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第1章
第4話 辺境へ向けて
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翌日、クレインが伯爵家の屋敷の前まで迎えに来てくれた。
「では、お父様、お母様、行って参ります」
「ああ、気をつけてな」
「いつでも戻って来なさいね」
「はい、ではまた」
ラースはクレインの手を借りて馬車へと乗り込んだ。
クラインはラースの対面へと座る。
御者が馬に鞭を打つと馬車はゆっくりと進み始めた。
地面を踏む蹄鉄の音が規則正しく聞こえてくる。
「ここからは、長い道のりとなりますからのんびり行きましょう」
「わかりました」
王国の辺境にあるオーランド領までは、順調に行っても1週間はかかるだろう。
長旅となりそうだ。
「それにしても、昨日の治癒魔法はすごかったですね。さすがは、ベルベット氏の孫娘さんだ」
「祖父をご存じなのですか?」
ラースの祖父、ベルベット・ナイゲールは王国で賢者と呼ばれる存在だった。
全ての魔法に精通しているが、その中で一番優れていたと言われているのが、治癒魔法である。
祖父は種族、平民、貴族問わずその全ての困った人たちに手を差し伸べた。
いつだったか、祖父に言われたことがある。
「ラース、お前の力は特別なものだ。きっと、将来は私を超える子になるだろう」
そんな祖父は、魔力を使い果たしてこの世を去った。
困った人のために魔術はあるべきだ。
祖父はその信念を貫いたのだ。
「ベルベット氏は有名ですからね。ご存命のうちに一度はお会いしたかったです」
「確かに、祖父はすごい人でしたね……」
ラースは祖父の姿を瞼の裏に思い浮かべた。
優しく頭を撫でてくれた祖父の姿は、まだ色褪せることはない。
「情に深い者ほど、高位な魔術師になると言います。お祖父様はそれほどの器だったのですね」
「はい、お祖父様からいろんなことを教わりました」
祖父から教わったのは治癒魔法だけではない。
王国の医療についても祖父は詳しかった。
その中でも獣医学については、祖父を超える学者は現れないのではないかと言われている。
それほど、世界的な権威として獣医学界をはじめとする医学界を牽引して来たのだ。
祖父の影響で、ラースも医療を勉強して医師免許を取得している。
いつか、自分の病院を持ちたいなんて夢もあったりする。
「馬車を止めてください!」
ラースが言った。
「どうかされました?」
「神気を感じました。これは、神獣のものです」
魔獣よりさらに高位にする存在、それが神獣である。
「神獣がなんでこんな所に……」
「わかりません。ただ、反応が弱っています。このままでは危ない」
「おい、馬車を止めろ!」
クレインの一言で馬車が止まった。
ラースは馬車から降りると、辺りを見回した。
「あそこです!」
ラースが指差す方には、白い毛並みの小さな犬のような見た目の神獣が力なく横たわっていたのだった。
「では、お父様、お母様、行って参ります」
「ああ、気をつけてな」
「いつでも戻って来なさいね」
「はい、ではまた」
ラースはクレインの手を借りて馬車へと乗り込んだ。
クラインはラースの対面へと座る。
御者が馬に鞭を打つと馬車はゆっくりと進み始めた。
地面を踏む蹄鉄の音が規則正しく聞こえてくる。
「ここからは、長い道のりとなりますからのんびり行きましょう」
「わかりました」
王国の辺境にあるオーランド領までは、順調に行っても1週間はかかるだろう。
長旅となりそうだ。
「それにしても、昨日の治癒魔法はすごかったですね。さすがは、ベルベット氏の孫娘さんだ」
「祖父をご存じなのですか?」
ラースの祖父、ベルベット・ナイゲールは王国で賢者と呼ばれる存在だった。
全ての魔法に精通しているが、その中で一番優れていたと言われているのが、治癒魔法である。
祖父は種族、平民、貴族問わずその全ての困った人たちに手を差し伸べた。
いつだったか、祖父に言われたことがある。
「ラース、お前の力は特別なものだ。きっと、将来は私を超える子になるだろう」
そんな祖父は、魔力を使い果たしてこの世を去った。
困った人のために魔術はあるべきだ。
祖父はその信念を貫いたのだ。
「ベルベット氏は有名ですからね。ご存命のうちに一度はお会いしたかったです」
「確かに、祖父はすごい人でしたね……」
ラースは祖父の姿を瞼の裏に思い浮かべた。
優しく頭を撫でてくれた祖父の姿は、まだ色褪せることはない。
「情に深い者ほど、高位な魔術師になると言います。お祖父様はそれほどの器だったのですね」
「はい、お祖父様からいろんなことを教わりました」
祖父から教わったのは治癒魔法だけではない。
王国の医療についても祖父は詳しかった。
その中でも獣医学については、祖父を超える学者は現れないのではないかと言われている。
それほど、世界的な権威として獣医学界をはじめとする医学界を牽引して来たのだ。
祖父の影響で、ラースも医療を勉強して医師免許を取得している。
いつか、自分の病院を持ちたいなんて夢もあったりする。
「馬車を止めてください!」
ラースが言った。
「どうかされました?」
「神気を感じました。これは、神獣のものです」
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「神獣がなんでこんな所に……」
「わかりません。ただ、反応が弱っています。このままでは危ない」
「おい、馬車を止めろ!」
クレインの一言で馬車が止まった。
ラースは馬車から降りると、辺りを見回した。
「あそこです!」
ラースが指差す方には、白い毛並みの小さな犬のような見た目の神獣が力なく横たわっていたのだった。
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