辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜

津ヶ谷

文字の大きさ
上 下
39 / 61
第2章

第10話 獣医師会議

しおりを挟む
「もうすぐですね」

 辺境伯邸で夕食を取っているとクレインが言った。

「そうですね。ちょっと緊張します」

 ラースがローラン獣医師会の会長に就任してから、初の獣医師会議が今週末に迫っていた。
なので、ラースは明日にでも王都へと向かうことになるのである。

「ラースさんなら大丈夫ですよ」
「そうだといいんですがね」

 今回の会議では、ラースの会長就任の挨拶がメインになってくるだろう。

「今回は、私が同行出来ないので心配です」

 クレインは別の仕事があるので、今回のラースの王都遠征には同行できないらしい。

「心配しなくても大丈夫ですよ。辺境伯の騎士さんたちが護衛してくれることになっていますから」

 辺境伯に鍛えられた騎士たちは、この国の国境を守る砦でもある。
王都の騎士にも負けないほどの実力者が揃っている。 

「気をつけて行って来てくださいね」
「ありがとうございます。またすぐに戻りますから」

 日程としては、会議を終えたらすぐに戻るつもりである。
1週間ほどで帰って来れるだろう。

 ここには、ラースのことを待っている患者さんも多いのだ。


 ♢

 
 ラースがオーランドを出発して数日。
王都に到着し、獣医師会議の当日となった。

 会場は獣医師会本部の大会議室である。
会長のラースを始め、副会長やその他役員、主要動物病院の院長などが集まっている。

「議長のガインです。まずは新たに就任されました、ラース・ナイゲール会長にご挨拶を頂きます」

 議長の言葉で、会議が開始される。

「この度、会長に就任しましたラース・ナイゲールです。みなさんもご存知とは思いますが、祖父はベルベット・ナイゲールです。祖父の名に恥じぬよう、精一杯努めますので何卒みなさんのお力添えをよろしくお願いいたします」

 ラースの挨拶が終わると、一斉に拍手が起こった。
そこから、今後の獣医師会の方針や活動予算についての話し合いが行われた。

「では、最後にみなさんから何かご提案やご意見がある方はいらっしゃいますか?」

 議長が言った。

「私から、一つよろしいでしょうか?」

 ラースが手を挙げて発言した。

「ラース会長、どうぞ」
「ありがとうございます」

 そう言って、ラースは立ち上がった。

「最近、多くの動物病院をたらい回しにされ、適切な治療を受けられないまま、時間が経過してしまう患者さんが多い気がします」

 実際、ラースの病院にも多くいた。

「それは、病院同士の連携が上手く取れて居ないからだと思うのです。なので、私は地域に根付いた町医者の開業医さんと、大きな動物病院を繋ぐシステムを構築したいと思っています」

 患者さんが一番最初に行くのは、地域のかかりつけ医だろう。
その町医者が手に負えない時はどうすればいいのか、その仕組がまだ出来上がっていないのが現状である。

「名付けて“地域動物医療ネットワーク“、これを実現したいと思います」

 その時のラースの発言に、その場にいる誰もが思った。

 あの“伝説の名医“が数年の時を経て帰って来たと。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?

鶯埜 餡
恋愛
 バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。  今ですか?  めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

地味令嬢を馬鹿にした婚約者が、私の正体を知って土下座してきました

くも
恋愛
 王都の社交界で、ひとつの事件が起こった。  貴族令嬢たちが集う華やかな夜会の最中、私――セシリア・エヴァンストンは、婚約者であるエドワード・グラハム侯爵に、皆の前で婚約破棄を告げられたのだ。 「セシリア、お前との婚約は破棄する。お前のような地味でつまらない女と結婚するのはごめんだ」  会場がざわめく。貴族たちは興味深そうにこちらを見ていた。私が普段から控えめな性格だったせいか、同情する者は少ない。むしろ、面白がっている者ばかりだった。

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

とても「誠実な」婚約破棄をされてしまいました

石里 唯
恋愛
 公爵令嬢フェリシアは、8年に及ぶ婚約関係にあった王太子レイモンドから、ある日突然、前代未聞の「誠実な」婚約破棄を提示された。 彼にしなだれかかる令嬢も、身に覚えのない断罪とやらもない。賠償として、レイモンドはフェリシアが婚姻するまで自身も婚姻せず、国一番の金山と、そして、王位継承権まで、フェリシアに譲渡するという。彼女は承諾せざるを得なかったが、疑問を覚えてしまう。 どうして婚約破棄をするの?どうしてここまでの賠償を――?  色々考えているものの、結論は考えていないものと大差が無くなってしまうヒロインと愛が深すぎて溺愛を通り越してしまったヒーローの話です。

処理中です...