事は今後も監視させてもらうからな」
「監視って……俺たちは友達じゃないか。その必要があるのか?」
指を突き出して春田の胸を突く。
「ある!」
勢いのついた指先は春田の胸筋にわずかながらのダメージを与える。
衝かれた個所を擦ると、「今後は身の振り方を考えて……」とクドクド説教が始まった。
困惑していると、何度も出てくる「お兄様」の単語が気になった。
「……おい聞いてるのか?」
「気になったんだが、菊池って良いとこの出なのか?」
”良いとこの出”というのがどういうことなのか分からない菊池は頭に疑問符を浮かべる。
「兄弟揃って滝澤さんのお付きだったり、兄の事を”お兄様”って……」
指摘された菊池は顔を真っ赤にして後ずさる。
無意識に口に出てしまっていた事に気付いて口を押えそうになるが、我慢して頭を振る。
「とと……とにかく!警告はしたからな!」
と言いながらそそくさと踵を返して春田から離れて行った。
(面倒な奴だ)滝澤の事となると自分を見失う。そのせいで言葉尻を取られて、恥ずかしい思いをするんだ。
「しかし、単独行動が目立つな……」
「自分の部下の様に命令に従事しろ」とまでは言わないが、少しは見習うべきだなと上司の立場から思う。
「……あいつら今なにしてるかな?」
ぼんやりそんなことを思っていると、虎田が教室から顔を出した。
「大丈夫だった?あの菊池さんに目を付けられるなんて…いや、滝澤さんに近付くなら彼女の存在は避けられない……」
「何か知っているのか?」
「知ってるも何も、1年の頃、無茶苦茶やってたじゃない。菊池さんが滝澤さんに近付く男性を拳一つで解決した話は有名よ?だから誰も近付けなかったんだけど、最近唐突に春田くんが友達宣言して、しかも滝澤さんも承知の上だというから誰もが驚いたのよ?」
1年の時は他人の事などどうでも良かった春田には寝耳に水の話だ。
「待った。あんな美人なんだぞ?囲ってる男の1人や2人この学園にだっているだろ?」
「ファンは何人かいるだろうけど、聞いたことないよ?」
滝澤に対する周りの反応が何故あそこまで過敏だったのかがようやくわかった。
学園外には何人かいるのかもしれないが、学園内で公に友達宣言をしたのは春田だけのようだ。
菊池兄の反応からすると、同レベルの家の子とは一緒にいても、平民の男友達を同行させたのは初めての事なのかもしれない。
(木島の時と一緒だな…いや、滝澤さんの時と木島の時が一緒だったんだ)関わった以上どうする事も出来ないが、二人に共通する事は何らかの琴線に触れてしまったと言う事。
だが、備えようがない。木島の時もそうだが、名前を呼んだだけで目を付けられた。
この調子なら、目が合ったというだけで付きまとわれるようになるのも時間の問題だ。
(ま、どうしようもない)結局そこに立ち返る。
起こる事を未然に防ぐなど、預言者でも不可能だ。ならばなるようにしかならないと、どこ吹く風を気取るのが精神安定に丁度いい。
「……その話をもう少し聞かせてもらおうかな」
春田は虎田の肩を持って、教室に入るよう促す。その様子を見ていた木島は苛立ちを募らせるのだった。
その声は二時限目の終わった休憩時間、廊下に大きく響いた。
春田はこの学園に同じ名前がない事を頭で反芻しながら確認し、そしてその声の主が滝澤の付き人兼、護衛をしている菊池の声である事が分かる。
何故自分の名前が呼ばれたのか分からなかったが、どうも穏やかではない。このまま留まるべきか、隠れるべきかを模索する。肉体のステータスはおそらくこちらの方が上だが、技や、暴力に関する箍が外れている暴力装置に向き合えば無傷では済まないかもしれない。
「……何したの?」
「いや、知らん」
思い返してみても菊池に関して、何をしたのかは分からない。
昨日滝澤と一緒にお茶したことが気に障ったのか?
菊池とは友達協定を結んでいるので、殴られたりしないだろうが絶対ではない。
それというのも廊下中に響く声で、聴き間違いでなければ、自分の名前を呼び、その声質が暴力性をはらんでいる。普通に対処する事だってもちろん可能だが、対面はまずいかもしれない。教室内でも注目が集まり出す。
「……どうすんの?」
「あんな大声で迷惑ね。ちょっと注意しようかな」
「待った待った。しょうがない……俺が直で話を付けよう」
「やれやれ」といった感じで立ち上がる。教室を出ると、菊池がズンズンこっちに向かって歩いてきた。滝澤はいない。(まともに護衛が出来てないんじゃないか?)と心配してやるが、そんな気持ちなど届きようもない。
菊池は春田の目の前に立つと、ぐっと顔を近づけてきた。
「どういうことか説明してくれ」
「……ん?何について?」
「昨日お兄様と詩織様に多大なるご迷惑をかけたそうじゃないか?」
昨日と言えば、カフェでお茶した後、ホテルのビュッフェを荒らした事を思い出す。
「待てよ、誤解がある。俺は滝澤さんの厚意を受け取っただけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「受け取ったのが問題だろう」
言いたいことは分からなくもない。あれだけ飲んで喰ってして、東グループ系列を荒らしたんだ。滝澤の手前、菊池の兄は許したが、菊池は腹に据えかねたのだろう。
滝澤が言わないなら自分が言ってやろうと意気込んできたのだろうか?正に忠犬といった風だ。
「分かった。悪かったよ……今後は注意する事にする。これでいいか?」
「……なんかテキトーだな。それに反省がない。お前の事は今後も監視させてもらうからな」
「監視って……俺たちは友達じゃないか。その必要があるのか?」
指を突き出して春田の胸を突く。
「ある!」
勢いのついた指先は春田の胸筋にわずかながらのダメージを与える。
衝かれた個所を擦ると、「今後は身の振り方を考えて……」とクドクド説教が始まった。
困惑していると、何度も出てくる「お兄様」の単語が気になった。
「……おい聞いてるのか?」
「気になったんだが、菊池って良いとこの出なのか?」
”良いとこの出”というのがどういうことなのか分からない菊池は頭に疑問符を浮かべる。
「兄弟揃って滝澤さんのお付きだったり、兄の事を”お兄様”って……」
指摘された菊池は顔を真っ赤にして後ずさる。
無意識に口に出てしまっていた事に気付いて口を押えそうになるが、我慢して頭を振る。
「とと……とにかく!警告はしたからな!」
と言いながらそそくさと踵を返して春田から離れて行った。
(面倒な奴だ)滝澤の事となると自分を見失う。そのせいで言葉尻を取られて、恥ずかしい思いをするんだ。
「しかし、単独行動が目立つな……」
「自分の部下の様に命令に従事しろ」とまでは言わないが、少しは見習うべきだなと上司の立場から思う。
「……あいつら今なにしてるかな?」
ぼんやりそんなことを思っていると、虎田が教室から顔を出した。
「大丈夫だった?あの菊池さんに目を付けられるなんて…いや、滝澤さんに近付くなら彼女の存在は避けられない……」
「何か知っているのか?」
「知ってるも何も、1年の頃、無茶苦茶やってたじゃない。菊池さんが滝澤さんに近付く男性を拳一つで解決した話は有名よ?だから誰も近付けなかったんだけど、最近唐突に春田くんが友達宣言して、しかも滝澤さんも承知の上だというから誰もが驚いたのよ?」
1年の時は他人の事などどうでも良かった春田には寝耳に水の話だ。
「待った。あんな美人なんだぞ?囲ってる男の1人や2人この学園にだっているだろ?」
「ファンは何人かいるだろうけど、聞いたことないよ?」
滝澤に対する周りの反応が何故あそこまで過敏だったのかがようやくわかった。
学園外には何人かいるのかもしれないが、学園内で公に友達宣言をしたのは春田だけのようだ。
菊池兄の反応からすると、同レベルの家の子とは一緒にいても、平民の男友達を同行させたのは初めての事なのかもしれない。
(木島の時と一緒だな…いや、滝澤さんの時と木島の時が一緒だったんだ)関わった以上どうする事も出来ないが、二人に共通する事は何らかの琴線に触れてしまったと言う事。
だが、備えようがない。木島の時もそうだが、名前を呼んだだけで目を付けられた。
この調子なら、目が合ったというだけで付きまとわれるようになるのも時間の問題だ。
(ま、どうしようもない)結局そこに立ち返る。
起こる事を未然に防ぐなど、預言者でも不可能だ。ならばなるようにしかならないと、どこ吹く風を気取るのが精神安定に丁度いい。
「……その話をもう少し聞かせてもらおうかな」
春田は虎田の肩を持って、教室に入るよう促す。その様子を見ていた木島は苛立ちを募らせるのだった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、pixivにも投稿中。
※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。
※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる