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第112話 約束事
しおりを挟む「君自身が婚約の解消を望み、王妃が納得できる新たな婚約者を用意できた場合、二人の婚約を白紙に戻すことができる、と」
「え?」
叔父の言葉に、目を見開いて驚く王子。
「そ、そんなっ。母上はシルヴィアーナ嬢以外、認めないと言っていたのに!?」
知らされた真実に、衝撃を受けるランシェル。
彼とて、なにも初めから公衆の面前で婚約破棄騒動を起こそうなどと考えていた訳ではない。
サリーナに唆されたこともあるが、もとはといえば両親に直訴しても埒が明かなかったから強行したのである。
信頼する母親に嘘をつかれていたのか、と呆然とする王子を見て、ランスフォード公爵は言った。
「王妃を庇うわけではないが……相手があの女では、彼女もそう言うしかなかったのではないかね?」
と、諭した。
「……あっ!?」
確かにそうだ。
正気に戻りつつある彼からしても、あそこでサリーナとの仲をあっさり認められていたら、それはそれで困る。
今にして思えばあれほど自身の血筋を誇りにし、こだわっていた自分が、いくら真実の愛を見つけたとはいえ庶民と変わらないようなサリーナに夢中になるなど変だった。
一人息子の自分のことを、あれほど愛してくれている王妃のことだ。
正気ではないことなど、とっくに気づいていただろう。
「申し訳ありません、叔父上。母を疑うなど……早計でした」
早とちりした自分を、深く恥じる。
「うむ。誤解が解けたようでなによりだよ」
王妃に対しては、素直に過ちを認められる彼の反応は予想通りだった。
鷹揚に頷いた公爵は、なぜそんな約束事がなされたのかを説明し始めた。
そもそもこれは、ランシェルの婚約者選びが長年、難航していたからこその提案だった。
シルヴィアーナ・バーリエット公爵令嬢は、血統も能力も、今まで紹介された令嬢達の中では一番優れている。
だからこそ王妃は、王子も気に入るだろうと考えたのだが……。
国王やバーリエット公爵の意見は違ったのだ。
同じ男だからこその見解と言えるだろう。
プライドの高い王子がすんなり納得して受け入れるとは到底、思えなかったのである。
魔力の器が大きく治癒能力に優れた公爵令嬢との婚約によって、いずれは国内の派閥もひとつに纏まっていくことだろう。
そして、立太子も時間の問題だと言われるようになる……彼女との婚約のお陰で、と。
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磐石の地位を築けた要因が本人以外にあると言われることに、耐えられる器があるだろうか?
国として派閥の融和は喜ばしいことだが、彼個人はきっと気に入らないはず。
――自分にはない天性の才能を持つ、シルヴィアーナ・バーリエット公爵令嬢という、存在自体が……。
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