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第116話 謹慎
しおりを挟む「さて、そろそろ用意が出来たようだ」
魔法で身体強化された公爵の耳には、扉の外にいる近衛兵達の足音が聴こえていた。
「叔父上、準備とは?」
「決まっているじゃないか」
何のことか分からないと首を傾げる王子に、殊更にこやかな表情を向ける公爵。
「王宮より、迎えが来たのだよ。君達四人、北の塔行きだ」
「……っ!?」
「え、え、えっ?」
「……そんなっ!?」
自分達は今、どこへ行けと言われた?
まさか、あの北の塔へ行け、と言われたのか……?
聞き間違いか、と呆けたように公爵の顔を見つめる四人だったが……。
「まずはそこで謹慎だそうだよ?」
「は、発言をお許しください、ランスフォード公爵!」
思わずといった風に、リアンが声を上げた。第一王子と公爵の話に割って入るなど、随分と冷静さを欠いているようだ。
「謹慎は受け入れます。ですが、本当に行き先は北の塔なのですか!? 私達が!?」
そんなはずはないと叫ぶ。
謹慎するのはいいだろう、まだ我慢できる。
しかし、指定された場所が問題だった。
あそこは国賊級の罪人を収容するところだ。
(我々はそこまで重大な罪を犯した訳じゃないっ)
予想外の重い処罰だったようで四人共、目に見えて狼狽えている。特に王子はショックだったようで、言葉も無い。
「そうだよ。ちなみに期間は未定だ。心して陛下の裁決を待ちなさい」
軽い口調で何でもないことのように言われたその言葉が、王子達の脳に浸透するのには少し時間が必要だったらしい。
「そ、そんなバカなっ」
「嘘だろう!?」
「本気で俺たち全員を、北の塔へ!?」
一瞬うまれた余裕も消え、再び真っ青になっている。
しかし、彼らが立ち直るまで時は止まってくれないのだ。
客室の豪華な扉がバタンと開くと、混乱したままの彼らを近衛兵が取り囲んだのだった。
「連れていけ」
「はっ」
「……っ!?」
ランスフォード公爵に命ぜられた隊長格の騎士が敬礼するのを、呆然と眺める。
そして、衝撃を受けたまま、抵抗することも忘れた四人は捕らえられ、部屋から連行されていったのだった。
甘い処置に落ち着きそうだった元婚約者とランスフォード公爵の会話を、苦々しい思いで聞いていた令嬢達はというと……。
このままうやむやに済ますつもりなのかと疑っていた処罰が思いの外、厳しい結果になりそうだと判明してこちらも混乱していた。
ランシェル王子達が、アッサリと連れていかれた扉をじっとみつめたまま固まっている。
「さて、お嬢様方」
そんな彼女達に、ランスフォード公爵は優しく声をかける。
「今宵は大変な試練をのりこえてくれた。君達の協力に感謝する」
「ランスフォード公爵様」
ここまで王子と公爵が話していたため、シルヴィアーナを除き、身分的に発言したくとも出来なかった令嬢達に、労りの言葉をかけたのだった。
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