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第133話 リアン・ブラッドリー公爵令息の処遇 前編

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「陛下、愚息の処遇を決める前に、国政に携わる者として一つ、申し上げたき儀がございます」


 彼の目を見れば私情を捨てて、意見を述べるつもりだと分かる。

 そして、何を言い出すのかも……。

 本人の口から言うのはさぞ辛かろう。

 長年、一番近くで支えてくれた友に本当はそんなこと、言わせなくなかった……だが、感傷に浸ることは許されない。


「……聞こう」

「恐れ入ります。では、結論から申し上げます」


 苦渋に満ちた国王の心中は、宰相にも分かっていた。

 しかし今後、余計な軋轢を生まない為にも、ここは宰相である自分の口から言う必要があったのだ。


「我がブラッドリー公爵家は帝国の影響が強すぎます。これを機に、暗黙の了解となっていた宰相職の世襲を今代限りとした上で、爵位の降格をしていただきたい」


 キッパリと自らの家を切り捨てる発言をした宰相に、驚きの声があがる。


「いや、しかし宰相……それは」


 王と王弟は、ある程度予想していたのか沈黙を守っている。

 しかし、他の出席者達は、思いきった決断に戸惑いを隠せないていた。

 中には、そこまでしなくてもいいのではと意見する者も現れたのだが……。


「いえ、我が家は帝国派閥筆頭ですから。ここを潰さなければ、王妃派の勢力も削れません」


 そして、国政への帝国の侵食も……と首を振った。


「しかし……よろしいのですか?」


 敢えて泥を被るような真似をしなくても、という重鎮に……。


「もう、決めたことですから」


 宰相としては王家が様子見を決めた時点で、覚悟をしていたことなのだ。

 微笑みさえ浮かべながら、そう言いきった。




 第一王子と側近達の愚行は、もちろん宰相も知っていた。

 自分の跡取り息子の事なのだ……当然だろう。

 しかし、国家としての醜聞になるのが分かっているにもかかわらず、王家が動かないことの意味を汲み取れない宰相ではない。

 王がこれを利用して、発言力の強くなりすぎた家の勢いを一気に削ぐつもりだということに気づいたのである。


 それは何も帝国派に属する貴族だけではない。



 隣国との融和派や、隣国寄りの領土を持つ貴族の影響力をも削ぐ狙いがあった。

 彼らが力を持ち始めたのは、王妃が帝国から嫁いでくるきっかけとなった周期はずれのスタンピードが起こってからだ。

 その際、国の要請で荒れ果てた帝国寄りの領土へと私財を放出し、国難を救う一翼を担ったことで、宮廷での発言力が増していく。

 それによって、国に恩を売ったと増長する貴族家も出てきた。


 ――その筆頭が、先日捕縛されたばかりのデーヴィス侯爵だろう。





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