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第78話 幸せとは
しおりを挟む二人からの無言の非難を感じ取ったサリーナは、むっとしたように叫んだ。
「何よっ。わたしは幸せになりたかったの! それのどこが悪いの!? みんなもサリーナから愛されて幸せだって言ってたし。報酬くらい貰ってもいいじゃない!」
一度贅沢を覚えた彼女は、生活の質を落とすことが出来なかった。
際限のなくなった欲を満足させるために次から次へと罪を重ねる。
貴族の子弟たちを堕落させ売り渡し続け、罪を重ねれば重ねただけ彼女の懐は潤っていく。
次第に、彼女の感覚も麻痺していったのだろう。
他人の事なんてどうでもいい、自分のことしか考えない彼女らしい主張だった。
「……そう。それで、自分に愛を捧げてくれた男たちを売り払ってまで手に入れたものは、あなたを幸せで満たしてくれたのかしら」
「え?」
「あなたが欲しかった幸せって、そうやって自分だけが贅沢に着飾るだけで手に入るものなの?」
「何を言っているの……現にわたしは幸せで……?」
ぽかんとした表情でダフネを見るサリーナ。
何を言われたのか本気で分からないようだ。
そんな彼女を見て、ダフネは深いため息をついた。
サリーナは自分の欲望に負けたのだ。
誰よりも幸せになりたいと主張するのなら、せっかく手に入れた力をもっと、有効に使えば良かったのに。
ちゃんと考えるべきだった……人の人生を弄ぶような真似をして、本当に幸せになれると思っていたのだろうか。
それに弄ばれ利用されていたのはサリーナ自身も同じなのに、まだ気づかないというのだろうか。
「よく考えて。あなたは今、本当に幸せなの? 魅了魔法の魔道具を使いすぎて、そんな姿になっているのに?」
「だってそれはっ。こんなことになるって知らなくて!」
思い出したくない事実の指摘され、サリーナは言葉に詰まる。
いつも親切にしてくれた帽子屋さんのことは、疑いたくはない。
けれど彼はダフネが言うように、魔道具を使った際の危険性について、一言も忠告してくれなかったのは確かだ。
「……何で? なんでわたしに、これをくれた時、使うと危険があるって教えてくれなかったの?」
ずっと思っていた疑問が、ポロリと口から零れ落ちた。
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