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第102話 疑惑 中編

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 彼らに説明しながらもリアンは、どうしようもない不安に苛まれていた。

 ある疑惑が頭から離れなかったせいである。

 それは、国王や大臣達が王子を巻き込んだ一大スキャンダルを、何の手も出さずに大炎上するまで放置するだろうか……ということだ。

 このままだと側近である自分達はともかく、ランシェル王子にもある程度、厳しい処分をしなくてはいけなくなってしまうではないか。


(いやいや、普通に考えてあり得ないでしょう)


 何しろ彼は現王唯一の王子。

 帝国に遠慮して側妃を迎えなかった王には、王妃との間にランシェル以外の子がいない。

 つまり、まだ立太子の儀を行っていないとはいえ、次の王座は確約されているはずなのだ。



 そんな彼に何かあれば、我が国と王室の権威に傷がつくのは明白。

 露見次第、止めるなり揉み消すなりするだろう。

 彼等にはそれが可能なのだから。

 にもかかわらず、国王陛下から今まで何の音沙汰も無かったということは……。


(……全て承知の上で泳がされていた、と見るべきでしょうね。だとすると陛下は、殿下の処遇をどうされるおつもりなのでしょうか……?)


 これが今、リアンを悩ませている問題だった。



 クシャリと髪をかき混ぜながら、思考が霧散しそうになるのを叱咤して、自分達の現状を把握しようと深く沈潜する。


 隣国と帝国、そしてこの国の国力は現在、総合的に見ると拮抗している。

 その為、少しの火種があれば、崩れかねないといわれていた。


 ――ただしそれは表面的なこと。


 実際、国内では現王が即位した時点から、帝国の影響力がじわりじわりと強まって来ており、強く出れない状態が続いていた。


 それはこの国が近年、帝国からある恩恵を受けたことと関係しており、王妃が嫁いで来ることになった原因でもあった。

 ちなみにその婚姻の際、王妃の腹心であるリアンの母も、時を同じくしてブラットリー公爵家に嫁いできている。

 そして彼の父が宰相職を引き継いだのも丁度その頃だった為、帝国の意向が反映されているとのもっぱらの噂であった。



 さて、大国同士の婚姻とはいえ、時期的に帝国有利のなか結ばれた条約はハワード王国にとって不利益なものもあった。

 例えば、帝国の血を引く王子を必ず次期王に立てること、と言う密約もそうだ。

 国民や下位貴族には伏せられていたが、政治の中枢を担う上位貴族には当然、開示されており当時は反発も大きかったという。


 王子とその側近達は立場上、小さな頃から次の王位の確約を知らされていて、このことも成長と共に慢心していく一端になったのだが……

 現在の王宮の対応を見るに、彼らにとって堕落しやすい環境を用意されていたのではないかと勘ぐってしまうリアンだった。


 まぁそれを考えるのは今ではない。まさか……。


(まさかあの隣国が、こんな搦め手を使ってくるとは思いませんでしたよ……全く警戒していませんでした)


 周辺国に侵略を繰り返し大国へ成長した隣国は、どちらかと言うと、武力で全てを解決するイメージが強い。

 しかし今回は、今までの力任せだった攻め方とは違っていた。

 二国間で手を組まれることを恐れ、工作活動を活発化させたのだろうが、裏に潜むことに徹していたように感じる。

 今までのようにターゲットを直接消すのではなく、取り込み操って、ハワード国内に混乱をもたらす方向へシフトしたのかもしれない。

 帝国の力を削ぎつつ、自国の影響力を強化するのが狙いか。

 そして、サリーナが派手に動きすぎたことでその一部が今宵、露見した。

 現状としては、そんなところだろうか?




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