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第四十話 対談
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学校の隅にある道場に到着すると、中には誰にもいなかった。
菊池はここに連れてくるために人払いを行っていると確信した。三年は早いうちに受験勉強の為、引退するだろうから、ここの何らかの武道の部長になっていることは明白である。空手だろうか?
その権限を利用して他の部員は運動場でトラックを何周かさせられているのだろう。陸上部が迷惑しているだろうな。などといろいろ思う所があるが、部員が一人もいない=観衆がいないとなれば殴られても助けを求められない上、菊池に殴られたとして、証拠がないと言う事。
呼び出された先に滝澤がいれば、安心もできたかもしれないが、その考えも打ち砕かれた。
(一発なら幸運。最悪、半殺しは覚悟が必要か……)と諦める。
靴を脱いで、道場に上がる。春田も倣って靴を脱ぐ。道場の中心に行くと、二人は向かい合って立つ。
「良く逃げずにここまで来たな……」
菊池は偉そうに腕を組む。(どの道、引っ張ってきただろうに)と思いつつも、「おう」と返事をする。
「それで?どうすんだ?やることやったらいいぜ。早めに終わらせよう」
といって春田は両手を広げる。「かかってこい」の自分でも潔い恰好だ。その姿を見るや、バッと構える。想定通り殴られることを視野に目を瞑ると、
「な、ななな……何をしている貴様!!不埒なことは許さんぞ!!」
菊池は春田の行動に焦りまくって答える。意味がわからない春田は彼女の狼狽えに「は?」と疑問符を浮かべる。
「不埒だって?そりゃお前がやろうとしてる事だろ?こんなとこにつれてきて二人きり……もう、そういうことじゃないか?」
「わ、わわ……私は、話がしたかっただけで……!貴様とそんな関係になろうとか……そういうのじゃ……」
「貴様と……」の部分から声がゴニョゴニョしだしてよく聞こえなかった。「は?」と今一度疑問符を浮かべると「とにかく!」と切り出した。
「滝澤さんとはどのような関係なのだ?何故、滝澤さんに近付いたのか、そこをハッキリさせておきたいのだ!」
「……待て待て、それならあの場で出来た事だろ?なんでここなんだよ?」
菊池は深呼吸して心を落ち着けた後、ジロリと春田を見る。
「周りの声を消したかったんだ。それにここは私の場所だ。何があろうとも対処可能だからな」
聞かれて不味い事はないが、菊池の気持ちを尊重する。存外、自分も丸くなったものだと肩を竦める。
「……そうかい。まぁいいけど……俺と滝澤さんは友達だ。それ以上でもそれ以下でもない。満足か?」
「友達……それは何かの隠語か?それとも広義の意味での友達?」
(何聞いてんだ?)と思いつつ「……後者」と答える。
「じゃあ、二つ目の近づいた理由は?」
「言っただろ、勘違いだ。知り合いに似てたんだ」
「詩織様は唯一無二だ。この学園内に似てる人はいない」
菊池は間髪入れずに詰める。距離も一緒に詰める。
「それは……確かにな。この学園じゃあの人は二人といないさ。後でよく考えて、この学園にはいなかったなぁって……マジで勘違いだったんだって。なぁ、許してくれよ……」
手を合わせて拝むように許しを請う。その行動が逆に菊池を焚きつける。
「そのチャラい行動をやめろ!貴様は昼食時に不良と一緒にいたな。あれも友達というのか?私の見立てではそれ以上の関係じゃないかと思うが?」
菊池は盛大な勘違いをしている。
「ああ、友達とその後輩だ。こいつらも滝澤さんの友達と同義だ」
「本当に?そうは見えなかった。いつからの関係なの?」
「んー……今日、だな。今日友達になった。……何の質問だよ。滝澤さんの事を聞きたいんじゃないのか?」
そろそろ春田も我慢の限界だ。質問の意図が分からない。菊池も自分が遠回しに聞きすぎたと、ふぅっと息を吐く。
「単刀直入に聞こう。……滝澤さんに、その……ふ……不純異性交遊を迫る為、近づいたんじゃないか?」
言われている意味が頭に浸透した時、ここに呼ばれた理由を悟る。菊池は自分の主人を穢されることを恐れてここに呼んだのだ。「馬鹿な……」と否定しようとしたところで菊池も口を出す。
「昨日のあの不自然で非常識極まりない行動は、そう思わせるのに足る行動だった!」
菊池はさらに春田のそばに寄る。組んだ腕が春田の体を押す。
「私は貴様の調査をしていた。だが、分からない事だらけで困っている……。この私を納得させる何かを、この私に教えてくれ」
菊池の「調査」という言葉に一瞬身構えたが、主人を思えばよく分からない奴を信用できないと言う事なのだろう。非常に失礼な行為だが、敵かもしれないなら調査は当たり前である。昔、自分もやっていたから理解できない事はない。
「俺の事が知りたいか?良いだろう。好きな食べ物はハンバーグとカレー。嫌いな食べ物は特にないが、強いて言うならキノコ類かな。ナスも苦手だ。典型的子供舌と笑えよ。スポーツは得意ではないけどサッカーは少しできる。あとは……読書が好きかな?勉強は面倒臭いが地味にやってる。それから……」
春田は淡々と自己紹介を続ける。春田の事に詳しくなる菊池。家族の話になった時、ふと気になる事を聞いた。
「妹がいるのか?」
「あん?そうだよ。妹がいる。思春期に入ってから超絶嫌われてる」
「私もいるんだ、妹。妹は何歳?」
「2コ下」「私の妹も同い年」と妹談議で話が合う。「来年、高校生で多分同じ学校に入る」と菊池が微笑む。
「俺は地元遠いから、同じ学校には通えないだろうな」
「それだ!私が聞きたかったのは!」
菊池は興奮気味に春田の顔を指でさす。
「地元から遠いのになんでここに来たのか。何でここだったのか」
「別に深い意味はないさ。地元には……そうだな、俺の精神的にいられない事があってな……ここには逃げてきたんだ。隠しても詮無い事だが、言いふらすのは出来ればやめてほしいな……」
春田は周りに見せたことの無い哀愁漂う顔を見せた。それが菊池の中で「いじめ」という3文字を刻むのに時間はかからなかった。
「……人に関わらなかったのもそれが理由?」
「そうだ。それが理由だ。分かったか?」
菊池は一歩下がる。
「すまなかった。そんなことがあったなんて……」
菊池は目を伏せて謝罪する。(謝ることはないが…)と思いつつ素直に受け取る。
「……もういいか?」
「………」菊池は黙って頷き、そのまま停止する。(ようやく解放される…)と思い、浮足立つ気持ちを必死に抑えて、道場の出入り口に至って冷静に歩いていく。
「春田……!くん……」
菊池は襟を正して春田を呼ぶ。まだ何かあるのかと振り返る。
「何かあったら、私も力を貸す」
キリッとした顔で見つめている。春田はふぅっと力を抜く。
「”くん”は付けなくていいぞ。今日から菊池も友達だ」
ニカッと笑う。これで菊池から命を狙われることは無くなる。話してみるものだ。春田はもはや振り返らず道場から出て行く。
その後ろ姿を顔を真っ赤に紅潮させた菊池が黙って見送ったが、春田は知らない。
菊池はここに連れてくるために人払いを行っていると確信した。三年は早いうちに受験勉強の為、引退するだろうから、ここの何らかの武道の部長になっていることは明白である。空手だろうか?
その権限を利用して他の部員は運動場でトラックを何周かさせられているのだろう。陸上部が迷惑しているだろうな。などといろいろ思う所があるが、部員が一人もいない=観衆がいないとなれば殴られても助けを求められない上、菊池に殴られたとして、証拠がないと言う事。
呼び出された先に滝澤がいれば、安心もできたかもしれないが、その考えも打ち砕かれた。
(一発なら幸運。最悪、半殺しは覚悟が必要か……)と諦める。
靴を脱いで、道場に上がる。春田も倣って靴を脱ぐ。道場の中心に行くと、二人は向かい合って立つ。
「良く逃げずにここまで来たな……」
菊池は偉そうに腕を組む。(どの道、引っ張ってきただろうに)と思いつつも、「おう」と返事をする。
「それで?どうすんだ?やることやったらいいぜ。早めに終わらせよう」
といって春田は両手を広げる。「かかってこい」の自分でも潔い恰好だ。その姿を見るや、バッと構える。想定通り殴られることを視野に目を瞑ると、
「な、ななな……何をしている貴様!!不埒なことは許さんぞ!!」
菊池は春田の行動に焦りまくって答える。意味がわからない春田は彼女の狼狽えに「は?」と疑問符を浮かべる。
「不埒だって?そりゃお前がやろうとしてる事だろ?こんなとこにつれてきて二人きり……もう、そういうことじゃないか?」
「わ、わわ……私は、話がしたかっただけで……!貴様とそんな関係になろうとか……そういうのじゃ……」
「貴様と……」の部分から声がゴニョゴニョしだしてよく聞こえなかった。「は?」と今一度疑問符を浮かべると「とにかく!」と切り出した。
「滝澤さんとはどのような関係なのだ?何故、滝澤さんに近付いたのか、そこをハッキリさせておきたいのだ!」
「……待て待て、それならあの場で出来た事だろ?なんでここなんだよ?」
菊池は深呼吸して心を落ち着けた後、ジロリと春田を見る。
「周りの声を消したかったんだ。それにここは私の場所だ。何があろうとも対処可能だからな」
聞かれて不味い事はないが、菊池の気持ちを尊重する。存外、自分も丸くなったものだと肩を竦める。
「……そうかい。まぁいいけど……俺と滝澤さんは友達だ。それ以上でもそれ以下でもない。満足か?」
「友達……それは何かの隠語か?それとも広義の意味での友達?」
(何聞いてんだ?)と思いつつ「……後者」と答える。
「じゃあ、二つ目の近づいた理由は?」
「言っただろ、勘違いだ。知り合いに似てたんだ」
「詩織様は唯一無二だ。この学園内に似てる人はいない」
菊池は間髪入れずに詰める。距離も一緒に詰める。
「それは……確かにな。この学園じゃあの人は二人といないさ。後でよく考えて、この学園にはいなかったなぁって……マジで勘違いだったんだって。なぁ、許してくれよ……」
手を合わせて拝むように許しを請う。その行動が逆に菊池を焚きつける。
「そのチャラい行動をやめろ!貴様は昼食時に不良と一緒にいたな。あれも友達というのか?私の見立てではそれ以上の関係じゃないかと思うが?」
菊池は盛大な勘違いをしている。
「ああ、友達とその後輩だ。こいつらも滝澤さんの友達と同義だ」
「本当に?そうは見えなかった。いつからの関係なの?」
「んー……今日、だな。今日友達になった。……何の質問だよ。滝澤さんの事を聞きたいんじゃないのか?」
そろそろ春田も我慢の限界だ。質問の意図が分からない。菊池も自分が遠回しに聞きすぎたと、ふぅっと息を吐く。
「単刀直入に聞こう。……滝澤さんに、その……ふ……不純異性交遊を迫る為、近づいたんじゃないか?」
言われている意味が頭に浸透した時、ここに呼ばれた理由を悟る。菊池は自分の主人を穢されることを恐れてここに呼んだのだ。「馬鹿な……」と否定しようとしたところで菊池も口を出す。
「昨日のあの不自然で非常識極まりない行動は、そう思わせるのに足る行動だった!」
菊池はさらに春田のそばに寄る。組んだ腕が春田の体を押す。
「私は貴様の調査をしていた。だが、分からない事だらけで困っている……。この私を納得させる何かを、この私に教えてくれ」
菊池の「調査」という言葉に一瞬身構えたが、主人を思えばよく分からない奴を信用できないと言う事なのだろう。非常に失礼な行為だが、敵かもしれないなら調査は当たり前である。昔、自分もやっていたから理解できない事はない。
「俺の事が知りたいか?良いだろう。好きな食べ物はハンバーグとカレー。嫌いな食べ物は特にないが、強いて言うならキノコ類かな。ナスも苦手だ。典型的子供舌と笑えよ。スポーツは得意ではないけどサッカーは少しできる。あとは……読書が好きかな?勉強は面倒臭いが地味にやってる。それから……」
春田は淡々と自己紹介を続ける。春田の事に詳しくなる菊池。家族の話になった時、ふと気になる事を聞いた。
「妹がいるのか?」
「あん?そうだよ。妹がいる。思春期に入ってから超絶嫌われてる」
「私もいるんだ、妹。妹は何歳?」
「2コ下」「私の妹も同い年」と妹談議で話が合う。「来年、高校生で多分同じ学校に入る」と菊池が微笑む。
「俺は地元遠いから、同じ学校には通えないだろうな」
「それだ!私が聞きたかったのは!」
菊池は興奮気味に春田の顔を指でさす。
「地元から遠いのになんでここに来たのか。何でここだったのか」
「別に深い意味はないさ。地元には……そうだな、俺の精神的にいられない事があってな……ここには逃げてきたんだ。隠しても詮無い事だが、言いふらすのは出来ればやめてほしいな……」
春田は周りに見せたことの無い哀愁漂う顔を見せた。それが菊池の中で「いじめ」という3文字を刻むのに時間はかからなかった。
「……人に関わらなかったのもそれが理由?」
「そうだ。それが理由だ。分かったか?」
菊池は一歩下がる。
「すまなかった。そんなことがあったなんて……」
菊池は目を伏せて謝罪する。(謝ることはないが…)と思いつつ素直に受け取る。
「……もういいか?」
「………」菊池は黙って頷き、そのまま停止する。(ようやく解放される…)と思い、浮足立つ気持ちを必死に抑えて、道場の出入り口に至って冷静に歩いていく。
「春田……!くん……」
菊池は襟を正して春田を呼ぶ。まだ何かあるのかと振り返る。
「何かあったら、私も力を貸す」
キリッとした顔で見つめている。春田はふぅっと力を抜く。
「”くん”は付けなくていいぞ。今日から菊池も友達だ」
ニカッと笑う。これで菊池から命を狙われることは無くなる。話してみるものだ。春田はもはや振り返らず道場から出て行く。
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