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第30話 その医療は正義か罪か

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 ジャックに売り出した新作の化粧品も好調。
来月には店舗を構えることになってしまった。

「エミリア様、国王陛下と宰相様がお呼びです」

 陛下付きの執事が研究室にやって来た。

「分かりました。すぐに伺います」

 国王の執務室へと通される。
そこには、陛下と宰相が座っていた。

「急に呼び出してすまないね。とりあえず、座ってくれ」
「失礼します」

 エミリアは陛下の対面へと腰を下ろす。

「新しい法案について、ちょっと意見を聞かせてほしくてね」
「医療関係ですか?」
「左様です。こちらを」

 宰相から数枚の資料を渡される。

「終末期医療についてですか」
「ああ、その中でも今回の法は安楽死についてだな」

 この国では安楽死は法律によって禁止されている。
医師が自ら、薬などを使って死亡させる事は殺人と同義という解釈だからだ。

「エミリアの率直な意見を聞かせて欲しい。安楽死についてどう思う?」
「私は反対です。延命治療をせず、人間としての尊厳を保った尊厳死なら分かります。しかし、医者が手を下すのは、どれだけ患者さんに望まれたとしてもあってはならないと思うんです」

 延命治療をせず、自然に任せるのが尊厳死。
安楽死は医師が患者の命を断つことによって苦痛から解放するというもの。

 この二つは非なるものである。

「祖父が言っていました。生を全うさせてあげる為に医療は存在すると」

 死期が迫っているとはいえ、生きてさえいたら明日はないか変わるかもしれない。

「今、この瞬間も新しい治療法を開発したり、新しい薬を作ろうと必死になっている人たちがいます。私は、そんな人たちの思いを踏み躙るような行為はしたくない」

 医療は、常に進化しているのだ。

「分かった。この法案は見送りだな」
「そうですね」

 陛下は宰相と顔をわせた。

「いいんですか? 私の意見だけで決めちゃって」
「エミリアのそんな必死な顔、初めて見たからな。きっと色々考えているのだろう?」
「そう、ですね」

 死期が迫りどうせ死ぬなら、安らかに死にたいというのもわかる。
でも、命にしがみついて、会いたい人に会って、やれること全部やって、1日でも長く生きたいって足掻いて。
その方がずっと、人間らしい死に方なのではないか。

「生きることを簡単には諦めない。その先には必ず、希望があると私は信じています」

 安楽死を認める国もある。
だから全く全面から否定するつもりもない。

 ただ、自分は命を諦めたくない。

「急だったのに意見を聞かせてくれてありがとうな。ここからは、私の仕事だ」
「ありがとうございます。では、私はこれで失礼します。やりたい研究があって」
「今度は、何をするつもりだね?」
「白眼病の特効薬を作ろうかと」

 その言葉を最後に、エミリアは執務室を出た。

「聞いたか宰相」
「ええ、聞きました」
「また、とんでもないことをやろうとしてるもんだ」

 白眼病は発症したら死亡率は90%を超えている難病である。

「よく似ていますね。ブラット氏に」
「ああ、あいつもいつもこっちの予想を超えてきたもんだ」

 そう言って、陛下は笑みをこぼした。
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