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第69話 容疑
しおりを挟むサーカス団では珍しい魔物の陳列や、素晴らしく調教された猛獣のショー、他にも魔法を使った奇抜なステージや団員達の華麗な雑技など、数多くの心踊る催しを披露しており、観客を飽きさせない。
その為、年に一度の巡回を国民達も楽しみにしていた。
老若男女を大いに楽しませてくれるサーカス団は、庶民だけではなく貴族達にも人気があり、お忍びで足を運んでいた者も多い。
「皆様は、ボートン子爵令嬢にねだられてよくサーカス団に遊びに行かれていたそうですね? 先日も観覧なさったばかりだとか」
「……確かに参りましたが。何をおっしゃりたいのです」
リアン達がサリーナを連れて、よくサーカス団に遊びに行っていたのは事実だ。
彼女の喜ぶ顔が見たくて、サーカス団が王都に滞在期間中は何度も足を運んだ。
その際、父には国籍も身分も多種多様な者達が集まるので気をつけるようにとは言われていた。
勿論、リアンもランシェル王子を城下町に連れ出すのだからと他の側近達とも話し合い、警戒は怠らなかったつもりだ。
ただ、具体的に何を指して気をつけるようにと父親が言ったのかを、深く考えずにいたのだが……それが、そもそもいけなかったような気がする。
精々、言葉も習慣も違う者達が一ヶ所にいると考え方違いや意思の疎通の出来なさから、争い事が起こるかもしれないから、巻き込まれないように慎重に行動しなさいという意味だと思っていたのだが、違うと言うのか……?
「ここまで申し上げてもまだ、お分かりになりませんの? 彼らはただのサーカス団ではありません」
「え?」
一旦言葉を切って、息を整えてから、困惑顔のリアンを見据えて言う。
「隣国のスパイ容疑がかかっております」
「……まさかっ。そんな、あのサーカス団が!?」
思ってもいない言葉だったのか、リアンだけでなくランシェル王子達も衝撃で固まった。
それを追撃するようにダフネは続ける。
「魅了の魔道具のような禁呪とされている魔法のかかった魔石を、一介のサーカス団の団員が何故、たいした資産もないのに持っているのでしょう?」
言われてみれば、確かに怪しすぎる。
「……隣国から意図的に渡されたからだと? かの国が後ろで糸を引いていた……と言うのですか」
「ええ、そう考えるのが自然ですわ」
「あぁ何て事だ……」
教えられた情報に、頭を抱えたくなった。
「貴方は先程、心当たりはないとおっしゃっていましたが、宰相閣下は事前にきちんとお話しされていたはずです。殿下の側近である貴方にサーカス団には気をつけるようにと……」
「私は、知らなかった……いや、自分で考えて知ろうとしなかったのか……」
ガックリと肩を落とすリアン。
これでは側近失格だとダフネに言われても仕方がない気がした。
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