魔王復活!

大好き丸

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第四十一話 高橋

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菊池から解放された春田は、カバンを下げて校門に向かう。

しかし、ここでも邪魔が入る。

「あ、せんぱーい。春田せんぱーい」

春田は部活に入っていない。地元から離れて慕う後輩もいない。後輩から声をかけられる状況があるとしたらあいつしかいない。

「……よう、高橋。今帰りか?」

嫌な顔を我慢して極めて普通に返答する。

「ちょっとぉ、なんすか?そんな嫌そうな顔してぇ。めぐに止められたのがそんなに気に触ったっすか?」

鋭い。隠せなかったようだ。

「そうじゃねぇけど……何か用か?」

「竹さんと一緒に帰ろうと思ってたんすけど、何か全然来なくってー。何か知ってません?」

「あぁ、竹内か……」

唐突に呼ばれた理由もそれなら納得する。

「竹内なら黒峰……先生に連れていかれたぞ」

呼び捨てしそうになり、慌てたが何とか取り持った。高橋は「あぁ……」という声と顔を表に出して、「御愁傷様」という風に合掌した。

「ところで、先輩は?」

「今から帰るんだよ」

カバンを肩に下げ、帰宅の意思を示す。「じゃな」と通り過ぎようとすると、ガシッと腕を捕まれた。

「冷たいっすね~!竹さんが来るまで待ってくださいよ!」

「いや、俺今日は用事あるから。悪いんだけど手を離して……」

そう言うと、高橋は一層腕を絡めてきた。DかEカッブくらいありそうな豊満な胸に包まれ、春田の精神を絆す。鼻の下が延び、その気持ちよさに身を預けそうになるが、ヤシャの事を思えばなんのこれしきと理性を保つ。

「離せ!」「やーだー!」という攻防が繰り広げられ、春田が引き離そうと頭を掴む。高橋は負けじと春田の太ももに足を絡める。

「ちょっとくらい付き合ってもいいじゃないですかー!友達も帰っちゃって寂しいんですよー!」

「知るか!用事があるっつってんだろ!」

高橋はわがままいっぱい春田に訴える。思ったより力が強く、離れようとしない。だんだん疲れてきた春田は校門に行くのを諦め、購買に向かう。高橋を引こずる形で一緒につれていく。

購買の傍にある、自動販売機に寄ると、ジュースを買った。それを目の前で見ていた高橋は目を輝かせながら、春田を見ていた。が、その気持ちは届かず、一人紙パックのジュースを飲み始めた。

「ちょちょちょ……え?嘘っすよね?めぐを差し置いて?一人で飲んじゃうんすか?」

ストローから口を離して、高橋をチラリと見る。

「欲しけりゃ買えよ。疲れたから一服だ」

「えーっ?!買って買って買ってー!」

高橋は駄々をこね始めた。

「買ったらどうなる?俺を解放するか?どうなんだ?」

春田はズズイと迫る。「うぅ……」と涙目になる高橋。買って欲しいが、暇潰しも欲しい。

二者択一となったこの状況は、彼女にとって大きなストレスだ。春田は高橋の涙を尻目に容赦なくジュースを飲んだ。

「旨い旨い」といって神経を逆撫でする。今日あったばかりで性格もろくに知らないが、とにかく面倒くさい女である。使えるものはとにかく使い、涙すら武器に変える所から、男への媚び方を分かってやっている。言い方を変えればこなれている。

つまりはやってほしい事の全く逆の事をして遠ざける。高橋には悪いが俺を嫌って、とっとと離れてほしい。竹内にアフターケアを頼んでおけばもうそれでいいだろう。

ストローから口を離し、「どうだ参ったか」とふんぞり返ると、高橋はそのストローにかみついた。「え?」予想外の行動に固まっているとちゅーっと音を立てて中の液体が吸い出される。

「おわ!?お前何考えてんだ!!」

ポンッと勢いよくストローを引っ張り出すと、高橋は口にたまったジュースを飲み下した。

唖然として紙パックと高橋を交互に見る春田。しっしっしと笑って不敵な笑顔を見せる高橋。

「めぐに買ってくんないからっすよ。先輩ったら超イジ悪なんすから~」

高橋は春田に指をさして挑発する。

「お前なぁ……女なんだからもっと恥じらいを持って生きろよ……」

「?」凄い不思議そうな顔で見てくるが、春田にはそれが不思議でならない。

「今俺が飲んでただろ……このストローは誰の口に使われていた?」

春田が言いたいことが分かり、「ああっ」と理解を示す。

「なんだ間接キスって事っすか?別に気にしないっすよ?」

ガクッと肩を落とす。高橋には他人との距離感が希薄なのか、それとも春田を男と見ていないのか、単純に生きてきたのが垣間見える。「あっそ」とそっけなく返し、少し残ったジュースを飲む気になれず、あと残り全部を高橋に上げる。

「いいんすか?いただきます!」

えへへと笑顔で受け取る。その無防備な笑顔に危機感を感じる。

「高橋、こんなこと言いたくないが、男は選べよ?誰彼構わず引っ付いてたら悪い方にしか転ばないぞ?」

高橋は春田を逃がさない様に左腕に右腕を絡ませて、貰ったジュースを飲む。言っている事を精査しているのか横目で春田を見ながら黙って啜る。やがてジュースがなくなったのか、ズゾゾゾッという音が鳴り、口を離す。

「それってつまり……”俺以外の男に引っ付くな”って事っすか?」

「違う。お前が誰とくっ付こうがどうなろうが知らんけど、相手は選べって事。大体、俺らは今日あったばかりだぞ?距離近すぎだろ……」

高橋は頭をひねる。同時に首も傾く。

「竹さんが認めるならめぐもダチっすよ、先輩。昨日の今日で恋人みたいになるのはわけわからんっすけど。」

「お前とは昼と今のわずかな時間で同じジュースを共有する仲だがな……」

ため息交じりに今の状況を憂う。マンションでおとなしくしているであろう二人を思い、帰りたくなってくる。

「貴様ら……何をしている?」

そこに先ほど道場で別れた菊池と再会する。「ふ、不埒な……」顔を赤くして二人を睨む。いや、春田を睨む。何で睨まれているのか、それはそうだろう。さっきまでの会話を知れば、
「いじめられていたから」と弱者を偽り、菊池の心を弄んだように見えなくもない。現に菊池の表情が物語っている。「勘違い」と言いたいが、下手に言い訳すれば、
友達という先程の関係が崩れる。春田は沈黙を選んだ。

だが、そんなことを知らない高橋はいたって普通に話す。

「何って、一緒にジュース飲んでるんすよ?つーか誰っすか?」

一緒にジュースを飲むというが高橋の手元には1パックしかない。シェアしていたとしてもコップがない事から、飲みまわしたと考えるのが妥当だ。

菊池の眉間にしわが寄るごとに悪寒が走る。本当に昨日今日の関わりだろうか……長らく付き合ってきた彼女に浮気現場を見られたような変な緊張感と修羅場を目の当たりにしている。

自分の身に何か起こっている。そう感じずにはいられない。しかし、逃げられない空気をひしひし感じる。

「嘘だろ……家に帰りたいだけなのに……」

春田は少しの間、現実逃避に走った。だが、何をしようと、現実が変わらずそこにあった。
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