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第四十二話 切望
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春田は何故か板挟みの状態に置かれていた。
無神経な高橋が菊池の神経を逆撫でし、菊池が喧嘩を売り、春田を中心に戦いが始まろうとしていた。かなり端折ったが10分近く拘束されては流石の春田も我慢の限界だった。
「おい!もうやめろ!二人が争って何になるんだ!」
睨み合う二人に横槍を入れる。
「はぁ?元はと言えば貴様が原因だぞ!」
ガッと胸ぐらを掴まれる。
「ちょちょ!落ち着け落ち着け……!」
「そうっすよ先輩。元はと言えばあんたのせい……らしい?よく分かんないっすけど、そういうことで……なんで喧嘩してるんすか?」
疑問を素直に菊池に伝える。菊池が興奮気味に高橋を見る。春田が原因だといったが、自分でもなんでこんなに怒ったか、言われてみればよく分からない。考えている内に頭が冷えてくる。
「……道場でのあの会話が、嘘だったから?」
自分でも疑問符が出てしまうくらいには困惑している。
「待て、嘘なんてついてない。すべて真実だ。この金髪は知り合いの後輩だ。距離の詰め方がおかしいが、悪い奴じゃない……」
「高橋っす!んで、そちらは?」
菊池は胸ぐらを掴んだ手を離して、高橋に向き直る。
「菊池だ。春田……くん、とは同い年だから……言いたいことが分かるか?」
「もちっす!先輩って事っしょ?よろしくっす!」
高橋は持ち前の明るさで、菊池に握手を求める。菊池も手を出されたからには握手をしないわけにはいかない。互いに手を出し、握手をして和解となる。
「ほっ」とする春田。いくら不良とは言え、遊んでいるだけの見える高橋と武道をガッツリやってきているであろう菊池が殴り合えば、一方的な戦いとなる。直接、自分が喧嘩を止めたわけではないが、満足感を覚える。
「それで菊っちは、なんで怒ってたんす?」
「き……菊っち?」この事から春田の言う、距離の詰め方のおかしさを実感する。バリバリ体育会系の菊池は「先輩」呼び、または「さん」付を要求するが、いくら訂正しても高橋には暖簾に腕押し、結局「菊っち」で治まる。
「……私が怒っていたのは、勘違いだった。春田……くんには謝罪させてもらう。話も聞かず、暴走して大変申し訳なかった!」
菊池は腰から頭を下げて綺麗なお辞儀をする。
「いいよ、気にしてないし。それから、くんは要らないってば……。いや、付けたいなら?無理強いはしないけど……」
菊池は上体を起こし、恥ずかしそうに髪の毛先をいじり出す。
「そ、そうだった。完全にわぅ……忘れていたよ」
動揺しているのが見て取れる。しげしげと様子を見ていた高橋はポンッと手を打つ。
「ああ!なんか名前に聞き覚えがあると思ったら、昼休憩の時に廊下走ってた人ですよね!」
そう言えばそんな事もあったなと、思い出す。走っていたのを見られていたのかとちょっと恥ずかしくなるが、何で走っていたのかまでは分からないだろうから、走ったのは事実だし、「そうだ」と言っておく。
高橋は春田を見る。何で突然こっちを見たのか気になる。
「なんだよ……」
その目は好奇の目だった。
「先輩は一体、何人の女を落としたんですか?」
「な……!きき、貴様!誰がこんな奴に……!!」
慌てて否定する菊池。その様子を見て面白そうに高橋は目を細める。
「こんな奴で悪かったな……聞いたろ高橋?ニヤニヤすんな。お前の思うようなことは決してないからな」
しゅんとする菊池。「こんな奴」呼ばわりしたのを気にしていると見える。高橋はそれに対し、もっと嬉しそうに満面の笑顔になる。人のいさかいやイザコザが大好きなタイプだ。見た目通りだと認識する。菊池に関しても同様だ。生真面目すぎて考えすぎるタイプ。好き嫌いの観念でなく自分の言動を逐一気にするのだろう。
(なんで俺はこの女たちに囲まれてるんだっけ?)こいつらの上位、滝澤と竹内という奴らのせいだ。(違う)元はと言えば自分が、話しかけてしまったせいだ。
でも、分かるわけがない。初めてクラゲを見た人類が、「あれはなんだ?」と思うように、棒でつつくとか、刺激を与えないとよく分からない。
最後には手に取って観察して、触手に触れた瞬間、猛毒に侵される。
生物であるとか、毒があるとか、危険なものなのかどうかを精査する為には本来、犠牲が必要なのだ。だが、知らずに触れて深淵を覗いた頃には何もかもが、もう遅い。無知とは本当に恐ろしい。
何でもいいから帰りたかった。本来の帰る時間からは、かなりずれ込んだので今すぐ帰られれば文句は言うまい。喧嘩の空気や一通りの騒ぎが収まり、運動部の練習している喧騒が遠くで聞こえ始めた頃、春田は「ここしかない!」と一歩踏み出した。
「あら?菊池ったらここにいたの?……春田さんもご一緒?」
その一歩は無駄に終わった。
「こ、これは詩織様!委員会のお仕事お疲れ様です!!」
菊池はすぐさま身を翻して、滝澤にお辞儀をする。滝澤と離れていた理由は委員会だったのかと納得する。
「ありがとう菊池。そういえばあなたを部員が探してましたよ?」
「あっ!し、しまった!じゃ私はこれで……」
と、早々に離脱した。(潮時だな……)滝澤が来た事で帰宅ムードだと察した春田はカバンを肩に提げ、「よしっ」と気合を入れた。
「……そんじゃ帰るか!」
「春田さんはどちらにお住まいなの?」
滝澤はそれに返答するように話し始めた。東の方角をさし、「あっち」と答える。
「あら残念。わたくしは逆方向です。一緒に帰れると思ったのに……」
「あー……そうか、それは残念」といいつつ心ではガッツポーズを決める。決めなきゃいけない事とかいろいろあるのに、これ以上遅延されては困る。そこに静かにしていた高橋がコソコソ話しかける。
「先輩、滝澤さんと知り合いなんすか?」
「そうそう、友達」春田は何の気なしに返答する。
「これはかわいい子ですね。わたくしは滝澤ですよろしく」
「あ、ど、どうも……」
高橋は滝澤の事をよく知っているようだ。尊敬の眼差しが春田に飛んできた。
「すごいっすね先輩!あの滝澤さんとお友達だなんて!!」
本人を前にして興奮冷めやらない高橋。魔王時代にはよく飛んできたものだが、人間になってからというもの、この視線とは無縁だった。少し、こそばゆい感覚に支配される。
「……そうですね。彼は大物ですよ、本当に」
少し意地悪な感じのする笑顔を見せて、高橋に云って聞かせる。有名人からそんな言葉が出てくると信じてしまう。「おおっ!」と喜色満面で声まで出ている。
「ちょ……滝澤さん、もうその辺に……」
といった時、「参った参った……」と独り言を言って出てくる人影を見る。
「あ!竹さんだ!!」
高橋は喜び勇んで竹内の元に行く。「……待ってたの?」と無表情で高橋を見る。
「あれ……春田もいるじゃん」
どんどん増える。そして来る度、紹介する。春田は思う。(家に帰らせてくれ……)と切に……。
無神経な高橋が菊池の神経を逆撫でし、菊池が喧嘩を売り、春田を中心に戦いが始まろうとしていた。かなり端折ったが10分近く拘束されては流石の春田も我慢の限界だった。
「おい!もうやめろ!二人が争って何になるんだ!」
睨み合う二人に横槍を入れる。
「はぁ?元はと言えば貴様が原因だぞ!」
ガッと胸ぐらを掴まれる。
「ちょちょ!落ち着け落ち着け……!」
「そうっすよ先輩。元はと言えばあんたのせい……らしい?よく分かんないっすけど、そういうことで……なんで喧嘩してるんすか?」
疑問を素直に菊池に伝える。菊池が興奮気味に高橋を見る。春田が原因だといったが、自分でもなんでこんなに怒ったか、言われてみればよく分からない。考えている内に頭が冷えてくる。
「……道場でのあの会話が、嘘だったから?」
自分でも疑問符が出てしまうくらいには困惑している。
「待て、嘘なんてついてない。すべて真実だ。この金髪は知り合いの後輩だ。距離の詰め方がおかしいが、悪い奴じゃない……」
「高橋っす!んで、そちらは?」
菊池は胸ぐらを掴んだ手を離して、高橋に向き直る。
「菊池だ。春田……くん、とは同い年だから……言いたいことが分かるか?」
「もちっす!先輩って事っしょ?よろしくっす!」
高橋は持ち前の明るさで、菊池に握手を求める。菊池も手を出されたからには握手をしないわけにはいかない。互いに手を出し、握手をして和解となる。
「ほっ」とする春田。いくら不良とは言え、遊んでいるだけの見える高橋と武道をガッツリやってきているであろう菊池が殴り合えば、一方的な戦いとなる。直接、自分が喧嘩を止めたわけではないが、満足感を覚える。
「それで菊っちは、なんで怒ってたんす?」
「き……菊っち?」この事から春田の言う、距離の詰め方のおかしさを実感する。バリバリ体育会系の菊池は「先輩」呼び、または「さん」付を要求するが、いくら訂正しても高橋には暖簾に腕押し、結局「菊っち」で治まる。
「……私が怒っていたのは、勘違いだった。春田……くんには謝罪させてもらう。話も聞かず、暴走して大変申し訳なかった!」
菊池は腰から頭を下げて綺麗なお辞儀をする。
「いいよ、気にしてないし。それから、くんは要らないってば……。いや、付けたいなら?無理強いはしないけど……」
菊池は上体を起こし、恥ずかしそうに髪の毛先をいじり出す。
「そ、そうだった。完全にわぅ……忘れていたよ」
動揺しているのが見て取れる。しげしげと様子を見ていた高橋はポンッと手を打つ。
「ああ!なんか名前に聞き覚えがあると思ったら、昼休憩の時に廊下走ってた人ですよね!」
そう言えばそんな事もあったなと、思い出す。走っていたのを見られていたのかとちょっと恥ずかしくなるが、何で走っていたのかまでは分からないだろうから、走ったのは事実だし、「そうだ」と言っておく。
高橋は春田を見る。何で突然こっちを見たのか気になる。
「なんだよ……」
その目は好奇の目だった。
「先輩は一体、何人の女を落としたんですか?」
「な……!きき、貴様!誰がこんな奴に……!!」
慌てて否定する菊池。その様子を見て面白そうに高橋は目を細める。
「こんな奴で悪かったな……聞いたろ高橋?ニヤニヤすんな。お前の思うようなことは決してないからな」
しゅんとする菊池。「こんな奴」呼ばわりしたのを気にしていると見える。高橋はそれに対し、もっと嬉しそうに満面の笑顔になる。人のいさかいやイザコザが大好きなタイプだ。見た目通りだと認識する。菊池に関しても同様だ。生真面目すぎて考えすぎるタイプ。好き嫌いの観念でなく自分の言動を逐一気にするのだろう。
(なんで俺はこの女たちに囲まれてるんだっけ?)こいつらの上位、滝澤と竹内という奴らのせいだ。(違う)元はと言えば自分が、話しかけてしまったせいだ。
でも、分かるわけがない。初めてクラゲを見た人類が、「あれはなんだ?」と思うように、棒でつつくとか、刺激を与えないとよく分からない。
最後には手に取って観察して、触手に触れた瞬間、猛毒に侵される。
生物であるとか、毒があるとか、危険なものなのかどうかを精査する為には本来、犠牲が必要なのだ。だが、知らずに触れて深淵を覗いた頃には何もかもが、もう遅い。無知とは本当に恐ろしい。
何でもいいから帰りたかった。本来の帰る時間からは、かなりずれ込んだので今すぐ帰られれば文句は言うまい。喧嘩の空気や一通りの騒ぎが収まり、運動部の練習している喧騒が遠くで聞こえ始めた頃、春田は「ここしかない!」と一歩踏み出した。
「あら?菊池ったらここにいたの?……春田さんもご一緒?」
その一歩は無駄に終わった。
「こ、これは詩織様!委員会のお仕事お疲れ様です!!」
菊池はすぐさま身を翻して、滝澤にお辞儀をする。滝澤と離れていた理由は委員会だったのかと納得する。
「ありがとう菊池。そういえばあなたを部員が探してましたよ?」
「あっ!し、しまった!じゃ私はこれで……」
と、早々に離脱した。(潮時だな……)滝澤が来た事で帰宅ムードだと察した春田はカバンを肩に提げ、「よしっ」と気合を入れた。
「……そんじゃ帰るか!」
「春田さんはどちらにお住まいなの?」
滝澤はそれに返答するように話し始めた。東の方角をさし、「あっち」と答える。
「あら残念。わたくしは逆方向です。一緒に帰れると思ったのに……」
「あー……そうか、それは残念」といいつつ心ではガッツポーズを決める。決めなきゃいけない事とかいろいろあるのに、これ以上遅延されては困る。そこに静かにしていた高橋がコソコソ話しかける。
「先輩、滝澤さんと知り合いなんすか?」
「そうそう、友達」春田は何の気なしに返答する。
「これはかわいい子ですね。わたくしは滝澤ですよろしく」
「あ、ど、どうも……」
高橋は滝澤の事をよく知っているようだ。尊敬の眼差しが春田に飛んできた。
「すごいっすね先輩!あの滝澤さんとお友達だなんて!!」
本人を前にして興奮冷めやらない高橋。魔王時代にはよく飛んできたものだが、人間になってからというもの、この視線とは無縁だった。少し、こそばゆい感覚に支配される。
「……そうですね。彼は大物ですよ、本当に」
少し意地悪な感じのする笑顔を見せて、高橋に云って聞かせる。有名人からそんな言葉が出てくると信じてしまう。「おおっ!」と喜色満面で声まで出ている。
「ちょ……滝澤さん、もうその辺に……」
といった時、「参った参った……」と独り言を言って出てくる人影を見る。
「あ!竹さんだ!!」
高橋は喜び勇んで竹内の元に行く。「……待ってたの?」と無表情で高橋を見る。
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