魔王復活!

大好き丸

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第四十八話 席替え

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春田はこの現状を窮屈に感じていた。

席替えにより、窓際の一番奥の席に追いやられた。真面目に授業を受ける春田は、特に一番前だろうと真ん中だろうとどこでも良かったわけだが、決まったことに対して否定、拒否ができる程コミュニケーション能力が高くない。
何よりくじ引きで、一番良いと言われる端っこの席をわざわざ「替えてほしい」なんて正気を疑われる。

仕方なしに享受するわけだが、ここまで面倒に思うには理由がある。それというのも隣が虎田で前が竹内なのだ。

竹内は春田の前になる事があらかじめ決まっていたので仕方ないとして、虎田に関しては、偶然だった。虎田が単なる真面目なら特に何も言うつもりは無いが、竹内と敵対関係にある上、隣になった後の圧がすごい。

何故か春田に対して、自分を売り込もうとしているいうか、休み時間になれば、竹内との会話に参加してこようとする。

竹内はなんで「会話に入って来るの?」というスタンスだったが、虎田が徐々に距離を詰め、竹内は半分諦めた態度を示す。春田はこの空気や距離感を掴めず、流されるがままに過ごす。

事が動いたのは3時限目の後の休み時間だ。

「……は、春田くん」

虎田が意を決したような表情を見せてこちらを見ていた。

「なに?」

いたって普通に返答するが、心では内心訝しんでいた。虎田は真面目で正義感が強く、悪い事は見過ごせないタイプの女子だ。菊池程じゃないが、やる事なす事、実直に行動している。だが、不穏な空気もいくらか持っている事も事実だ。

現国の三國に反発してみたり、竹内に絡んでみたり、危ない所に飛び込んでいったりメンタルの強さや、自分は間違ってないという絶対正義のスタンスを保っている。

誇るべきところだし、変えていく必要性など皆無だが、その正義の行動に付き合わされたことを忘れた日などない。

「俺を巻き込まないなら称賛する」という事だ。

この空気感はあの時以上の緊張を感じる。今度はゲーセンにたむろしている不良共を蹴散らしに行こうとか言われた日にはたまったものではない。何とか断る方向で頭を悩ませていると、

「今日さ……あの……お弁当、作って来たんだけど……いる?」

「いや、俺は……お弁当?」すぐ様、否定に入ろうとした春田の気持ちを打ち砕く内容だった。(お弁当を、作った?誰に?俺に?……んなわけない)

「……いいのか?作りすぎたとかそんな感じ?」

虎田は少し考えた後、頷く。

「ひ、久々にさ、自分で作ろうとか思ったら張り切って作りすぎちゃって……。いつものメンバーに囃されるのが嫌だから、もしよかったら処理してくれないかな~……なんて……」

(なるほど。そういう事か……)もうすぐ昼食。いつも飯食ってる面子で喰うつもりだったが、ギリギリまで悩んでやっぱり恥ずかしくなったという事なのだろう。

分かるような分からない話だが、昼食代が浮くのは願ってもない事だった。

「い、いやだったらいいんだけど……さ」

「い、いやいや!欲しい欲しい、頂戴頂戴。ありがとう、恩に着るよ。あ、今日遅れた理由ってもしかして作るのに夢中になってとか?」

春田は弁当を貰うべく手を出す。虎田は頭から蒸気が出る程に顔を赤くして、それでも何とか弁当を差し出す。(そんな恥ずかしいなら作らなきゃいいのに……)と思いつつ、受け取る。

弁当を包める程度の可愛い風呂敷に包まれた少し大きめの弁当箱。布地にはデフォルメされた犬と猫の柄が所々に印刷された実に女の子らしい物だった。

男が持つには恥ずかしいが、無地のイメージがある虎田の物だと思うと若干、クスリと笑顔になるくらい可愛かった。

「ありがとう。洗ってまた返すよ」

「うん……感想……聞かせてね」

虎田はそれだけ言うと突っ伏してしまう。滅茶苦茶恥ずかしそうだ。きっとバレるのも嫌なのだろう。春田はすぐにカバンの中に隠す。カバンの中で位置調整をしていると、

「……何してんの?」

トイレから戻ってきた竹内が春田の行動を訝し気に聞いてきた。「ん?」と顔を上げると、虎田がビクッと動いたのが目の端に映る。竹内も「え?」という感じで一瞬虎田を見たが、すぐに視線を戻す。

竹内が席から離れた瞬間を狙ったことを察する春田は、
つまりさっきの考えが正しいと確信する。

「そうだな……今日は弁当があってな。型崩れすると面倒だから位置調整してたんだ」

「意外だな……料理できるのか?」

「できなくはないぞ?朝、時間があったから、ちょこっと多めに……な」

「ふーん」と気のない返事をして席に座る。この間、虎田を盗み見ると未だ突っ伏して、顔を上げようとしない。

「……じゃあさ、アタシにも分けてよ」

「ええ~……俺の昼飯だぞ?」

「良いじゃん良いじゃん」と問答していると、虎田が突っ伏した机からスゥッと起き上がる。竹内を見据えると声を出した。

「私も一緒に食べていい?」
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