俺は決してシスコンではないはず!〜周りはシスコンと言うが、ただたんに妹が可愛すぎるだけなのだが?〜

津ヶ谷

文字の大きさ
上 下
22 / 87

第22話 カレー作り

しおりを挟む
 四人の座ったカウンターは深刻な雰囲気に包まれていた。一方でテーブル席の整備班や運航部の隊員達は誠達の話題など聞いていないというように大声で談笑していた。

「なんか湿っぽくなっちゃったわね。これじゃあ酒がおいしくなくなるじゃないの。じゃあ、これまで来た5人のうちを出ていったなパイロットの話をしましょう!連中に比べて誠ちゃんがどれだけマシか……今日一日でよくわかったから」

 それまでの深刻な表情を満面の笑みで染めてアメリアはそう言って誠達を見渡した。

「えー、あの馬鹿どもの話か?それこそ酒がまずくなるぜ……同盟司法局の偉いさんがうちに力を持たせまいと送り込んだ一般人なんて……興味ねえや」

 アメリアの提案にかなめは嫌な顔をしながらラムの入ったグラスをすすっている。カウラはと言うと特に関心が無いというように静かに烏龍茶を啜っていた。

「その『法術師』の可能性が無いパイロットの中で、一番最初に来たのは……」

 烏龍茶のグラスを置いたカウラはそう言って首をひねった。

「オミズよ!オミズ!」

 嬉しそうにアメリアが叫んだ。その表情は喜色満面と言う言葉を絵にかいたようなそれだった。

「ああ、居たなそんな奴。印象薄くて顔も名前も憶えてねえけど……アイツが最初だったか……そうだ、アイツが最初だ。うんうん」

かなめは自分自身を納得させる為にそう言ってラム酒のグラスを傾けた。

「オミズ……女性だったんですか?元キャバ嬢とか。あの隊長の趣味ならあり得る話ですけど」

 取り残されていた誠はそう言って、なぜか嬉しそうな表情を浮かべているアメリアに尋ねた。

「違うわよ。男の子……400年に渡り提唱されつつこの20年くらいまで実現しなかった遼州同盟の締結を最初から提案していた遼州の月の『ハンミン国』は知ってるわよね?」

アメリアは社会知識ゼロの誠を試すかのようにそう言った。

「知ってますよ。毎晩空に浮かんでる月に人が住んでるって子供のころは驚いたもんです。確かあそこの公用語は韓国語でしたよね?」

 珍しく見つかった社会知識の引き出しを引っ張り出して誠はアメリアにそう言った。

「『ハンミン国』の第一公用語は確かに韓国語で合ってるわ。でも第二公用語は日本語。同盟会議の演説とかテレビで見ないの?各国の代表が日本語で演説してるじゃないの。まったく社会常識が無いのね、誠ちゃんは。まあ、あの国は資源に乏しいから主にナノマシン関係の技術と観光で食ってるのよ。『ハン流』の芸能人の歌とかドラマとか見たこと無い……わよね、誠ちゃんは。アニメ一筋だから」

 呆れたようにアメリアはそう言ってビールを一口飲んだ。

「知ってますよ!あの国のナノテクノロジーは東和と並んで地球を凌駕してますからね。まあ、たしかに『ハン流』のドラマとかは見たこと無いですけど……」

 誠は自分の偏った趣味を指摘されてうつむきがちにそう言った。

「あの国のお国柄なのか、その子も真面目そうな子でね……角刈りで目つきが鋭くて典型的な『軍人』って感じだったわよね。まあ、見た目に反してメンタルの方は弱かったみたいだけど」

 いぶかしげに尋ねる誠の言葉をアメリアはビールを飲みながら軽く否定した。

「オメエが初対面のアイツに水ぶっかけるからだろ?運航部の入り口で……ドアを開けたら上から仕掛けられていたバケツでドシャ―って」

 かなめは呆れたようにそうつぶやいた。

「水ですか!いきなり失礼じゃないですか!」

 かなめの言い出した言葉で誠は運航部の入り口で逢った『金ダライで歓迎事件』のことを思い出した。

 マイク片手にカラオケでロックを熱唱して馬鹿騒ぎしている運航部の女子隊員の様子を見ればそれくらいのことはやりかねないと誠にも察しがついた。誠は呆然としてアメリアの底知れない不気味な笑顔をのぞき見た。

「かなり怒っていたな……水くらい拭けばいいのに」

「そりゃあ初対面の人の頭に水をぶっかければ普通怒りますよ!」

 常識人に見えて完全に『特殊な部隊』に染まっているカウラの薄い反応に、誠は思わず強めに叫んでいた。

「つうわけで、水をぶっかけられて激怒したそいつはせっかくアタシ等がここでなだめる為の宴会を開いてやったというのに、そのまま次の日に叔父貴にタクシー券を渡されて豊川駅からさようならしたわけだ……この店でもずっと黙り込んだままで……ああ、詰まらねえ酒だったな、あの日の酒は」

 薄ら笑いを浮かべながらかなめそう言って笑った。

「僕は……残るつもりですから……」

「本当に?本当に?」

 冷やかしてくるアメリアを冷めた目で見つめながら誠は砂肝を平らげた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

浦島子(うらしまこ)

wawabubu
青春
大阪の淀川べりで、女の人が暴漢に襲われそうになっていることを助けたことから、いい関係に。

処理中です...