辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜

津ヶ谷

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第2章

第4話 乙女の手

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 ラースは治療室へと戻ると、早速処置を開始する。

「ミミちゃんの体力は限界に近いです。慎重に行きましょう」
「分かりました」

 看護師のアリアと万全の体制を整える。

 飼い主さんたちの様々な葛藤の中で下した、苦渋の決断。
絶対にまた、家に帰してあげたい。
その想いで治療に当たる。

「ミミちゃん、頑張るよー! 絶対お家帰ろうね」
「頑張ってね」

《医療魔法・調剤》

 ラースは医療魔法で鎮静剤を生成する。
生成した鎮静剤をミミに注射する。

 やがて、鎮静剤が効果を現した。

 鎮静剤が効いたタイミングで、古くなった包帯を慎重に外す。

「ひどいですね。これはだいぶ悪化してます」
「そうですね。相当痛いでしょうね」

 患部を消毒して、再び新しい包帯を巻き直した。

 これで、治療は終了である。
後は、目を覚ましてくれるのを願うばかりである。

「そろそろ、起きるはずなんですけどね」

 時間的には、そろそろ鎮静剤の効果が切れて目を覚ますはずである。

「ミミ、頑張ってー」
「頑張ろうねー」

 ラースたちはミミに声をかけ続ける。

 その時、ミミはゆっくりと目を開いた。

「頑張ったねー!!」

 これで、一安心である。
そのまま、治療を終えたミミを飼い主さんたちに引き渡す。

「ミミちゃん頑張りましたよー」
「よかった。ラース先生、本当にありがとうございます」

 そう言ってご夫婦は頭を下げる。

「いえ、とんでもないです。よかったです」
「お大事になさってください」

 ご夫婦はミミを大切に抱えて、帰って行った。
いつか来る、ミミとの別れの時まであの二人なら寄り添ってくれるだろう。

「なんとか助けられましたね」

 今日はミミちゃんで最後の患者さんだろう。

「そうですね。でも、ラース先生はあの絶望的な状態でも、安楽死の提案はしないんですね」
「他の先生はわかりませんけど、私はできるなら安楽死は提案したくないんです。昔、祖父が言っていたんです。医者なら、鷹の目、乙女の手、獅子の心を持てって」
「そういう意味ですか?」
「どこかの国に古くから伝わるものらしいです」

 患者の容態や検査結果から病巣を正確に見抜く鷹の目。
大胆果敢かつ細心を払い病巣に挑む獅子の心。
そして、優しさや緻密さを表す乙女の手。

『ラース、お前には鷹の目と獅子の心は十分すぎるくらいに備わっている。だが、お前にはまだ乙女の手が足りないな』

 当時のラースは患者に優しくしてるつもりだった。
しかし、患者に寄り添えてはいなかったのだ。

 優しくすることと、寄り添うことは違う。
だから、今のラースは患者に寄り添う医療を目指している。

 それが、祖父の教えでもあるから。

「さすがはベルベット先生ですね。当時の院長の弱点を見つけていたなんて」
「本当に、お祖父様の後を継ぐのは責任が重いですね。じゃあ、帰りましょうか」

 今日はもう閉院の時間となった。
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