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第138話 純血主義者の反発

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「あとは純血主義者どもの反発だが……」


 先に上げた二つの派閥と違い、愛国者で構成されている彼らは諸外国にこそ、靡くことはない。

 だが、王位継承順位を曲げさせた帝国と王妃を憎み、ランシェル王子の立太子に反対の立場を崩していないため、完全な味方でもない。

 隣国のスパイが放った女に翻弄されるという失態を晒し、傷物となったランシェル王子をこのまま後継ぎとする上で、一番の障害となるだろう。

 反感を買うに決まっている。

 扱いづらい勢力だった。


「きっと、帝国の圧力に屈したと騒ぎ出すことでしょうな」

「全く、気持ちは分かるが……厄介なものです」

「……しかし、アラン様の存在があるかぎり、彼らは振り上げた拳を下ろさないのでは?」

「まぁ、そうでしょうね」


 純血主義の貴族たちは、かつてアランの母親を冷遇したことも忘れ、彼を王位に据えようと躍起になっている。


(全く、勝手なものだ。王子妃にするには体が弱すぎるとあれほど猛反対しておいて、これだからな……)


 当時の苦い記憶がよみがえる。

 行き過ぎた思想を持つ奴らは気に入らないが、目的達成のためにはそれさえも利用しなければならない……。


「どうなさいますか?」

「やはり、アラン様の扱いが肝になりましょうな」

「左様、左様。国内が割れることは防がなければいけません」


 帝国の横槍のお陰で複雑化してしてしまったが、混乱は避けなければならない。


「不敬を承知で申し上げれば、魔力の器の大きさ、それと血統魔法の強力さからいえばあの方が後を継がれるのが妥当とは私も思います」

「さ、宰相。さすがに貴方がそれをおっしゃるのは不味いのでは……」

「分かっておりますよ。ここだけの話です」

「ま、まあ、アレですな。我が国の法令に則って考えれば、間違った主張とは言えないのもまた、事実ですし」

「……確かに」



 そうなのだ。

 ハワード王国の法令では、王位継承をめぐる争いを防ぐため、男系長子継承制を定めている。

 つまり、血統主義者達の主張は真っ当なため、反対しにくい。


 そして、王と王弟の最終的な目的の為には、ランシェル王子の血筋をこのまま、継承させる訳にはいかなかった。

 何かしらの理由をつけて、現王の第一子、元第一王子のアラン・グリンドヴァール公爵令息の血筋を、王家に戻さなければならない……不自然なく。



 いよいよ、話の流れが自分達の意図した通りに進み始めたことで、二人は密かに目と目で合図を送ったのだった。


 ――これは、臣下達も知らない王家の秘密。


 王位継承を定める法令は対外的なもので、実質は違うのだ。

 もし発覚すれば、国を根幹を揺るがす事態になるだろう。



 それは、ハワード王国の王族男子にのみ現れる、血統魔法『統率』スキルに関係していた。




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