上 下
124 / 138

第124話 王城にて

しおりを挟む
 


 ◇ ◇ ◇



 あれから、一部の人々にとっては長かった一夜が明け、ランスフォード公爵が大きな荷物と共に登城してきた。

 証拠として押収した品の一部、優先度の高いものだけをついでに持ってきたようだ。

 隠密を通じて先に提出してあった資料も含めると、膨大な数になる。

 到着後すぐに国王への目通り許された彼が、追加で手渡した書類も取り急ぎこれまでの経緯を一晩でまとめ、作成したものだという。


「……以上が現状で分かっているもの、全てになります」

「うむ。ご苦労だったな、弟よ。楽にしてくれ」

「はっ」


 相当、無理をしたのだろう。

 間近で見ると顔色もひどかった。

 きっと徹夜で指揮を取り、そのまま来たのだと思われる。


 そこで国王は、新た持ち込まれた資料に目を通す間、城付きの女官達に命じて公爵の世話をさせることにした。

 部屋の中には国王と王弟の二人だけということもあり、畏まらなくても良いと声をかけた途端、疲れきった顔を晒し、ぐったりとソファーに沈む公爵。

 そんなお疲れ気味の彼に、温かいお茶と胃に優しい軽食が出され、その後、粒揃いの美人女官達による全身マッサージが施された。



「悪いな。あまり、休ませてはやれないのだ」

「分かっておりますよ、陛下」


 今は時間が勝負だという国王の意見には、完全に同意する。

 心のこもったもてなしにより、少しだが疲れもとれた。


「……我々が最後ですか?」

「ああ、そうだ。では行こうか?」

「はい」


 飲食をして少し休息をとったおかげで、しっかりとした顔つきに戻った公爵に安堵し、頷く。


 それから読み込んだ資料を担当者に渡し、幾つかの指示を出しながら立ち上がる。

 二人以外の面子はもう、御前会議のため城の一室に集められていて、出来ることから先に意見の取り纏めしておくようにと命じられていた。

 まずは一連の騒動の発端となったランシェル王子の婚約破棄騒動を、早急に片付ける必要がある。

 国内に噂が広がり混乱を招く前に、決着をつけなければならない。





 会議室に召集された側近達は、国王と王弟の入室に、一端議論を止めて立ち上がった。


「皆、よく集まってくれた」


 国王からの労いに、一斉に礼をとる出席者達。

 まもなく二人が着席すると早速、 話し合いに入る。

 最新の情報も含め捜査の進捗情報を確認した後、やがて議題は婚約破棄された令嬢達の今後について移っていった。



 まずは、ヴァレンチノ辺境伯領について……。

 ルイーザ・ヴァレンチノ辺境伯令嬢と剣聖アデルヴァルト・リューディガーの婚約が決定したことを、改めて確認した。

「全く、あの場で力を見せつけて欲しいとは頼んでおいたのだが……凄まじかったそうではないか?」

「ええ。想像以上の働きをしてくれましたよ」

 実際に体感したランスフォード公爵から、圧巻の「威圧」スキルでしたと聞いた国王は満足そうに目を細める。

 国内はもちろんのこと、諸外国からの客人も彼の人の強さをしっかりと目の当たりにしたはず。

 外敵に対して、この上ない牽制になることだろう。


「初めは出席そのものを渋っておられたそうですが、辺境伯令嬢も出席すると聞いて快く引き受けてくださったとか?」

「なんと。ではこれは、ご令嬢のお手柄ではありませんか、ヴァレンチノ辺境伯」


 笑顔でルイーザの父である辺境伯を褒めちぎっているのは、切れ者と噂の宰相だ。

 今回の件には彼の息子も深く関わっているはずだが、国王はこの会議への出席を認めているらしい。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様、最後に一言よろしいでしょうか?

甘糖むい
恋愛
白い結婚をしてから3年目。 夫ライドとメイドのロゼールに召使いのような扱いを受けていたエラリアは、ロゼールが妊娠した事を知らされ離婚を決意する。 「死んでくれ」 夫にそう言われるまでは。

どうやら断罪対象はわたくしのようです 〜わたくしを下級貴族と勘違いされているようですが、お覚悟はよろしくて?〜

水都 ミナト
恋愛
「ヴァネッサ・ユータカリア! お前をこの学園から追放する! そして数々の罪を償うため、牢に入ってもらう!」  わたくしが通うヒンスリー王国の王立学園の創立パーティにて、第一王子のオーマン様が高らかに宣言されました。  ヴァネッサとは、どうやらわたくしのことのようです。  なんということでしょう。  このおバカな王子様はわたくしが誰なのかご存知ないのですね。  せっかくなので何の証拠も確証もない彼のお話を聞いてみようと思います。 ◇8000字程度の短編です ◇小説家になろうでも公開予定です

【短編】国王陛下は王子のフリを見て我がフリを反省した

宇水涼麻
ファンタジー
国王は、悪い噂のある息子たちを謁見の間に呼び出した。そして、目の前で繰り広げられているバカップルぶりに、自分の過去を思い出していた。 国王は自分の過去を反省しながら、息子たちへ対応していく。 N番煎じの婚約破棄希望話です。

妊娠した愛妾の暗殺を疑われたのは、心優しき正妃様でした。〜さよなら陛下。貴方の事を愛していた私はもういないの〜

五月ふう
恋愛
「アリス……!!君がロゼッタの食事に毒を入れたんだろ……?自分の『正妃』としての地位がそんなに大切なのか?!」  今日は正妃アリスの誕生日を祝うパーティ。園庭には正妃の誕生日を祝うため、大勢の貴族たちが集まっている。主役である正妃アリスは自ら料理を作り、皆にふるまっていた。 「私は……ロゼッタの食事に毒を入れていないわ。」  アリスは毅然とした表情を浮かべて、はっきりとした口調で答えた。  銀色の髪に、透き通った緑の瞳を持つアリス。22歳を迎えたアリスは、多くの国民に慕われている。 「でもロゼッタが倒れたのは……君が作った料理を食べた直後だ!アリス……君は嫉妬に狂って、ロゼッタを傷つけたんだ‼僕の最愛の人を‼」 「まだ……毒を盛られたと決まったわけじゃないでしょう?ロゼッタが単に貧血で倒れた可能性もあるし……。」  突如倒れたロゼッタは医務室に運ばれ、現在看護を受けている。 「いや違う!それまで愛らしく微笑んでいたロゼッタが、突然血を吐いて倒れたんだぞ‼君が食事に何かを仕込んだんだ‼」 「落ち着いて……レオ……。」 「ロゼッタだけでなく、僕たちの子供まで亡き者にするつもりだったのだな‼」  愛人ロゼッタがレオナルドの子供を妊娠したとわかったのは、つい一週間前のことだ。ロゼッタは下級貴族の娘であり、本来ならばレオナルドと結ばれる身分ではなかった。  だが、正妃アリスには子供がいない。ロゼッタの存在はスウェルド王家にとって、重要なものとなっていた。国王レオナルドは、アリスのことを信じようとしない。  正妃の地位を剥奪され、牢屋に入れられることを予期したアリスはーーーー。

二度とお姉様と呼ばないで〜婚約破棄される前にそちらの浮気現場を公開させていただきます〜

雑煮
恋愛
白魔法の侯爵家に生まれながら、火属性として生まれてしまったリビア。不義の子と疑われ不遇な人生を歩んだ末に、婚約者から婚約破棄をされ更には反乱を疑われて処刑されてしまう。だが、その死の直後、五年前の世界に戻っていた。 リビアは死を一度経験し、家族を信じることを止め妹と対立する道を選ぶ。 だが、何故か前の人生と違う出来事が起こり、不可解なことが続いていく。そして、王族をも巻き込みリビアは自身の回帰の謎を解いていく。

お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます

柚木ゆず
恋愛
 ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。  わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?  当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。  でも。  今は、捨てられてよかったと思っています。  だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。

7年ぶりに帰国した美貌の年下婚約者は年上婚約者を溺愛したい。

なーさ
恋愛
7年前に隣国との交換留学に行った6歳下の婚約者ラドルフ。その婚約者で王城で侍女をしながら領地の運営もする貧乏令嬢ジューン。 7年ぶりにラドルフが帰国するがジューンは現れない。それもそのはず2年前にラドルフとジューンは婚約破棄しているからだ。そのことを知らないラドルフはジューンの家を訪ねる。しかしジューンはいない。後日王城で会った二人だったがラドルフは再会を喜ぶもジューンは喜べない。なぜなら王妃にラドルフと話すなと言われているからだ。わざと突き放すような言い方をしてその場を去ったジューン。そしてラドルフは7年ぶりに帰った実家で婚約破棄したことを知る。  溺愛したい美貌の年下騎士と弟としか見ていない年上令嬢。二人のじれじれラブストーリー!

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

処理中です...