「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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8章

78、兆し

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 シャングリラから数キロ離れた森の奥。そこに張られた魔障壁の突破に苦心する子爵バイカウントとそれを取り巻く部下たちの姿があった。

「何をしているのだ!この程度の結界なんぞとっとと破らんか!!」
「申し訳ございませんガンプ様!凄まじい数の防護魔法が掛けられており、表面を削ることも出来ておりません!我々では手の施しようも……!」
「なんと使えん部下なのだ……ならば後20秒やろう。それで結界を破れんなら汝らの命はないと思え」

 デーモンたちは慌てて魔法攻撃をぶつける。しかしどの攻撃も結界に触れた瞬間に霧散し、有効打を与えられない。
 その間冷静に時間を測る陰湿な魔族。マッド=子爵バイカウント=ガンプ。片目に丸メガネを掛け、口の先に金のピアスを付けた二足歩行の爬虫類。宝石を散りばめた高そうな豪華な上着。インナーは着ず、代わりに首に下げたアクセサリーがジャラジャラと存在を主張する。
 一見無理して人間の衣装を着ただけのなんちゃってリザードマンにしか見えないが、実力は折り紙付き。伊達に子爵バイカウントの地位にいない。
 ベルギルツ同様、女神復活には懐疑的であり、レッド=カーマインなどという人間風情に世界を託すことを良しとしていない。それもこれもベルギルツの軽々しい口約束が原因だが、レッドが消滅する一縷の望みに賭けた自分も同罪であると判断し、女神復活に協力的なグルガンを掌握することに賛同した。

(先代の公爵デュークに比べれば苛烈さもない日和見主義。所詮家督を継いだだけのお坊っちゃんよ。フィニアス様の権威を笠に着た仔猫なんぞ今頃地に伏し、泣いて懇願しとるだろう。『何でもします。どうかおやめください』とな。無様な姿を見られんのが残念至極。しかしその弱点を握るのが儂なのだ。そう思えばゾクゾクしてくるというものよ……と、いかんいかんもう時間か)

 楽しい妄想に浸りながら過ぎた時間。ガンプは手を上げて攻撃を制止する。やたらめったらに魔法を放ったせいで砂埃が上がり、視界を悪くしている。砂埃が晴れるのを待っていたが、突如として突風が吹き荒れる。
 結界は無傷。突破口の見えぬ壁。だが、結界の防御性能やデーモンの不甲斐なさなどどうでも良くなる。何故なら結界の内側にいつからそこに居たのか、グルガンが腕を組んで立っていたからだ。ガンプは大きく目を見開き、2歩後退りした。

「グ、グルガン……殿?何故……ここに?」
「ここは我が領地だ。居るのは当然であろう。貴公らこそ何故ここに居る?こんなにも荒らし回って……覚悟は出来ているのだろうな?」

 組んだ腕を解いてゆっくりと歩く。結界を難なく透過し、ガンプの目と鼻の先に立った。頭ひとつ分以上でかい体躯で仁王立ちするグルガンの立ち昇る闘気に圧倒され、血の気が引き臓腑が冷える。
 しかしこの状況は、ガンプにとっては好機と呼べる。いわゆる必殺の間合いにグルガンは立っているのだ。ガンプは伸縮自在の舌を操り、弾丸を超える速度で射出される舌先は金属を難なく貫通させるほどの鋭さを有している。さらにガンプの粘液は強力な神経毒と出血毒を持ち合わせ、掠っただけでもあっという間に毒が回って死に至る。魔法を使用しての身体強化はもちろん、魔法攻撃にも自信がある。

(儂が尻込みして攻撃出来んと思ってるのだろうな……確かに後ろ盾の無かった以前なら土下座でも何でもした。だが、今は違う。ここで儂がグルガンを殺せば、儂が公爵デュークの座を……いや、現実的に考えればベルギルツの若造が公爵デュークに上がり、儂は伯爵アールになるな。うむ、悪くない)

 ガンプは舌舐めずりしながら皮算用を始める。覚悟が決まり、グルガンが瞬きをしたわずかな隙を狙い、一撃必殺を繰り出した。

 ガッ

 グルガンはガンプの下顎と上顎を挟み潰すように掴んだ。口から飛び出すはずだった舌は顎に挟まれてチロチロチロと無様に上下に小さく動いている。ガンプは目を見開き、体中から脂汗が吹き出る。金縛りになったように動けないのは挟み潰された顔の痛みと、グルガンのゴミを見るような冷徹な目のせいだ。

(馬鹿なっ!?何故止められた?!)
「……ガンプよ、知っていたか?貴公は考えていることが顔に出やすい。切り札を使う時、舌舐めずりをする癖も含めてな」
(癖だと?!攻撃のタイミングまで見透かされたとでも言うのか!?)
「かなり驚いているようだな。一撃必殺を止められたのが余程堪えたようだが簡単なことだ。一見ノーモーションで射出しているように見えるが、その技は通常より大きく息を吸った直後に来ることが分かっている。それさえ分かっていれば、必要なのは反射神経と握力のみ……」
(そんなまさか……!?)

 ガンプはグルガンの手を払い除けるため、掴もうとするが直前に手を止める。ガンプの頭蓋骨を粉砕する勢いでグルガンは思いっ切り握ったのだ。今まで感じたこともない凄まじい痛みに体を動かせなくなっていた。

 ミキュッ……ミシッ……

 ヒビが入ったのではないかと思われる嫌な音が全身を駆け巡る。口を開けることが出来ず、叫ぶことも、止めてくれと懇願することも出来ない。
 死。縁遠いものだと感じていた誰にも避けられない事象が、今すぐそこにある。
 ガンプはキョロキョロと周りを見る。その目は『誰か俺を助けろ!』と訴える。だがデーモンたちと目が合うことはない。蹂躙するために連れてきた数多くの魔獣とも目が合わない。
 甘く見ていた。先代の公爵デュークが腕力ばかりの阿呆だったので油断していた。先代と違い、この獅子頭にはしっかりと中身が詰まっている。もとよりガンプ程度に勝ち目など存在し得なかったのだ。

「……ンモモモモゥーッ!!!」

 言葉にならない声を発しながら一心不乱にグルガンの手を振り払おうとする。痛みなど関係ない。死ぬよりマシだ。
 だがグルガンの手はまるで機械のようにピクリとも動かない。このまま路上のカエルのように轢き潰されるのかと思ったその時、遠くの空で光の柱が登った。まるでどこかを指し示すような巨大なビーコン。日が落ちた空に太陽のごとき明るさで周囲を照らす。

「そんなまさか……っ!?」

 グルガンは驚きのあまりガンプから手を離す。一瞬町の方向に振り返ったが、すぐにビーコンに視線を戻して思考を巡らせる。

(あの強烈な光は何かの覚醒だと考えて間違いない。それも我がダンジョンから発せられるとなると……レッドたちが町からこっそり抜け出した?……そうであるとしか考えられんが、となれば我のすぐ後をついて来ていたとでもいうのか?気付かなかった?いや、女神の気配なら気付く。……ベルギルツへの怒りからか?それもあるだろうが、欠片が密集していて背後からの気配に気付けなかったということなのか?)

 殺される寸前で解放されたガンプは、此れ幸いと凹んでしまった顔を戻すことなく必死に走り出す。逃げるガンプを目の端で捉えながらも思考が止まることはない。グルガンの思考を余所にガンプは逃げられる喜びで少し気が緩んでいた。

(危なかったっ!あのまま行っていたら確実に死んでいた!……何があったのかは知らんが、あの光の柱には感謝しかない。とにかく態勢を立て直して……)

 その時、ガンプの上着がひとりでに浮き上がった。風の影響ではないもっと別の何かの力が働いているような感覚。ガンプはグルガンに何かされているのではないかとゾッとしながら上着を凝視する。そこには自分が保有する女神の欠片が入っていることに気付いた。

「……えっ?!」

 バシュッと音を立てて内ポケットを破きつつ射出された欠片。飛んでいく先は光の柱。そこでようやく何が起こったのか理解した。

「女神が……復活しているっ!?」

 思わず足を止めたガンプはグルガンに視線を送る。グルガンはガンプを一瞥し、光の柱に向けて顎をしゃくった。

「お、お待ちくだされグルガン殿!!こうなってはもはや……!!」
「貴公はフィニアスの元へ走れ。我が事の顛末を見届ける」
「で、ですが……」
「緊急事態だ。今回の件は不問とする。すぐに伝えよ」
「は、はいっ!!」

 ガンプは先の失態を許され、心の底から安堵しながらも急いでフィニアスの元へ走った。グルガンはガンプについていくデーモンや魔獣たちを見送りながら世界の行く末に一抹の不安を感じていた。

(……いずれにしても始まったか。感覚的にはもう少し先だと勝手に思っていたが、これが運命さだめというものなのだろうか……)

 レッドという超規格外を考慮しても不安は拭えない。グルガンは大切な理想郷シャングリラを守るために、戦いの地へと馳せ参じる。女神を倒すか世界が終わるか。ここが運命の分かれ道。



 簡単だった。
 レッドが剣を抜き、構える。その瞬間、騒がしかった場内が静寂に包まれる。先ほどまで調子に乗っていたベルギルツさえも口を塞いでレッドを凝視する。ライトやオリーが凄んでも態度を変えなかったものたちをも一気に冷え切らせてしまった。

「死にたくない」

 その一言に尽きる。場内の心を一つにし、レッドに欠片を献上する。しかしどうしてもベルギルツだけはその場に立ち尽くすのみで欠片を渡そうとはしなかった。

「ま、いいや。とりあえず集めた分をくっつけよう」

 そう言って5、6個結晶に吸収させた。だんだんと吸収スピードが速くなり、最後には磁石同士が引き寄せ合うように欠片がひとりでに空中を飛び、結晶へと吸収されるようになって来た。

『あっ!あっ!ああっ……!!』

 ミルレースはその度に自分に力が戻っているのを感じ取り、嬌声を上げながら肥大化していく結晶に自らも吸収されていった。

「え?あっ!ミルレース!!」

 レッドは慌ててミルレースを呼んだが、返事はなかった。そして結晶はレッドの手からふわりと浮かび上がり、太陽のごとき眩い光を発しながら天井をぶち抜いた。瓦礫にまみれるレッドたちと皇魔貴族の面々。
 光が少しだけ弱まった頃、みんなようやく目を開けて動き出す。そこでハタと気付いた。ダンジョン化していた地下空洞はすり鉢状のクレーターと化し、ダンジョンに潜んでいた魔獣や植物が跡形もなく消滅していた。何故このような状態から自分たちが助かったのか。それはそこらに落ちていた瓦礫の塊からうかがい知ることが出来た。

「これは……岩が切断されている?」

 気付いた子爵バイカウントが辺りを見渡すと、そこら中にまるで水圧カッターにでも切られたような瓦礫がここに居る全皇魔貴族、そしてオリーとライトの周りに円を描いていることが見て取れた。まるで瓦礫がひとりでに避けたかのような印象を受けるが、レッドだけが瓦礫の上で光る結晶を睨みつけていた。

「我々を……守ったというのか?」
「敵である我らを……?」

 正直瓦礫に埋もれる程度では致命傷になることはないが、痛みはあっただろう。その程度だが、レッドはそんなもの関係なく自分の周りにいたものたちを分け隔てなく守っていた。恐らくは気まぐれだろうが、真意が分からない皇魔貴族の面々にはレッドの行動そのものに畏敬の念を抱いた。

「……まだ終わっていない……レッド!光を見るな!目が潰れるぞ!!」

 オリーは慌ててレッドの元へと駆け寄る。それにライトも続いたが、次の瞬間にはまたも結晶が光り輝いた。各地に点在する欠片がその光に吸い寄せられ、絶対に見つからないだろう欠片も、そこに居なかった皇魔貴族の所持していた欠片も、当然ベルギルツが永久に持ち逃げしようと画策していた欠片も、全てを取り込んで女神が復活を遂げる。
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