上 下
41 / 54
第2章

第12話 クレインの危機

しおりを挟む
 地域動物医療ネットワークを正式認可を受け、王都に分院も作ることができた。
分院の方は1ヶ月に一度は視察に行くことになる。

 基本的には、院長と室長に業務は任せて報告を受ける形になるだろう。

「では、私はオーランドに戻ります」
「分かりました。こっちのことは任せてください」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 そう言って、ラースは王都を後にしようとしていた。
次に来るのは、また1ヶ月後になるだろう。

 両親にも挨拶を済ませて来た。

 オーランド家の馬車に乗り、王都を出発する。
比較的、順調に進んで行く。

 護衛の騎士たちも居るのでこのペースなら予定通りにオーランドへ到着することだろう。


 ♢


 翌日の夕方、ラースはオーランドに到着した。
予定通りの到着である。

「ただいま戻りました」

 ラースは辺境伯のお屋敷へと戻った。

「ラースさん、戻って来てくれたか!!」

 バーロン辺境伯が血相を変えてラースの元へ走って来た。

「どうされたんですか? そんなに慌てて」
「クレインが、クレインが……」
「バーロンさん、落ち着いて話てください」
「すまない」

 ラースはバーロンの背中に手を置いて呼吸を落ち着かせる。

「何があったんですか?」
「クレインが重症なんだ。魔獣の討伐から帰って来たと思ったら、相当な深傷を追ったみたいなんだ」
「何ですって!? クレインさんは今、どこに?」
「自室で寝かせている」
「私も診ます」

 ラースはクレインの寝室へと向かう。

「これは、酷い……」

 クレインの状態はかなり深刻なものだった。
上半身には包帯が巻かれている。

「この処置は誰が?」
「私の知り合いの医者だが、そいつは治癒系の魔法が使えなくてな」

 医者としては、適切な処置がされている。
しかし、クレインは苦しそうに表情を歪めている。

「熱もかなりありますね。このままでは危険ですね。でも、クレインさん程の方がただの魔物にやらてたんですか?」

 クレインの剣の腕はラースも知っている。
その腕は王都でも十分に通用するほどである。
それほどの腕を持っているクレインが簡単に魔物にやられるだろうか。

「それが、報告には無かった災害級の魔物が出たらしい」
「なるほど……」

 災害級の魔物は本来、数十人の冒険者や騎士たちでやっと討伐できるものである。
それなら、クレインでもこれほどの深傷を負うかもしれない。

「とにかく治療します」

 災害級の魔物はまだ解明されていないことが多い。
その魔獣にやられたなら、毒物や魔獣の体液などで汚染されている可能性もある。

《医療魔法・再生》

 ラースは医療魔法を展開する。

「嘘でしょ……」

 しかし、傷は塞がらない。
回復スピードが追いついていないのだ。

「ラースさんの魔法でもだめなのか……」

 しかし、このまま放置したらそれこそ死の危険がある。

「まだ手はあります。バーロンさん、私の身にもしものことがあったらお願いします」
「何をするつもりだね?」



《医療魔法・自己犠牲》
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~

瀬里
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】  ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。  爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。  伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。  まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。  婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。  ――「結婚をしない」という選択肢が。  格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。  努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。  他のサイトでも公開してます。全12話です。

どうせ死ぬならとラスボスに寝返ったら、なぜかうまく行きそうな気配が……

小倉みち
恋愛
 公爵令嬢のグラシアは、階段から転げ落ちたショックで前世を思い出し、ここがかつて一世を風靡した乙女ゲームの世界で、自身がそのゲームの中での悪役令嬢であることに気づく。  しかし、時すでに遅し。  婚約者である第二王子はすでに主人公と良い感じになっており、あと数日後に私は謂れなき罪によって彼らから断罪され、自分の両親によって秘密裏に始末される運命にあった。  どうしたって私の運命は決まってしまっている。  それなら、どうせ死ぬならと、私は乙女ゲームのラスボスである第一王子に寝返ることにした。 「殿下、どうか良しなに」  第一王子は了承し、私は殿下の下で働く算段をつけた。  あと数日の命、あの裏切りやがった連中に対する復讐のために使ってやろうと考えていたところ、なぜか私の知っているストーリーとは違うふうに話が進み始めてしまったようで……。

「ババアはいらねぇんだよ」と追放されたアラサー聖女はイケメン王子に溺愛されます〜今更私の力が必要だと土下座してももう遅い〜

平山和人
恋愛
聖女として働いていたクレアはある日、新しく着任してきた若い聖女が来たことで追放される。 途方に暮れるクレアは隣国の王子を治療したことがきっかけで、王子からプロポーズされる。 自分より若いイケメンの告白に最初は戸惑うクレアだったが、王子の献身的な態度に絆され、二人は結婚する。 一方、クレアを追放した王子と聖女はクレアがいなくなったことで破滅の道を歩んでいく。

処理中です...