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第11話 教会長の苦悩
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教会がアナスタシアを失ったことの重大さに気づくのはそう、遅くは亡かった。
聖女を頼って、教会を訪れる人たちからクレームが入るようになっていた。
「全然、回復しないじゃないか!」
「呪いが見えないとか、本当に聖女なの?」
「前の聖女はどうしたんだ!」
そこらへんから連れてきた、ちょっと治癒魔法が得意な人間では聖女の代わりは務まらないようだ。
それもそのはず、マイルには聖力が少しも無いのだから。
魔力だって多い方ではない。
並の人間と同じくらいのものだ。
1日に治療できるのは20人が限界だった。
アナスタシアの頃は1日に100人近くの患者さんを診ていた。
そして、アナスタシアにはその治癒技術はもちろん、人として評価されている部分が大きくあった。
だからこそ、皆んなアナスタシアを頼るのだ。
しかし、アナスタシアが居なくなって、次に現れたのは信頼も何も無い自称聖女の少女だ。
誰が彼女を頼りにするものだろうか。
「アナスタシアを戻せ!」
聖女が変わったことで、教会の信用は失墜して行く。
「どうしてだ! なぜ皆、口を揃えてアナスタシアの名を!!」
教会の会長は机に拳を叩きつけた。
「挙句の果てに、もう治療はできませんだと! ふざけるな! 私がいくら払ったと思っているんだ!!」
会長はアナスタシアの事を目の敵にしていた。
しかし、聖女は教皇が決めるものだ。
そこに、意見を挟む事は許されなかった。
しかし、教皇は今療養中だ。
実質、会長である自分が教会のトップだ。
今なら、目障りなアナスタシアを教会から追い出すことができる。
アナスタシアを追い出すには、新しく聖女を置く必要がある。
お飾りでも何でもいい。
とにかく治癒魔法が使えれば。
会長は貧乏貴族の娘を金で買った。
治癒魔法が使える、金に困っている貴族。
条件はそれだけで良かった。
「会長、お耳に入れておきたい情報があります」
教会の職員が怒り心頭中の会長に言った。
「なんだ! 私は今、忙しいんだ!」
「すみません。その、サリナー公爵家のご子息が婚約なされたそうです」
「何!? 確か、あいつは呪いで長くは生きられないはずだっただろう!」
会長には呪いが見えていた。
それでなお、放っておいたのだ。
あの男には死んでもらった方が都合が良かった。
「余命、幾許もない人間と婚約するとは、物好きもいたもんだな」
「それが、呪いは解けたようです。婚約者の名前は、アナスタシア」
「まさか……アナスタシアが呪いを解除したというのか!!」
ありえない。
あれは、あの呪いは、いくらアナスタシアに聖力があるからと簡単に解けるものではない。
「状況的にもそう考えるのが必然かと」
「嘘だ……」
「会長、もう、意地を張っている場合じゃありません! アナスタシア様を聖女に戻しませんか?」
「ならん! せっかく追い出せたんだ!」
会長のこの選択が後に、教会を完全に失墜させる引き金となることをこの時は知る由もない。
教会破滅への歯車は着実に回り始めてしまっていたのだ。
聖女を頼って、教会を訪れる人たちからクレームが入るようになっていた。
「全然、回復しないじゃないか!」
「呪いが見えないとか、本当に聖女なの?」
「前の聖女はどうしたんだ!」
そこらへんから連れてきた、ちょっと治癒魔法が得意な人間では聖女の代わりは務まらないようだ。
それもそのはず、マイルには聖力が少しも無いのだから。
魔力だって多い方ではない。
並の人間と同じくらいのものだ。
1日に治療できるのは20人が限界だった。
アナスタシアの頃は1日に100人近くの患者さんを診ていた。
そして、アナスタシアにはその治癒技術はもちろん、人として評価されている部分が大きくあった。
だからこそ、皆んなアナスタシアを頼るのだ。
しかし、アナスタシアが居なくなって、次に現れたのは信頼も何も無い自称聖女の少女だ。
誰が彼女を頼りにするものだろうか。
「アナスタシアを戻せ!」
聖女が変わったことで、教会の信用は失墜して行く。
「どうしてだ! なぜ皆、口を揃えてアナスタシアの名を!!」
教会の会長は机に拳を叩きつけた。
「挙句の果てに、もう治療はできませんだと! ふざけるな! 私がいくら払ったと思っているんだ!!」
会長はアナスタシアの事を目の敵にしていた。
しかし、聖女は教皇が決めるものだ。
そこに、意見を挟む事は許されなかった。
しかし、教皇は今療養中だ。
実質、会長である自分が教会のトップだ。
今なら、目障りなアナスタシアを教会から追い出すことができる。
アナスタシアを追い出すには、新しく聖女を置く必要がある。
お飾りでも何でもいい。
とにかく治癒魔法が使えれば。
会長は貧乏貴族の娘を金で買った。
治癒魔法が使える、金に困っている貴族。
条件はそれだけで良かった。
「会長、お耳に入れておきたい情報があります」
教会の職員が怒り心頭中の会長に言った。
「なんだ! 私は今、忙しいんだ!」
「すみません。その、サリナー公爵家のご子息が婚約なされたそうです」
「何!? 確か、あいつは呪いで長くは生きられないはずだっただろう!」
会長には呪いが見えていた。
それでなお、放っておいたのだ。
あの男には死んでもらった方が都合が良かった。
「余命、幾許もない人間と婚約するとは、物好きもいたもんだな」
「それが、呪いは解けたようです。婚約者の名前は、アナスタシア」
「まさか……アナスタシアが呪いを解除したというのか!!」
ありえない。
あれは、あの呪いは、いくらアナスタシアに聖力があるからと簡単に解けるものではない。
「状況的にもそう考えるのが必然かと」
「嘘だ……」
「会長、もう、意地を張っている場合じゃありません! アナスタシア様を聖女に戻しませんか?」
「ならん! せっかく追い出せたんだ!」
会長のこの選択が後に、教会を完全に失墜させる引き金となることをこの時は知る由もない。
教会破滅への歯車は着実に回り始めてしまっていたのだ。
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