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第134話 リアン・ブラッドリー公爵令息の処遇 中編

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 恩人である自分達には、ある程度王家も目溢しするはずだと心得違いをしたらしい。

 減った資産を補填するため、多少強引な犯罪紛いの行為も見逃されるだろう、と。

 最悪だったのは、国の混乱に乗じていつの間にか、貴族の不正を暴く捜査機関にも侯爵の息がかかった者が幅を利かせていたこと。


 気づいた時には遅かった。


 すぐには取り除けないくらい組織内部に侵食されており、公平な捜査を妨害していたのである。



 王妃の努力により帝国派が盛り返すまでは、独占状態だったといっていい。


 何しろ、帝国寄りの領土を持つ貴族達は、自領を立て直すのに必死だった時に、デーヴィス侯爵をはじめとする隣国の影響力化にある貴族に損害を補填してもらったのだ。

 当然、宮廷での発言力が落ちていた。


 その事に危機感を抱いた帝国から、支援を受けて盛り返したのだ。

 条件は、帝国貴族との婚姻。

 多くの貴族が戦い戦死したこともあり、仕方ない部分もあった。

 男爵家などの下級貴族は許可が下りやすいと言うのもある。

 混乱のどさくさ紛れに認められてしまった婚姻もあったのだが、国力が落ちている時だったので処分も出来なかった。


 こうして帝国が支援し支えたことで、帝国寄りの領土を持つ貴族が王妃の政治基盤を支える帝国派に取り込まれていったのであった。



 当然ながら王家は、二大大国の息がかかった勢力の拡大を望まなかった。


 しかし、スタンピードからの深刻な疫病で貴賤問わず多くが犠牲となり人口が減少、その上国主の代替わりまであっては、どう足掻いても身動きが取れなかった。

 王も王弟であるランスフォード公爵も、当時は相当悔しい思いを味わった。


 だが、ただ手をこまねいていたわけではない。

 地道に証拠を集め、過度な粛清もせず様子見に徹して、双方の力を削ぐ機会をじっと伺っていたのである。

 そして、サリーナの登場でついに、その時が来たのだ。



 国王とは幼なじみであり学友でもあった宰相は、自らの家にも王妃の腹心とも言える帝国の娘を迎える事を強制され、婚約者と別れさせられた過去がある。

 表面上、夫妻の仲に波風は立っていなかったが、愛していた婚約者の事を忘れたことはなかった。

 宰相にとっても、積年の恨みを清算する時がきたのだ。


「それに、最終的に危険人物を王子に紹介したのは、我が愚息ですので」


 理由としては、それで十分でしょうと言った。

 表向き、ランシェル王子に重い処罰を与えられない分、側近達の家に責任を取らせることになる。

 理不尽だろうが国の体面を守るためには、そうするしかない。

 その中でも側近筆頭で、宰相の息子の処罰は他より重くなければ反感を招くと言っているのだ。




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