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9章
98、始原の竜
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屍竜王ウルウティアの部下アンデッドドラゴン。
アンデッドの中でも上位種であるアンデッドドラゴンだが、レッドとライトの前では最強の肩書も形無しである。
ウルウティアは久し振りに命の危機を感じ、背中を疾走るゾクゾクとした悪寒に酔いしれていた。
「あぁ……いつ以来かしらぁこの感覚ぅ……素晴らしい余興だわぁ」
ウルウティアの顔から困惑と焦燥が消え、恍惚と愉悦が滲み出る。
竜王となってから今までに心が揺れ動くことが少なかった。その身を脅かす存在と出会ったことがなかったのもその一因だが、最も問題なのが彼女の長生きにある。世界の始まりから存在する始原の竜たる彼女には寿命が存在しない。
凄まじい力を有していた彼女が喉から手が出るほど欲したのは永遠の美しさだった。様々な薬学と魔法、秘術を用いて至った不老不死身の肉体。若い姿をそのままに、時代を跨ぐその姿は化生の類。
時の流れで死なぬ体となったウルウティアは最初こそ歓喜したが、当時肩を並べた竜王たちが死に絶え、理解者と呼べるものがいなくなった時、初めて自分が成したことにちょっとだけ後悔した。その悲しみを埋めるように食指が動くことに目を付けては気の済むまでやり尽くした。
その内自ら動くのも面倒になったウルウティアはこの谷に身を潜め、死の谷と呼ばれて恐れられ、誰もが近寄らなくなるその日まで引きこもり続けた。
何年か前にようやく多少なりとも動く気になったために、近くにある街エクスルトまで暇つぶしに出向いたのが、供物を捧げられるきっかけになっている。別に供物など考えてもいなかったが、少しでも空虚な不老不死ライフに刺激を求めて受け入れることにしたに過ぎない。
(それがこういう結果に繋がるとはねぇ……)
レッドを見やり、感慨に耽る。すぐそこまで来ている死の足音に鼓動が高鳴った。
死にたい訳では無い。ただ刺激が欲しいのだ。死ぬほどの刺激が。
「妾を……殺すのぉ?」
「え、いや……そのつもりは、その……無い。です……」
「はん?」
「や、やめましょうよこんなこと。ね?俺はあなたと戦うつもりは無いです。と、とりあえず俺たちを見逃してくれたら何もしないですよ?戦うことは無意味ですって……」
「何を日和るのぉ?妾の命はここよぉ?」
ウルウティアは挑発するように自分の首を指差す。しかしレッドはイヤイヤ期の赤ちゃんのように首を横に振る。流石のウルウティアも少しだけ苛立つが、この苛立ちも久し振りなことに気付いてちょっとだけ嬉しくなった。
「ふぅん、なるほどぉ……どうあっても妾とは戦わないというのねぇ?それじゃぁ他のと戦ってみるぅ?」
キィィィンッ
ウルウティアの言葉と共に鳴り響く耳鳴り。まるで濃霧から音を発しているかのように四方八方から嫌な音が聞こえる。頭痛とも取れる耳の痛みに思わず目を瞑り、しばらく耐えているといつの間にか音が鳴り止む。恐る恐る目を開けるとそこには真っ赤に染まった霧がおどろおどろしく辺り一面を包んでいた。
「ひぃっ!!」
「な、何だこれはっ!?」
ステラの悲鳴が木霊する。冷静に物事に対処していたライトもあまりの事態に取り乱す。魔法的要素が含まれているものと考えていたので一応警戒だけはしていたが、全くの無駄に終わってしまった。
ここで毒などの効果が発揮されれば、一般人のステラから間違いなく死んでしまう。それだけは避けねばならない。
「オリーさん!この霧に毒の効果はっ?!」
「無い。……何も無いように感じる」
オリーも見たことのない景色に不安を滲ませる。もちろんレッドのとっても初めての景色なのだが、レッドはどちらかというと感心していた。真っ白だった景色が一気に赤に変わって「すげー」くらいの面持ちだ。恐い怖くないよりも好奇心の方が優っていた。アンデッドドラゴンを倒せたことで心に余裕が生まれたのだろう。
「あっははぁ!さすがはレッドぉ。あなたはやはり普通ではないようねぇ。だからぁ、なんで妾を攻撃出来ないのか気になるところなのぉ。だからぁ、こうするしかないよねぇ」
ウルウティアはパチンッと指を鳴らす。
「ねぇ、出てきてぇ。妾に力を貸してぇ。ウルアード、ウルイリス、ウルエルバ、それからウルオガスト」
ウルウティアの座するアンデッドドラゴンの背後から地面を踏み締めて4つの影が姿を現す。出て来たのは人型の怪物。全員の肌が血の抜けたような蒼白。頭から角を生やし、誰もが強そうな雰囲気を漂わせる。
「我らを呼び出すとは何事だ?ウルウティア」
「まさかあんたが勝てない敵が出て来たなんて寝言は言わないでしょうね?」
「そいつはつまらん冗談だ!」
「余興だろ?単なる余興。俺たちに戦わせて高みの見物を決め込もうって話だ。全く以って良い趣味だなぁウルウティア」
アンデッドの様相をしているが、その口から発される言葉はまるで今この世に生きているようにハツラツとしている。この姿を見たオリーは目を見開いた。
「あなた方は始原の竜王っ」
「何っ!?本当ですかオリーさん!くっ……ウルウティアだけでも面倒なのに!!はっ!?な、ならばこの赤い霧の正体は……!?」
「ご察しの通りよぉ。この赤い霧は妾の能力、逢魔時。旅立った者たちを懐かしき姿のまま呼び出せるのぉ。凄いでしょぉ?」
「す……すごいっ」
「感心してる場合ですかっ!?オリーさんの言ってることが正しければさっきのドラゴンなんて比じゃないですよ!!」
「う、うん……確かにそうなんだけれど……」
レッドは困惑気味にステラに返答する。緊張感の欠片もないレッドの態度にはほとほと呆れてしまうが、ウルウティアと対峙していた時の焦燥感がまるでないことに違和感を覚えた。
「何だ?人間ではないか。まさか人間と戦わせるつもりではないよな?!」
「そうだよぉ。妾のためにそこの人間を全て殺して欲しいのぉ」
「こんな奴らをか?呼び出すならひとりで良いだろうに……」
「フンッ!マヌケどもね。全員を呼び出したことが答えでしょうよ。端的にこいつらが強いんでしょ?」
「ご明察ねぇウルイリスぅ。その洞察力とあなたの自慢の暴力で殲滅してよぅ」
「私が行こう。人間諸君、光栄に思いたまえ。我が名はウルオガスト。風竜王ウルオガストである」
堂々と名乗りあげながらズンズンと前に進んでいくウルオガスト。額から生えた角が、綺麗に整えたサラサラの髪を押し退けてズイッと主張する。手足が長く、身長も高いモデル体系。線が細く、しかし引き締まった体は、鍛え上げ洗練されたボクサーのような肉体美を晒す。爪は猛禽類のように鋭く、そして黒い。一歩一歩近づいて来るごとに強者感を滲ませ、ただものではないとの印象を植え付ける。
ウルオガストは誰と戦うか見定める。人間など恐るるに足らず。誰と戦っても瞬殺できそうだが、ライトが少し遠かったので、あえてレッドの元へとやって来た。ウルウティアとしてもレッドの実力を測り切れていなかったので、この判断は有難かった。
「人間。名は何と申す?」
「えぇっと、その……レッド=カーマイン……です」
「ほぅ?レッド=カーマインか。それではレッド=カーマイン。まずは貴様だ」
ガシッ
ウルオガストはレッドの頭を鷲掴みする。爪を立てないように器用に持つ。
「私の爪のシミとなる誉れを貴様に進呈する。死ね。レッド=カーマイン」
「レッド!!」
鋭い爪がレッドの皮膚を突き破らんと迫る。動こうともしないレッドに対してライトとオリーは焦る。
ザンッ
ほんの数mm爪を動かすだけで皮膚を破くはずが、ウルオガストはレッドの血を見ることは叶わなかった。頭を掴んでいたはずの右手は宙空に飛び、そのまま地面へと落ちた。
「っ!?」
驚愕に目を見開くウルオガストだったが、即座に攻撃を再開する。それは反射行動に近く、考える間には左手が動き、レッドを貫こうと無意識に手刀を繰り出していた。あまりの速さに腕が消えたように見えたが、実際消えていた。
突き出したはずの左手も宙空に飛び、先に切り落とされた右手と同じ場所へと吸い込まれるように地面に落ちた。アンデッドであるからか血が吹き出すことはなかったが、両手という武器が失われたウルオガストは背後に飛ぶ。レッドはその動きを知っていたかのように動き、ウルオガストとの間合いをさらに詰めた。
息もつかせぬ一方的な攻撃。手負いとなったウルオガストだが、両手がなくなって尚も戦うことは容易。カッと開けた口の中から、衝撃波を出そうと息を吸い込む。いわゆるドラゴンブレスという奴で、風竜王と呼ばれるだけあって炎ではないようだ。
ゴバァアッ
レッドにダメージを与えると同時に距離を取る目的で放った衝撃波は上空に放たれた。衝撃波が出るより早くレッドが首を切って上空にその強張った顔を強制的に向かせたのだ。
霧が晴れる勢いで放ったドラゴンブレスは、騒音を響かせただけの煩い遠吠えとなった。
ザアァァァッ
致命的な一撃だったのか、ウルオガストの身体は灰のように散り散りになって消滅した。
ただの人間だと舐め腐っていた故竜王たちの目に映る現実が、ここに呼ばれた理由の真意を物語る。とてもじゃないが言葉では説明しきれない。
『ふひひひっ!やるのぉ~っ』
「レッド……君は……?」
先のアンデッドドラゴンとはまるで違う故竜王たちの存在感を物ともしないレッドにライトも驚愕の目を向けていた。レッドはライトを見やるとニコリと微笑んだ。
「偽物なんかにやられませんよ!」
親指を立てて平気であることをアピールする。アンデッドドラゴンと目の前にいる故竜王たちを同列に扱っているのがライトには分かった。
「君は……流石だよレッド」
半分呆れながらも同じく親指を立てた。レッドの言動にウルウティアが反応する。
「……偽物ですってぇ?」
アンデッドの中でも上位種であるアンデッドドラゴンだが、レッドとライトの前では最強の肩書も形無しである。
ウルウティアは久し振りに命の危機を感じ、背中を疾走るゾクゾクとした悪寒に酔いしれていた。
「あぁ……いつ以来かしらぁこの感覚ぅ……素晴らしい余興だわぁ」
ウルウティアの顔から困惑と焦燥が消え、恍惚と愉悦が滲み出る。
竜王となってから今までに心が揺れ動くことが少なかった。その身を脅かす存在と出会ったことがなかったのもその一因だが、最も問題なのが彼女の長生きにある。世界の始まりから存在する始原の竜たる彼女には寿命が存在しない。
凄まじい力を有していた彼女が喉から手が出るほど欲したのは永遠の美しさだった。様々な薬学と魔法、秘術を用いて至った不老不死身の肉体。若い姿をそのままに、時代を跨ぐその姿は化生の類。
時の流れで死なぬ体となったウルウティアは最初こそ歓喜したが、当時肩を並べた竜王たちが死に絶え、理解者と呼べるものがいなくなった時、初めて自分が成したことにちょっとだけ後悔した。その悲しみを埋めるように食指が動くことに目を付けては気の済むまでやり尽くした。
その内自ら動くのも面倒になったウルウティアはこの谷に身を潜め、死の谷と呼ばれて恐れられ、誰もが近寄らなくなるその日まで引きこもり続けた。
何年か前にようやく多少なりとも動く気になったために、近くにある街エクスルトまで暇つぶしに出向いたのが、供物を捧げられるきっかけになっている。別に供物など考えてもいなかったが、少しでも空虚な不老不死ライフに刺激を求めて受け入れることにしたに過ぎない。
(それがこういう結果に繋がるとはねぇ……)
レッドを見やり、感慨に耽る。すぐそこまで来ている死の足音に鼓動が高鳴った。
死にたい訳では無い。ただ刺激が欲しいのだ。死ぬほどの刺激が。
「妾を……殺すのぉ?」
「え、いや……そのつもりは、その……無い。です……」
「はん?」
「や、やめましょうよこんなこと。ね?俺はあなたと戦うつもりは無いです。と、とりあえず俺たちを見逃してくれたら何もしないですよ?戦うことは無意味ですって……」
「何を日和るのぉ?妾の命はここよぉ?」
ウルウティアは挑発するように自分の首を指差す。しかしレッドはイヤイヤ期の赤ちゃんのように首を横に振る。流石のウルウティアも少しだけ苛立つが、この苛立ちも久し振りなことに気付いてちょっとだけ嬉しくなった。
「ふぅん、なるほどぉ……どうあっても妾とは戦わないというのねぇ?それじゃぁ他のと戦ってみるぅ?」
キィィィンッ
ウルウティアの言葉と共に鳴り響く耳鳴り。まるで濃霧から音を発しているかのように四方八方から嫌な音が聞こえる。頭痛とも取れる耳の痛みに思わず目を瞑り、しばらく耐えているといつの間にか音が鳴り止む。恐る恐る目を開けるとそこには真っ赤に染まった霧がおどろおどろしく辺り一面を包んでいた。
「ひぃっ!!」
「な、何だこれはっ!?」
ステラの悲鳴が木霊する。冷静に物事に対処していたライトもあまりの事態に取り乱す。魔法的要素が含まれているものと考えていたので一応警戒だけはしていたが、全くの無駄に終わってしまった。
ここで毒などの効果が発揮されれば、一般人のステラから間違いなく死んでしまう。それだけは避けねばならない。
「オリーさん!この霧に毒の効果はっ?!」
「無い。……何も無いように感じる」
オリーも見たことのない景色に不安を滲ませる。もちろんレッドのとっても初めての景色なのだが、レッドはどちらかというと感心していた。真っ白だった景色が一気に赤に変わって「すげー」くらいの面持ちだ。恐い怖くないよりも好奇心の方が優っていた。アンデッドドラゴンを倒せたことで心に余裕が生まれたのだろう。
「あっははぁ!さすがはレッドぉ。あなたはやはり普通ではないようねぇ。だからぁ、なんで妾を攻撃出来ないのか気になるところなのぉ。だからぁ、こうするしかないよねぇ」
ウルウティアはパチンッと指を鳴らす。
「ねぇ、出てきてぇ。妾に力を貸してぇ。ウルアード、ウルイリス、ウルエルバ、それからウルオガスト」
ウルウティアの座するアンデッドドラゴンの背後から地面を踏み締めて4つの影が姿を現す。出て来たのは人型の怪物。全員の肌が血の抜けたような蒼白。頭から角を生やし、誰もが強そうな雰囲気を漂わせる。
「我らを呼び出すとは何事だ?ウルウティア」
「まさかあんたが勝てない敵が出て来たなんて寝言は言わないでしょうね?」
「そいつはつまらん冗談だ!」
「余興だろ?単なる余興。俺たちに戦わせて高みの見物を決め込もうって話だ。全く以って良い趣味だなぁウルウティア」
アンデッドの様相をしているが、その口から発される言葉はまるで今この世に生きているようにハツラツとしている。この姿を見たオリーは目を見開いた。
「あなた方は始原の竜王っ」
「何っ!?本当ですかオリーさん!くっ……ウルウティアだけでも面倒なのに!!はっ!?な、ならばこの赤い霧の正体は……!?」
「ご察しの通りよぉ。この赤い霧は妾の能力、逢魔時。旅立った者たちを懐かしき姿のまま呼び出せるのぉ。凄いでしょぉ?」
「す……すごいっ」
「感心してる場合ですかっ!?オリーさんの言ってることが正しければさっきのドラゴンなんて比じゃないですよ!!」
「う、うん……確かにそうなんだけれど……」
レッドは困惑気味にステラに返答する。緊張感の欠片もないレッドの態度にはほとほと呆れてしまうが、ウルウティアと対峙していた時の焦燥感がまるでないことに違和感を覚えた。
「何だ?人間ではないか。まさか人間と戦わせるつもりではないよな?!」
「そうだよぉ。妾のためにそこの人間を全て殺して欲しいのぉ」
「こんな奴らをか?呼び出すならひとりで良いだろうに……」
「フンッ!マヌケどもね。全員を呼び出したことが答えでしょうよ。端的にこいつらが強いんでしょ?」
「ご明察ねぇウルイリスぅ。その洞察力とあなたの自慢の暴力で殲滅してよぅ」
「私が行こう。人間諸君、光栄に思いたまえ。我が名はウルオガスト。風竜王ウルオガストである」
堂々と名乗りあげながらズンズンと前に進んでいくウルオガスト。額から生えた角が、綺麗に整えたサラサラの髪を押し退けてズイッと主張する。手足が長く、身長も高いモデル体系。線が細く、しかし引き締まった体は、鍛え上げ洗練されたボクサーのような肉体美を晒す。爪は猛禽類のように鋭く、そして黒い。一歩一歩近づいて来るごとに強者感を滲ませ、ただものではないとの印象を植え付ける。
ウルオガストは誰と戦うか見定める。人間など恐るるに足らず。誰と戦っても瞬殺できそうだが、ライトが少し遠かったので、あえてレッドの元へとやって来た。ウルウティアとしてもレッドの実力を測り切れていなかったので、この判断は有難かった。
「人間。名は何と申す?」
「えぇっと、その……レッド=カーマイン……です」
「ほぅ?レッド=カーマインか。それではレッド=カーマイン。まずは貴様だ」
ガシッ
ウルオガストはレッドの頭を鷲掴みする。爪を立てないように器用に持つ。
「私の爪のシミとなる誉れを貴様に進呈する。死ね。レッド=カーマイン」
「レッド!!」
鋭い爪がレッドの皮膚を突き破らんと迫る。動こうともしないレッドに対してライトとオリーは焦る。
ザンッ
ほんの数mm爪を動かすだけで皮膚を破くはずが、ウルオガストはレッドの血を見ることは叶わなかった。頭を掴んでいたはずの右手は宙空に飛び、そのまま地面へと落ちた。
「っ!?」
驚愕に目を見開くウルオガストだったが、即座に攻撃を再開する。それは反射行動に近く、考える間には左手が動き、レッドを貫こうと無意識に手刀を繰り出していた。あまりの速さに腕が消えたように見えたが、実際消えていた。
突き出したはずの左手も宙空に飛び、先に切り落とされた右手と同じ場所へと吸い込まれるように地面に落ちた。アンデッドであるからか血が吹き出すことはなかったが、両手という武器が失われたウルオガストは背後に飛ぶ。レッドはその動きを知っていたかのように動き、ウルオガストとの間合いをさらに詰めた。
息もつかせぬ一方的な攻撃。手負いとなったウルオガストだが、両手がなくなって尚も戦うことは容易。カッと開けた口の中から、衝撃波を出そうと息を吸い込む。いわゆるドラゴンブレスという奴で、風竜王と呼ばれるだけあって炎ではないようだ。
ゴバァアッ
レッドにダメージを与えると同時に距離を取る目的で放った衝撃波は上空に放たれた。衝撃波が出るより早くレッドが首を切って上空にその強張った顔を強制的に向かせたのだ。
霧が晴れる勢いで放ったドラゴンブレスは、騒音を響かせただけの煩い遠吠えとなった。
ザアァァァッ
致命的な一撃だったのか、ウルオガストの身体は灰のように散り散りになって消滅した。
ただの人間だと舐め腐っていた故竜王たちの目に映る現実が、ここに呼ばれた理由の真意を物語る。とてもじゃないが言葉では説明しきれない。
『ふひひひっ!やるのぉ~っ』
「レッド……君は……?」
先のアンデッドドラゴンとはまるで違う故竜王たちの存在感を物ともしないレッドにライトも驚愕の目を向けていた。レッドはライトを見やるとニコリと微笑んだ。
「偽物なんかにやられませんよ!」
親指を立てて平気であることをアピールする。アンデッドドラゴンと目の前にいる故竜王たちを同列に扱っているのがライトには分かった。
「君は……流石だよレッド」
半分呆れながらも同じく親指を立てた。レッドの言動にウルウティアが反応する。
「……偽物ですってぇ?」
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