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第4話 王の完治

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「これ、本当に全部使っていいんですか?」
「ちろんです。あなたの為に用意した物ですから」
「これだけ揃っていれば、明日にでも薬は完成すると思います」
「ありがとう。ただ、エミリア様もちゃんと休んでくださいね。あなたが倒れたら意味がありませんから」

 サルヴァに忠告される。
確かに、私は夢中になると周りが見えなくなってしまうことがある。

「お気遣いありがとうございます」
「では、よろしくお願いします。何かあったらこちらのメイドに言ってくれ」

 サルヴァは王宮に慣れていない私に、メイドを付けてくれたようである。

「分かりました」
「じゃあ、私はこれで失礼するがいつでも呼んでくれて構わんから遠慮はしないでくれ」

 そう言うと、サルヴァはその場を後にした。

「さて、やりますか」

 私が診た限り、国王陛下は肺炎だ。
ただ、繰り返される瀉血によって体力と免疫力が大幅に低下している。
そのことにより、肺炎の症状も重篤化しているのだろう。

 国王陛下の年齢を考慮すれば、このまま瀉血が続けられていては命に関わっただろう。

 肺炎なら適切な処置をすれば命を落とすことは無い。
私は調薬を続けた。

 患者の体重、年齢、症状の重さなどを考えて調薬する。
肺炎だからといって全て同じ薬を出せばいいというものでは無いのだ。

「できた……」

 薬が完成した頃にはすでに朝が近くなっていた。

 そして翌朝すぐにエミリアは、メイドに案内してもらい国王陛下の寝室へと向かっていた。
再び診察と調薬した薬を飲んでもらう為である。

「体調はいかがですか?」
「貴殿は……?」

 今日の国王陛下は意識があった。
しかし、それでも声は掠れるほど小さなものである。

「医師のエミリア・メディと申します。ご子息から頼まれまして、陛下の治療に参りました」
「サルヴァが……?」
「はい、サルヴァ様に頼まれました。必ず、よくなりますからがんばりましょう」

 医療に携わる人間が“必ず“や“絶対“などの言葉を使うのは良くないとされている。
しかし、私は患者さんには希望を持って治療に臨んでほしい。

「アイツが頼んだということは、腕は確かなんだろうな……」

 陛下が囁くような声で吐いた。
少しではあるが昨日より良くなっているようだ。

「食事は取れていますか?」
「ああ、少しだが……」
「よかったです。これ、飲めますか? 私が調合したお薬です」
「ああ」

 私は薬を陛下にゆっくりと飲ませる。

 それから毎日、私は陛下のもとに通って治療を続けた。
陛下の体調は日々良い方向へと向かっていた。

 そして、私が治療を開始して二週間が経過した頃、陛下の体調は完全に回復したのであった。
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