皆まとめて婚約破棄！？ 男を虜にする、毒の花の秘密を暴け！ ～見た目だけは可憐な毒花に、婚約者を奪われた令嬢たちは……～

第84話 癒着

　

　真っ先に逃げ出そうとしたのは、自分達に飛び火するのを恐れたからだ。

　彼らはサリーナと同様、隣国のスパイ容疑がかかっていたサーカス団と癒着していた貴族達だったのである。


　怪しい噂が付きまとっていたサーカス団は、以前から捜査当局に目をつけられていたらしい。

　城下で違法な薬物や怪しげな魔道具が取引されているのを不審に思って調査を進めていく内に、一部の貴族とサーカス団が関与している可能性が高くなっていく。

　そしてついに先日、それらの販売だけでなく人身売買まで、様々な犯罪に手を染めていたことが分かった。

　そのどれもが、国内を混乱させ国力の低下を狙ってのものに違いなかった。



　国家反逆罪にも値する大それたことを仕出かす犯罪組織なのに発覚が遅れたのは、この国の貴族のなかに裏切り者がいたからである。

　隣国のスパイと知りながら彼らの情報を隠匿し、見返りに金銭などの恩恵を受けていた売国奴達。

　怪しいとされる貴族家の名前は捜査線上に上がっても、確証がなく逮捕までには踏み込めないでいた。

　だが、そんな海千山千の腹黒い貴族達に苦戦している調査官達の前に、付け入る隙がある人物が現れたのだ。


　――それがサリーナだった。


　そしてちょうどその頃、ダフネ達は男を誑かす毒の花に捕まった婚約者たちの素行に頭を悩ませていた。

　サリーナについて本格的に調べようとしたころには、彼女の所業について様々な貴族家から苦情が出ていたこともあり、既にある程度の調査が行われていた。

　商人や下位貴族の令息達と問題を起こしていた時には見逃されていたことも、王家や高位貴族にまで籠絡するに至っては見過ごせなくなって来たというのもあったようだ。

　捜査官達も協力的で彼女とサーカス団体の関係についてもすぐに発覚し、様々な点と線が繋がり、芋づる式に全容が明らかになっていっていったのである。

　後ろ暗いところのある連中に妨害されながらも、懸命な調査を続けていた担当官達の粘り勝ちといったところだろう。



　今宵はそんな、黒い噂のある連中を一網打尽にするために開かれた夜会だったのだ。

　ランスフォード公爵は、密かに国王からの指示を受けて目星を付けた貴族に紹介状を送っていた。

　彼らはそんなことも知らず、王弟の夜会に出席できるとあって喜んで駆けつけてきたのである。

　夜会が始まる前に、婚約破棄騒動が起こった時には、面白がりながらニヤニヤと見物していたようだが、他人事でいられたのもサリーナが魅了の魔道具を所持していたと発覚するまでだった。