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第60話 四倍返し
しおりを挟む「若いお嬢さんにはお気の毒なことですが……嘘ではありませんよ。嘘だったら良かったのにねぇ?」
魅了返しの魔道具が発動したことで、四人全員に魅了を使っていたことがこれで証明されたと言われた。
「あぁ……」
「魅了返しの魔道具をつけたのは、貴女を除くと四人。四人分の術の反動ですからね。倍返しどころか、四倍返しといったところでしょうか?」
容赦なく告げられる現実。
女性にとって一番、キラキラと輝かしく美しい時期が、一瞬で消えてしまった。
「そ、そんな……」
「奪い取られる生命力も、四倍速で貴女を襲うことになります。このまま老化が進行すれば、行き着く先は醜く干からびた老婆の姿といったところでしょうか……?」
「な、なんですって? 嘘でしょ!?」
なによりも大切な自分の自慢の顔がそこまで損なわれるとは信じたくない。
今の容姿がどうなっているのか気が気じゃなくて、震えの止まらない両手でペタペタと触っては確かめようとする。
掌から伝わる感覚は残酷だった。瑞々しかった肌がかさついているのが分かる。滑らかだった皮膚も凸凹している……ような?
「まぁ貴女、それではよく分からないでしょう? ご自分の目で確かめてみますか?」
そう言って、ドレスの隠しポケットから小さな鏡を取り出してみせるアンジュリーナ。
「早くっ、早くそれを寄越しなさいよ!」
サリーナは差し出された鏡を、引ったくるようにして奪い取る。
バクバクと煩いくらいに心臓が波打ち、呼吸がしづらくなるほど喉がヒクヒクと痙攣している。鏡を持つ手の震えが止まらない。
それでも、確かめないわけにはいかなかった。恐る恐る鏡の中を覗き込む。
「……だれ、これ?」
まさか、ここまで容姿が変わっているとは思いもしなかったのだろう。
「あぁ……うそ……」
何かのまちがいじゃないのかと、指先が白くなるまでは鏡を握りしめ、食い入るように見つめても、鏡の中から見返してくる顔の醜さは変わらない。
「ま、まさか、これがわたし……だというの? 嘘、でしょ……こんなのわたしじゃないっ、わたしじゃないわ!! いやぁ――!?」
アンジュリーナが渡した鏡を思いっきり床に投げ捨てて叩き割り、絶叫する。
そんな彼女を痛ましそうに見つめるジョナスたち。
しかし、アンジュリーナの心にはもはや、彼女に対する同情の気持ちなど一切なかった。
今回、集団で婚約破棄された四人の令嬢達の中で、彼女が一番、サリーナからの陰湿な被害にあっていたからである。
「ボートン子爵令嬢、信じたくないのも無理はありませんけれど、それが今の貴女のお姿なのよ」
「あ」
「人のものを奪うのが大好きな、醜い心を持つ貴女にピッタリですわね?」
「……っ」
惨めな姿になったサリーナを、見下すように見てくるアンジュリーナ。
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