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第29話 ストーカー行為はご遠慮下さい。

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 その敵意は探知魔法無しでも伝わるような強いものだった。

「こりゃ、まずいな」

杏は少し怯えた様子だった。

「杏、その裏路地に入った所でお前を屋敷まで転移させる。そしたら俺はヤツをぶっ飛ばす」

御影の目からは慈悲は消えていた。

「わ、分かりました」

御影は杏の腕を取り、裏路地へと入った。

『転移』

杏に転移魔法で屋敷へと転移させた。
この時、御影の魔力は三分の一ほど減少したが、大した問題ではない。

「さて、ご挨拶させてもらおうかな」

御影と杏に敵意を向けていた男も裏路地へと入って来た。

「こんばんは。うちの杏に何か用かな?」

御影は黒い笑みを浮かべた。

「な、なんだお前は?」

中年で小太りの男が焦りと共に御影に目を向けた。
御影はこの男にどこか見覚えがあった。

「うちの杏につきまとっている自覚はあるな?」
「そ、それは、ち、ちがう! 僕は杏ちゃんを見守っていただけだ!」

男は必死に言い訳をしているように見えた。

「杏は怖がってるんだぞ。何が見守ってるだ」

御影は言葉の端々に怒気を乗せた。

「お、お前こそ何なんだよ!! 俺はエドガール伯爵の息子だぞ! お前の店なんてな、俺が親父に言えばすぐにでも潰せるんだぞ」

どこかで見覚えがあると思ったら、エドガール伯爵の息子だったのだ。
どうして、こうも貴族にはろくな奴が居ないのだろうか。

「俺は、叢雲御影だ。俺の店を潰せるだと? やれるもんならやってみろよ。こっちはお前の家ごと潰してやるよ」

御影は更に黒い笑みを浮かべる。

「叢雲……だと!?」
「いいか? 二度と杏に近づくな。次近づいたら、分かるよな?」

御影がちょっと脅すとエドガール伯爵の息子はそそくさと逃げて行った。
エドガール伯爵は人間として尊敬できるのだが、息子があれじゃあ伯爵気も先は見えているようなもんだ。

「とりあえず、俺もさっさと帰ろ」

御影も足早に帰路に就いた。
 屋敷に帰ると杏とクラリスが出迎えてくれた。

「あの、どうでした?」

杏が不安気に聞いてきた。

「それが、つきまとっていた奴は伯爵の息子だった。俺が脅しといたからしばらくは大人しくなるとは思うが」
「み、御影さん、伯爵家の息子を脅しちゃったんですか?!」

杏もクラリスも驚きを隠せない様子であった。

「うん、伯爵だろうが、俺には手を出せないだろうしな」
「いや、まあ、そうなんでしょうけど」
「これで収まるといいんだがな。まだ油断は出来ないから、送り迎えは続けるな」
「本当に、あなたは凄い人です」
「ありがとう」

御影は杏の頭をそっと撫でた。

「旦那様、エドガール伯爵が旦那様にお目にかかりたいといらっしゃっています」

 翌日、エドガール伯爵が息子を連れて
御影の屋敷にやって来た。

「分かった。応接間に通してくれ」

執事のロイクにそう頼んだ。

「かしこまりました」

御影は例によってスーツに着替えて応接間へと向かった。

「お待たせ致しました。エドガール伯爵、ご無沙汰しております」

エドガール伯爵は少し怒ったような表情をしていた。

「この度は、バカ息子が迷惑をかけて本当に申し訳ない!!」

エドガール伯爵は勢いよく頭を下げた。

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