魔王復活!

大好き丸

文字の大きさ
上 下
43 / 151

第四十二話 切望

しおりを挟む
春田は何故か板挟みの状態に置かれていた。

無神経な高橋が菊池の神経を逆撫でし、菊池が喧嘩を売り、春田を中心に戦いが始まろうとしていた。かなり端折ったが10分近く拘束されては流石の春田も我慢の限界だった。

「おい!もうやめろ!二人が争って何になるんだ!」

睨み合う二人に横槍を入れる。

「はぁ?元はと言えば貴様が原因だぞ!」

ガッと胸ぐらを掴まれる。

「ちょちょ!落ち着け落ち着け……!」

「そうっすよ先輩。元はと言えばあんたのせい……らしい?よく分かんないっすけど、そういうことで……なんで喧嘩してるんすか?」

疑問を素直に菊池に伝える。菊池が興奮気味に高橋を見る。春田が原因だといったが、自分でもなんでこんなに怒ったか、言われてみればよく分からない。考えている内に頭が冷えてくる。

「……道場でのあの会話が、嘘だったから?」

自分でも疑問符が出てしまうくらいには困惑している。

「待て、嘘なんてついてない。すべて真実だ。この金髪は知り合いの後輩だ。距離の詰め方がおかしいが、悪い奴じゃない……」

「高橋っす!んで、そちらは?」

菊池は胸ぐらを掴んだ手を離して、高橋に向き直る。

「菊池だ。春田……くん、とは同い年だから……言いたいことが分かるか?」

「もちっす!先輩って事っしょ?よろしくっす!」

高橋は持ち前の明るさで、菊池に握手を求める。菊池も手を出されたからには握手をしないわけにはいかない。互いに手を出し、握手をして和解となる。

「ほっ」とする春田。いくら不良とは言え、遊んでいるだけの見える高橋と武道をガッツリやってきているであろう菊池が殴り合えば、一方的な戦いとなる。直接、自分が喧嘩を止めたわけではないが、満足感を覚える。

「それで菊っちは、なんで怒ってたんす?」

「き……菊っち?」この事から春田の言う、距離の詰め方のおかしさを実感する。バリバリ体育会系の菊池は「先輩」呼び、または「さん」付を要求するが、いくら訂正しても高橋には暖簾に腕押し、結局「菊っち」で治まる。

「……私が怒っていたのは、勘違いだった。春田……くんには謝罪させてもらう。話も聞かず、暴走して大変申し訳なかった!」

菊池は腰から頭を下げて綺麗なお辞儀をする。

「いいよ、気にしてないし。それから、くんは要らないってば……。いや、付けたいなら?無理強いはしないけど……」

菊池は上体を起こし、恥ずかしそうに髪の毛先をいじり出す。

「そ、そうだった。完全にわぅ……忘れていたよ」

動揺しているのが見て取れる。しげしげと様子を見ていた高橋はポンッと手を打つ。

「ああ!なんか名前に聞き覚えがあると思ったら、昼休憩の時に廊下走ってた人ですよね!」

そう言えばそんな事もあったなと、思い出す。走っていたのを見られていたのかとちょっと恥ずかしくなるが、何で走っていたのかまでは分からないだろうから、走ったのは事実だし、「そうだ」と言っておく。

高橋は春田を見る。何で突然こっちを見たのか気になる。

「なんだよ……」

その目は好奇の目だった。

「先輩は一体、何人の女を落としたんですか?」

「な……!きき、貴様!誰がこんな奴に……!!」

慌てて否定する菊池。その様子を見て面白そうに高橋は目を細める。

「こんな奴で悪かったな……聞いたろ高橋?ニヤニヤすんな。お前の思うようなことは決してないからな」

しゅんとする菊池。「こんな奴」呼ばわりしたのを気にしていると見える。高橋はそれに対し、もっと嬉しそうに満面の笑顔になる。人のいさかいやイザコザが大好きなタイプだ。見た目通りだと認識する。菊池に関しても同様だ。生真面目すぎて考えすぎるタイプ。好き嫌いの観念でなく自分の言動を逐一気にするのだろう。

(なんで俺はこの女たちに囲まれてるんだっけ?)こいつらの上位、滝澤と竹内という奴らのせいだ。(違う)元はと言えば自分が、話しかけてしまったせいだ。

でも、分かるわけがない。初めてクラゲを見た人類が、「あれはなんだ?」と思うように、棒でつつくとか、刺激を与えないとよく分からない。

最後には手に取って観察して、触手に触れた瞬間、猛毒に侵される。

生物であるとか、毒があるとか、危険なものなのかどうかを精査する為には本来、犠牲が必要なのだ。だが、知らずに触れて深淵を覗いた頃には何もかもが、もう遅い。無知とは本当に恐ろしい。

何でもいいから帰りたかった。本来の帰る時間からは、かなりずれ込んだので今すぐ帰られれば文句は言うまい。喧嘩の空気や一通りの騒ぎが収まり、運動部の練習している喧騒が遠くで聞こえ始めた頃、春田は「ここしかない!」と一歩踏み出した。

「あら?菊池ったらここにいたの?……春田さんもご一緒?」

その一歩は無駄に終わった。

「こ、これは詩織様!委員会のお仕事お疲れ様です!!」

菊池はすぐさま身を翻して、滝澤にお辞儀をする。滝澤と離れていた理由は委員会だったのかと納得する。

「ありがとう菊池。そういえばあなたを部員が探してましたよ?」

「あっ!し、しまった!じゃ私はこれで……」

と、早々に離脱した。(潮時だな……)滝澤が来た事で帰宅ムードだと察した春田はカバンを肩に提げ、「よしっ」と気合を入れた。

「……そんじゃ帰るか!」

「春田さんはどちらにお住まいなの?」

滝澤はそれに返答するように話し始めた。東の方角をさし、「あっち」と答える。

「あら残念。わたくしは逆方向です。一緒に帰れると思ったのに……」

「あー……そうか、それは残念」といいつつ心ではガッツポーズを決める。決めなきゃいけない事とかいろいろあるのに、これ以上遅延されては困る。そこに静かにしていた高橋がコソコソ話しかける。

「先輩、滝澤さんと知り合いなんすか?」

「そうそう、友達」春田は何の気なしに返答する。

「これはかわいい子ですね。わたくしは滝澤ですよろしく」

「あ、ど、どうも……」

高橋は滝澤の事をよく知っているようだ。尊敬の眼差しが春田に飛んできた。

「すごいっすね先輩!あの滝澤さんとお友達だなんて!!」

本人を前にして興奮冷めやらない高橋。魔王時代にはよく飛んできたものだが、人間になってからというもの、この視線とは無縁だった。少し、こそばゆい感覚に支配される。

「……そうですね。彼は大物ですよ、本当に」

少し意地悪な感じのする笑顔を見せて、高橋に云って聞かせる。有名人からそんな言葉が出てくると信じてしまう。「おおっ!」と喜色満面で声まで出ている。

「ちょ……滝澤さん、もうその辺に……」

といった時、「参った参った……」と独り言を言って出てくる人影を見る。

「あ!竹さんだ!!」

高橋は喜び勇んで竹内の元に行く。「……待ってたの?」と無表情で高橋を見る。

「あれ……春田もいるじゃん」

どんどん増える。そして来る度、紹介する。春田は思う。(家に帰らせてくれ……)と切に……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

処理中です...