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第3章

第1話 あなたに任せたい

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 ラースが作った地域動物医療ネットワークは、王都ではほぼ確立したと言って問題無い所まできていた。
加入してくれている街の開業医さんは120を超えた。

 これは王都で開業している獣医院のほぼ全てが加盟したということになる。

「やっとここまで来ましたか。リルさんのおかげですね」

 今日、ラースは王都の分院へと視察に来ている。

「いえ、私はただ開業医さんの所にお願いしに行っただけですから」
「それが凄いことなんですよ。私一人ではこんなに早く実現出来ませんでした」

 ラースの予想では早くても1年はシステム構築にかかると思っていた。
しかし、約半年ほどで地域動物医療ネットワークは機能している。

「みんなラース院長に賛同してくれているんです。命を救いたいって思っているのはどの獣医師も同じですから」
「この調子なら更にエリアを広げることも視野に入れていいかもしれませんね」

 王都でのシステムが完全に機能したら、ラースは他の大都市にもこのシステムを導入しようと考えていた。

「しかし、これ以上はラース院長の負担が凄いことになってしまいますよ」
「そうですね。私も長くオーランドを離れる訳にはいきませんし、考えないとですね」

 オーランドにはラースのことを頼ってくれる患者さんたちがいる。
その人たちを蔑ろには出来ない。

「でも、ラース院長のおかげでたらい回しに遭わずに早急に処置出来た子も多いですから。みんな感謝してますよ」
「ありがとうございます。リルさんには引き続きよろしくお願いします」
「任せてください。この街の獣医たちはみんな私たちの同志ですから」

 ラースは地域動物医療連携室を後にする。
そして、分院の様子を見に行く。

 待合室には、診察を待っている動物たちと飼い主さんがいる。
ここでも、治療を欲している子たちがこんなに居るのかと思う。

 受付に置いてある札には現在160分待ちと書かれている。

「デリク先生、お疲れ様です」
「おお、ラース来ていたのか」

 ちょうど休憩時間となったデリクを訪ねる。

「忙しいみたいですね」
「そりゃ、天下のラースクリニック分院だからな」

 国王陛下がお墨付きを与えたことは、すでに国民にも知れ渡っている。
分院とはいえ、その評判は王都1と言ってもいいだろう。

「新しく獣医師と看護師を雇ったが、まだ人手が欲しいくらいだ。ワシも老体に鞭打っとるわ」
「まだまだ元気じゃ無いですか。これからもこの分院を頼みます」
「ああ、死ぬまで白衣は脱がんつもりよ」
「ありがとうございます。では、私はオーランドへと帰りますので」

 王都で一週間を過ごし、そろそろオーランドの本院に戻らねばならない。

「気をつけてな」


 ♢


 辺境伯の騎士たちと共にラースはオーランドの街へ戻ってきた。

「おかえり」

 バーロン伯が出迎えてくれた。

「ただいま戻りました」
「それにしても、君はよく働くな。一体、何が君を突き動かすのだ?」

 ラース以上に働くバーロンが言う。

「私、医師の仕事と領主様の仕事って似ている所があると思うんです」
「ほう、それはなんだね?」
「医師も政治家も“あなたに任せたい“そう言われて初めて第一歩が踏み出せるんです!」

 ラースは屈託のない笑みを浮かべた。


【あとがき】

お読み頂きありがとうございます。
お久しぶりではございますが、第3章開始です!
本章では、ラースが獣医としての生き方を確立して行く予定です。
クレインとの恋、そして仕事。
働く強いラースの物語を引き続きお楽しみ頂ければ幸いです。

どうぞよろしくお願い致します。
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