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第1章

第15話 二次被害

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 トンネル内からは砂埃が漂っている。

「トンネル内にはまだ人がいましたよね?」
「はい、そうですね。かなりの人数が取り残されているものだと思います」
「分かりました。私も行きます」
「ダメです。危険すぎます」

 クレインに止められてしまう。

「でも、取り残されている人が居るなら、医師の力が必要なはずです」
「それでも、あなたは死んではいけません。あなたにはこの先たくさんの命を救う未来がある。その命のためにも、あなたは絶対に死んではならない」

 クレインの表情から必死なのが伝わって来る。
それだけ、ラースのことを思ってくれているのだろう。

《防御膜》

 ラースは防御魔法を展開する。

「これならどうですか?」
「これは、凄いですね。あれだけの詠唱でこれだけの魔法を展開できるとは……」

 防御膜は防御魔法の中では初歩的なものである。
魔法使いなら、一番最初に覚える防御魔法だ。

 それをこれほどの濃度で展開できる魔法使いはそう多くは無いだろう。

「これなら、大丈夫かもしれませんね」

 防御膜を展開している状況なら、たとえ瓦礫などがう上から落ちて来ても、防ぐことができるだろう。

「では、行きましょう」
「私も行きます」

 ラースはクレインと共にトンネル内に入る。

「お待たせしました。医師のラースと言います。分かりますかー?」

 返答が無い。

「呼吸も、弱いですね」

 呼吸はしているが、かなり弱い。
まずは、気道を確保する。
気道が塞がっている状況では、十分な酸素が肺に投与されなくなってしまう。

「まずい……まずいですね」

 その男性の脇腹には鉄骨が刺さっている。

「クレインさん、手を貸してもらってもいいですか?」
「もちろんです」

 ラースはこの場で治療する覚悟を決める。

「刺さったものは刺さったまま運ぶってのが鉄則なんですが、こいつは無理です」

 その鉄骨は大きな瓦礫と繋がっており、そのまま搬送することは不可能だと思われる。

「いいですか、私の合図で一気に引き抜きます。抜いたら大量出血が見込まれますのですぐに止血処理をします」
「分かりました」
「行きます、せーの!」

 ラースの合図で鉄骨から刺さった男性を引き抜く。
その瞬間、傷口から大量出血する。

「やっぱりそうですよね」

 医療セットの中からガーゼを取り出して圧迫止血をする。
しかし、それでは間に合いそうに無い。

「仕方ありません」

《医療魔法・再生》

 ラースは医療魔法を展開する。
この魔法は傷口を再生してしまう魔法である。

 医療魔法によって、傷口は完全に塞がった。

 医療と魔法の力があればより多くの人の命を救うことができる。
それが、ラースの信念である。

 そこから、軽症者の治療を終えると、騎士たちによってそれぞれ病院に運ばれて行った。

「何とか全員助けられましたね」

 ラースは額にかいた汗を白衣の袖口で拭う。

「ここに居る皆さんの協力で全員助けることができました。ありがとうございます」

 死者を出すことなく全員助けられたのは、ラースだけの力では無い。
ここで共に戦った全員の力である。

「あんた凄いよ。一人であんなに多くの人の命を救うなんて」
「そうだよな。あんな凄い治療は生まれて初めて見た」

 こうして、ラースはさらに街の人たちから認められたのであった。
 
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