魔王復活!

大好き丸

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第五十四話 滝澤

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今日は何事もなく、校門の前までやって来た。

昨日は恐ろしいほど時間がかかっていたが、ここまではひとまず何もない。
悠々と校門を抜けると、声をかけられた。

「あら?こんにちわ、春田さん。今お帰りですか?」

この丁寧な挨拶は間違いなく滝澤だ。顔を見なくても分かる。

「滝澤さん」

その名前を告げた後、振り返ると案の定そこには気品に満ち溢れるお嬢様が佇んでいた。

「まだ送り迎えの車が来てないみたいですね」

「ええ、まぁ今日は意図的に遅らせたのですが……」

「?」春田が疑問に思っていると、

「今日は何かご用事がございますか?」

それこそ疑問だった。春田の用事が滝澤と何の関係があるのか?ちょっと考えてみる。

「特に……てか、帰るだけですし?どうかしました?」

滝澤は眉をちょっと上げると、ふんふん頷いて、口を開いた。

「なら、わたくしと一緒に帰りませんか?」

いつぞや聞いた下校時の文句。しかし、

「いや、滝澤さんとは逆方向ですから。一緒には帰られませんよ」

この問答は昨日の時点で終了していたと思ったが、そうではなかったようだ。一応、丁重にお断りをいれる。

「まぁそう仰らないで、お送りいたしますから一緒に下校しましょう」

ズイッと覗き込む。

「ええ?あ、はい……」

昨日とは違う圧に気圧され、後ずさりながらも、頷いてしまう。(いや、ダメだろ……皆待ってんのに……)と思うが既に遅い。頷いてしまったからには約束を履行しないことには寝覚めも悪い。
結局、諦めて二人で車を待つことに。

その空気を不思議に思っている生徒たちがチラチラ見ながら帰っていく。(見ないでくれ……)と心から思う。下校まで注目の的なんて考えたくもない。昨日の事がフラッシュバックし、言い知れぬ面倒臭さが去来する。

そこに、さっき教室で別れた虎田と木島が二人で現れた。休憩時間中に集まっている残りの二人の姿は見えないが、楽しそうに喋っていた。

春田と滝澤が並んで立っているのをチラリと確認した後、二度見して虎田が止まりかける。木島が手を引っ張ってその場を後にした。(なんだその反応は……)声でもかけてくれれば少しは間も持っただろうに……。

「……春田さんは無口ですね」

滝澤を見ると、隠れていない左目でチラリと春田を伺う。確かに、色々考えていたが間も何も、一言も喋ってなかった。

「……いや、えーっとぉ……」

(例えば何の話をするんだ?)何か簡単にお喋りできる共通のネタ。天気、季節、風景?友達、科目、先生?それとも服、食べ物、遊び?
考えれば様々出てくるものの、この中のジャンルを選ぶのは自分でいいのか、滝澤に任せるべきか、また考える。

結局、何も喋らず、ハッキリしないまま、送迎の高級車が到着した。
普通ならここで、「また明日ー」と別れるところだが、今日はそうはいかない。

執事が颯爽と降りてきて、一礼をした後、ドアを開ける。まだ若いタキシードの執事はすらっとした長身で、細身。髪をオールバックに固めた、清潔感あるインテリヤクザという感じだ。

「お疲れ様です」と昨日と同じように一言。「ご苦労様」と乗り込む。
場違いな春田は乗れないままあたふたしていた。このまま乗ってもいいのだろうか?乗ろうとした時、突然バンと目の前でドアを閉められないだろうか?など考えていると、

「どうされました春田さん?早くお乗りになって」

ドアを開いたまま膠着した空気を滝澤が砕く。(それだよ。それを待っていた)

「あ……す、すぐに乗ります」

普通に生活していたら間違いなく乗れなかっただろう高級車。しかも、ドライバーに開けてもらっているなんて、リムジンタクシーでも呼んだ気分だ。ドキドキしながら乗り込む。車内は天井が高く、横にも広い。ふかふかの座席は高級車の特権と言わんばかりだ。外で見るのと、乗ってみるのでは、印象が全然違うものだと改めて思う。

「菊池。このまま町に行きなさい」

「承知いたしました」

(菊池?)バックミラー越しに目が合う。
その目は学園内で見た彼女の目と同じだった。

(なるほど。菊池はそういう家系なのか……)おそらくは兄であろうその男は、二人を乗せて発進させた。

「……て、何で町?帰らないんすか?」

「良いじゃないですか。ちょっと楽しみましょう♪」
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