136 / 138
第136話 融和政策を破壊した男達の末路 前編
しおりを挟む宰相としては、これからのブラットリー家の為にも優秀に育った令嬢を手放したくない。
リアンはダメでも、その弟の嫁に欲しい。
貴族家では何かあった場合に備え、嫡子のスペアを用意してあるものだ。
ブラットリー家でも、次男には婚約者を宛がわず残してあった。
婚約者を兄から弟に変更し、このまま中立派の家との政略を進めたいと願い、懇願する。
「マリー侯爵、是非。 図々しいお願いだとは分かっている。だが、お願いできないだろうか?」
「宰相……」
ブラットリー侯爵から頭を下げられ、考え込む。
娘とリアンが上手くいっていなかったのは知っていた。
当然、宰相も知っていたはずだ……自分の息子に原因があったことを。
だが、リアンが態度を改めたことはなかった。
彼を諌めたのか、諌めた上で聞かなかったのか……経緯はどうでもいいのだ。
マリー侯爵が問題としたのは、いくら政略とは言え、娘がブラットリー家に粗雑に扱われたという事実だった。
今まで格上の公爵家だったからこそ、我慢してきた部分もある。
同格の家柄になった今はもう、遠慮などしなくてよくなったのだ。
リアンのスペアとして育てられた弟だが、彼より優秀なら再考する余地もあった。しかし、そんな噂は聞いたことがない。
(正直、今の宰相家に我が娘はもったいなさ過ぎる)
このままもう一度、嫁がせる気にはなれなかった。
「これは、我が家が決めても良いのですかな、陛下?」
王が口出しをしないと言うことは、ここはマリー侯爵の胸の内一つで決めてもいいのだとは思ったが、念のため確認する。
「勿論だ。そなたに任せる」
「恐れ入ります」
王としても帝国派筆頭の勢いを削いだことで、この政略をそれほど重要視しなくてよくなった。
両家を取り巻く事情は変わったのだ。
ここはマリー侯爵に判断させてもいい……そう思った。
王から肯定の言葉を引き出した侯爵は、決意を込めて宰相を見た。
「申し訳ございません、宰相。今すぐの返答は出来かねます」
少し、考えさせて欲しいというマリー侯爵。
「侯爵、それは……そうですね。失礼、私も焦り過ぎました。この件は、後日また」
「ええ、宰相。いずれ、また……」
即答を避けられたことで、再び縁を結ぶことが困難になったと心の中で落胆する宰相。
(仕方ない……全面的に非はこちらにあるのだ)
今回の婚約破棄騒動を起こす以前からの、リアンの不誠実な態度が責められているのだろう。
無言の抗議を感じたブラットリー侯爵は、ここは一旦、引くことにしたのだった。
5
お気に入りに追加
6,371
あなたにおすすめの小説
「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます
柚木ゆず
恋愛
ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。
わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?
当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。
でも。
今は、捨てられてよかったと思っています。
だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
【短編】国王陛下は王子のフリを見て我がフリを反省した
宇水涼麻
ファンタジー
国王は、悪い噂のある息子たちを謁見の間に呼び出した。そして、目の前で繰り広げられているバカップルぶりに、自分の過去を思い出していた。
国王は自分の過去を反省しながら、息子たちへ対応していく。
N番煎じの婚約破棄希望話です。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
どうやら断罪対象はわたくしのようです 〜わたくしを下級貴族と勘違いされているようですが、お覚悟はよろしくて?〜
水都 ミナト
恋愛
「ヴァネッサ・ユータカリア! お前をこの学園から追放する! そして数々の罪を償うため、牢に入ってもらう!」
わたくしが通うヒンスリー王国の王立学園の創立パーティにて、第一王子のオーマン様が高らかに宣言されました。
ヴァネッサとは、どうやらわたくしのことのようです。
なんということでしょう。
このおバカな王子様はわたくしが誰なのかご存知ないのですね。
せっかくなので何の証拠も確証もない彼のお話を聞いてみようと思います。
◇8000字程度の短編です
◇小説家になろうでも公開予定です
恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜
k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」
そう婚約者のグレイに言われたエミリア。
はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。
「恋より友情よね!」
そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。
本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。
処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~
インバーターエアコン
恋愛
王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。
ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。
「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」
「はい?」
叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。
王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。
(私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)
得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。
相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる