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第3章

第3話 動物保護団体

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 ラースは辺境伯邸へと帰宅する。

「ただいま戻りました」
「おかえり。ラースにお客様が来ているよ」

 クレインが出迎えてくれて言った。

「私に、ですか?」
「どうしても会いたいと訪ねて来られたんだ」
「分かりました。お会いします」

 ラースはそのまま応接間へと向かった。

「お待たせ致しました」

 そこには、壮年の女性と青年が座っている。

「あなたが、ラース先生ですか?」

 壮年の女性が言った。

「はい、そうですが、あなた方は?」
「突然押しかけてしまって申し訳ございません。私はメーベルと申します」
「それで、私にどういったご用件でしょうか?」
「実は、私こういう動物保護団体を運営しておりまして、ラース先生には主治医になって頂けないかと」

 メーベルは自分たちが運営しているという組織の資料を提示した。

「なぜ私に? 獣医は王都にもたくさん居るでしょう」

 それを見る限り活動拠点は王都になっている。

「それは、名高いベルベット氏のお孫さんに主治医となって頂ければこんなに嬉しい事はありませんから」
「そうですか。では、お断りします」
「え!?」

 メーベルは驚きの表情に変わった。

「お断りしますと言ったんです。お引き取りを」

 ラースは立ち上がると帰るように促した。

「今後、うちとは関わらないで下さい」
「いいんですか? 断ったとなればあなたの経歴に傷が付きますよ」

 それまで黙っていた青年が言った。

「構いません。私は"詐欺"に加担する事はありませんから」
 
 ラースの一言で2人の表情は一変する。

「どうなっても知りませんよ。あなたの病院」
「それは脅しですか? あいにく私の病院には2国家の国王の後ろ盾がありますのでご自由に。お客様がお帰りです」

 従者にそれだけ伝えるとラースは応接間を後にする。

「いよいよ見逃せなくなりましたね」

 ラースは最初から気づいていた。
あの組織は獣医師会でも問題に上がっていた詐欺まがいな事をやっている組織だ。

 人の善意を利用して寄付金だけ集めてろくな活動はしていない。
おおかた、ラースを組織の一端に置けば信用も確立するとでも思ったのだろう。

 まずは証拠を集めないといけないだろう。
ラースはバーロンの執務室をノックする。
この時間はまだ仕事しているはずだ。

「ラースです。お時間よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「失礼します」

 執務室に入るとバーロンは書類チェックの手を止めてくれた。

「お忙しいのにすみません」
「いや、君が来たという事は何か急を要する事なんだろ」

 メガネを外しながらラースの対面のソファーに腰を下ろす。

「はい、ご友人の王都に居る財務官を紹介して頂けないでしょうか?」
「財務官? 構わないが、君は一体何をするつもりだね?」
「動物保護団体詐欺を潰します」

 ラースの目に怒りの灯火が灯った。

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